遅くなりました。では後編をどうぞ
久野一矢中尉が食堂へ入ると部下の柿崎幸雄伍長が食事中だった。自分の三人の部下の一人で彼とは特に仲が良い。
一矢も自分の食事とコーヒーをトレイに載せて彼の隣の席へと向かった。
「おはよう柿崎。」
「あ、隊長。おはようございます。」
「またよく食べるねぇ。」
柿崎のトレイにはどれも大盛りの食事が満載であった。
「朝と昼をかねてますから。」
柿崎はそう言って笑った。
「あまり食べ過ぎて太るなよ。ただでさえごつい体だからな。バルキリーに乗れなくなっても知らんぞ。」
そう言ってしばらくお互いに世間話のようなことをしゃべっていた時だった。
「ところですごいですね隊長は。あの一条少佐と互角の空中戦なんて。」
一瞬一矢の表情が曇った。だが、柿崎は気づかずに続けた。
「死んだ兄が手紙や電話でずっと言ってました。一条少佐は俺が心底ほれ込んだ名パイロットだって。」
柿崎の兄はマクロスに乗っていて護衛航空隊であった。だが北米で戦死したと聞いていた。
「俺ももっとがんばって隊長や一条少佐に負けないように…」
「柿崎、もういい。」
一矢は柿崎の言葉をさえぎって語り始めた。
「俺は互角どころか惨敗だよ。あの時、上空で一人になった時だ。俺はまったく反撃できなかった。」
一矢の目には自分を追い詰めてくる一機の戦闘機が焼きついていた。
「そして相手から通信が入った時、相手は息一つ乱してはいなかった。力量の差を感じた。」
そして彼は一度真剣に聞き入っている柿崎の顔を確認して続けた。
「俺はこの基地へ来て沖野少佐から特訓を受けて、昇進して、自分は特別な人間だと気付かないうちに思っていたんだ。おれは天狗になっていたんだよ。」
そう言って一矢は感慨深げに両目を閉じた。
「そうでもないさ。」
突然二人の後ろから声がした。
二人が振り向くとそこにはなんと一条少佐が立っていた。その表情は年齢を疑わせるように厳しい。
「久野一矢中尉、君の腕は大したものだよ。さすが誠二が鍛えただけのことはある。」
一矢は驚きの表情で輝を見ていた。
「君はあの訓練で俺の攻撃をかわし続けた。戦場では一瞬の判断の早さが生死を分ける。そして何より自分を見つめなおした。自らの行為を悔いている。自分を過信することは一番危険な行為だ。」
そう淡々と語ってから輝はしばし口を閉じた。
少しして一矢が口を開いた。
「一条少佐、ありがとうございました。」
すると輝は笑顔を見せた。
「礼を言われるようなことではないさ。ところで久野中尉。君の部下かい?」
そう言って輝は一矢の隣に座っている柿崎幸雄伍長を見た。
「はい、自分の小隊の者です。」
一矢がそう言うと柿崎伍長は口を開いた。
「天龍航空隊第一小隊二番機パイロット、柿崎幸雄伍長であります。」
そう言って柿崎伍長は敬礼した。
輝は驚きの表情で柿崎伍長を見た。
「柿崎?まさか君はマクロス航空隊の。」
「はい!!マクロス航空隊にいた柿崎速夫大尉(戦死後ニ階級特進)は自分の兄です。その節はお世話になりました。」
「そうだったのか…。君はあの柿崎の…。」
そう言って輝は目を伏せた。
一矢達からは前髪に隠れて彼の瞳は見えなかったが輝は自分の瞳が軽く潤んでいるように思えた。
その脳裏にあのオンタリオ自治区上空でのことがよぎった。
『柿崎!!遅れるな!!』
『だ、駄目です!!隊長、間に合いません!!うわあああ!!』
『柿崎!!』
バルキリーが熱と爆風でひしゃげていく様を輝は振り返った時に見てしまった。
眼を伏せたまま輝は言った。
「すまない。俺は君の兄さんを…。」
すると柿崎伍長は輝の言葉をさえぎった。
「おっと、それはいいんです。兄のことはもういいんです。確かに初めは悲しかったです。でも兄は悲しんでいては喜んでくれません。兄はいつも笑っていました。」
輝は顔を上げた。そして柿崎伍長の笑顔を見たとき、彼の兄の顔が重なった。
『隊長!!弟を頼んます。』
輝の耳にはそんな声が聞こえたように思えた。
「柿崎…。」
驚いた表情を輝が見せた。柿崎伍長は続けた。
「自分は兄の分もがんばります。よろしくお願いします。」
そう言って柿崎伍長は頭を下げた。
「ありがとう、こちらこそよろしく頼む。」
そう言って輝は手を差し伸べた。柿崎伍長も手を出し硬い握手を交わした。
するとそこへ沖野誠二少佐が現れた。
「輝、探したぞ。打ち合わせ始めようや。」
「誠二、すまんすまん。」
そう言うと彼ら四人は同じテーブルで会合(雑談?)を始めた。
ちょうどその頃、早瀬未沙は短艇で基地の沖合いに投錨中の空母「天龍」へと向かっていた。風が強い為彼女は片手で軍帽を抑えている。
付き添いの士官が「天龍」を指し示しながら語った。
「早瀬中佐、あれが「天龍」です。かつてこの神戸をはじめ呉、横須賀、佐世保では数多くの日本海軍の空母が進水し、世界中の注目を浴びました。あの「天龍」はその中でも傑作といわれた空母「翔鶴」(しょうかく)がモデルになっております。」
彼はそう熱っぽく語った。
未沙は微笑をうかべながらこたえた。
「ふふ、良くご存知なんですね。」
彼は後ろ頭をかきながらこたえた。
「いえ、祖父からよく軍艦の話を聞いていつの間にか趣味になっちまいまして。」
そういうと彼は再び「天龍」へと視線を走らせた。
(まるで誰かさん並みね。ただ空の彼ではなく海だけど。)
そして未沙はあまり身の丈の変わらぬその士官を見ながら年下の恋人を思い出していた。その士官と彼の瞳は同じように輝いていた。
その士官の名は天野純大尉。「天龍」の航海班をまとめる航海士だ。
二人の乗った短艇は沖合いの巨艦を目指して疾走して行った。
次回「出航」へ続く
どうも遅くなってすいません。学園祭にOB召集、長期アルバイトなどですっかりおざなりになってました。おまけにどうも疲れから風邪も召したようで毛布が手放せません。近いうちに何とか出航させるつもりですのでご了承ください。
久野一矢中尉が食堂へ入ると部下の柿崎幸雄伍長が食事中だった。自分の三人の部下の一人で彼とは特に仲が良い。
一矢も自分の食事とコーヒーをトレイに載せて彼の隣の席へと向かった。
「おはよう柿崎。」
「あ、隊長。おはようございます。」
「またよく食べるねぇ。」
柿崎のトレイにはどれも大盛りの食事が満載であった。
「朝と昼をかねてますから。」
柿崎はそう言って笑った。
「あまり食べ過ぎて太るなよ。ただでさえごつい体だからな。バルキリーに乗れなくなっても知らんぞ。」
そう言ってしばらくお互いに世間話のようなことをしゃべっていた時だった。
「ところですごいですね隊長は。あの一条少佐と互角の空中戦なんて。」
一瞬一矢の表情が曇った。だが、柿崎は気づかずに続けた。
「死んだ兄が手紙や電話でずっと言ってました。一条少佐は俺が心底ほれ込んだ名パイロットだって。」
柿崎の兄はマクロスに乗っていて護衛航空隊であった。だが北米で戦死したと聞いていた。
「俺ももっとがんばって隊長や一条少佐に負けないように…」
「柿崎、もういい。」
一矢は柿崎の言葉をさえぎって語り始めた。
「俺は互角どころか惨敗だよ。あの時、上空で一人になった時だ。俺はまったく反撃できなかった。」
一矢の目には自分を追い詰めてくる一機の戦闘機が焼きついていた。
「そして相手から通信が入った時、相手は息一つ乱してはいなかった。力量の差を感じた。」
そして彼は一度真剣に聞き入っている柿崎の顔を確認して続けた。
「俺はこの基地へ来て沖野少佐から特訓を受けて、昇進して、自分は特別な人間だと気付かないうちに思っていたんだ。おれは天狗になっていたんだよ。」
そう言って一矢は感慨深げに両目を閉じた。
「そうでもないさ。」
突然二人の後ろから声がした。
二人が振り向くとそこにはなんと一条少佐が立っていた。その表情は年齢を疑わせるように厳しい。
「久野一矢中尉、君の腕は大したものだよ。さすが誠二が鍛えただけのことはある。」
一矢は驚きの表情で輝を見ていた。
「君はあの訓練で俺の攻撃をかわし続けた。戦場では一瞬の判断の早さが生死を分ける。そして何より自分を見つめなおした。自らの行為を悔いている。自分を過信することは一番危険な行為だ。」
そう淡々と語ってから輝はしばし口を閉じた。
少しして一矢が口を開いた。
「一条少佐、ありがとうございました。」
すると輝は笑顔を見せた。
「礼を言われるようなことではないさ。ところで久野中尉。君の部下かい?」
そう言って輝は一矢の隣に座っている柿崎幸雄伍長を見た。
「はい、自分の小隊の者です。」
一矢がそう言うと柿崎伍長は口を開いた。
「天龍航空隊第一小隊二番機パイロット、柿崎幸雄伍長であります。」
そう言って柿崎伍長は敬礼した。
輝は驚きの表情で柿崎伍長を見た。
「柿崎?まさか君はマクロス航空隊の。」
「はい!!マクロス航空隊にいた柿崎速夫大尉(戦死後ニ階級特進)は自分の兄です。その節はお世話になりました。」
「そうだったのか…。君はあの柿崎の…。」
そう言って輝は目を伏せた。
一矢達からは前髪に隠れて彼の瞳は見えなかったが輝は自分の瞳が軽く潤んでいるように思えた。
その脳裏にあのオンタリオ自治区上空でのことがよぎった。
『柿崎!!遅れるな!!』
『だ、駄目です!!隊長、間に合いません!!うわあああ!!』
『柿崎!!』
バルキリーが熱と爆風でひしゃげていく様を輝は振り返った時に見てしまった。
眼を伏せたまま輝は言った。
「すまない。俺は君の兄さんを…。」
すると柿崎伍長は輝の言葉をさえぎった。
「おっと、それはいいんです。兄のことはもういいんです。確かに初めは悲しかったです。でも兄は悲しんでいては喜んでくれません。兄はいつも笑っていました。」
輝は顔を上げた。そして柿崎伍長の笑顔を見たとき、彼の兄の顔が重なった。
『隊長!!弟を頼んます。』
輝の耳にはそんな声が聞こえたように思えた。
「柿崎…。」
驚いた表情を輝が見せた。柿崎伍長は続けた。
「自分は兄の分もがんばります。よろしくお願いします。」
そう言って柿崎伍長は頭を下げた。
「ありがとう、こちらこそよろしく頼む。」
そう言って輝は手を差し伸べた。柿崎伍長も手を出し硬い握手を交わした。
するとそこへ沖野誠二少佐が現れた。
「輝、探したぞ。打ち合わせ始めようや。」
「誠二、すまんすまん。」
そう言うと彼ら四人は同じテーブルで会合(雑談?)を始めた。
ちょうどその頃、早瀬未沙は短艇で基地の沖合いに投錨中の空母「天龍」へと向かっていた。風が強い為彼女は片手で軍帽を抑えている。
付き添いの士官が「天龍」を指し示しながら語った。
「早瀬中佐、あれが「天龍」です。かつてこの神戸をはじめ呉、横須賀、佐世保では数多くの日本海軍の空母が進水し、世界中の注目を浴びました。あの「天龍」はその中でも傑作といわれた空母「翔鶴」(しょうかく)がモデルになっております。」
彼はそう熱っぽく語った。
未沙は微笑をうかべながらこたえた。
「ふふ、良くご存知なんですね。」
彼は後ろ頭をかきながらこたえた。
「いえ、祖父からよく軍艦の話を聞いていつの間にか趣味になっちまいまして。」
そういうと彼は再び「天龍」へと視線を走らせた。
(まるで誰かさん並みね。ただ空の彼ではなく海だけど。)
そして未沙はあまり身の丈の変わらぬその士官を見ながら年下の恋人を思い出していた。その士官と彼の瞳は同じように輝いていた。
その士官の名は天野純大尉。「天龍」の航海班をまとめる航海士だ。
二人の乗った短艇は沖合いの巨艦を目指して疾走して行った。
次回「出航」へ続く
どうも遅くなってすいません。学園祭にOB召集、長期アルバイトなどですっかりおざなりになってました。おまけにどうも疲れから風邪も召したようで毛布が手放せません。近いうちに何とか出航させるつもりですのでご了承ください。