日本艦隊司令部

小説、アニメ、特撮、刑事ドラマ、映画などの語り

決戦の地へ

2014-07-06 20:40:00 | 第三部 戦慄の南太平洋編
 お待たせしました。ひさびさのSS投稿です。侵入者と風見健吾の戦いは今回で終わりです。


 いまだにその通路には物々しい雰囲気が満ち溢れていた。二人の男のすさまじい剣劇はさながら殺し合いというよりも舞踏とも言うべきか。
 片方が一撃を繰り出せば流れるがごとくかわし、反撃を繰り出したれば受け流される。二人の間にはただただ金属同士のぶつかり合う音しか存在しない。
 そして周りの者たちはその目の前の光景に見入るばかりであった。
「とぁっ!」
 侵入者の小太刀による突きが繰り出されるが風見健吾は下方へ避けて相手の足に足払いを狙うが敵は勢いそのままに飛び上がりこれをかわす。
 すかさず侵入者は振り返り小太刀を構え直す。やはり限られた空間のために刀を振るえる範囲が決められてしまうため突きと斬り下ろし、斬り上げが基本の様だ。
 対して風見健吾は受けに徹している。敵の刀の動きを見て警棒でガードし、すかさず打撃を狙うが相手はそれを警戒して一定の間を確保しているのだ。
「さすがに元自衛隊特殊部隊員、格闘の技は折り紙付きと言わねばならんな。」
 侵入者が刀を構え直しながらつぶやいた。ヘルメットでくぐもってはいるが冷静かつ喜びの思いが含まれている様にも感じられた。
「その余裕もいつまでもつかな?俺を倒してもここにいる全員を相手にはできまいに。」
 風見は警棒を相手に一直線に構えている。いわば正眼の構えだ。古来日本の武士が全方位からの攻撃を防御すべく用いた構えだ。
 なおこの場所には騒ぎを聞きつけて現在10数名の人間が集まってきている。その中にな航空隊員の久野一矢大尉やギム・ケイリング中尉の姿も見える。
(次の一撃で決めてやる。)
 健吾は敵のカウンターを狙って正眼の構えを選んだのだ。敵もそれを察知したのか小太刀を握り直す。確かに自分が敗れてもこれだけの人数を相手には勝ち目はない。だがそうなれば確実に死人が出てしまう。健吾はそう考えていた。とくに一矢やロメルは真っ先に飛び込む可能性がある。それだけは避けねばならない。
「はぁぁぁっ!」
 ついに刃の光が健吾の眼前に迫った。
「やぁっ!」
 健吾の警棒が向かってきた刃を弾いた。返しをねらうが彼は罠に落ちていた。
(しまった!)
 向かってきたのは刃だけであった。侵入者は小太刀を捨て隙を作り出したのだ。
「ああっ」
 周囲から声があがる。しかし健吾は驚くべき奇策に打って出た。

 ガキンッという金属同士が衝突する音が響いた。
「特訓用ブーツがこんなとこで役立つとはな。」
 健吾は片足立ちしながら言った。なんと彼は侵入者が出したナイフの一撃を靴で受け止めていた。実は彼のブーツには鍛錬と頑丈さを目的として鉄板が仕込まれていたのだ。
「まさか靴でこの一撃を防ぐとは。」
 侵入者は健吾の行動に驚くとともにとても興奮している様だった。
「聴きたいことがある。」
 一度間合いをとってから唐突に健吾は敵に語りかけた。
「お前は俺を殺すつもりだったのか?」
 その言葉は周囲の人間たちを困惑させた。あれだけの激闘をしながらなにを言っているのかと。
「お前には殺気が感じられない。どちらかというと闘気に近い。スポーツ感覚のな。」
 侵入者は答えない。だが健吾はこの男は敵ではないと確信していた。
「そこまでにしておけ!」
 突如その場にそんな声がかけられた。全員が目を向けるとそこにいたのはジョン・スミス大佐だった。
「もうよかろう。こちらは片付いた。キッドたちもな。」
 それを聞いた侵入者の男はヘルメットを脱いだ。ゆたかな青い髪をした精悍な顔が現れた。
「私はシュテッケン・ラドクリフ。スミス大佐と同じく特攻部隊のメンバーです。お騒がせして申し訳ない。」
 男の自己紹介にスミス大佐が続けた。
「実はスパイが潜り込んでいるとの情報があってね。炙り出すために彼がその一人と入れ替わって一芝居打ってもらったわけだ。」
 その説明にその場にいた面々は安堵した。
「失礼した。一度あなたと手合わせしてみたかったのもあったのだ。」
 言いながらシュテッケンは右手を差し出した。
「いい運動になりましたよ。」
 握手しながら健吾はそう皮肉ってその場を締めた。


 いよいよ次回第三部終幕です。

ちなみに鉄入りの靴は友人が自作したものをモチーフにしてます。


 梅雨時ですが皆様お体お気をつけてください。次回は今月なかごろを予定しております。
 

敵を欺くには

2013-01-22 00:36:08 | 第三部 戦慄の南太平洋編
 長らくお待たせいたしました。今回いよいよ第3部終盤です。
 ちなみに今回若干気分を害するような描写がございますのでご注意下さい。



 鍔迫り合いを続けていた両者が一旦距離をとった。お互いに息を整えている。
 周囲では久野一矢大尉をはじめとする面々が固唾を呑んで見守っていた。銃を構えた者、警棒を握った者、果てはフライパンを構えた者までいる。
「はあっ!!」
 風見健吾が一気に敵へと警棒を構えて突きを繰り出す。狭い通路の為大振りな攻撃が制限されるのだ。
「むんっ。」
 敵は小太刀で受け止めるが風見はそれを狙っていた。
「おらぁ!!」
 右脚を繰り出す。剣と格闘を混合した戦いだ。
 バシッ、という音が響き渡る。健吾の足技は敵の右腕にガードされた。敵はサウスポーであったために防がれてしまった。
「ちっ!!」
 再び距離をとるが今度は敵が突っ込んできた。
 キィン!!と高い音をたてて警棒と小太刀が交差する。
「きええい!!」
「やああ!!」
 通路に雄たけびが響く。周囲の者達も手に汗握っている。
 その最中、健吾は妙な感覚を覚えていた。相手の動きがどこかおかしい。まるで楽しんでいるかのようだ。
 だが、ゆっくり考え続ける時間は無い。とにかく敵の攻撃を凌がなければならない。彼は警棒を握りなおした。


 艦橋に響いた銃声に誰もが身を堅くした。輝は思わず目を瞑ってしまった。銃口を下げてしまっていたため反撃できなかった。

「ぐああっ!!」
 叫びが艦橋に響いた。右腕を抱えてふらついたその男へと一人の影が飛び掛った。
「この野郎!!よくもやりやがったな!!」
 飛び掛ったのはなんと柿崎幸雄伍長であった。そして彼が飛び掛ったのは右腕を抑えた偽グラントだったのだ。
 その状況に誰もが唖然としていた。なぜ柿崎が動けるのか?誰もが視線を少しずらすとそこに移ったのはさらなる驚愕の状況であった。
「な、なぜだ…。なぜ…」
 柿崎に抑えられた偽グラントが驚愕の目で見たのは自らへと構えたワルサーを向けている仲間の男の姿であった。
「残念だったな。お前達の計画はすでに暴露された。」
 そう言いながら艦橋へと入ってきたのは情報部のポール・J・フォスター大佐であった。
「グラント大尉、君と同じことを我々もさせていただいたというわけさ。」
「な、なんだと…。」
 そのやり取りを見ていた一同を代表するように未沙が問いかけた。
「フォスター大佐、あなたはこの事態を事前に察知していたのですか?」
 未沙へと向き直ったフォスター大佐が答えた。
「その通りです。すいません。敵に察知されない為にあえてだまっていたのです。柿崎君には損な役回りを強制することになって申し訳ない。」
 そういいながらフォスター大佐は頭を下げた。
「『敵を欺くにはまず味方から』か。柿崎、偶然とはいえ大変な役回りを演じる羽目になったな。」
 そう言いながら輝が銃をホルスターへと戻した。沖野誠二中佐もそれにならった。
「しかし、お前もとんだピエロにされたもんだな。」
 その誠二の一言に偽グラントは悔しげに唇をかんだ。
「ま、演じていて中々楽しいショーだったよ。」
 そう言うとワルサーを構えた男とリモコンを握った女がヘルメットを外した。二人とも20代半ばの日本人に近い面立ちであった。
「おれは木戸丈太郎。愛称はキッド、特技は射撃だ。よろしく。」
「私はエンジェル・お町。お町って呼んでね。爆弾はニセモノばかりだから心配ないわ。」
 そう言うとお町はリモコンのスイッチを押して見せた。
「そろそろハンニバル大佐たちも他の連中を抑えている頃だ。」
 キッドのその言葉に対してグラントはうめいた。
「くそぅ!!よくも、よくも!!」
 その時だった。グラントが口から血を吐き始めた。
「きゃあああ!!」
 エマ少佐の叫び声が響き、思わずグラントを抑えていた柿崎伍長が彼を放した。艦橋にいた全員が緊張の度合いを高めた。
 グラントの顔色が見る見る蒼白となっていく。
「ぐっ…、い、今に…逆らった…お前達も、地獄行きだ…ハ…ハイル…ブ…」
 そう言うと自らの喉を掴みながらグラントは倒れこんだ。
 全員が言葉を失った。少し間をおいて誠二が片手に銃を構えたまま傍にしゃがみこんで首筋に手を当てた。
 首を振りながら彼は口を開いた。
「絶命しています。どうやら毒物を隠し持っていたようです。」
 それを聞いて銃を構えていた全員がホルスターへとしまい始めた。
 フォスター大佐が保安員へと指示を出す。
「遺体安置室へ頼む。」
 その一言に直ちに二人の保安員が担架を使って艦橋から運び出していった。
「早瀬司令、自分は所持品の調査と検死に立ち会いますので、失礼致します。」
 フォスター大佐はそう言うと敬礼して艦橋から出て行った。キッドとお町も「お騒がせしました。」と言いながらそれに続いて出て行った。
「エマ少佐、各艦へ通達、戦闘態勢解除、警戒続行。」
 場が落ち着くようにと未沙が軍帽を被りなおしながら指示を出した。
 が、艦橋内は静まり返っている。
 全員の視線がエマ少佐へと注がれる。彼女はそれにも気付かず、ただ大きなショックを受けたようにたたずんでいた。
「エマ少佐!!」
 未沙の言葉が響いてエマは驚いた。
「は、はい!?」
「しっかりしなさい。各艦へ通達、戦闘態勢解除、警戒続行。」
「イ、イエッサー!!」
 そういうと彼女は手元のコンソールを少しおぼつかないように操作し始めた。
 そんな彼女へと沖野誠二少佐が近づき方に手を置いて語りかけた。
「大丈夫だ。おれがついてる。」
 その一言に彼女は気を持ち直したようだ。
「はいっ!!」
 そういう二人に注意を奪われたメンバーは気付かなかった。早瀬司令と一条中佐がいつの間にか並んで手を握り合っていたことに。

「もう一丁あがり!!」
 そういうと男は抱えていた人間を倉庫の中へ放り込んだ。放り込まれた男は縛り付けられており小さなうめき声を発したのみですぐに押し黙った。倉庫の中には同じ様に縛り付けられた男が4人いた。
「とりあえず片付いたな。ハンニバル。」
 愛用のグロック19自動拳銃をホルスターへとしまいながらフェイスはハンニバルへと語りかけた。
「さてと、そろそろあいつを止めに行くとしようか。三人とも、そいつらから目を離すな。」
 そう言うとハンニバルは愛用の葉巻に火をつけて倉庫から出て行った。
 すると猿轡をした一味の一人にモンキーが話しかけていた。
「どう?ビリーってんだよ!!おれのかわいいペットさ!!おいおいそんなにこわがんなよ!!」
 モンキーはまるで子犬をあやすかのような動作をしているが何もいない。
 キョトンとしている男へとフェイスが話しかけた。
「ここには犬がいるのさ、かわいいやつがね。」
 それを聞きながらコングがため息をついたのをモンキー以外のその場の全員が気付いた。

 次回に続きます。いよいよ次回第三部終了です。
 まだ冬本番ですので、皆様寒さなどには充分お気をつけてください。

恐るべき魔手

2012-11-08 17:00:55 | 第三部 戦慄の南太平洋編
 また長く間を置いてすいません。9月からの新しい仕事になれずへとへとでやられておりました。(その他引越し先探しなど諸々もありました。)

 睨み合いの続くブリッジとその頃オーストラリア近海で


 静かな海中、機械が発する音だけが支配している世界、そこを進んでいるのは一隻の潜水艦であった。統合海軍の主力原子力潜水艦シーホーク号である。旧アメリカ海軍のバージニア級原潜を発展強化させたタイプであるワシントン級に属する。
 ちなみに現在統合海軍の使用している潜水艦はワシントン級、トルネード級、センチュリオン級、スカイダイバー級、フレーザー級の5種類が主力である(退役待ちのロサンゼルス級や予備役のタイフーン級などが現在も存在している)。
 現在この艦はオーストラリア近海エスピリツサント沖海面下200メートルを航行中、指揮を執るダグラス中佐はつい先日艦長に任命されたばかりであった。
「進路クリアー、ようそろ。」
 航海士の報告が艦橋に響く。
「順調の様だな。」
 そう言ったダグラス中佐は110メートルにも及ぶこの艦の指揮を執れることに優越感を抱いていた。
 世界中で猛威を振るうUボートなど何ほどのものか。この高性能原潜にかかればという思いが生まれていた。
「今に見ておれテロリストどもが。」
 その時、ソナーがある音をキャッチした。
「ソナー感!!本艦前方25度に識別不明艦あり!!音紋(船の出すスクリューの音)データに一致せず!!」
 艦橋の空気が張り詰めた。謎の潜水艦、つまり敵である。ダグラスはすぐさま命令を出した。
「全艦戦闘態勢!!前方発射管1番2番注水!!発射用意!!」
 悠長に確認しているような間はない。先日よりこうして遭遇した艦が何隻もやられている。時間を与えず、攻撃しなければならない。
「発射準備完了!!」
「発射!!」

「司令!!上方の敵艦が魚雷を発射しました。」
 ソナーマンからの報告にヘルディは即座に指示を出した。
「囮とも知らずに喰いつきおった。よろしい、アンカー発射!!」
「ハイル!!」
 武器管制官が応じると「ゴボッ」と言う鈍い音を立ててその艦の後方から金属製ワイヤーのアンカーが放たれた。これは遠隔操作で軌道を修正することのできるもので本来ならば潜水艦の救助活動の際に使用するものである。
「馬鹿どもめが。功を焦っては失敗するだけだ。」
 冷静に言葉を放つヘルディは暗い笑みを見せた。彼女らはこの新型艦のテストのために囮の旧式艦を用意して待ち構えていたのだ。

「魚雷命中!!」
 その言葉を聞いた直後に水中に爆発音と衝撃が響いた。
「撃沈は確実だ。諸君、よくやってくれた。」
 ダグラス中佐の言葉に場が緩んだ。その時ソナーマンが突然叫んだ。
「艦長!!下方より謎の接近物あり!!高速で向かってきます!!」
「何!?」
 返答した次の瞬間、艦に金属と思しき衝突音が響いた。
「被害報告!!一体何があった!!」
 衝撃を艦長席のひじ置きに捕まって耐えたダグラス中佐はずれた軍帽を直しながら指示を出した。
『こちら艦尾第6ブロック!!何かが艦尾に突き刺さった模様!!爆発はありませんが各部に漏水あり!!』
『艦尾魚雷庫に浸水!!使用不能!!』
「艦長!!スクリューもやられました!!前進できません!!」
「…。」
 何を間違ってしまったのだ?最初からこれが狙いだったのか?
 そういった疑問を感じた時だった。スクリューが停止した艦が大きく震えだした!!
「落ち着け!!現状報告!!」
 そういいながらも彼は何が起こったのかうすうす分かっていた。
 艦尾から傾いている。それもただの浸水ではない。何かに引っ張られているのだ。
「総員脱出用意!!」
 それしか手は無かった。急激に深度が深くなっていく。だが現実は非情であった。
『ハッチ故障!!脱出できません!!』
 全員が凍りついた。自力で航行できない、脱出も不可能、打つ手は無かった。
「メーデー!!メーデー!!こちら太平洋艦隊所属潜水艦シーホーク号!!緊急事態!!南太平洋司令部応答されたし!!メーデー!!メーデー!!」
 それが最後の通信であった。妨害電波の為かこの通信は各基地へ届かず、120キロほど離れた空母「エンタープライズⅢ」と戦艦「ニュージャージー」がノイズの中からキャッチしたのみであった。直ちに巡洋艦二隻が調査に派遣されたが残骸と海面に広がる救難信号塗料だけが発見された。

 一方、空母「天龍」では凍りついた無言の艦橋で誰もが自らにできる手段を考えていた。だが誰一人として名案は浮かばなかった。相手は見える限り武器は手に持った銃一挺。こちらは一条中佐と沖野中佐のが二挺に駆けつけてきた数名の保安員と数では勝るが侵入者は人質を盾にしている。一秒という時間が全員にとってとても長く感じられた。
「あなた方は何者です!?目的は!?」
 沈黙を破ったのは司令の未沙だった。彼女は司令席を立ち、中央から侵入者を見据えている。彼女との間には輝を含めた数人が立っている。
「何者かは言わなくてもいいんじゃないですかねぇ。それよりもそんな物騒な代物は下ろしていただきたいわね。こっちにはこんなものもあるのよ。」
 そう言いながら女性のほうのスパイが懐から携帯電話ほどの大きさの物体を取り出した。
「言わなくても分かるわよね?指一本であちこちで花火が上がるわよ。」
「そういうこと!!おとなしくしてもらおうか。」
 その一言に全員が悟った。今「天龍」乗務員達の命は彼らに握られていると。
 その時、開け放された扉の向こうから声が響いた。
「はっはっはっはっ!!よろしい!!作戦は無事成功だな!!」
 一人の男が艦橋へと入ってきた。その姿を見た艦橋の面々はさらに驚いた。
「グラント大尉!!これは一体どういうことだ!!」
 先頭にいた輝が問いただした。その男はシンガポールから乗り込んできた士官であった。
「一条中佐、口を慎んでいただきたい。」
 そう言うとグラントは男の侵入者の向かって右斜め前に立ち、銃を取り出した。
「私はグラントではない。真帝国から派遣された偽者。本物はすでに存在しない。」
 その一言に全員が衝撃を受けた。
「なんですって!?」
 それを代表するかのように未沙が驚きの声を上げた。それを確認したグラントは勝ち誇ったように話を続けた。
「私は仲間を手引きする役目を負って本物と入れ替わったのだ。私だけではない、多くの仲間もいるのだよ。」
 何度目かの衝撃と沈黙がその場を包んだ。
 そして充分間をとったグラントが続けた。
「ではこれより要求させていただく。たった今よりこの「天龍」は私の指示に従っていただく。護衛艦は全艦直ちに機関停止、全砲門の仰角を下げてあさっての方向へと向けさせたまえ。」
 勝ち誇ったような台詞を述べるグラントへと輝が銃口を向けた。
「お前は正気か!?例えこの艦を掌握したとしてもこれだけの大艦隊を振り切れると思っているのか!!」
 輝の発言に艦橋にいた面々は少々士気を持ち直すことができた。しかし、グラントはさらに続けた。
「果たしてできるかな?護衛艦隊の指揮を執っている正木俊介大佐はあなたと以前から親交が深い。しかもあなたは統合軍中央とも深く関わっている。考えるだけ無駄ですよ。」
 グラントの発言は真実であった。確かにその通りだろう。少なくとも「天龍」が味方の攻撃を受ける可能性は低いといえる。
「それと一条中佐、黙っておけという言葉が貴様は理解できないのか!?」
 輝の発言に少々気分を害されたと思われるグラントが銃口を自分に向ける輝へと自らの銃口を向けた。
「少なくとも貴様の部下の命は風前の灯ともいえるのだぞ!!」
「中佐!!撃ってください!!俺に構わず撃って下さい!!」
 グラントの言葉に触発されたように人質の柿崎伍長が叫んだ。その時だった。
「人質らしく大人しくしてろ!!お前だけではない!!我々には爆弾もあるのだ!!」
 強い言葉が発せられ、柿崎の腹部にグラントが肘鉄をかました。
「ぐぇっ!!」
「柿崎!!」
 艦橋の緊張の度合いがまた一段と強まった。
「命令に従わぬ者には死だ!!」
 そう言ったグラントが輝に向かって指に力を込めた。
「一条君!!」
「「「一条中佐!!」」」
「一条!!」
 未沙、スプルーアンス参謀長、沖野中佐、天野、エマ両少佐の叫びと同時に銃声が響いた。

 果たして輝は!?次回に続きます。

侵入者!?

2012-08-06 18:17:44 | 第三部 戦慄の南太平洋編
 お久しぶりです。またしばらく音信不通ですいませんでした。
 公務員試験受けたり教習所で合宿(四輪初取得)してたりで忙しさにかまけてしまいました。しかしなんと今回上半期の公務員二次試験に合格できました!!

さて、「天龍」に何がおこるのか!?そしてまた一方では…


 地球の衛星月。距離にして384400キロメーターに位置するこの衛星には現在統合軍の二つの基地が存在している。一つは一般人も多く生活している月面都市「アポロ基地」。そしてもう一つは一部の軍人のみが勤務している「ムーンベース01(ゼロワン)」である。この基地は地球外からの侵略などの危機に際して最前線として機能することを目的としている。最新式の宇宙レーダーや監視衛星を駆使して地球外からの脅威を察知すると、直ちに迎撃作戦を展開する。装備は各種迎撃ミサイルに反応弾装備型宇宙戦闘機インターセプター、探査宇宙艇ムーンモービルなどが主力である。またこの基地もSHADOの傘下の一つである。
 第1基地司令を務める倉田三郎中佐は司令席で一服のコーヒーを啜りながら報告書に目を通していた。内容は衛星軌道上にある警戒衛星SIDから送られてきたデータである。
「倉田司令、おかわりはいかがですか?」
 そう声をかけてきたのは彼の副官であり秘書のニナ・バリー少尉であった。
「ありがとう、頼むよ。」
 そう言いながら倉田中佐はカップを手渡した。
「そろそろ桐山の乗った連絡艇がロンドンへ着く頃だな。」
 時計を見て倉田は呟いた。同期であり同じく第2司令を務める桐山薫中佐は現在重要情報の輸送の為にSHADO本部のあるイギリスのロンドンへと連絡艇で降下していた。
「何なら君と桐山の副官を交換しておいたほうが良かったかな?」
 カップを受け取った倉田中佐は笑いながらニナ少尉にそう言った。
「な、何を言い出すんですか!?司令、私は本部に用事など…」
 言いながらニナ少尉の顔が赤くなる様子に倉田中佐だけでなく司令室の面々も笑みを見せる。
「いいじゃないか、この基地の人間は皆知ってるよ。知らぬは本人ばかりとはよく言ったものだ。」
 言いながら倉田がコーヒーをまた一口啜った時であった。
「倉田司令、地球のSHADO司令部から通信です。」
 オペレーターの天城正中尉からの報告に倉田中佐はコーヒーを机の上に置いた。
「よし、ここへ回してくれ。」
 そういうとすぐに司令席のモニターにエド・ストレイカー司令官が映った。
『倉田中佐、任務ご苦労。先ほど桐山中佐が新地球統合軍ロンドン基地宇宙港へと降下したと報告が来た。』
 ストレイカー司令官の言葉に倉田中佐が表情を引き締めて答えた。
「無事時間通りに降りれたようですね。データは直接桐山中佐が本部へ輸送します。」
『うむ。ところで月面基地はどうかね?』
 ストレイカー司令官はある事を懸念していた。
「心配ありません。ゼロワンのあらゆるメンバーを調査した結果、全員シロでありました。」
 その一言にストレイカー司令官は安堵の表情を浮かべた。
『そうか、君が言うのなら問題は無かろう。』
 月面基地では先日より職員の身辺調査が行われていたのだ。
「さすがにゼロワンは職員を司令官自らが選抜されただけありました。しかし問題は・・・」
『アポロ基地だな。』
 倉田中佐の指摘を肯定するようにストレイカー司令官が間髪いれず言葉を繋いだ。
「その通りです。フォスター大佐も指摘されたとおり奴らはアポロにも手を伸ばしております。」
 その言葉を聴きストレイカー司令官は煙草に火をつけた。相変わらずのヘビースモーカーぶりである。
『今アポロではメガロードや新型バルキリーの開発研究がされている。急ぎしっぽを掴まねばならん。』
 倉田中佐もうなずいて答えた。
「承知しております。それについてはスペクトラムのスカーレット大尉とブルー大尉が動いています。」
 スペクトラムとはSHADOと協力関係にある特務機関である。おもに要人警護や諜報活動などを行う。
『うむ、とにかく調査を続けてくれたまえ。それと例の監視もよろしく頼む。』
「分かりました。月面基地についてはお任せ下さい。」
 そう言って画面に向かって倉田中佐と一歩後ろに控えるニナ少尉が敬礼するとストレイカー司令官も敬礼を返した。
『ではこれで失礼する。』
 そういうと画面はブラックアウトした。少し間をおいてニナ少尉が「ふぅ」と息をつくのを倉田中佐は聴いた。

 その頃、オーストラリア近海へと向かう空母「天龍」艦内では侵入者と爆発物の対応に追われていた。
「各員武装!!第一種戦闘配置!!以後は指揮を「ミズーリ」に一時委譲!!」
 艦隊司令を務める未沙は今後のパニックを避けるべく指揮を次席指揮官である正木俊介大佐に艦隊指揮を任せることにした。一時旗艦を「ミズーリ」として任務を続行する為ともしもの際に「天龍」を攻撃するためである。
 そのため正木大佐、日向浅海中佐、武中淳司中佐の三人は急ぎヘリで各艦へと戻った。彼らは全員未沙と交代を申し出たが未沙はそれを断っていた。指揮官が簡単に逃げることを嫌ったのだ。そしてもう一つ、輝と一緒に戦いたいという思いもあった。輝は沖野誠二中佐と共に艦橋から各部隊へと指示を出している。
「全員直ちに各部署を調査!!まだ他にも爆発物があるかもしれんぞ!!」
 続けてスプルーアンス参謀長も指示を出した。主に機関部以外にも中央情報室(CIC)、兵器庫、航空機燃料庫、格納庫などに重点が置かれた。
「司令!!保安部員より緊急連絡です!!侵入者と思われる二人組みがパイロット1名を人質にして艦橋へ向かっているとのことです!!」
 オペレーターの新たな報告に艦橋にざわめきが広がった。
「落ち着きなさい!!全員装備を確認!!迎撃用意!!」
 すぐに輝と誠二が支給品の拳銃を用意してドアの前に構えた。間もなく甲板からざわめきが聞こえてきた。スプルーアンス参謀長が甲板を見下ろすと三人の人物が目に付いた。艦橋の反対側にあるキャットウォーク(整備員や火砲班員、伝令が通行する甲板下の通路)から上がってきたようだ。
「司令、例の二人組と人質のパイロットです。どうやら第一航空隊の柿崎軍曹のようです。」
 スプルーアンス参謀長の報告を聴いた輝の背筋に冷たいものが走った。
「柿崎!?何てこった!!」
「なんとしても助けるぞ!!」
 輝と誠二が銃を握りなおしてかまえていた。
 艦橋下の鉄扉が閉まり、階段を上がる足音が聞こえてきた。司令室の誰もが息を呑んだ。
 コンッコンッ
 不意にノックが響く。全員が身を固くする。鉄扉が開いて三人の男女が入ってきた。中央にいるのは両手を挙げて顔色が真っ青になっている柿崎幸雄伍長だ。その後ろにフルフェイスヘルメットを被った二人組が続いている。
「こんにちわ~。おじゃましま~す。」
 状況に似つかわしくないその声が向かって右側侵入者の発した第一声であった。しかも声と体型から察するに女性のようだ。
「柿崎!!大丈夫か!?」
 銃を構えた輝がまず柿崎へとたずねた。
「い、一条隊!!、じ、じ、自分は大丈夫です!!」
 柿崎は震えた声で答えた。輝が銃口を後ろの男に向けてさらに言葉を言い放った。
「貴様達は何者だ!?柿崎を放せ!!」
 すると男のほうがヘルメットでくぐもった声を返してきた。
「おっと、隊長さん。あんまり不用意にそんなの向けるもんじゃないぜ。あんたの部下の命は俺達が握っているのだから。」
 そういいながら男が柿崎の右側のこめかみへとこれ見よがしに自分の銃を突きつけた。
「とにかくおとなしくしてもらおうか。」
 ブリッジのメンバーはそれを目の当たりにしてある者は息を呑み、ある者は戦慄を覚えた。ただ一人を除いては。
「ワルサーPPK、それも古いモデルだな。いまどき珍しい。」
 参謀長のデビッド・E・スプルーアンス中佐だった。この状況下でも相変わらずの冷静ぶりに若いクルー達は心の中で少しほっとした。
「おやおや、あんたなかなか肝の据わった人のようだねぇ。」
「軍艦をシージャックしようとする奴には言われたくないがね。ついでに言うとワルサーはドイツのメーカーだったな。」
 その「ドイツ」という言葉を聴き全員がかすかに反応した。

次回に続く。

夏の厳しい時期ですが、皆様夏風邪や夏ばて、食べ物に水の事故などは充分お気をつけてください。

パニック!?

2012-04-10 00:57:00 | 第三部 戦慄の南太平洋編
 ずいぶん滞ってすいませんでした(汗)。新しいバイトがきつすぎて体力続きませんで…。月末にやめます…体持ちません
 音信不通で皆様にはご心配をお掛けしましたことをお詫びいたします。
 
 フォスター大佐のもたらした情報に驚くメンバー達、その頃艦内では・・・

 会議室では誰もが言葉をなくしていた。フォスター大佐の放った一言はそれだけの破壊力を持っていたのだ。
「前世紀末、核兵器は国連と統合政府によって回収され廃棄されました。しかし一部の国はそれでもなお隠し持っていたのです。そして星間戦争後にグローバル提督は秘密諜報部隊(SHADO)を使って世界中に残っている核兵器保管所、廃棄施設を調査させ、データファイルに記録されました。」
 そう言うと彼は手元にあったコーヒーを一口すすった。
「それが『A・E・W』と言う事ですね。しかし核兵器などがこの世界にまだ残っているとは。」
 そう言ったのは第三戦隊司令官の武中淳司中佐だった。
「しかし、そうであれば大変なことです。核兵器は今では反応兵器にとって変わられていますが、万が一使用されてしまえば後に人や自然環境に与える影響は計り知れません。」
 続けてスプルーアンス参謀長が発言した。二人とも元々冷静な性格ゆえに落ち着くのが早かった。
「その通り、反応兵器と核兵器は破壊力こそ大差ないものの核汚染に関しては後者のほうがはるかに強力です。現在宇宙への廃棄作業が進められつつありますがものがものだけに簡単に持ち運ぶわけにはいきませんので多くが地球上に残されております。」
 フォスターが続けて言うと今度は未沙が発言した。
「つまり、真帝国は核兵器を使用して統合政府に取って代わろうとしているのですね。しかしなぜ敵はファイルの存在を知りえたのか。つまり…」
 そう言って未沙はフォスター大佐に視線を向けた。静かに彼は答えた。
「お察しの通りです。統合政府中枢に内通者がいると思われます。」
 誰もが息を呑んだ。するとフォスターは手元に戻ってきた地図にライターで火をつけた。
「これは決して封印を解いてはならない負の遺産です。奴らはこれを狙っている。その目的は考えただけで身の毛がよだつというものです。」
 それに続いて発言したのは航空副隊長の沖野誠二中佐だった。
「しかし相手はただ破壊の手段としか思っていないでしょう。それに元々核兵器の原理を開発したのはドイツです。彼らは自分達が使って当然ともいうかもしれません。」
 それを聴いて今度は輝が発言した。
「しかし、そんなことは許せない!!どんな理由があろうと使わせてなるものか!!」
 その一言に全員が同意を示した。
「一条中佐の言う通りです。核兵器の使用など決して許してはいけません。」
 未沙の一言を聞き、輝は彼女に顔を向けた。
 同じく彼女も輝に視線を向ける。二人はお互いの表情に決意のようなものを感じたのだった。

 その頃、格闘講師の風見健吾は艦中央左舷側の自室から艦尾にある購買室へと向かっていた。天井にパイプが走っている通路を歩いていてふと彼は立ち止まった。
「…。」
 あたりに人影は無い。だが彼は何かを感じていた。
「出てきたらどうだ!?」
 振り向いてそう言うとなんと天井から人間が降りてきた。
「良く分かったな。」
 大柄な男だった。健吾の身長184センチに比べ一回り大きい。190はありそうだ。
「そんながたいでよくそんなとこに潜り込めたもんだ。」
 その男は天井とその下の太いパイプの間に潜んでいたようだ。白いコートにフルフェイスヘルメットといういでたちである。
「貴様何者だ!?少なくともクルーでは無いな!!」
 健吾が身構えると男は腰に刺した武器を取り出した。それは一本の刀であった。長さにして刃渡り約40センチほどのいわゆる“小太刀”であった。
「問答無用!!」
 その一言にいきなり男は小太刀を構えて向かってきた。次の瞬間、「キィンッ」という金属音が廊下に響いた。
「残念だったな。狭い空間で戦うのならば小太刀はもってこいだが俺を甘く見るなよ。」
 健吾は普段から脇に下げて持ち歩いている格闘用の特殊警防で小太刀の一撃をガードしたのだ。
「よくぞ防いだな。そうでなければ面白く無い。」
 お互いそういいながら鍔迫り合いが続く。一瞬でも気を緩めることの許されないまさに生死のやり取りである。
「風見さん!!」
 そう言いながら金属音を聞きつけたのか数人の人間がやってきた。
「お前!!風見さんから離れろ!!」
 一人の若い兵士が銃を構えた。
「やめろ!!風見さんにあたったらどうする!!」
 そう言いながら久野一矢大尉もやってきた。
 やがて騒ぎは艦内のいたるところへと拡大して行った。

『艦内に侵入者あり!!艦内に侵入者あり!!これは演習ではない!!繰り返す!!これは演習ではない!!』
 すぐさま指揮を代行している日向浅海中佐の判断で艦内に警報が出され、会議室から未沙たちも艦橋へと上がってきた。
「一体何事です!?」
 その未沙の問いに日向中佐が答えた。
「艦内に侵入者が潜伏していたようです。現在左舷後部第8連絡通路で格闘講師の風見さんと保安員が交戦中だそうです。」
 一同が驚いた顔を見せているとすぐさま報告がエマ・グレンジャー大尉からもたらされた。
「司令!!大変です!!機関部で爆発物と思われるものが発見されたそうです!!現在技術班が解体作業にかかりました!!」
 新たな報告にさらに若いクルーが動揺する。
「落ち着きなさい!!まだやられたわけではありません!!各部署に通達!!冷静に対処するように!!」
 未沙の指示にブリッジの一堂が落ち着き始めていた。
 だが何者の仕業であろうか…。真帝国の手先かはたまた別の何者かか…。

 次回に続く

 まだしばらく不定期な更新になりそうです。
 春で忙しい時期ですので皆様病気や花粉症などにはお気をつけて下さい。