ついに現れる謎の敵。はたして「天龍」はどうなるのか
2012年1月16日夕刻。すでに「天龍」が瀬戸基地を出航して2日目になる。今日は発艦及び模擬戦、編隊飛行、着艦などの訓練をこなした。また甲板を利用したランニングや格闘訓練も行った。その結果今日は失敗者も無かった為甲板に人影はほとんど無かった。
その甲板の上で一人の男がラジオを聴きながらラムネを飲んでいた。1月ではあるが南下するにつれて気温も上がり格闘訓練の後に全員にラムネが支給された。汗だらけの若者達はビンを片手にそれぞれに艦内へと入っていった。男はいつもこの時間に始まるラジオ番組が好きで携帯ラジオを肌身離さず持っていた。
彼の名は風見健吾。この天龍の航海にオブザーバーとして参加している瀬戸基地の格闘戦講師である。彼は現在26歳にして元陸上自衛隊の特殊部隊出身であり、ある人物に招待されマクロスに乗った。彼はマクロス艦内で格闘技の講師をしながらテレビ関係のスタントなどで生計を立てていた。そんな彼の趣味は音楽でいつも雑誌や携帯プレーヤー、ラジオなどを携帯している。
「みなさん、こんにちわ。夕刻音楽展の時間がやってまいりました。日本地区から遠く離れたあなたへ懐かしいあの曲をお届けします。私はパーソナリティをつとめます長谷川義治でございます。どうぞよろしくお付き合いくださいませ。」
やさしいワルツ風の音楽が流れ、少し世間話のような前口上が続き、司会者の饒舌な語りが始まった。
「さて、本日はなつかしの昭和特集ということで数々のリクエストが入っております。昭和の名曲は今聞いても実にいい物です。では早速最初のリクエストです。ラジオネーム「レクイエム」さんからのリクエストです。『今は遠くへ行ってしまったあの人の好きだった曲です。今ももしどこかでこの曲を聴いていることを願っています。一番の思い出の曲』だそうです。それでは聴いていただきましょう。1981年寺尾あきらさんの「ルビーの指輪」です。」
それを聞き風見は驚いた。それは自分にとっても思い出深い歌だった。その曲は自分の父親が自分に教えてくれたお気に入りの歌であり、かつて別れてしまったある女性に初めて歌って聴かせた曲でもある。今その女性がどうなっているのか彼は知らない。だがこのリクエストをした人物と同じようにこの曲を思い出にしてどこかで聴いているような気が彼にはしていた。
そして彼は沈み行く夕陽に向かってポツリとつぶやいていた。
「晴海・・・。」
ちょうどその頃のことである。インド洋への入り口付近マレー沖の海底に巨大な艦がゆっくりと航行していた。それは一隻の巨大な潜水艦であった。
そのブリッジで指揮を執る人物は司令席に背中を預けイヤホンを耳に入れながら笑っていた。
(自分のリクエストがこんな大事な時に選ばれるなんてね。)
そう思いながら彼女はその相手のことを思い出していた。今生きているのかも分からない一人の男性を。
(でも、もう私は昔の自分ではない。自分は今は真帝国太平洋艦隊司令長官ヘルディ・マイヤーだ。)
彼女は自分にそう言い聞かせていた。その時部下から声が掛かった。
「司令、各部隊より連絡。準備完了、指示を待つ。」
ちょうど曲が終わった頃合、時間どうりだ。彼女はそう思い歴史に残るであろう言葉を発した。
「よろしい!!本日を持って作戦開始!!我らこそがすべてを導く先導者であり世界を統べる者なり!!統合政府の時代は終わったのだ。全員奮起して今こそ立ち上がるのだ!!」
その夜、南下を続ける天龍艦隊は沖縄諸島と台湾の中間を少し南に下った辺りにいた。艦隊速度は12ノット(時速約23キロ)である。
時間は1月16日午後11時前。
このとき司令である早瀬未沙中佐は当直をすでに終えて自室に戻っていた。彼女は部屋で紅茶を用意してまもなく同じく当直を終える人物がやってくるのを待っていた。
「さてと、あとは来るのを待つばかり。」
今の彼女を見て厳しい艦隊司令などと思うものはいないであろう。だが、
ピィーッ、ピィーッ
その甲高い音は部屋にあるテレビ電話の音だ。彼女が受話器をとると画面にデビッド・E・スプルーアンス参謀長が現れた。
「司令、お休みのところ申し訳ありません。艦橋までお越し願いたいのです。」
「分かりました。すぐに参ります。」
幾分がっかりしたが自分を呼ぶということは何か司令の判断を必要とする状況ということである可能性が高い。そう思い彼女は急いで艦橋へと向かった。
未沙が艦橋に姿を現すと全員が一斉に敬礼した。その中には当直の航空隊長である輝の姿もあった。敬礼を返しながら艦橋中央のスプルーアンス参謀長に未沙がたずねた。
「一体何事ですか?」
「司令、実は数分前に通信長のエマ大尉が友軍のSOSシグナルを受信しました。」
「何ですって!?」
未沙は驚いた。そして通信長のエマ・グレンジャー大尉に意見を求めた。
「エマ大尉、説明してください。」
「はい、これをご覧下さい。」
そう言ってエマは自分のコンソールから一枚の記録用紙を手にとって未沙に見せた。
「これは統合海軍で使用されている無線通信用のSOS信号です。しかしかなり微弱でノイズにまぎれていました。もしかすると無線もろくに機能していないのかもしれません。」
「この通信は一体どこから?」
未沙がそう質問すると航海長の天野純大尉が海図を指し示して説明した。
「距離は分かりませんが、方角は本艦の進路から左舷へ約70度方向。マリアナ方面です。」
「早瀬中佐、すぐに偵察隊を発艦すべきです。」
そう進言したのは輝だった。
「もし何かが起こっているのなら見過ごすわけには行きません。本艦の当直バルキリー隊を発進させて警戒すべきです。」
これにスプルーアンス参謀長が同調した。
「私も同意見です。ここは一刻も早く状況を解明すべきです。」
未沙もそれには賛成であった。一日分ぐらいなら時間もあまるように計算された航海でもあるので演習に遅れる心配も無い。未沙は冷静に命令を出した。
「分かりました。では一条少佐、すぐに準備に取り掛かってください。エマ大尉は重巡「白神」で指揮を執る日向少佐に警戒するように連絡を、天野大尉は航路変更の作業をしてください。これより本艦は第2種警戒態勢に入ります。」
それを聞き各員はそれぞれの部署へと向かった。時計はもうすぐ日付が変わることを知らせていた。
遅れに遅れた今年最後の更新です。どうもすいません。では皆様良いお年をどうぞ。今年一年ありがとうございました。
2012年1月16日夕刻。すでに「天龍」が瀬戸基地を出航して2日目になる。今日は発艦及び模擬戦、編隊飛行、着艦などの訓練をこなした。また甲板を利用したランニングや格闘訓練も行った。その結果今日は失敗者も無かった為甲板に人影はほとんど無かった。
その甲板の上で一人の男がラジオを聴きながらラムネを飲んでいた。1月ではあるが南下するにつれて気温も上がり格闘訓練の後に全員にラムネが支給された。汗だらけの若者達はビンを片手にそれぞれに艦内へと入っていった。男はいつもこの時間に始まるラジオ番組が好きで携帯ラジオを肌身離さず持っていた。
彼の名は風見健吾。この天龍の航海にオブザーバーとして参加している瀬戸基地の格闘戦講師である。彼は現在26歳にして元陸上自衛隊の特殊部隊出身であり、ある人物に招待されマクロスに乗った。彼はマクロス艦内で格闘技の講師をしながらテレビ関係のスタントなどで生計を立てていた。そんな彼の趣味は音楽でいつも雑誌や携帯プレーヤー、ラジオなどを携帯している。
「みなさん、こんにちわ。夕刻音楽展の時間がやってまいりました。日本地区から遠く離れたあなたへ懐かしいあの曲をお届けします。私はパーソナリティをつとめます長谷川義治でございます。どうぞよろしくお付き合いくださいませ。」
やさしいワルツ風の音楽が流れ、少し世間話のような前口上が続き、司会者の饒舌な語りが始まった。
「さて、本日はなつかしの昭和特集ということで数々のリクエストが入っております。昭和の名曲は今聞いても実にいい物です。では早速最初のリクエストです。ラジオネーム「レクイエム」さんからのリクエストです。『今は遠くへ行ってしまったあの人の好きだった曲です。今ももしどこかでこの曲を聴いていることを願っています。一番の思い出の曲』だそうです。それでは聴いていただきましょう。1981年寺尾あきらさんの「ルビーの指輪」です。」
それを聞き風見は驚いた。それは自分にとっても思い出深い歌だった。その曲は自分の父親が自分に教えてくれたお気に入りの歌であり、かつて別れてしまったある女性に初めて歌って聴かせた曲でもある。今その女性がどうなっているのか彼は知らない。だがこのリクエストをした人物と同じようにこの曲を思い出にしてどこかで聴いているような気が彼にはしていた。
そして彼は沈み行く夕陽に向かってポツリとつぶやいていた。
「晴海・・・。」
ちょうどその頃のことである。インド洋への入り口付近マレー沖の海底に巨大な艦がゆっくりと航行していた。それは一隻の巨大な潜水艦であった。
そのブリッジで指揮を執る人物は司令席に背中を預けイヤホンを耳に入れながら笑っていた。
(自分のリクエストがこんな大事な時に選ばれるなんてね。)
そう思いながら彼女はその相手のことを思い出していた。今生きているのかも分からない一人の男性を。
(でも、もう私は昔の自分ではない。自分は今は真帝国太平洋艦隊司令長官ヘルディ・マイヤーだ。)
彼女は自分にそう言い聞かせていた。その時部下から声が掛かった。
「司令、各部隊より連絡。準備完了、指示を待つ。」
ちょうど曲が終わった頃合、時間どうりだ。彼女はそう思い歴史に残るであろう言葉を発した。
「よろしい!!本日を持って作戦開始!!我らこそがすべてを導く先導者であり世界を統べる者なり!!統合政府の時代は終わったのだ。全員奮起して今こそ立ち上がるのだ!!」
その夜、南下を続ける天龍艦隊は沖縄諸島と台湾の中間を少し南に下った辺りにいた。艦隊速度は12ノット(時速約23キロ)である。
時間は1月16日午後11時前。
このとき司令である早瀬未沙中佐は当直をすでに終えて自室に戻っていた。彼女は部屋で紅茶を用意してまもなく同じく当直を終える人物がやってくるのを待っていた。
「さてと、あとは来るのを待つばかり。」
今の彼女を見て厳しい艦隊司令などと思うものはいないであろう。だが、
ピィーッ、ピィーッ
その甲高い音は部屋にあるテレビ電話の音だ。彼女が受話器をとると画面にデビッド・E・スプルーアンス参謀長が現れた。
「司令、お休みのところ申し訳ありません。艦橋までお越し願いたいのです。」
「分かりました。すぐに参ります。」
幾分がっかりしたが自分を呼ぶということは何か司令の判断を必要とする状況ということである可能性が高い。そう思い彼女は急いで艦橋へと向かった。
未沙が艦橋に姿を現すと全員が一斉に敬礼した。その中には当直の航空隊長である輝の姿もあった。敬礼を返しながら艦橋中央のスプルーアンス参謀長に未沙がたずねた。
「一体何事ですか?」
「司令、実は数分前に通信長のエマ大尉が友軍のSOSシグナルを受信しました。」
「何ですって!?」
未沙は驚いた。そして通信長のエマ・グレンジャー大尉に意見を求めた。
「エマ大尉、説明してください。」
「はい、これをご覧下さい。」
そう言ってエマは自分のコンソールから一枚の記録用紙を手にとって未沙に見せた。
「これは統合海軍で使用されている無線通信用のSOS信号です。しかしかなり微弱でノイズにまぎれていました。もしかすると無線もろくに機能していないのかもしれません。」
「この通信は一体どこから?」
未沙がそう質問すると航海長の天野純大尉が海図を指し示して説明した。
「距離は分かりませんが、方角は本艦の進路から左舷へ約70度方向。マリアナ方面です。」
「早瀬中佐、すぐに偵察隊を発艦すべきです。」
そう進言したのは輝だった。
「もし何かが起こっているのなら見過ごすわけには行きません。本艦の当直バルキリー隊を発進させて警戒すべきです。」
これにスプルーアンス参謀長が同調した。
「私も同意見です。ここは一刻も早く状況を解明すべきです。」
未沙もそれには賛成であった。一日分ぐらいなら時間もあまるように計算された航海でもあるので演習に遅れる心配も無い。未沙は冷静に命令を出した。
「分かりました。では一条少佐、すぐに準備に取り掛かってください。エマ大尉は重巡「白神」で指揮を執る日向少佐に警戒するように連絡を、天野大尉は航路変更の作業をしてください。これより本艦は第2種警戒態勢に入ります。」
それを聞き各員はそれぞれの部署へと向かった。時計はもうすぐ日付が変わることを知らせていた。
遅れに遅れた今年最後の更新です。どうもすいません。では皆様良いお年をどうぞ。今年一年ありがとうございました。