好きなSF作品「超時空要塞マクロス」の個人的創作です。
設定はテレビ版の最終回の後です。
二次創作などに嫌悪感を抱く方、作品のイメージを壊されたくない方はご退場ください
1945年3月末、大西洋ポルトガル沖。
一隻の鉄の塊が海面下20メートルを進んで行く。潜水艦である。この艦の名は“Uボート”。かつてドイツ海軍が大量に量産させた主力潜水艦である。
艦長が潜望鏡を覗いている。遠くにかすかに見える灯はポルトガルの首都リスボンのようだ。
「ドイツの敗北は避けられないだろうね。」
艦長はボソッと近くにいる部下へそう呟いた
「艦長、我々は一体どこへ向かうのでしょう?」
部下は艦長にそう質問した。
「分からんね。ただ我々は未来のためにこの艦を残さなければならないのだ。」
そう言って艦長は潜望鏡から離れ艦長席へと向かった。
「それこそが総統閣下のご意思なのだ。もうすぐこの戦争も終わりを告げるだろう。」
そう言って彼は眼を閉じて感慨にふけっていた。
ナチスドイツの総統アドルフ・ヒトラーが自殺したのはそれから一ヶ月後のことであった。
戦後そのUボートの行方を知るものは誰もいなかった。また、知っていたとしてもよもやこれが67年後に起こる人類史上類を見ない大事件にまで発展するとは予想できなかったであろう。
新地球統合海軍日本支部旧兵庫県神戸市海軍基地通称「瀬戸基地」。ここにはかつての軍事企業の地下ドックがいくつか残っておりここに兵器生産といった目的を考え基地が建設されたのだ。
2012年1月13日、新地球統合海軍によってここで新造空母の進水式が行われていた。軍楽隊の演奏の中一台の車がゆっくりと会場へ向かっている。基地指令と航空隊隊長が乗っているのだ。
「なかなか盛況なものだねぇ。」
「今回はバルキリーの展示飛行がプログラムされていますからね。」
「マクロスの進宙式ほどではないがそれでも一般解放したのは正解だったね。」
「では自分はこのあたりで降ります。」
「そうか、よろしく頼むよ。」
30分後、開会式が始まり基地指令の草鹿正則中将による演説が始まった。
「本日この瀬戸基地において戦後初の空母が完成し、ここに進水することはこの日本地区において海の守りは万全であり、戦後復興の兆しを示すものと思っております。そしてここ に新造空母を「天龍」と命名いたします。今日この日を皆さんと共に迎え、皆さんと共に 祝うことが嬉しく、誇りに思います。これからも共に地球の未来のために歩みましょう。」
人々の喝采と花火の音が会場を包み、上空をバルキリー隊が駆け抜ける。
「では本日のメインイベント、バルキリー隊による展示飛行を行います。
基地航空隊の航空ショーが終わり、続いて模擬訓練プログラムへと移ろうとしていた。航空隊長の沖野誠二少佐が厳しい表情で会場の本部テントから隊員たちに指示を出す。
「いいな、全員落ち着いてかかれ。」
それに対してモニターに映った四人の男女の表情は緩みがちだ。
「大丈夫ですよ隊長。この日のために大特訓したんですから。」
「頼んだぞ。特に一矢、お前は全員をリードするんだからな。」
「了解。」
「模擬戦闘プログラム開始だ。無事を祈る。」
四機のバルキリーが滑走路を飛び立っていく。
バルキリー隊の演技が始まり会場から歓声が上がる。
それを確認した沖野少佐は別の通信マイクを掴んだ。
「全機発進した。そっちの準備はどうだ?」
「いつでもOKだ。」
「よし、発進してくれ。お手柔らかに頼む。」
「こちらこそ。」
そう言って相手の通信が切れた。
沖野少佐はマイクを戻して空を見上げた。
「さてと、お膳立ては整ったな。」
そう言って彼は別の方向から飛んできたバルキリーに微笑みかけた。
「皆行くぞ。おれに続け。」
前方から一機の黒いラインのバルキリーが飛んでくる。不思議なことに尾翼のマークを隠している。
「何だ!?一機だけとはなめられたものだな。」
「ロメル、油断するな。」
久野(ひさの)一矢中尉が目を凝らしてみるとそのバルキリーは隊長クラスの乗るVF-1S型に見えた。
「こんな奴おれ一人で十分さ。」
4番機のロメル・ウォーカー少尉が速度を上げて敵に向かっていった。
「ギム、ロメルのバックアップだ。」
「了解。」
ギム・ケイリング少尉の3番機が4番機を追う。
「敵機ロックオン、発射!!」
ロメルは敵にペイント弾を放ったがあっさりかわされた。
「くそっ!!」
「気をつけろ。一人じゃまずい。タッグを組んで攻撃するんだ。」
その瞬間だった。敵の放ったペイント弾が4番機に命中した。
「うわっ!!」
「こら、ロメルお前は即死だ。早く降りろ!!」
「すいません隊長。」
「ジル、ギム、うかつに近づくな。おれが引き付けるから背後を取れ。」
一矢のバルキリーが敵に切り込んでいく。
「なるほどな。」
黒いラインの機体のパイロットは一矢のバルキリーの攻撃をかわし後を追った。
すかさずジル・シャリン少尉の2番機が追いかける。
「狙い通りね。ギム、行くわよ。」
「OK!!」
「二人とも気をつけろ。」
「久野中尉、後ろを取ればこっちのもんです。」
2機のバルキリーは1番機を追う敵に肉薄して行った。だが・・・。
「きゃあ!!」
なんと一瞬の隙を突いて敵は方向を変えて2番機を逆にロックオンしたのだ。
「ジル、大丈夫か!?」
「翼をやられたわ。ごめんなさい、離脱します。」
「ひ、久野中尉、どうします?」
3番機のギム・ケイリング少尉が青い顔をして一矢に問いかけた。
「こうなったら挟み撃ちだ。おれが奴を追う。そしておれの攻撃に気を取られている隙に上からお前が攻撃するんだ。」
「了解。」
だがこれも失敗だった。敵機に一矢は追いつけなかった。そうこうしているうちにギムも堕とされてしまい開始10分で久野中尉ただ一人になってしまった。そしてさらに10分後、沖野誠二少佐から通信が入った。
「一矢、大丈夫か?ここで中止してもいいぞ。」
「いえ隊長、大丈夫です。」
だがそう言ったものの一矢の全身は汗びっしょりだった。彼は敵の攻撃をかわすことで精 一杯だった。その時、敵機から通信が入った。
「無理をするな。」
「えっ!?」
敵が落ち着いた声で一矢にそう言ってきた。
「操縦は落ち着いてやらなければ大きな事故につながる。今の君にはその余裕はあまり無いだろう。」
「・・・。」
「君はよくやった。訓練はここで終わりだ。」
そう言って通信が切れた。一矢は敵と自分の力量の差を感じていた。表情は分からないが敵は息一つ乱していなかった。黒いラインのバルキリーが会場の上を駆け抜ける。会場に観客の拍手と歓声が響いた。
(一体何者なんだ?)
一矢はそう思いながら黒いラインのバルキリーを追い滑走路へ向かった。
黒いラインのバルキリーが滑走路に下りてきた。
停止すると沖野誠二少佐がエンジン音を響かせる機体のそばへ駆け寄ってきた。
黒い機体のパイロットはコックピットから身を乗り出して手を振っていた。
「――お疲れ。どうだった?」
搭乗パイロットは、被っていたヘルメットをゆっくりと外している。
「まぁまぁだな。だがあの最後の一人はいい腕だと思うな。」
まだ少年とも言えるような幼い表情を持つパイロットは機体から降りてきて彼に対して笑顔を放ちながらそう告げた。
沖野は笑顔を返して別の滑走路へ目を向けた。
「…そうか。あいつらだよ。」
そして、そこからやって来る部下達4人を、彼に紹介する様に視線を移していた。
二人の所へ四人の男女が歩いてくる。
「てめぇ、新顔でよくもおれを・・・。」
「やめておけロメル。」
「でも隊長。」
「誠二、おれは殴られてもかまわんが。」
「いやいや、おれは自分の部下を営倉には入れたくないんでね。」
二人のやり取りを四人は不思議に思っていた。
そして一矢が代表するように質問した。
「隊長、こちらの方は?」
「紹介しよう、今度この基地に赴任してきた一条輝少佐だ。」
「えっ!?」
沖野少佐は笑いながら輝の肩に手をかけ
「こいつはおれと同期で「天龍」の航空部隊長に任命されたんだ。」
と言って彼を紹介した。隣の輝も彼につられて笑っている。
全員が唖然とする中そこへ草鹿正則中将がやって来た。
「草鹿長官に敬礼!!」
その場にいた全員が長官に向かって敬礼する。
「うむ、皆ご苦労。いやぁ荒っぽいご登場だねぇ。」
「草鹿長官、新地球統合宇宙軍少佐一条輝、グローバル総司令の命によりただいま着任しました。」
「うむ、さて諸君もう一人紹介しよう。」
すると草鹿中将の後から一人の女性が現れた。
(あれ?どこかで・・・?)
一矢はそう思った。自分はこの女性に見覚えがあると。
「諸君らが乗り込む「天龍」の艦長に任命された早瀬未沙中佐だ。」
「早瀬です。みなさんよろしく。」
その場にいた四人の小隊長は驚きで声が出なかった。そして一矢は思い出した。この女性のことを。
(あの時の人だ。)
一矢は一年前の統合軍本部でのことを思い出していた。
「じゃあ私は本部へ戻るよ。」
「誠二、おれも中佐と本部へ行く。」
「OK、後は任しとけ。打ち上げは本部五階の大会議室で午後六時からだ。絶対来いよ。」
「分かった。」
そう言って二人は草鹿長官に続いて本部へ向かった。
誠二は振り返って唖然としている四人に話しかけた。
「どうした?」
「い、いえ。あまりのことに言葉が・・・。」
「驚くのはまだ早いぞ。」
誠二は四人が不思議そうにしているのを尻目に整備員にはしごを使って輝のバルキリーの尾翼のマークの部分に張られた特殊なシールをはがすよう指示を出した。
そしてそのシールの下のマークを見た四人は言葉を呑んだ。
「た、隊長・・・。」
「あいつはな、このマークを受け継ぐ唯一の男さ。」
沖野少佐の見上げたその尾翼には骸骨のマークが描かれていた。
「新地球統合海軍の新造空母か・・・。」
そうつぶやいて男はモニターに映っている艦を見る。
「手始めに沈めてみるか。サイパン支部にいるヘルディ参謀につなげ。」
近くの部下が通信モニターを作動させて連絡を取る。
しばらくするとモニターにサングラスをした女性が映った。
「お呼びですか大佐。」
「うむ、君の初任務だ。先日進水した新地球統合海軍日本支部の空母の撃沈命令を下す。」
「と言われますとあの「天龍」とかいう艦ですか?」
「その通り。新造艦を沈められればやつらの面目は丸つぶれだ。」
「では早速。」
「必要とあらば援軍も送るぞ。」
「それは必要ありません。真帝国太平洋艦隊総司令官の名にかけて必ずや。」
「頼むぞ。我らが真帝国のため。」
「ハイル!!」
それを最後に通信は終了した。
以上です。 次回に続く