日本の職人の修行はかなり厳しい。寿司職人の場合は、「飯炊き三年握り八年」などと言われ、
10年間以上の修行でやっと一人前の寿司職人となる。鰻職人の場合は、「串打ち三年、
板(割き)五年、火鉢(焼き)一生」と言われ、長期間の修行が必要とされる。最初は、店の掃き掃除、
皿洗い、親方の個人的な用事もやらなければならない。この様な修行を通じて揺るぎない職人が
出来上がる。勿論、長期間の修行をやってもダメな職人はいるので、当たり外れは当然出てくる。
以前からどうしてこんなに長い時間をかけて職人の修行を行うのか疑問に思っていた。掃除や
皿洗いは勿論必要だが、何故、同時に並行して魚の捌き方や寿司の握り方を集中して教えないのか。
一日でも早く立派な職人となることは本人はもとより教える親方も喜ばしい筈である。職人の世界は
昔からの古いしきたりや伝統から抜け出ていないと思われる。親方は自分が辿った道を同じように
弟子に歩んで貰うことしか考えていない。経済性原理、効率、腕の良い職人を育てる上でこの様な
古い方法が良いとは思えない。掃き掃除や皿洗い、飯炊きや串打ちばかりをさせていてはいつまで
たっても職人にはならない。
最近これらの古い修行方式を覆す快挙があり、してやったりと納得するニュースがあった。
たった三ヶ月で職人を育成した寿司屋が「ミシュランガイド2016」に掲載された。ミシュランの
評価方式に異を唱える向きもあろうかと思うが、権威あるガイドブックに掲載されたことは
特筆されるべきことである。以下はそれを伝えた2015年10月28日のメルマガ「まぐまぐニュース」の
記事である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
開店からわずか11ヶ月の飲食店が「ミシュランガイド京都・大阪2016」に掲載され話題となっています。
そんなドラマのような快挙を成し遂げたのは大阪府大阪市にある寿司屋「鮨千陽」。この事実だけでも
驚きなのですが、さらに世間を驚かせているのは、そこで寿司を握る料理人が全員、寿司経験1年未満
だということ。聞いただけでは素人が握る寿司屋にしか思えませんが、一体どういうことなのでしょうか。
たった3ヶ月で寿司職人を育成
実は「鮨千陽」は、調理師学校「飲食人大学」の卒業生と生徒で切り盛りをしているお店だったんです。
この学校は、一般的な1年制の調理師学校のカリキュラムを「現場実践」と言うキーワードで見直し、
現場で通用する技術をわずか3ヶ月という短期間で修得できる短期集中型のプログラムが特徴。
今回ミシュランガイドに掲載された「鮨千陽」は、飲食人大学の「寿司マイスター専科」で現場の
即戦力として活躍できる寿司職人になるために、3ヶ月の集中特訓を受けた生徒と卒業生たちによる
料理が提供されます。
ミシュランガイドの掲載文では、学校が経営するからこその、日本の文化・旬・料理の技法に忠実に
則った江戸前鮨が評価されています。
「寿司の技術を教える学校を経営する店だけに、握りは基本に忠実だ。先付と刺身の後に、
数貫の寿司を供するおまかせ1本のみ。足りなければ追加するスタイルだ。シャリは旬のネタに
よって塩梅を変える。例えば、魚の味が比較的淡くなる夏は昆布と赤酢を利かせ、味の濃い魚が
そろう冬には、米酢に変えてネタとの一体感を生み出す。柵漬にしたマグロの赤身には辛子を
あしらうなど工夫がある」
「ミシュランガイド京都・大阪2016」より
包丁すら触れない元営業マンの快挙
「鮨千陽」の快挙はミシュランガイド掲載だけにとどまりません。副店長・輪本貴文さんが、今年9月に
開催された「第6回食の都・大阪グランプリ」にて和食・日本料理部門の優勝を手にしたのです。
驚くべきは輪本さんの料理経歴、なんとたったの9ヶ月。元々は飲食業界未経験の営業職で、包丁すら
握ったことの無い素人同然だったという輪本さん。飲食人大学で3ヶ月、現場で即戦力として使える
調理技術を徹底的に学び、今回のグランプリで堂々の優勝を勝ち取ったというのですから、飲食人
大学が現場実践型のカリキュラムを貫くのもうなずけます。
それだけでなく、飲食人大学はこれまで男仕事と思われていた寿司職人の世界から女性を羽ばたかせ
ようという動きも。「鮨千陽」では、すでに飲食人大学でのカリキュラムを終え活躍する女性職人の姿も
見ることができます。
「一人前の寿司職人になるまで10年はかかる」なんて言われることもありますが、貴重な時間を
有効的に活用し「現場で今すぐ使える技術」を徹底的に学ぶことで、わずか3ヶ月でも確かな技術を
得ることができることを飲食人大学は証明しました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます