いいお天気である、午前中は 都農町 行乞、
それからぼつぼつ歩いて 二時過ぎ 美々津町 行乞、
或る家で法事の餅をよばれる、もっと行乞しなければ都合が悪いのだが、
嫌になったので、丁度出くわした鮮人の飴売さんに教えられて此宿に泊る、
予期したよりもよかった。
けさは まづ 水の音に眼がさめた、
その水で顔を洗った、流るる水はよいものだ、
何もかも流れる、流れることそのことは何といってもよろしい。
同宿者の一人、老いかけやさんは異色があった、
縞のズボンに黒の上衣時計の鎖をだらりと下げている、
金さえあれば飲むらしい、彼もまた「忘れえぬ人々」の一人たるを失はない。
途上、がくねんとして我にかえる
ーー母を憶ひ弟を憶ひ、更に父を憶ひ祖母を憶ひ
姉を憶ひ、更にまた伯父を憶ひ伯母を憶ひーー
何のための出家ぞ、何のための行脚ぞ、
法衣に対して恥づかしくないか、袈裟に対して恐れ多くはないか、
江湖万人の布施に対して何を酬いるかーー
自己革命のなさざるべからざるを得なかった
(この事実については、もっと、もっと、書き残しておかなければならない)。
村の共同浴場、一銭風呂といふのを宿のおばさんに教へられて、行ってみたが駄目だった、まだ沸いていなかった、
それにしても 丘をのぼり、墓場を抜け、農家の間を抜けて、風呂場へ行くとは面白いではないか。
今日も此宿で、修行遍路ではやってゆけない実例と同宿した、
こんなに不景気で、そしてこんなに米価安では誰だって困る、
私があまり困らないですむのは、袈裟の功徳と、
もし附け加へることを許されるならば、行乞の技巧とのためである。
入浴、そして一杯ひっかける、ーーこれで今日の命の終り!
ひとりきりの湯で思ふこともない
旅のからだで ぽりぽり掻く
それからぼつぼつ歩いて 二時過ぎ 美々津町 行乞、
或る家で法事の餅をよばれる、もっと行乞しなければ都合が悪いのだが、
嫌になったので、丁度出くわした鮮人の飴売さんに教えられて此宿に泊る、
予期したよりもよかった。
けさは まづ 水の音に眼がさめた、
その水で顔を洗った、流るる水はよいものだ、
何もかも流れる、流れることそのことは何といってもよろしい。
同宿者の一人、老いかけやさんは異色があった、
縞のズボンに黒の上衣時計の鎖をだらりと下げている、
金さえあれば飲むらしい、彼もまた「忘れえぬ人々」の一人たるを失はない。
途上、がくねんとして我にかえる
ーー母を憶ひ弟を憶ひ、更に父を憶ひ祖母を憶ひ
姉を憶ひ、更にまた伯父を憶ひ伯母を憶ひーー
何のための出家ぞ、何のための行脚ぞ、
法衣に対して恥づかしくないか、袈裟に対して恐れ多くはないか、
江湖万人の布施に対して何を酬いるかーー
自己革命のなさざるべからざるを得なかった
(この事実については、もっと、もっと、書き残しておかなければならない)。
村の共同浴場、一銭風呂といふのを宿のおばさんに教へられて、行ってみたが駄目だった、まだ沸いていなかった、
それにしても 丘をのぼり、墓場を抜け、農家の間を抜けて、風呂場へ行くとは面白いではないか。
今日も此宿で、修行遍路ではやってゆけない実例と同宿した、
こんなに不景気で、そしてこんなに米価安では誰だって困る、
私があまり困らないですむのは、袈裟の功徳と、
もし附け加へることを許されるならば、行乞の技巧とのためである。
入浴、そして一杯ひっかける、ーーこれで今日の命の終り!
ひとりきりの湯で思ふこともない
旅のからだで ぽりぽり掻く
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