日本艦隊司令部

小説、アニメ、特撮、刑事ドラマ、映画などの語り

天龍第2の出航

2011-12-31 21:21:16 | 第三部 戦慄の南太平洋編
 さていよいよシンガポールより出航、ですが……

 すべてのものが凍てつく氷の海、そこに真帝国総司令官の本拠地が存在している。
 その男は一人司令官私室の中にいた。部屋にはヒトラー総統、ゲッベルス宣伝相、カイテル陸軍元帥、レーダー海軍元帥の肖像画が飾られている。空軍が苦手なのかゲーリング空軍元帥のものがない。
 模型棚には戦艦「ビスマルク」「ドイッチェランド」などの模型が飾られており、執務机の横には鉤十字の描かれた旗が立てられている。
 さらにその彼の机の後ろには大きな世界地図がかけられていた。所々に印がつけられているのは各支部のものらしい。
『大佐、例の計画はうまく行っているのかね?』
 通信パネルからの質問にその部屋の主は落ち着いた声で答えていた。
「ご心配には及びません。確かに我が方も被害を受けましたが計算内です。それにそれ以上の収穫もございます。」
 そう返したが通信の相手は不安があるようだ。
『しかしあのようなものが役に立つのかね?ミサイルの誘導や構造など必要かね。』
「手に入れたのは最新式の設計図です。確かに各地の保管データも魅力的ですが充分な収穫でした。」
 それを聞き相手は幾分安心したようだ。
『ふむ、とにかく私としてもあのデータには興味がある。あれは地球の体制を揺るがすほどの力がある。』
「我々にとって最強の切り札になることでしょう。そうなればあなたが提督として地球を治め…」
『君は統合宇宙軍の総指揮官だったな。よろしい引き続きこちらからも調査を続ける。』
「すべては世界の本当の統合と平和の為に。」
 それを最後に通信は切れた。しばしの沈黙が流れ、男は手元の飲料水を一口飲んで漏らした。
「能無しめ。いつまでも影の指揮官面ができると思ったら大間違いだ。」
 そう言うと彼は肖像画へと視線を向けた。その瞳は見たもの全てが恐れるような黒い輝きを放っている。
「すべてが終われば奴は用済みだ。折を見て始末するとしよう。どの道奴は私を利用しているつもりだろうがそうは行かないぞ。」
 そう言うと席から立ち上がり右手を上げた。
「ハイル!!全ては我が栄光のナチスドイツと偉大なる先人たちの為に!!ハイル!!」

 1月24日、シンガポール泊地。夜明けと共に「天龍」率いる特務艦隊出航の合図であるラッパが響いた。
「錨上げ!!機関全速前進!!ようそろ!!」
 空母「天龍」の第1艦橋に航海長天野純少佐の声が響いた。
「後続の「伊勢」「日向」両艦ともに出航体勢に入りました。「ミズーリ」は沖合い5海里(約9・4キロ)にて待機中。」
 続いてオペレーターのエマ・グレンジャー少佐の報告が届いた。先んじて出航していた先頭を進む正木俊介大佐の第2戦隊からの連絡であった。
「合流次第陣を展開、敵潜水艦に備え警戒厳とし各艦対潜ヘリ部隊用意。」
 新たに少将となった未沙からの指示が各艦へと通達された。
「早瀬司令、左舷をご覧下さい。」
 一歩後ろにひかえる参謀長デビッド・E・スプルーアンス中佐が双眼鏡を構えて左舷の桟橋を見ていた。なにやら人が集まっているようである。未沙も双眼鏡を構えて見た。
「あれは…」
 それはシンガポール基地の要員であった。集まっていた200人ほどが「天龍」へと敬礼を送っている。
「司令、何か合図を送っているようです。」
 艦橋にいたスタッフからの言葉に双眼鏡を外すと発光信号で合図をしている。
「ぶ・う・ん・と・ぶ・じ・の・こ・う・か・い・を・い・の・る・し・ん・が・ぽ・ー・る・き・ち・よ・う・い・ん・い・ち・ど・う」
 未沙が一文字一文字口に出した。彼女を含めた艦橋のスタッフ達は敬礼の構えを見せる。
 それは艦橋だけではなく甲板や対空砲座にいたスタッフ達にも広がっていった。

 一方甲板には現在上空を警戒している第二航空隊長沖野誠二中佐と彼の第3、第4小隊を除く全パイロットが上がってきていた。
「総員!!敬礼!!」
 輝の号令に集まった全員が敬礼をする。しばらくしてなおれの号令がかけられると輝が語りだした。
「改めて言わせて貰う。各員、ご苦労だった。今回諸君は初めての実戦を経験した。これから俺たちはより過酷な戦場へと向かうことになる。辛いことも多々あるだろう。しかしあの桟橋にいる人たちのことを忘れるな。俺たちを送り出してくれた彼らのためにも戦い抜くんだと言う事を忘れるな。」
 その訓示に一同がいっそう表情を引き締めていた。
「よろしい、では第二航空隊は待機室へと戻ってくれ。第一航空隊は本日の訓練の前に体操を行う。全員運動着に着替えて30分後に集合せよ。」

 一時間後、朝の体操とジョギング等を終えた一同は朝食のため食堂へと来ていた。
「腹減った~。」
 そう言っていつもの席に座った柿崎幸雄伍長は見慣れない人が食堂にいることに気がついた。
「隊長、見慣れない人ですね。」
 隣に座った小隊長の久野一矢中尉は奥のテーブルにいた男を見た。
「はじめて見るが、シンガポールで乗ってきたのかな?」
 その言葉が聞こえたのか自分のトレイを持ちその男が彼らのテーブルへとやってきた。
「ハロー!!タワーリッシ!!ここいいかなムッシュ?」
 その言葉にきょとんとした二人だったがすぐさま一矢が返した。
「ど、どうぞ。」
「おおセンキュー、センキュー。本日も晴天なり。」
 そう言って一矢の向かいに座った彼は自己紹介を始めた。
「俺ちゃんはマードックてんだ。天才的パイロットさ。モンキーって呼んでくれ。」
 モンキーが手を差し出してきたので一矢と柿崎は握手を交わした。
「へぇ、パイロットですか、何に乗っているんですか?」
 一矢の質問に彼は得意げに答えた。
「自動車と空を飛ぶものなら全般だよ。あと特技は演技かな~?」
 そう言っていると所用で遅れて食堂へとやってきた輝が一矢達の席へとトレイを持ってやってきた。
「お疲れさん。ん?あなたは確か…」
 その言葉を聴いてモンキーが声を出した。
「よう、たしか一条輝君じゃないの。久しぶり~。」
「マードックさんですね!!お久しぶりです!!なぜここに?」
 どうやら二人は知り合いのようだ。
「実は俺ちゃんAチームのメンバーでねぇ、ちょっと野暮用があって他の皆より遅れてきたのよ~。」
 聴きながら輝はマードックの隣に座った。
「一条中佐、お知り合いなんですか?」
 一矢は輝に疑問を投げかけた。握手をしていた輝が一矢に向き直って答えた。
「ああ、こちらのマードックさんはその筋では有名なパイロットで各地でアクロバットなんかもされてたんだよ。」
「そうそう、でもマクロスの進宙式に一般アクロバットで来たらそのまま乗せられちゃったのさ。その時に一条と沖野に知り合ったんだよ。」
 二人に話を聞いて一矢と柿崎は感心したようにうなずいていた。
「じゃあこの艦で一緒に戦うことになるんですね。」
 柿崎の言葉にマードックが笑顔で答えた。
「おうよ!!ただ俺が乗るのはもっぱらヘリだろうな。ま、よろしく。」
「こちらとしても実に心強い限りです。」
 そう言って彼らは輝とマードックのマクロス時代の話に盛り上がっていた。

 ちょうど同じ頃、「天龍」艦尾の使われていない空き倉庫の中に三人の人影があった。薄明かりの中で何か話している。
「いいか、今からきっかり60時間後に行動する。」
 一人が発したその言葉に二人が手元の時計を確認して答える。
「OK、ばっちり合ってるぜ。」
「おれはまず艦内で騒ぎを起こし注意を引き付ける。二人は隙を見てブリッジを押さえるんだ。」
 薄明かりの倉庫に小さな笑い声が響いた。
「腕が鳴るわね。」
「ではボチボチいくとしますか。」
 会話はそこで終わった。彼らは一体何者か。果たして何をたくらんでいるのか。

 次回に続く。

 今年最後の更新です。皆様今年もお世話になりました。では良いお年を。

 PS・前回の小説で番外編をとコメントしておりましたがいざ書き上げて今後のネタばれが懸念される内容だったため差し控えさせていただきました。今後書き直しもしくは時期を見ての掲載とさせていただきますのでご了承下さい。

デビッド・E・スプルーアンス

2011-12-14 21:22:57 | オリキャラ紹介
 今回はオリキャラ紹介です。二人目はデビッド・E・スプルーアンス参謀長です。

 略歴

 1978年  12月13日生まれ いて座 年齢34歳
 趣味
 映画鑑賞 チェス、将棋などのボードゲーム
 特技
 水泳(元オリンピック選手)

 バーテンダーをしている奥さんがいる


 曾祖父が太平洋戦争中に活躍したレイモンド・A・スプルーアンス米海軍提督という設定です。スプルーアンス提督は私が一番好きなアメリカ海軍の提督です。

 スプルーアンス提督は太平洋戦争でのアメリカ海軍を代表する提督の一人で開戦時(当時少将)は太平洋艦隊第5巡洋艦戦隊の指揮官でした。1942年6月に上司であり親友であるウィリアム・F・ハルゼー中将が急遽入院を余儀なくされ彼の推薦もあり第16任務部隊指揮官に就任、空母「エンタープライズ」に将旗を翻し、日本海軍の機動部隊をミッドウェイ島近海で空母ホーネット」とF・J・フレッチャー少将が指揮する空母「ヨークタウン」と共に待ち受けてこれを迎撃、「ヨークタウン」を失ったが敵空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」を大破撃沈するという大戦果を上げました。
 この通称ミッドウェイ海戦での勝利がその後の日米戦争の大きな転換期となり、スプルーアンス提督はその立役者となったのです。
 彼はその後太平洋艦隊参謀長を経て中部太平洋艦隊(後に太平洋第5艦隊へと改称)司令官へと就任(同時に中将に昇進)。ギルバート・マーシャル攻略戦、トラック島攻撃(この時期に大将に昇進)、パラオ諸島攻撃などで指揮を執り1944年6月にはマリアナ沖海戦に勝利し、1945年には沖縄上陸作戦で指揮を執りました。またこのとき友人で親交のあった伊藤整一中将が指揮する戦艦「大和」以下の10隻の特攻艦隊を指揮下のマーク・A・ミッチャー中将の機動部隊に攻撃させこれを撃破させた(スプルーアンス提督は戦艦部隊を率いて真っ向から勝負を仕掛けたかったのだがミッチャーは航空機による攻撃を強行し「大和」を沈めた)。
 戦後はマッカーサー大将と共に日本での戦後処理などを行っている。第5艦隊司令長官から太平洋艦隊司令長官を一時期務めて、海軍大学校長へと就任。1948年に退役した(当時62歳)。
 その後は1952年から3年間にわたり駐フィリピン大使を務め、1969年に亡くなられ現在はサンフランシスコのゴールデンゲート国立墓地で静かに眠っておられます。

 ひ孫にあたるデビッド・E・スプルーアンスは曾祖父のことを誇りに思い、軍人を志した。冷静沈着な立ち振る舞いを身上としている。趣味のチェスや将棋などはプロ顔負けの腕前で時々草鹿長官と勝負をする。
 星間戦争中は月面アポロ基地に勤務していたが戦後地上勤務へと転属願を出し日本支部へと配属された。「天龍」に乗り込む前は巡洋艦艦長、駆逐隊司令、沖縄基地航空参謀などを歴任。航空、艦船、砲撃など数多くの分野に詳しい。
 2年前に結婚した奥さんはアポロ基地の軍人バーにいたバーテンダーで現在は瀬戸基地近くのカフェバーで働いている(これに関しては後々作品を書く予定)。

 スプルーアンス参謀長は未沙を補佐する数学的思考の持ち主と考えた際に出てきた人物がスプルーアンス提督であったために生まれたキャラです。未沙が不在の際に変わって指揮を執ることになる話も用意するつもりです。

 今日自分はなんだか鼻声で風邪気味のようです。皆様風邪などお気をつけてください。

レスキューポリス第一号

2011-12-13 21:14:40 | 特撮ヒーロー
 さて、久しぶりの特撮作品紹介です。今回は平成初期のヒーロー界を代表するメタルヒーローシリーズ第9作、1990年「特警(とっけい)ウィンスペクター」です。

 時に1999年、科学の発展は人々に多くの恩恵を与えた。中でも日本はその分野で世界の先端を進み、生活水準も豊かになった。だが、人の心まで豊かになったとはいえなかった。発展した科学は時として人々に牙を剥き、科学犯罪やバイオテロ、マフィアの横行などが問題化してきた。そこで警察庁に籍を置く正木俊介警視監は亡き親友小山刑事の提唱していた犯罪捜査と共に救急活動を行う新しい警察組織“レスキューポリス”を完成させた。その名も特捜救急警察隊“ウィンスペクター”の誕生であった。

主要登場人物

香川竜馬警視正
スポーツ万能、頭脳明晰の若きエリート刑事。ウィンスペクター隊長。沈着冷静な判断力と類まれなる行動力の持ち主。愛車ウィンスコードに搭載されている特殊スーツ“クラステクター”を装着して様々な犯罪に立ち向かう。中学時代に両親を火事で亡くしている。
正木俊介警視監
ウィンスペクター本部長。仕事に厳しいがとても部下思いでメンバーにとって頼れるボス。射撃の腕は超一流で時には自ら現場で指揮を執ることもあり、東京都内にある自宅で元警察犬のアレックとともに暮らしている。レスキューポリスシリーズ全作品に登場している。
藤野純子警部補
ウィンスペクターの紅一点である情報捜査官。愛銃はスコープ付きのオートマグナムで警視庁でも指折りの拳銃の名手。その腕前は本部長や竜馬にもひけをとらない。雑誌で広報活動などもしている。
野々山真一警部補
メカニック担当。装備品の開発や整備担当。優秀なコンピューター技師でもあり、いつもメガネをかけている。
バイクル
ロボット捜査官。主に荒地や難所での活動を得意とする。ボディカラーは黄色。名古屋弁をしゃべる。背中の特殊警棒が主要武器。愛車は野々山が開発したバイク“ウィンチェイサー”。胸部の車輪で走ることもできるが曲がることができない。
ウォルター
バイクルと同じくロボット捜査官。飛行能力を備えており空中からの捜査や救助活動を得意とする。ボディカラーは緑色。女の子に人気がある。話す言葉は標準語。理論的な思考の持ち主でもある。
マドックス
警視庁のほこるスーパーコンピューター。古今東西のさまざまな情報を閲覧でき、首都圏の交通網も管理している。
デミタス
野々山が開発した小型サポートロボット。敵のアジトに侵入したり、荷物にまぎれて追跡をしたりもする。通常はシリンダー状をしており空き缶に化けたこともある。
小山久子警部補
警視庁秘密捜査官で普段は喫茶店の店主をしている。父親は正木本部長の親友で爆弾事件捜査中に亡くなった。格闘術などに秀でている。
六角虎五郎警部
警視庁捜査一課の鬼警部。強面でウィンスペクターを敵視しているがよき協力者。アウトドア派の人間でもあるらしい。
小山良太
久子の弟で小学生。休日は久子の喫茶店の出前をしている。六角警部とは一緒に山へ出かけたりするくらい仲がいいらしい。
香川優子
竜馬の妹で中学生。東京郊外で汚染土壌における植物育成に挑戦している。兄のことを誇りに思っており、最終回では世界へと飛び立つ竜馬の背中を優しく押した。

 この作品の見所は刑事ドラマ風に仕上げた作風と悪の組織ではなく主に犯罪が敵であるという設定であります。また子供作品とは思えないほどのハードな展開も人気がある要因の一つです。なかでも私が一番印象深い第一話はアンドロイドが赤ちゃんを連れてタンクローリーを暴走させるという内容で徐々に目的地である科学研究所へと迫り来る手に汗握る展開に驚きました。またそのアンドロイドを作った悪の科学者が最終回でアンドロイドと超音波兵器を使ってウィンスペクターに復讐するという展開も驚きでした。その最終回で正木本部長が気付いたことは「人の命を助けるだけでは無く、犯罪者の心も救ってこそ犯罪撲滅の為の本当のレスキューになる」ということでした。これが後のレスキューポリス第二作へと繋がっていく大きなテーマとなっていくのです。
 そしてラストシーンでは一人羽田を飛び立っていく竜馬たちの飛行機を見送る正木本部長の顔には一つの新たな決意を感じさせるものでした。

 寒さが本番の12月、皆様ご病気などには充分お気をつけてください。

出撃前日

2011-12-12 21:46:37 | 第三部 戦慄の南太平洋編
 南太平洋へ向けて出航、の前に…

 真帝国南太平洋支部秘密ドック、かつて1945年にドイツが敗北した際に脱出した数隻のUボートに乗っていたナチス残党は秘密裏にこの地下基地を建設した。位置的にはソロモン群島周辺となっている。
 真帝国太平洋艦隊司令官ヘルディ・マイヤーはシンガポール海域より脱出し、味方潜水艦に合流してこの基地へと帰還してきていた。
「これは実に素晴らしい。」
 ヘルディが帰還後やってきたのは地下の秘密ドックであった。潜水戦艦「グナイゼナウ」もこのドックで完成され、現在は同型艦「シャルンホルスト」「オイゲン」がここで待機状態にある。
 しかし彼女が見ていたのはさらに一回り以上巨大な潜水艦であった。いや、潜水艦というよりも戦艦とでも言うべき巨艦であった。あの「ミズーリ」にも匹敵するといっても過言ではない。
「ヘルディ参謀、すでに公試運転は昨日終了いたしました。結果は予想以上のものです。」
 そう言って傍にいた技術士官がファイルを手渡した。
「これはすごい。海中速度30ノット、海上42ノット、新型音響魚雷に連装型の28センチ速射砲。どれも申し分ないな。」
 ファイルに目を通す彼女の顔には笑みがこぼれている。
「本艦は敵海軍に対して有益な戦力となることは間違いありません。」
 ヘルディの言葉に整備主任はさらに喜びながら言葉を返した。
「私も同感だ。さすがにドイツ最強戦艦の名を受け継ぐだけはあるな。よろしい、予定通り訓練航海を明日より行う。ご苦労だが完璧な整備を頼むぞ。」
「ハイル!!お任せ下さい。」
 ヘルディの激励に主任は最敬礼した。

 シンガポール戦から3日後、2012年1月23日。「天龍」を中心とした特務艦隊は急ピッチで出撃準備を進めていた。破損部の修理にバルキリーの整備、補給などにほとんどの職員達が駆り出されていた。
 また艦隊の編成変更があった。傷ついた軽巡洋艦「金剛」「比叡」、駆逐艦「コロラド」「リットリオ」は置いて行くことになり、新たに配属となった艦との組み換えがあったのだ。
 またそれにあわせて艦隊名称が本部より通達、コードネーム「CF」(Combined Fleetの略、邦訳で連合艦隊)。その振り分けはまず早瀬未沙少将が指揮する第一戦隊は空母「天龍」を旗艦とし、航空巡洋艦「伊勢」「日向(ひゅうが)」、駆逐艦「涼月」「冬月」「雪風」の計六隻。第二戦隊は正木俊介大佐が指揮する戦艦「ミズーリ」をはじめ軽巡洋艦「エルトゥール」駆逐艦「ロドネイ」「ウォード」の四隻。続く第三戦隊は武中淳司中佐が指揮する重巡洋艦「白神」「ホーネット」軽巡洋艦「霧島」「榛名」によって編成された。なお、「白神」を指揮していた日向(ひなた)浅海中佐は一時的に武中中佐の指揮下に入り、オーストラリアにいる訓練艦隊と日本からの応援艦隊と合流した後に新たに第四戦隊とする予定となっている。

 急ピッチで進んでいた出撃準備の中、彼らにとって何よりの憩いの時である昼食時、「天龍」艦内食堂ではパイロット達が食事中であった。それぞれのグループで固まりおのおの話をしていた。
「お先に失礼するぜ!!」
 その声が上がったグループは一番奥まったスペースにいたグループだった。声の主は第一航空隊第四小隊長のロメル・ウォーカー少尉だった。彼は昼食を早々と終えて出て行ってしまった。
「あいかわらず速ええな。」
 そう言った第三小隊長のギム・ケイリング少尉はまだ食事中だった。
「そういや今日だっけ?ロメルの処分通達。」
 そう言ったのは反対側に座っている桂木桂少尉、ギムとロメルの同期である。現在は第二航空隊第三小隊長を務めている。
「ああ、こないだの無鉄砲のな。」
 ロメルは先日の戦闘で一条隊長が止めるのも聞かずに敵艦へと単機突撃して撃墜されたのだ。怪我はなかったがバルキリーを潰してしまい、整備班等からお説教された。さらに一時飛行勤務禁止令まで出された。
「あいつはすぐに頭に血が上るんだよな。24時間冷えピタでも貼っときゃ良いのに。」
「桂、あまり関係ないし消耗品の無駄遣いよ。」
 そう言って突っ込んだのは隣に座っている一つ年下の桂の恋人、ミムジイ・ラース伍長である。彼女は第二航空隊第四小隊のパイロットである。
「ははっ桂、的確なツッコミだな!!」
 ギムがそういうと三人は笑った。

「ロメル・ウォーカー少尉、入ります!!」
 そう言ってロメル少尉が入ったのはパイロット用のブリーフィングルームだった。
 入るとそこに居たのは航空隊長の輝と副隊長の誠二、参謀長のスプルーアンス中佐であった。彼らはブリーフィングルームの一番奥まった席に座り中央にスプルーアンス参謀長、左右に輝と誠二がいる。
「ごくろう、かけたまえ。」
 スプルーアンス参謀長にすすめられてロメルは入り口側に用意された席(三人の反対側)に腰掛けた。どうやら議長は参謀長がつとめるようだ。
「本来ならば司令自ら出席されるべきでもあるのだがなにぶんご多忙のため我々が執り行うこととなった。さて、今回の査問について確認しておこう。ロメル・ウォーカー少尉、君は先日のシンガポール近海における艦隊防空戦の際に敵潜水艦に対して周囲の制止を振り切って肉薄攻撃を敢行。結果撃墜され不時着水を余儀なくされた。何か異論はあるかね?」
 スプルーアンスの質問にロメルは静かに答えた。
「いいえ、おっしゃるとおりです。」
「よろしい。ではもう一つ質問したい。君は制止を振り切ってまで敵に攻撃をかけたわけだがそれに関して当時君はどういう考えを持っていたのかね?」
そう聞かれたロメルは一度輝をちらと見てから答えた。
「艦が攻撃されて頭に血が上っていたことと、にかく出来る限りの事をしたかったんです。そこが戦場なら一発の銃弾が戦局を変えるきっかけともなりえるとも常日ごろ思ってもいました。」
 その言葉を聞いていた輝が神妙な面持ちでたずねた。
「ロメル少尉、たしかに君の言う事にも一理ある。敵機はこちらより数は多くとも性能はそれほど高くもないようでもある。しかしだ、例えば残された君の部下はどうなる?」
 それは思いもよらない一言であった。ロメルは口ごもってしまった。
「そ、それは…」
「自分の上司が目の前で撃墜されて平静を保つことができるのか?一瞬の油断が命取りになるのが戦場なんだ。」
 言いながら輝の脳裏にロイ・フォッカーの顔が浮かんだ。彼は輝の前で撃墜されたわけではないがそのショックは並大抵のものではなかった。
「自分ひとりの命じゃないことを充分理解して欲しい。これは俺からの要望だ。」
 輝がそう言うと今度は誠二が声を発した。
「ロメル、おれはお前を瀬戸基地にいた頃からずっと見てきた。たしかにお前は良い腕を持っている。だが死んだら元も子もない。お前の訓練をしてきたのは簡単に死ぬ為じゃないことを忘れないでいてくれ。」
 ロメルは内心驚いていた。がみがみお説教を並べられると思って来たのだが、全くの筋違いだったのだ。このような想定をしておらずただ彼は二人を交互に見るだけだった。
「お二人ともよろしいかな、これよりロメル・ウォーカー少尉の処分を言い渡す。」
 議長をつとめるスプルーアンス参謀長が口を開いた。
「本日より通常勤務に復帰を命ずる。」
「えっ…。」
 スプルーアンス参謀長の言葉にさらに驚くロメルであった。
「査問会は以上だ。勤務に戻りたまえ。」
 そう促されロメルは敬礼して退出して行った。
「これでよろしかったかね?お二人さん。」
 スプルーアンス参謀長がそう言うと輝と誠二は席を立ち声を揃えて頭を下げた。
「参謀長、ありがとうございました!!」
「うむ、腕のいいパイロットを休ませておくほど余裕もないしな。では私は艦橋に戻る。」
 そう言って立ち上がったスプルーアンス参謀長へと二人は最敬礼をし、参謀長も答礼をした。

 同時刻、新地球統合海軍日本支部、通称瀬戸基地の本部棟にある司令長官室へと一人の将校が訪ねてきていた。
 コンッコンッ、というノックの音がすると日本支部長兼基地司令官の草鹿正則中将は壁にかけられた時計を見た。
「時間通りだな。入りたまえ!!」
「失礼致します。」
 そう言って入ってきた将校に草鹿長官は笑顔を見せた。その将校の右頬には真新しい傷跡がある。
「やあご苦労だったね。報告書はじっくり読ませてもらったよ。」
 そうねぎらうと入り口に立つ彼を自分の執務机の前へと立たせた。
「さて、単刀直入に言わせて貰おうか。スコット・S・リーチ少佐、実は君に新しい任務についてもらおうと思っていてる。」
 その言葉にリーチ少佐は怪訝な表情を見せた。
「長官、自分は今回のことでの処分を覚悟してきたのですが…。」
 彼は1月16日に敵艦隊に遭遇して指揮を執っていた巡洋艦を中破されたのだった。
「はて、なんのことかな。報告書を読んだところ君に落ち度は見られんと私は判断する。」
「しかし…」
 まだ続けようとするリーチ少佐を草鹿長官は手を上げて制した。
「この話はここまでだ。スコット・S・リーチ少佐、貴官は直ちに沖縄方面へ向かい臨時編成された第9戦隊の指揮官に就任しオーストラリア方面へ向かいたまえ。目的は現在敵海上勢力を追っている特務艦隊への応援だ。すでに連絡機は用意してある。もし処分を受けたいのならばそれを終えてからにしたまえ。」
 リーチ少佐はしばし黙り込んだ。これはおそらく長官があだ討ちのチャンスを下さると言う事だろうと判断した。
「分かりました。全力で任務にあたります!!」
 その返事を聞いた草鹿長官は笑顔を見せた。
「うむ、すでに重巡「大和」「雲仙」以下5隻の艦隊が君を待っている。」
 その言葉にさらにリーチ少佐は驚いた。
「「大和」ですって!?長官、「大和」は日本支部を守る第一戦隊の旗艦じゃありませんか!!」
「その通りだ。だが来週には二番艦「武蔵」、三番艦「信濃」が完成する。天龍級二番艦「飛龍」も間もなく竣工する。これだけそろえば大丈夫だろう。」
 そういうと草鹿長官は席を立ち、長官室に飾られた二隻の軍艦の模型の前へと立った。それは趣味で持ち込んだ戦艦「大和」と重巡洋艦「大和」の模型であった。
「それに私はこの戦いに勝つには生半可な戦力では難しく思えるのだ。これが私にできる最大限の応援なのだ。」
 そう言うと草鹿長官はリーチ少佐に向き直った。
「少佐、よろしくたのむ。」
 それを聞いたリーチ少佐は最敬礼をして言葉を発した。
「ありがとうございます。」
 草鹿長官は彼に答礼を返した。

 続く

 長くあけてしまってすいません。色々身辺でトラブルがありまして(主に就職できなかった、身内のごたごたなど)。とにかく年内にもう一話UPとクリスマスもしくはお正月作品をと考えております。
 暮れの忙しい時期ですが皆様お体などお気をつけてください。