日本艦隊司令部

小説、アニメ、特撮、刑事ドラマ、映画などの語り

新たなる命令

2011-10-22 02:04:20 | 第二部 東洋激突編
 遅くなりました。今回で第2部は終了です。そしてすいませんが少し長いです。さて、敵の本当の狙いは…


 シンガポール戦の翌日。
 イギリスのロンドン郊外にある「ハリントン・ストレイカー映画スタジオ」。表向きは娯楽向き二流映画会社。実際は世界の裏側に名をとどろかす統合軍内の秘密組織「SHADO(シャドウ)」の本部である。
 地下70メートルに作られたシャドウ司令部、ここには20人余りのスタッフがいる。地球各地の支部との交信、各海域に派遣しているスカイダイバーへの指令、月面基地「ムーン・ベース」との交信、情報収集などが主な任務である。
「おはよう、諸君。」
 そう言いながら入ってきたのはシャドウ副司令官のフリーマン大佐だ。
「おはようございます。大佐、司令がお待ちです。」
 スタッフからそう告げられたフリーマンは手を上げて返答し、司令官室へと向かった。
「やぁ、おはよう。すぐ終わる。」
 司令官室で映画会社専務取締り兼シャドウ最高司令官エド・ストレイカー少将は書類に目を通していた。
「一ついただくよ。」
 そういうと、フリーマンは備え付けの冷蔵庫から支給品の缶コーヒーを取り出した。
「私にも一本頼む。」
 いつものごとく二人の会話は上司と部下というより友人同士の感がある。
 フリーマンが二本取り出し司令机の上に置いた時、ストレイカーは書類をファイルにしまった。
「さてと、まずはこれを見てくれ。」
 司令室の中央モニターが点灯してある施設を映し出した。
「新地球統合軍フランス支部じゃないか。これがどうかしたのか?」
 別に基地の様子に変わったことは見受けられない。
「問題はこれだ。」
 そういうとストレイカーがパネルを操作して映像が変わった。
「こ、これは…!!」
 フリーマンは息を呑んだ。その映像はフランス基地の頭脳ともいえる最高機密コンピュータールームであったが、なんと完全に機能停止させられていた。それもメインコンピューターから部屋の隅に至るまでズタズタであった。
「一体何が!?」
「何者かの破壊工作だろう。昨日の深夜に異常が確認された。まだ極秘事項だが予定では明日には正式に関係者を含めて軍全体に発表される。」
 冷静にストレイカーは述べると缶コーヒーを開栓した。
「あの機密室に入れるとは信じられん。」
「それも警報装置が作動するまで誰も気付かなかった。これはプロ以上の仕事だ。」
「コンピューターの破壊だけが目的だったのか?」
 フリーマンの疑問にストレイカーは一服の煙草に火をつけてから答えた。
「修復されたプログラムなどを調べて分かったが、一部の記録が中からごっそり盗まれてたよ。それからわざと警報装置を作動させたんだ。」
「我々への挑戦と言う事か。なくなったデータは?」
 ストレイカーは煙草を灰皿に置くと口を開いた。
「ファイル名“A・E・W”だ。」
 聴いた瞬間、フリーマンは危うく手に持っていた缶コーヒーを落としそうになった。
「大事だぞ!!あれが世に流れたら…」
 その先はストレイカーが手を出してさえぎった。
「盗まれたのは構造記録や誘導に関する内容だけだ。現在の保管位置座標のデータはすでに抜かれていたんだよ。」
 それを聞き、フリーマンは少し落ち着いたようだ。
「そうか、それでそのデータは今どこに!?」
「ここさ。」
 そういうとストレイカーは机の上に一つのアタッシュケースを置いた。
「この中にそのデータがある。実はこれを移送する命令が下っていてね。フランス支部が襲撃される前にここへ持ち込まれていたんだ。これを奴らはなんとしても手に入れようとするだろう。そこでこのケースを君に運んでもらいたい。」
 そして再びストレイカーは煙草を咥えた。
「専用機も用意していつでも飛び立てる。」
「なるほど。目的地までひとっ飛びか。」
 しかしストレイカーは首を横に振った。
「いや、それは囮だ。科学担当のレイク大佐が乗り込んで一足先に目的地へ向かう。君には潜水艦を用意してある。カーリン大尉が指揮するスカイダイバー1号だ。」
「念入りですな。」
 そう言うとフリーマンは飲みかけの缶コーヒーを一気にあおった。
「任務を引き受けましょう。行き先は?」
 ストレイカーはにやっと笑った。
「新地球統合軍日本支部だ。大佐、このデータは下手をすれば地球の存亡にも関わりかねん。どうかよろしく頼む。」
 言いながらストレイカーは煙草を灰皿のふちでもみ消した。

 一方その頃、奪還されたシンガポール基地のドックにて損傷した艦の修理作業が進められていた。
「酷くやられたわね。」
 艦隊司令である早瀬未沙は第三ドック指揮所からドックに鎮座している軽巡洋艦「金剛」を見て呟き、彼女は昨日のことを思い出していた。

 昨日の敵潜水戦艦との戦いは「ミズーリ」の登場で何とか勝利を得た。そして帰還してきた輝とお互いの無事を喜び合ったが、天龍艦隊の軽巡洋艦「金剛」「比叡」、駆逐艦「コロラド」「リットリオ」が中破及び大破。駆逐艦「磯風」が浸水し火災延焼。鎮火の見込み薄く総員退避、後に無傷だった「涼月(すずつき)」によって雷撃処分された。
 それだけではない。艦の被害も大きかったが今回の戦闘における死傷者のことの方が未沙にとっては重大事だった。艦隊内で死者12名、重軽傷者103名にのぼった。書類上数字で冷たく表記されているが彼らは生きた人間だったことを未沙は痛感していた。艦隊が入港した昨日夕方から艦隊合同葬儀に出て未沙は誰よりも彼らの死を悼んだ。また怪我をした者達にも輝やスプルーアンス参謀長と共に見舞った。
 夜遅くやっと休めることになり、司令官私室に戻るとすぐに輝が来た。
「大丈夫?今日は色々大変だったね。」
 紅茶を出してもてなすと未沙と備え付けのテーブルを挟んで反対側のソファに座った輝が開口一番そう語りかけてきた。
「大丈夫よ。明日もまだ処理が残ってるわ。」
 普通ならこうもいかないだろう。未沙もさすがに長く軍に携わっている為に気持ちの持ち方を心得ていた。
 傍目には強靭な精神の持ち主ともいえるかもしれないが、輝から見れば抱え込みすぎやしないか心配だった。
「明日はまた大変ね。あなたも部隊の収拾とかね。」
 それもあった。特に今回はあのロメル・ウォーカー少尉の墜落処理を筆頭に残務処理が残っている。お互い研修中とはいえやはりしばらく忙しいことばかりが続きそうだ。お互いにのんびりできる日はいつ来るのか分からなかった。
「未沙、本当に大丈夫かい?」
 いつになくやさしい言葉をかける輝に未沙は少々訝しく思っていた。
「大丈夫よ。どうかしたの?」
「いや、別に…。ただ少しね。」
 そう言うと輝は一気に紅茶を啜った。
「今日はもう部屋に戻ることにするよ。」
 そう言って輝はソファから立ち上がった。
(もう少しゆっくりしていけばいいのに…。)
 そう思いながらも彼は今日かなり疲れていることだろう。自身もあまり休める時間が無いことから彼も気を遣ったんだと割り切った。
 部屋の入り口まで見送るため彼に続いてドアへと向かう。するとドアに手を掛けた輝は振り向き、(?)となっている未沙の唇に突然自分の唇を重ねてきた。
(えっ!?えっ!?)
 少々混乱している未沙から離れるとやさしい青い瞳を見せながら輝は一言発した。
「おやすみ。」
 そう言うと彼は部屋を出て行った。しばらく閉められたドアを眺めていた未沙は鏡を見るまでもなく自分の顔がどんな色をしているかを理解した。

「どれも修理に二週間はかかるそうです。」
 一歩後ろに控えていたデビッド・E・スプルーアンス参謀長の声で未沙は現在へと戻った。
「「天龍」は装甲甲板に少し傷がついた程度でした。「白神」と「涼月」は無傷です。」
「にしてもマッケーン少将の東洋艦隊の方が敵機動部隊を叩いてくれましたが、自分には敵の行方が気になりますな。」
 同じく控えていた第三戦隊司令官の武中淳司中佐が自分の意見を述べた。
「敵は少なくとも空母三隻が確認されていて、うち二隻取り逃がした。東洋艦隊がそれをみすみす逃したと思えんですな。」
 もっともなことだ。敵の空母が二隻行方をくらましているという事実はある。どれも「天龍」並みかそれ以上のものだ。
「ともかく、今のこの基地への警戒網をおいそれと突破して接近することは難しいでしょう。それに今は敵を追うことよりも事態を収拾することが第一です。」
 未沙がそう言ったとき、スプルーアンス参謀長の携帯が鳴った。
「失礼、はい参謀長だ。そうか、わかった、すぐ戻る。」
 携帯をしまうと彼はすぐさま報告をした。
「早瀬司令、瀬戸基地の草鹿長官から通信が入っているそうです。至急「天龍」へお戻り下さい。それと武中中佐、あなたにも「天龍」へ来ていただきたいそうです。」
 武中中佐も一緒と言う事を未沙は一瞬訝しく思ったがすぐに返した。
「分かりました。すぐに戻りましょう。」

 シンガポール軍港に接舷していた「天龍」に戻った三人はすぐさま第一艦橋へと向かった。中にはすでにスタッフがそろっていたが航空隊の輝と沖野誠二少佐、第八戦隊司令官日向浅海少佐、第二十艦隊司令官正木俊介大佐も来ていた。
『全員そろったようだな。』
 メインモニターに映る草鹿長官が笑みを浮かべながらそう言った。
「草鹿長官、遅れましてすいません!!」
 言いながら未沙とスプルーアンス参謀長、武中中佐は敬礼した。他のメンバーも続いて敬礼する。
『うむ、みんなご苦労。早速だが、君らの報告は目を通させてもらった。なんでも現代のナチスとか。』
 一同を代表して最上階級者の正木大佐が答えた。
「長官、やはりこの日が来てしまったようですな。」
 その言葉に全員が驚いた。正木大佐はこのような事態を予想していたというのか。
『いい機会だ。諸君らにも話しておこう。時をさかのぼること67年前、1945年4月、第二次大戦末期のことだ。先のソ連軍の大攻勢と続くノルマンディー上陸作戦によって連合国の大反抗が始まりドイツは窮地にたたされ、当時ドイツを支配していたナチス党のアドルフ・ヒトラーは総統官邸で自殺した。』
「その四ヵ月後、日本も降伏して第二次世界大戦は終結。世界は東西に分裂した。」
 補足の様な言葉を述べたのは航海長の天野純大尉だ。
『その通りだ。だが戦後になってあるうわさが連合国、特にイギリスとフランスでまことしやかにささやかれていた。大戦後にU・ボートを目撃したというものだった。』
 U・ボート。それはドイツ潜水艦の総称である。
『ただのうわさでしかなかったのだがありえない話ではない。所詮は艦艇数など書類上のものだ。戦後の艦艇数調査もいくらでもカモフラージュできる。それにヒトラーは自分のための美術館を開く為に数多くの芸術作品を蒐集したり、莫大な金塊を隠し持っていたとも言われている。終戦と共に多くのものが回収されたがそのいくつかは消えた財宝となり“ヒトラーの遺産”として語り継がれてきた。』
 草鹿長官が話し終えると今度は正木大佐が語りだした。
「ところが今から10年前、私は太平洋で謎の潜水艦に遭遇した。お嬢さん、あなたのお父上、早瀬提督の潜水艦にグローバル現提督と共に私も乗っておりました。その時は早瀬提督の指揮によって事なきを得ましたが、ゲリラとは違うもっと大きな謎の武装集団がこの世に存在していることは明らかでした。」
 未沙は驚きの表情を見せた。
「そんなことが…。正木大佐が父の補佐官をしていたことは知っていましたが。」
 すると再び草鹿長官が語りだした。
『実はそれ以前からナチスの流れをくむ影の軍隊の存在は各国の重要機密情報としても存在していた。CIA(米国中央情報局)やMI6(英国情報部)、KGB(ソ連国家保安局)をはじめ各国のあらゆる諜報組織がその謎を追っていた。だが奴らが何者で目的は何か、確実な存在の証拠はほとんど発見されなかった。』
 艦橋内に沈黙が流れた。無理もない。自分たちの住む世界の裏側にそのような存在が有るなど誰も予想などしていなかったのだ。
 少し間をおいて再び草鹿長官が口を開いた。
『そこで今回のこの事件をグローバル提督とも話し合った結果、今後この影の真帝国なる組織の先任部隊として「天龍」にこれを追ってもらいたい。』
 一同は再び驚きの表情を浮かべ、メインモニターを見た。厳粛な表情を見せる草鹿長官は続けた。
『早瀬中佐、現時刻を持って貴官を特務部隊指揮官として任命する。なおそれに伴い戦時特例措置として貴官を少将に任命する。また「天龍」メインスタッフに一条輝、沖野誠二両航空隊長を各員一階級特進とする。これはグローバル提督からの命令である。』
 今まで以上の驚きが艦橋に満ちた。中でも一番驚いていたのは未沙であった。
「私が…、少将…、ですか?」
 メインモニターの草鹿長官は頷いて見せた。
『そうだ。グローバル提督は君の活躍を期待している。それに君はもうすぐ宇宙艦隊司令官となる身だ。今のうちに艦隊運営に慣れておいて損はなかろうとも言っておられた。』
 そう言われ未沙はうつむいた。
(少将だなんて…。私にそんな大役が務まるかしら…、提督には悪いけれどここは辞退して、正木大佐か武中中佐に譲るべき場面かもしれない。)
 その時、彼女の右肩に誰かの手が掛けられていた。顔を上げると輝が自分の横に立っていた。
「君ならできるはずだ。」
 一言輝はそう言った。たった一言だが未沙の決意を促すにはそれで充分であった。
 一度輝に頷いて見せた彼女は再びモニターへと顔を向け、敬礼した。その瞳は見る者に決意を感じさせた。
「草鹿長官、本日を持って本艦隊はご命令に基づき、真帝国に対する特務に就きます。」


 第二部終了、次回第三部戦慄の南太平洋編へと続く

 というわけで遅ればせながらですいません。長かった東洋編も終わりです。次回からは新たな艦やAチームと共に目指すはオーストラリアです。

 寒くなりますので皆様お体などお気をつけてください。自分は先日より風邪気味です…。

決着戦

2011-09-21 22:37:54 | 第二部 東洋激突編
さてついに決着です。また一方シンガポール上空では

 シンガポール基地はバルキリー隊による爆撃によって地上施設が大損害を受けていた。コンクリートは砕かれ、鉄がこげる独特のにおいと硝煙のにおいがあたりに充満している。
「隊長!!沖合いに味方艦です。」
 第1小隊長エディ・ユーティライネン中尉の報告に隊長沖野誠二少佐が沖へと視線を向ける。巡洋艦「霧島」「榛名」の2隻が主砲、ロケット砲、対地ミサイルを次々と発射しながらこちらへと向かってきている。
「ようし、あとはあの2隻と地上部隊に任せて「天龍」に戻ろう。」
 その時だった。オープンにしていた通信回線に突然謎の歌声が響き渡った。
「イエエ~イ!!お~れはカモメ!!じ~ゆ~うなそ~らをどこま~でも~!!」
 誠二を含めバルキリー隊全員があっけに取られた。このようなことをする人物には全員おぼえがなかった。少なくともバルキリー隊ではない。
 誠二が辺りを見回すと遠方からジェットヘリの編隊が飛行してきた。数は7機、地上部隊の機体のようだ。
「え~、本日もクレイジー航空をご利用いただきましてまことにありがとうございます。左右両側にシンガポールの熱帯地域が広がり、間もなく燃え盛るシンガポール基地へと差し掛かります。どうぞ最後までごゆっくりと旅を楽しんでください。本日も機長は私クレイジー・モンキーが担当しております。」
 まるで機内アナウンスのような演説に誠二はピンと来た。
「マードックさん!!あなたH・M・マードックさんじゃないですか!?」
 その言葉に向こうも少々驚いたようだ。
「ありゃま~、誠二じゃないの。おひさしぶり~!!」
 やはりそうだ。マクロス航海時代に誠二が度々会っていた自称天才パイロットだ。
「なぜマードックさんが攻撃ヘリに!?」
「まぁ色々あんのよ。とりあえずその辺はあとにしてこちとら暴れさせてもらうぜぇ!!」
 言うや否やクレイジーモンキーのジェットヘリは急加速し機体下部に据えられたロケット砲が地上のまだ稼動している対空陣地へと火を噴いた。陣地に炸裂、黒煙と炎が吹き上がる。
「OK!!い~やっほう!!」
 他のヘリもそれに続くのを確認した誠二はマードックへと通信を送った。
「それではマードックさん、我々は母艦へ戻ります。あとはお願いします。」
「まっかせとけ~!!」
 部下を引き連れて誠二のバルキリーは翼を翻して南へと向かった。

「ほう、さすがモンキー。中々やるじゃねぇか。」
 そう言いながら08式主力戦車の上部ハッチから身を乗り出していたハンニバルことジョン・スミス大佐が葉巻を咥えながら上空を見上げていた。
「ハンニバル!!そろそろこっちもおっぱじめようや!!」
 運転席にいるコングも暴れたくてウズウズしているようだ。
 彼らは今シンガポール基地付近の密林地帯に身を潜めている。
「ようし、フェイス!!全地上部隊に連絡だ。全軍突撃!!我に続け!!同士討ちを避けるため榴弾砲部隊は一旦砲撃中止。」
「了解!!」
 通信席にいるフェイスの返事と共にコングがエンジンをふかし始めた。他の戦車と機動隊のデストロイドが同じく起動して突撃体制に入る。
「ようし!!突撃だ!!」

 一方海上では軽巡洋艦「霧島」「榛名」が砲撃をかけながら突入戦に入ろうとしていた。最上部の見張所では倍に増員された見張員が双眼鏡に張り付いている。レーダーが妨害されて使用が困難のためだ。
「右舷前方より不明艦1接近!!」
 見張からの報告に旗艦「霧島」艦橋のスタッフが一斉に左前方を見ると一隻の駆逐艦と思しき艦がこちらへと向かってきていた。どうやら基地のドックから出てきたらしい。
 すると突然その艦上に砲撃の発射炎が確認された。
「面舵一杯!!」
 航海長の命令の下艦が右に舵を切る。後方を進む「榛名」も続いて右に向かい回避に移る。だが敵は慌てているのか砲弾は2隻のはるか頭上を飛び越えた。
「本艦はこれより敵艦との砲撃戦に移行する。引き続き「榛名」は基地攻撃を続行。地上部隊を援護せよ。」
 第三戦隊司令官武中淳司中佐の命令が僚艦へと伝えられ、「霧島」は敵艦へと舵を切り「榛名」から距離を取り始めた。
 武中中佐は第三戦隊の金剛型軽巡洋艦4隻を率いて今回のシンガポール演習に参加していたのだが謎の潜水艦発見の報を受けて駆逐艦2隻と共に警戒任務の為シンガポールを出航、敵の奇襲から運良く逃れられたのだ。
 今作戦における突入艦隊の指揮官を選ぶにあたって彼は一番に志願したのだった。艦隊司令の未沙も同じ中佐で年齢と経験も上の武中中佐の意見を採用した。彼は敵地へ切り込み、仲間の仇討ちをと思っていたのだ。
「取り舵一杯!!目標、敵駆逐艦!!砲撃用意!!」
 武中中佐の号令のもと前甲板の15・5センチ単装速射砲が角度をあわせる。今「霧島」は前方から一直線に向かってくる敵艦と真正面から向かい合う形になっている。フェンシングの要領で一撃目で顔面を射抜くつもりのようだ。
「第一砲塔、射撃準備完了!!目標前方約1800メートル!!」
「砲撃開始!!」
 砲術長の報告にすぐさま艦長の声が返され、前甲板から射撃音と振動が伝わってきた。
 敵艦の前方に水柱が立つ。続いて主砲の後部に設置されたミサイルランチャーから対艦ミサイルが放たれる。
「ミサイル着弾まで5、4,3,2,1!!」
 水柱が収まると敵艦上に爆炎があがった。
「よしっ!!」「やった!!」と誰彼ともなく声が上がる。
「まだ終わって無いぞ!!全速航行で砲撃しつつ右へ向けろ!!魚雷戦用意!!」
 武中中佐の声に全員が引き締まる。
「艦橋へ報告!!地上部隊突撃戦へ移行!!」
 見張からの報告に全員が陸地を見やる。味方の戦車隊が突撃を掛け始めた。一方敵も地下壕から戦車隊を差し向ける。統合軍から奪った車両のようだ。
 それを確認した武中中佐が再び声を発した。
「急いで敵艦を沈めるぞ!!味方の援護を忘れるな!!」

「ほほう!!どうやらリモコン戦車隊らしいな!!」
 一号車の上部ハッチから身を乗り出してハンニバルは微笑していた。敵戦車の上部に取り付けられたアンテナを見てすぐに彼は敵を自動操縦戦車であると見抜いた。その数約40輌。
「ハンニバル!!お客さんにそろそろ一発お見舞いしてやろうや。」
「OKコング!!全車両砲撃開始だ!!」
 言うや否やハンニバルは車内に引っ込み時速70キロで突撃していた戦車隊一号車の125ミリ砲が火を噴いた。続いていた車両も次々と火を噴く。
 敵先頭車の2輌の下部に砲弾が命中、各坐させた。今度はお返しとばかりに向こうが撃ち返して来る。次々と地面に砲弾が炸裂する。どうやらこちらも1輌各坐させられたようだ。
「ひるむな!!こっちには海と空からの援護がある!!勝機は我にあり!!」
 指揮車両で通信用マイクに向かってハンニバルが怒鳴ると後方からデストロイド隊の砲撃が始まった。炸裂する砲弾やレーザー、そして上空のヘリからのミサイルによって敵戦車3輌が瞬く間にスクラップと化した。
「モンキーたちもやるな!!こっちも負けてられんぞ!!」
 その意気込みの下、一号車はさらに敵に肉薄し主砲を放った。敵戦車の中央に見事に命中。砲塔がひん曲がった。
「どうだぁ!!はっはっはっはっ!!」
 潜望鏡をのぞくハンニバルの笑い声が車内に響き渡る。
「ハンニバル!!どうやら海軍さんも加勢のようだぜ!!」
 通信席にいたフェイスからの報告にハンニバルはさらに気分をよくする。
 シンガポール戦は次第に統合軍陣営に戦況が傾きつつあった。

 一方海上で行われた激しい砲撃戦も終焉を迎えつつあった。
「司令、敵魚雷によって舵機、スクリュー、後部発射管、主砲塔破損。各部に浸水が発生しております。」
 部下からの報告に潜水戦艦「グナイゼナウ」を指揮するヘルディ・マイヤーは苦虫を噛み潰したような思いでいた。
「排水装置はどうだ!?」
「残念ながら機能低下を抑えることは不可能だそうです。機関部も損傷し速力も大幅に低下しております。」
 もはや選択肢はなかった。浮上できなくなった潜水艦には沈むこと以外に何もできない。
「これまでか、まあいい。初期の目標は達成された。総員!!脱出用意!!」
 その指示が艦内の全スピーカーから流れ、乗組員達が移動を開始する。それを確認したヘルディは次の指示を出した。
「私は最後に向かう。今一度「天龍」へ通信を繋げ。」

「司令!!再度敵艦から通信です!!」
 エマ大尉の報告に全員の視線が未沙へと集まる。
 彼女は静かに答えた。
「バルキリー隊は引き続き警戒を。エマ大尉、メインスクリーンに繋げて下さい。」
「了解しました。メインスクリーンへ切り替えます。」
 中央のスクリーンが砂嵐を映し出し、次第に鮮明になっていく。やがてあのサングラスを掛けた敵司令官が映し出された。
『早瀬中佐、今回はしてやられた。あのような前世紀の戦艦に追い込まれるなど予想もしなかった。』
「ヘルディ司令官、もう勝負はつきました。降伏をお勧めします。あなたとその部下の安全は保障すると約束します。」
 未沙は誠意を持って伝えた。だがヘルディはその申し出を拒否した。
『何を言うか!!まだ我々は貴様らに屈しはせん!!降伏など考えたことも無いわ!!』
「貴艦はもう戦える状態ではありますまい。あなたはそこで艦と運命を共にされるつもりですか?」
 続いてスプルーアンス参謀長が言葉を掛けたが相手は聞く耳を持たなかった。
『我々の手駒はこの艦だけではない!!我々は貴様らが考えているものよりもさらに強大なる存在なのだ!!』
「なんですって!?」
 未沙をはじめ艦橋の全員が驚愕した。敵はまだ戦力を保持しているというのか。
『それにこの海戦には敗れたが、我々の本当の目的は達せられたのだ!!その意味をすぐに貴様らも知ることだろう!!ではさらばだ「天龍」よ!!』
 その言葉を最後に通信は切れた。しばし艦橋内を静寂が支配する。スタッフ達は皆消えたモニターをただ見つめていた。
 少しその間が続いた時、艦内電話が鳴り響いた。スプルーアンス参謀長が応対する。
「司令、ソナー室からです。敵潜から高速物体が北東へと射出された模様。あまりのスピードに追跡は不可能だそうです。」
 その報告を聞き、スタッフ全員がそれぞれの業務へと向き直った。
「了解しました。エマ大尉、バルキリー隊には艦隊上空警戒を継続。各艦は修理及び負傷者の治療にあたるよう伝えて。」
「はいっ!!了解しました!!」
 明るいその返事が艦橋に響いた時、一機のバルキリーが艦橋の右側を駆け抜けた。それを見た未沙は反射的に艦長席で敬礼をした。
 それは尾翼に骸骨が描かれた黒いバルキリーだった。


 長くかかりましたがシンガポール編は次回で終わります。第3部のタイトルは「戦慄の南太平洋編」(仮)を予定しております。あと次回は正木俊介大佐の素性も明かしていくつもりです。

 不安定な気候が続く今日この頃ですが皆様お気をつけてください。

逆転

2011-09-05 22:25:12 | 第二部 東洋激突編
 遅れてしまいすいません。只今試験期間中休み。お待たせいたしました。あと本日ゴミをくずかごに捨てようとしゃがんだ折に目測を誤って隣においてあった小さいロッカーに顔面を強打。右目少し腫れてます。

 などとイマイチ分からない生活をしている今日この頃です。
 さていよいよ第二部終盤。「天龍」の危機を救ったのは…



 突然の水柱は上空のバルキリーからでも確認できた。
「何だ!?一体どこから!?」
 輝がそう言った次の瞬間再び轟音と共に水柱が立ち上った。
「隊長!!南方に発射炎が見えます!!」
 僚機からの報告にその方向に機を向ける。たしかに海面に小さな黒い点と武器を発射した為と思しき黒煙が確認できた。
「なんて奴だ。ここまで30キロはあるぞ。」
 普通の軍艦ではないことが予想された。輝の鍛えられた目が何とか肉眼で捉えられるほどの小さなものである。

「司令!!どうやら味方の援軍のようですな。」
 敵からの通信の途絶えた艦橋にスプルーアンス参謀長の声が響いた。
「ええ、でもどうやってあのような攻撃を。ミサイルの類で無いのなら一体?」
 その問いに航海長の天野純大尉が答えた。
「司令、あれはおそらく砲撃です。」
 そう言う間に再び水柱が上がる。敵艦はこちらへの攻撃の手を止めている。
「砲撃?そんなバカな。」
 通信オペレーターのエマ・グレンジャー大尉がそう伝えてきたが天野大尉は自分の説に確信を持って述べた。
「一つだけ可能性があります。戦艦ですよ。統合軍には4隻の旧アメリカ海軍所属戦艦が統合戦争と星間戦争を生き残っています。現在北米支部にいる「ニュージャージー」イギリス支部にいる「アラバマ」航空戦艦に改造され現在オーストラリア支部で訓練艦になっている「ノースカロライナ」そして日本支部に所属する戦艦「ミズーリ」。」
 天野大尉がそう結論付けた時に通信が入った。
「司令!!別回線から通信が入電。友軍のものです。メインモニターに切り替えます。」
 メインモニターに映っていた敵は狼狽しているらしくすでに通信を切っていた。砂嵐が少しずつ鮮明になってゆき一人の男性が映し出された。
『「天龍」、こちらは新地球統合海軍日本支部第20艦隊、現在貴艦南方32キロ地点に駆逐艦1隻と共に展開中。』 
 その報告を送る男性を確認して未沙は驚いた。
「正木さん!!正木俊介大佐ですね!!」
 それを聞いて正木と呼ばれた男は微笑んだ。
『お嬢さん、お久しぶりですな。お元気そうで何より。ゆっくりお話しする前にまずあの敵潜水艦から片付けるとしましょう。』
「しかし、敵には追尾式ミサイルが通用しません。」
 未沙が心配げに伝えたが相手は笑って返してきた。
「心配ご無用。本艦の主兵装は大砲です。先ほどからの敵への攻撃はそれです。次こそは命中させます。この戦艦「ミズーリ」自慢の40センチ砲の威力をとくとご覧あれ。」
 再び遠雷のような音が海上に響いた。すると今度は青い海に五本の水柱と敵艦上に火の手が上がった。

「おのれ!!あのような骨董品に!!」
 「グナイゼナウ」のブリッジでヘルディ・マイヤーはそう毒づいた。先ほどまで「天龍」に対して優位に立ち勝利を確信していたというのにたった一隻の戦艦に不意打ちを喰らったのだ。
「司令!!だめです。このままでは敵の命中精度は上がるばかりです。」
 一人の士官がそう告げた。戦艦などの砲撃は撃てば撃つほどその情報は艦内のコンピューターで計算されその精度を増すのだ。
「ここは誘導ミサイルで反撃を…」
「いかん!!それでは「天龍」の護衛艦の集中打を浴びる!!ここは一時撤退だ!!急速潜航!!」
 一旦退いて体制をたて直すべきと判断したヘルディは潜航を命じた。こうしている間に再び砲撃が命中。致命傷には至っていないが大きく艦が揺れて誰もが必死に持ち場から振り落とされまいとしていた。
「急速潜航開始!!」
 航海士からの報告に全員が安堵した。

 海面下約300メーターでその艦は息を殺して潜んでいた。今まさに頭上で激しい戦闘が行われている。
「敵艦、潜航を開始した模様です。」
 ソナーマンの妹鳴海愛から報告を受けた潜水艦「センチュリオン」艦長鳴海恵介少佐が命令を下す。
「よしっ!!敵との距離は?」
 今度はその双子の姉鳴海優が答えた。
「距離約4500メーター!!なおも潜航中!!」
「ようし!!通常魚雷装填、前部発射管4本使用。注水。」
 すぐさま魚雷室長の剛田中尉から完了との報告が届いた。
「通信長、僚艦に攻撃暗号発信。」
「了解、宛て「エクセリオン」「スカイダイバー2号」、攻撃暗号“2027”発信します。」
 「エクセリオン」から僚艦二隻へと暗号が飛んだ。敵潜に一気に三隻三方向から魚雷を発射する手はずになっている。
「艦長!!暗号入電!!内容「2027X」」
 発射準備完了の暗号だ。発信後30秒が発射の手はずになっている。
「20秒前、10秒前、5病前、4,3,2,1、発射!!」
 魚雷が発射される低い音を全員が聴いた。ほぼ同時に「センチュリオン」から等間隔に離れて三方向から取り囲むように海底に配置された「エクセリオン」「スカイダイバー2号」からも魚雷が発射された。「センチュリオン」の姉妹艦「エクセリオン」は同じく前部発射管から四本、「スカイダイバー2号」からは艦底部前方発射管から六本発射された。

「魚雷前方海底より接近!!」
 その報告を受けたヘルディは青ざめた。まさか敵潜がこちらを狙っているとは予想外であった。先ほど敵の潜水艦とやや南方で遭遇したがその敵を撃沈したと思い込んでいたために油断したのだ。ちなみにそれは「センチュリオン」であったのだが
同艦は急速潜航装置と加速リニア、試作品の偽装爆破機雷によって沈没を偽装していたのだ。それに先ほどからの海上からの砲撃や爆撃で全員の注意が上に向いていた。
「急速廻頭!!取り舵いっぱい!!」
 回避命令を出したがそれは意味を成さなかった。
「両舷後方からも接近中です!!回避不能!!」
 間もなく「グナイゼナウ」の艦全体がすさまじい爆裂音と激震に包まれた。

「こちらソナー室!!敵巨大潜水艦に魚雷命中!!大破した模様!!」
 艦橋に上がってきた報告に誰もが笑みを見せた。
『見事成功しました。』
 メインスクリーンの映像に映る正木大佐も微笑んでいた。
「正木大佐、これが狙いだったのですね。」
 未沙が問いかけた。
『その通り。数時間前に味方潜水艦が敵巨大潜水艦と遭遇しましてね。もしもに備えて味方潜水艦を付近の海底に待機させていました。うまく敵がこちらの網に引っかかった形になりました。』
その発言にスプルーアンス参謀長が言葉を繋いだ。
「敵を包囲する形で味方潜水艦を配置、海上から砲撃を行い潜航に追い込む、そこをすかさず魚雷で狙い撃ち。いや、完璧な構想ですね。」
 しかし正木大佐は意外な答えを出した。
『いや、実はこの戦法は旧日本海軍でも使用されたのだ。』
 それを聴いた天野大尉が興奮した様子で声を出した。
「もしや、小沢提督のマレー沖海戦ですか!?」
『ほう、君よく分かったな。しかし今はまだ戦闘中だ。諸君らとはまた後ほど話をしよう。』
 その一言に全員が再び敵艦の沈んだ海面に視線を走らせた。また、バルキリー隊もその上空をガウォーク形態で敵の浮上に備えて隊形を組んでいる。

 次回に続く。
「天龍」の危機を救ったのは「ミズーリ」でした。「沈黙の戦艦」などで知られるアメリカ海軍の戦艦です。なぜ星間戦争を生き残ったのかは後々明かします。次回は敵潜水戦艦の最後と誠二たちの第2中隊にAチームの活躍を描く予定です。
 不規則な更新でいつもすいません。季節の変わり目ですのでみなさまお体や気候にお気をつけくださいませ。こちらは台風はあまり酷くありませんでした。

大砲撃戦!!

2011-08-07 00:35:32 | 第二部 東洋激突編
 ついに敵潜水艦との決戦です。


「な、何だ!?あれは。」
 輝は愛機スカルリーダーのコックピットで息を呑んだ。
 上空のバルキリーからでも確認されたその潜水艦は「天龍」から3千メーターは距離を置いているにもかかわらずその巨大さが窺い知れた。全長250メーターの「天龍」と同等かそれ以上の巨体である。
「隊長!!あれは一体!?それにあのマークは!!」
 そう言ってきたのは第三小隊長のギム・ケイリング少尉だった。彼はドイツ人である。彼が生まれる以前に母国が掲げていた旗に描かれていたマークを見て動揺している様だ。いや、彼だけではない。航空隊全員が動揺している。だが今は戦闘中だ。動揺は死に繋がることも多い。輝はバルキリー隊全員の通信を開いて伝えた。
「みんな落ち着け!!とにかく敵機に集中しろ!!まずはそれからだ!!」
 その言葉で全員気がついたのか各隊が編隊を組み直していった。

 「天龍」の艦橋でも謎の敵潜を前に全員が驚きを隠せないでいた。
「ナチスドイツ!!司令、ナチスのマークです!!」
 双眼鏡を構えていたスプルーアンス参謀長がそう言った。メンバーも一応卍のマークがかつて第二次大戦時に暗躍したナチスドイツ第三帝国の掲げたマークと言う事は知っている。
「しかしなぜ今ごろあのようなマークを掲げた艦がいるんでしょう?」
 未沙はそうつぶやいた。それは全員の疑問でもあった。各艦も動揺していたが対艦攻撃の態勢に移行しつつある。
 その時、敵艦が突然咆哮を響かせた。直後左舷に位置していた軽巡「比叡」が水柱に包まれた。
「「比叡」が!!」
 誰かがそう叫んだ。水柱が消えた時「比叡」の後部から黒い煙が上がっていた。
「ひるんではいけません!!攻撃開始!!目標、敵大型潜水艦!!」
 未沙の号令に合わせたかのように各部から報告が届いた。
「第一第二各速射砲準備完了!!弾種鉄鋼弾!!発射します!!」
「対艦ミサイル砲データ入力!!攻撃開始!!」
 次の瞬間、「天龍」右舷の第一艦橋前に設置された15.5センチ第一速射砲が火を噴いた。続いて右舷に据えられたミサイル・ランチャーから対艦ミサイルが発射された。
「司令!!「白神」も砲撃を開始した模様です!!」
 スタッフの言葉に前方を未沙は確認した。重巡「白神」の主砲から煙が上がっている。「白神」は「天龍」よりも一回り大きい20・3センチ単装速射砲が2基装備されている。
 次々と敵艦周辺に水柱が上がる。何発かも命中したようだがよほど装甲が厚い為かあまり手ごたえが無い。
「ミサイル着弾3秒前、3!!2!!1!!」
 オペレーターのカウントダウンに全員が敵艦に目を向けた。しかし、
「ミサイル目標喪失!!命中無し!!」
 艦橋に信じられない報告が届いた。全員が驚きの表情を隠せないでいる。
「くそ!!電波妨害だ!!司令!!ミサイルに対して電磁防壁で迷走させているものと思われます!!」
 スプルーアンス参謀長がそう告げた。いつになく興奮したような言い方だった。
「ミサイルは効果がありません。速射砲と魚雷に頼るしか…」
 その時「天龍」に衝撃が走った。敵の砲弾が甲板端に直撃したのだ。
 艦橋内のスタッフは手近なものにすがって転倒を免れた。
「全員無事!?」
 帽子を落とした未沙がすぐさま声を発した。
「な、何とか無事です。」
「司令、航行に支障はありません。」
 スタッフから声が上がっていた。どうやらけが人はいないようだ。
「司令、甲板右舷後部に直撃弾です。幸い重傷者はいないようです。鋼鉄の甲板が少し傷ついただけで運用に支障はありません。」
 エマ大尉からの報告に全員が安堵した。
 だがまだこれからだ。敵を沈めなければ安心はできない。その時だった。
「監視所より司令室!!バルキリーが敵艦へと向かっています!!」
 その声に未沙は司令席を離れ手近な窓から上空を見上げた。

「ちくしょお!!よくもやってくれたな!!」
 頭に血が上ったロメル・ウォーカー少尉のバルキリーが敵艦へと向かっていく。
「ロメル少尉!!戻れ!!バルキリー一機で突っ込むなんて無茶だ!!」
 そう言って輝が彼の後を追った。
「一発ぶちかましてやる。至近距離じゃ狂わせられねぇだろうよ!!」
 さらに彼はスピードを上げた。視界の中で敵艦が徐々に巨大になってくる。
「もう少しだ、充分引きつけて…」
 ロメルは汗だくであった。恐怖とも興奮とも言えるような気持ちが己を支配して言っているように思えた。ミサイルの発射体勢に入った。
「くらえや!!」
 ロメルがミサイルを放ったその時だった。
「うわっ!!」
 突然敵艦から火花のような光が上がった。すさまじい対空砲火だった。
「くそっ!!」
 あわてて機を上昇にかかる。すぐに敵艦の対空射撃圏外へと脱出を試みる。彼の体がGで座席に押し付けられる。
「ロメル!!後ろだ!!」
 その輝の言葉を聴いた瞬間彼は驚いた。敵艦は対空砲火だけでなくなんと対空ミサイルも放っていたのだ。電磁防壁でミサイル攻撃は出来ないと踏んでいたロメルだったがその考えはあっさり否定された。後に判明したことだが敵の対空ミサイルはコンピューター制御の電波探知方式ではなく単純な熱探知式だったのだ。つまり一定の高度に上がってから熱を探知して追尾するタイプだったのだ。
「しまった!!」
 あわててバトロイドに変形して落下しながらガンポッドとレーザーで対応したが一発がバトロイドの右足を襲った。
「うわぁぁぁっ!!」
 すさまじい衝撃に叫んでいた。

「ロメル!!脱出だ!!脱出しろ!!」
 その一言の為かコックピットから人が飛び出した。まもなくパラシュートが開き彼は海上へと降下していった。
 輝は敵艦に目を向けた。敵は悠々と「天龍」へと向かっていた。

 通信席のエマ大尉がすぐさまヘリ部隊にロメル少尉の救助指示を出した。
 改めて未沙は各艦の様子を見た。「金剛」「比叡」は2,3発を喰らって艦が傾き、「涼月」を除く全艦が大破ないし中破となっている。
 未沙は考えをめぐらせた。このままでは全艦がやられてしまうこともありえなくも無い。ここは一旦後退とも考えた。
 その時、エマ大尉が驚きを隠せない表情で司令席の未沙に振り返った。
「し、司令!!敵艦からの通信です!!メインスクリーンに映します!!」
 全員がさらに驚きメインスクリーンを凝視する。
 間もなくスクリーンが砂嵐から徐々に映像に変わっていった。司令室と思しき背景を背に一人の女性が座っている。大き目のサングラスと長い黒髪が表情を分かりにくくしていたが、一目でアジア系と分かる顔立ちであった。
『新地球統合海軍所属航空母艦「天龍」に告ぐ。貴艦の艦長早瀬中佐と話がしたい。』
 その女性はそう伝えてきた。敵はどうやらこちらのことをある程度知っているらしい。そもそも未沙が艦長と言う事は軍広報の宣伝もあって軍内部では広く知られてもいた。
「「天龍」並びに本特務艦隊司令官、早瀬未沙です。」
 未沙はそう返した。相手は一呼吸置いて返してきた。
「真帝国太平洋艦隊総司令官、ヘルディ・マイヤーだ。「天龍」に告ぐ。直ちに降伏せよ。我々の力は分かったはずだ。貴様らの貧弱な軍艦では相手にならん。素直に従ったほうが身のためだ。」
 一方的にそう告げてきた。
「あなた方は何者です?何故こんなことを起こしたの?」
 未沙が少し語気を強めて相手に言い放った。相手は少し笑みを見せてこう語った。
『しれたことよ!!現在の統合政府はただの飾りに過ぎん。世界の為にも大いなるリーダーの下に全人類は統制されるべきなのだ。現に見てみよ。あのマクロスシティ防衛戦を!!一握りの反乱分子にあれほどまでにやられた政府など必要ない。我々選ばれた人間によって世界を治め、その意志の下において初めて世界は一つとなるのだ。』
 相手の言葉に未沙は少しづつ悪寒に近いものを感じた。敵の司令官はさらにまくし立てた。
『そしてそのための理想こそが我らが仕えるナチスだ!!この艦、潜水戦艦「グナイゼナウ」に描かれた鉤十字の紋章がその証なのだ!!』
 相手は次々と言葉を言い放った。その内容に彼女は驚いていた。いや、彼女だけではない。その場にいた全員が驚きを隠せなかった。ナチスの存在が現代に続いているなど到底信じられない。だが確かに今ここでそれは実在していると全員が認識せざるを得なかった。
『もう一度言う。早く降伏したほうが身のためだ。大型艦艇以外はすでに満身創痍。むざむざやられるだけだぞ。すぐにおとなしく我々の…』
 その瞬間だった。突然遠雷のような音が海上に響き渡った。そして次の瞬間、それまでより二回りは大きいかと思われる巨大な水柱が敵潜水戦艦のそばに立ち上った。

 続く

 急用でしばらく家を離れていた為遅れてしまいました。どうもすいません。
 それと今後についてですが自分は帰省などのため来週一杯は更新を控えさせ頂きます。
 それでは皆さんどうかお体などお気をつけて下さい。次回いよいよ決着です。

対決の時

2011-07-28 23:34:30 | 第二部 東洋激突編
 少し時間をさかのぼります。


 輝たちを送り出した後、シンガポール南西300キロ海上、「天龍」を中心に前方に重巡「白神」、後方に途中から合流した重巡「ホーネット」、左右に軽巡「金剛」「比叡」が配置され、各巡洋艦の外側にに五隻の駆逐艦「涼月」「磯風」「ウォード」「コロラド」「リットリオ」が取り囲み輪形陣を組んだ。また各艦の対潜哨戒ジェットヘリを四方八方に配置して警戒、上空は第一、第二航空隊第二小隊、第四小隊の8機のバルキリーが護衛に付いている。この小隊が護衛にまわったのは女性ばかりの部隊であった為だ。彼女達も攻撃に志願したが輝と誠二は護衛にまわるように配慮していたのだ。
「頼もしいお嬢さん方じゃのう。」
 齢59歳の重巡「白神」艦長小田切武市少佐は昼戦艦橋から空を見上げて満足げにつぶやいた。
「戦争もあんなに女性が活躍する時代が来たのか。嬉しいやら悲しいやら。」
「小田切さん、ここは戦場ですよ。感慨にふけっている場合ですか。」
 隣で双眼鏡を構えていた第八戦隊指揮官日向浅海少佐が答えた。
「まぁわしらの様なもんは時代遅れになりつつあるのかもしれんのう。」
「何を言いますか、あなたは現場40年のベテランですよ。」
 二人は日本海上自衛隊出身であり、「天龍」に乗っている風見健吾とも面識がある。
「しかし、わしゃ解せんことがある。少し敵の行動が気になるのう。敵はインド洋側に空母戦力を集中しとる。こっち側が手薄すぎやせんかの?」
 小田切艦長は顎に手を当ててそう問いかけてきた。
「もしかしたら潜水艦隊が潜んでいるかもしれません。しかしヘリが随時警戒してますから易々と近づけないはずです。」
「考えすぎでなければいいんじゃがのう。」
 そう言って再び二人は空を見ていた。

 一方「天龍」の艦橋では
「司令、そろそろバルキリー隊がシンガポール爆撃にかかる頃です。」
 デビッド・E・スプルーアンス参謀長が時計を確認して報告してきた。現在艦隊は逆探を警戒して通信の類を控えている。
「成功すれば通信開放のシグナルが来るはずです。」
 通信長のエマ・グレンジャー大尉がそう答えた。
「今はとにかく成功を信じましょう。」
 彼は無事任務を完了して帰ってくる。未沙は信じていた。今まで彼はそうであったし、約束もしていた。そのときだった。
「近距離レーダー!!未確認飛行編隊をキャッチ!!数20以上!!」
 一瞬室内が凍りついた。
「もう一度識別しなさい!!全艦対空戦闘用意!!エマ大尉、攻撃に向かったバルキリー隊をすぐに呼び戻して!!」
 未沙の命令に全員がわれに帰った。
「急ぎなさい!!敵はすぐそこまで迫っているわ!!」
 すぐに各自が動き出した。しかし
「早瀬司令!!だめです!!ジャミングの為か航空隊と連絡が取れません。」
 エマ大尉の報告に全員が息を呑んだ。だが未沙はこう答えた。
「大丈夫です、一条少佐なら通信の異変に気が付いてくれるはずです。」
 その言葉と彼女の瞳には信頼が満ちていた。
「司令、各砲座準備完了、対空ミサイルも用意完了しました。」
 スプルーアンス参謀長も冷静だった。二人を目の当たりにして他のスタッフも落ち着きを取り戻しつつあった。
「機関全速!!対空戦航行準備よし!!」
 舵輪を握った航海長天野純大尉が報告する。
「敵機接近!!護衛バルキリー隊、迎撃に向かいます!!」
 レーダースタッフと監視所からの報告が戦闘開始のカウントダウンを思わせた。
「対空戦闘!!各自射撃用意!!」
 突撃してくる敵機の前に立ちはだかるバルキリー隊。敵は編隊を拡げてミサイルを放つ。ミサイルをバルキリー隊が次々と撃ち落すが、敵機が隙を突いて突撃してくる。
 未沙の号令が響いた。
「全艦対空戦闘開始!!ファイヤー!!」
 各艦のすさまじい砲火が上空に炸裂した。

「間に合ってくれ!!」
 輝の目に未沙が浮かんだ。なんとしても彼女を守らなければならない。
 だが間もなく輝の目に異常な光景が飛び込んできた。
 晴れ渡った空の下、海上に三つの黒煙を確認した。それは明らかに自分たちの来た方向であった。つまり艦隊に異変が起こったと言う事であった。
「隊長!!あれは!!」
 久野一矢中尉が青い顔で輝に問いかけた。彼だけではない。同じくモニターに映るギム・ケイリング少尉とロメル・ウォーカー少尉も同様だ。最悪の状況が想像できた。しかし、まだやられたとは限らない。
「大丈夫だ!!そう簡単にやられるような「天龍」じゃない。急ぐぞ!!」
 出来ることなら輝は彼女の名前を叫びたかった。ジャミングの為か通信が取れない事がより不安にさせた。
(必ず守ると約束したんだ!!)
 そう思い全速で「天龍」へと向かう。

「みんな!!頑張って!!もうすぐ一条隊長たちが来てくれるわ!!」
 護衛隊の指揮を執るジル・シャリン少尉が仲間を励ます。彼女も限界に近づいていた。何せ三倍以上の敵機である。いくら高性能のバルキリーといえども数で押されていては分が悪い。
 だが、彼女達は必死に迎撃戦を展開していた。
(隊長や久野中尉たちのためにも守らなきゃ!!)
 そういう思いが彼女達を支えていた。皆が輝たちが来てくれることを信じていた。そしてジルが視界の隅からこっちへ向かってくる何かに気付いた時、それは現実となった。


「軽巡「金剛」被弾!!駆逐艦「リットリオ」第二砲塔損傷!!」
 オペレーターのエマ大尉が次々と各艦の被害を報告する。
「急速廻頭取り舵いっぱい!!」
 航海長の天野大尉は必死に舵輪を回して敵の攻撃をかわす。その甲斐あって「天龍」は艦尾に機銃弾を受けただけで負傷者3名に被害はとどまっていた。だが、護衛艦には大きな被害が出ていた。軽巡「金剛」ミサイルによって左舷を被弾。25ミリ対空機関砲二挺がやられた。駆逐艦「磯風」「コロラド」「リットリオ」も一発ずつミサイルによって被弾。特に「磯風」は艦の右舷中央に命中、浸水により速力が29ノット(時速約55キロ)まで落ちてしまった。
「新たな飛行編隊確認!!味方です。」
 その報告に全員が安堵した。時計によれば対空戦闘開始からまだ15分足らず。
「司令、どうやら間に合ったようですな。」
 スプルーアンス参謀長が声を掛けた。だがまだ安心はできない。未沙は再度声を張り上げた。
「気を抜いてはいけません!!まだ終わったわけでは・・・。」
 その時、ソナー室から緊急連絡が艦長席へと廻ってきた。
「こちらソナー探知室!!緊急連絡!!敵潜と思しき反応キャッチ!!方位1時方向!!」
 さらに通信席のエマ大尉からも報告が来た。
「右舷前方哨戒中のジェットヘリ、ホーネット二番機より報告!!海中に敵潜反応!!敵は超巨大!!」
 そのときだった。右舷一時方向の海面が突如割れたかのように飛沫を上げた。そして姿を現したのは一隻の巨大な鉄の船であった。「天龍」と同等以上の巨体に、多数の重火器を備えたまさに「潜水戦艦」とでも形容すべきものであった。
 さらにその艦の拡大映像を見た瞬間、全員が驚愕した。彼らはその艦の側面に大きな卍のマークを確認したのである。


 続く

 まさかの敵の出現にどうなる「天龍」!?
 ところで今日気付いたことなのですがいつの間にかこのブログが開設からちょうど一年目を迎えておりました。このようにやってこれたのも読んでくださる皆さま方のおかげです。
 どうもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。暑い日々体調などには充分お気をつけてください。