今年初の小説です。「天龍」へともたらされた新たなる情報。それは真帝国の本当の狙い。
スラバヤ、そこはインドネシア第二の都市といわれた軍港都市である。シンガポールから東南東へ約800キロに位置するこの都市は現在東洋と豪州を結ぶ海上交通拠点となっている。かつて太平洋戦争中にはオランダ、イギリス軍の拠点であり、日本軍との壮絶なる争奪戦を展開した。最終的には日本がこれを占領し、戦後返還された。またこの折、日本軍の駆逐艦が沈没したイギリス海軍の軍艦の乗組員400人以上を救助するという一幕もあった。
1月27日午後3時ごろ、「天龍」率いる連合艦隊はこのスラバヤ沖を通過しつつあった。
「対空レーダーに感!!右舷後方より一機接近!!」
レーダー係の報告にすぐさま未沙が答える。
「来たわね。例の情報官だわ。」
すぐに全員が理解した。今後の作戦行動を受けるにあたって軍情報部から情報官が出向してくると言う事であった。
間もなく一機のヘリが艦橋からも見えるところまで飛んできた。
「司令、甲板へどうぞ。」
スプルーアンス参謀長の言葉に答えて未沙は司令席を立った。
「「天龍」より上空のヘリへ、現在速力は32ノット、南西の風一メートル。甲板後部の着艦マークへ降りてください。」
エマ・グレンジャー少佐がヘリへと着艦指示を出した。
間もなく「天龍」後部へとヘリが下りてきた。統合軍内部で連絡用に使われているタイプで白いボディに「SDF」と大きく書かれている。武装は下部に取り付けられた20ミリ機関砲二挺で四人乗りである。
誘導灯を持つ甲板員にしたがって機体が降下してきた。周りには司令の未沙をはじめスプルーアンス参謀長、スミス大佐に準待機中の輝達パイロットが集まってきていた。
そして着艦したヘリはすぐさまローターを停止させると、後部座席から一人の男が降りてきた。年齢は見た目30前後、サングラスをかけ、180半ばほどの背丈にブラウンの髪の毛、黒い統合軍士官服を着用している。
すぐさま未沙へと走り寄って来た彼は右手で敬礼しながら静かに言葉を発した。
「新地球統合軍情報部所属、ポール・J・フォスター大佐です。」
その声に親しみのようなものを感じつつ敬礼を返しながら未沙が答えた。
「統合海軍日本支部所属連合艦隊司令官早瀬です。「天龍」へようこそ。」
そして笑みを見せながら未沙は右手を差し出し握手を交わした。
続いて参謀長や輝達とも握手を交わしていく。
「早瀬司令、会議室の用意はできていますか?」
フォスター大佐の問いに未沙が答えた。
「艦橋下部の第一会議室が用意できています。」
一同はそろって艦橋へと向かった。
今朝から会議室では盗聴器検査も実施され、入り口には武装した歩哨まで立たせているという物々しさである。
「さて、改めて今回の事件を整理させていただきます。」
フォスター大佐は会議室へつくなり切り出した。
この会議室には司令である未沙、参謀長のスプルーアンス中佐、第二戦隊司令官正木俊介大佐、第三戦隊司令官武中淳司中佐、輝と誠二両航空隊長にAチームのスミス大佐が出席している(第四戦隊の日向浅海中佐は未沙の代理として艦隊指揮を執っている)。
「まずは10日前に謎の航空機の襲撃をフィリピン基地と護衛艦隊が受けたことから始まりました。新たなる武装集団の出現と推定した統合政府は直ちに全世界に警報を発令、陸海空全軍が警戒態勢をしきました。」
ここにいる全員が思い出していた。その運命といえるかもしれない開戦の日を。
「そして敵のシンガポール占領と奪還となったわけですが、ここで敵の正体が旧ナチスの残党であると言う事が判明しました。」
ナチス、かつて第二次大戦中に暗躍したアドルフ・ヒトラー率いる軍事結社。21世紀に復活した彼らは何を企んでいるのか、。それがここにいる全員の疑問である。
「ではここで質問したいことがあります。一条中佐。」
フォスター大佐は突然輝を指名した。突然のことに輝は若干驚きながらも返事をした。
「はい。」
「君はバルキリー隊の隊長として度々敵機と交戦したわけであるが、何か気付いたことはなかったかね?」
そういわれた輝の脳裏に閃くものがあった。
「そういえば、敵機の動きに違和感を覚えました。まるで一定のリズムのように。」
そういった輝を満足そうに見たフォスターは続けた。
「ありがとう、その通りだよ。実は調査の結果、あの機体は無人機であることが確認されました。」
その言葉に一同が驚きを見せた。現在統合軍でも無人戦闘機は「ゴースト・プロジェクト」として研究されているがまだ完成には至っていない。
「バルキリーとは性能差が大きいが、大軍で攻められれば空母のない艦隊などは苦戦するだろう。それだけではない。先日発表されたフランス支部テロ事件にも奴らが関係している可能性がある。」
さらに一同の間にざわめきが起こった。また未沙とスプルーアンスにはある言葉がよぎった。
『それにこの海戦には敗れたが、我々の本当の目的は達せられたのだ!!その意味をすぐに貴様らも知ることだろう!!ではさらばだ「天龍」よ!!』
それは敵司令官ヘルディ・マイヤーが残した言葉であった。彼女はこのことを言っていたのだろうか。
「しかし、敵はなぜフランス支部を襲ったんだね。何かそれなりの理由があるのだろう?」
ハンニバル大佐の質問にフォスターは落ち着いて返した。
「その通りです。敵はフランス支部の中央コンピューター・ルームを破壊した際に、一部の資料を奪っていきました。」
そう言って彼は持参したアタッシュケースから一枚の地図を取り出した。
「これはその資料の一部を解読し、現在の世界地図に当てはめたものです。」
そしてそれを未沙たちが一通り見たあとに続けた。
「これから話すことは一切他言無用に願います。実はこの地図は現在の世界情勢にも大きく関わりかねない代物なんです。」
そういうとフォスターは一服の煙草に火をつけて切り出した。
「あなた方を信頼した上で申し上げます。その地図に記載された地点に関するデータを保管していたファイル名は「A・E・W」と言います。「atomic・energy・weapon」の略です。」
そう聞かされた全員が驚愕や怪訝な表情を浮かべた。
「それは、もしや…。」
未沙の問いにフォスターはうなずいて答えた。
「そうです。「A・E・W」とは原子力兵器、つまり核兵器に関するデータであり、その地図は現在もなお残されている核兵器保管施設の位置を示しているのです。」
そう言うとフォスターは煙草を灰皿へと押し付けた。
次回へ続きます。寒さがまだ厳しい今日この頃ですが皆様インフルエンザなどにはどうぞお気をつけてください。
スラバヤ、そこはインドネシア第二の都市といわれた軍港都市である。シンガポールから東南東へ約800キロに位置するこの都市は現在東洋と豪州を結ぶ海上交通拠点となっている。かつて太平洋戦争中にはオランダ、イギリス軍の拠点であり、日本軍との壮絶なる争奪戦を展開した。最終的には日本がこれを占領し、戦後返還された。またこの折、日本軍の駆逐艦が沈没したイギリス海軍の軍艦の乗組員400人以上を救助するという一幕もあった。
1月27日午後3時ごろ、「天龍」率いる連合艦隊はこのスラバヤ沖を通過しつつあった。
「対空レーダーに感!!右舷後方より一機接近!!」
レーダー係の報告にすぐさま未沙が答える。
「来たわね。例の情報官だわ。」
すぐに全員が理解した。今後の作戦行動を受けるにあたって軍情報部から情報官が出向してくると言う事であった。
間もなく一機のヘリが艦橋からも見えるところまで飛んできた。
「司令、甲板へどうぞ。」
スプルーアンス参謀長の言葉に答えて未沙は司令席を立った。
「「天龍」より上空のヘリへ、現在速力は32ノット、南西の風一メートル。甲板後部の着艦マークへ降りてください。」
エマ・グレンジャー少佐がヘリへと着艦指示を出した。
間もなく「天龍」後部へとヘリが下りてきた。統合軍内部で連絡用に使われているタイプで白いボディに「SDF」と大きく書かれている。武装は下部に取り付けられた20ミリ機関砲二挺で四人乗りである。
誘導灯を持つ甲板員にしたがって機体が降下してきた。周りには司令の未沙をはじめスプルーアンス参謀長、スミス大佐に準待機中の輝達パイロットが集まってきていた。
そして着艦したヘリはすぐさまローターを停止させると、後部座席から一人の男が降りてきた。年齢は見た目30前後、サングラスをかけ、180半ばほどの背丈にブラウンの髪の毛、黒い統合軍士官服を着用している。
すぐさま未沙へと走り寄って来た彼は右手で敬礼しながら静かに言葉を発した。
「新地球統合軍情報部所属、ポール・J・フォスター大佐です。」
その声に親しみのようなものを感じつつ敬礼を返しながら未沙が答えた。
「統合海軍日本支部所属連合艦隊司令官早瀬です。「天龍」へようこそ。」
そして笑みを見せながら未沙は右手を差し出し握手を交わした。
続いて参謀長や輝達とも握手を交わしていく。
「早瀬司令、会議室の用意はできていますか?」
フォスター大佐の問いに未沙が答えた。
「艦橋下部の第一会議室が用意できています。」
一同はそろって艦橋へと向かった。
今朝から会議室では盗聴器検査も実施され、入り口には武装した歩哨まで立たせているという物々しさである。
「さて、改めて今回の事件を整理させていただきます。」
フォスター大佐は会議室へつくなり切り出した。
この会議室には司令である未沙、参謀長のスプルーアンス中佐、第二戦隊司令官正木俊介大佐、第三戦隊司令官武中淳司中佐、輝と誠二両航空隊長にAチームのスミス大佐が出席している(第四戦隊の日向浅海中佐は未沙の代理として艦隊指揮を執っている)。
「まずは10日前に謎の航空機の襲撃をフィリピン基地と護衛艦隊が受けたことから始まりました。新たなる武装集団の出現と推定した統合政府は直ちに全世界に警報を発令、陸海空全軍が警戒態勢をしきました。」
ここにいる全員が思い出していた。その運命といえるかもしれない開戦の日を。
「そして敵のシンガポール占領と奪還となったわけですが、ここで敵の正体が旧ナチスの残党であると言う事が判明しました。」
ナチス、かつて第二次大戦中に暗躍したアドルフ・ヒトラー率いる軍事結社。21世紀に復活した彼らは何を企んでいるのか、。それがここにいる全員の疑問である。
「ではここで質問したいことがあります。一条中佐。」
フォスター大佐は突然輝を指名した。突然のことに輝は若干驚きながらも返事をした。
「はい。」
「君はバルキリー隊の隊長として度々敵機と交戦したわけであるが、何か気付いたことはなかったかね?」
そういわれた輝の脳裏に閃くものがあった。
「そういえば、敵機の動きに違和感を覚えました。まるで一定のリズムのように。」
そういった輝を満足そうに見たフォスターは続けた。
「ありがとう、その通りだよ。実は調査の結果、あの機体は無人機であることが確認されました。」
その言葉に一同が驚きを見せた。現在統合軍でも無人戦闘機は「ゴースト・プロジェクト」として研究されているがまだ完成には至っていない。
「バルキリーとは性能差が大きいが、大軍で攻められれば空母のない艦隊などは苦戦するだろう。それだけではない。先日発表されたフランス支部テロ事件にも奴らが関係している可能性がある。」
さらに一同の間にざわめきが起こった。また未沙とスプルーアンスにはある言葉がよぎった。
『それにこの海戦には敗れたが、我々の本当の目的は達せられたのだ!!その意味をすぐに貴様らも知ることだろう!!ではさらばだ「天龍」よ!!』
それは敵司令官ヘルディ・マイヤーが残した言葉であった。彼女はこのことを言っていたのだろうか。
「しかし、敵はなぜフランス支部を襲ったんだね。何かそれなりの理由があるのだろう?」
ハンニバル大佐の質問にフォスターは落ち着いて返した。
「その通りです。敵はフランス支部の中央コンピューター・ルームを破壊した際に、一部の資料を奪っていきました。」
そう言って彼は持参したアタッシュケースから一枚の地図を取り出した。
「これはその資料の一部を解読し、現在の世界地図に当てはめたものです。」
そしてそれを未沙たちが一通り見たあとに続けた。
「これから話すことは一切他言無用に願います。実はこの地図は現在の世界情勢にも大きく関わりかねない代物なんです。」
そういうとフォスターは一服の煙草に火をつけて切り出した。
「あなた方を信頼した上で申し上げます。その地図に記載された地点に関するデータを保管していたファイル名は「A・E・W」と言います。「atomic・energy・weapon」の略です。」
そう聞かされた全員が驚愕や怪訝な表情を浮かべた。
「それは、もしや…。」
未沙の問いにフォスターはうなずいて答えた。
「そうです。「A・E・W」とは原子力兵器、つまり核兵器に関するデータであり、その地図は現在もなお残されている核兵器保管施設の位置を示しているのです。」
そう言うとフォスターは煙草を灰皿へと押し付けた。
次回へ続きます。寒さがまだ厳しい今日この頃ですが皆様インフルエンザなどにはどうぞお気をつけてください。