日本艦隊司令部

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天龍第2の出航

2011-12-31 21:21:16 | 第三部 戦慄の南太平洋編
 さていよいよシンガポールより出航、ですが……

 すべてのものが凍てつく氷の海、そこに真帝国総司令官の本拠地が存在している。
 その男は一人司令官私室の中にいた。部屋にはヒトラー総統、ゲッベルス宣伝相、カイテル陸軍元帥、レーダー海軍元帥の肖像画が飾られている。空軍が苦手なのかゲーリング空軍元帥のものがない。
 模型棚には戦艦「ビスマルク」「ドイッチェランド」などの模型が飾られており、執務机の横には鉤十字の描かれた旗が立てられている。
 さらにその彼の机の後ろには大きな世界地図がかけられていた。所々に印がつけられているのは各支部のものらしい。
『大佐、例の計画はうまく行っているのかね?』
 通信パネルからの質問にその部屋の主は落ち着いた声で答えていた。
「ご心配には及びません。確かに我が方も被害を受けましたが計算内です。それにそれ以上の収穫もございます。」
 そう返したが通信の相手は不安があるようだ。
『しかしあのようなものが役に立つのかね?ミサイルの誘導や構造など必要かね。』
「手に入れたのは最新式の設計図です。確かに各地の保管データも魅力的ですが充分な収穫でした。」
 それを聞き相手は幾分安心したようだ。
『ふむ、とにかく私としてもあのデータには興味がある。あれは地球の体制を揺るがすほどの力がある。』
「我々にとって最強の切り札になることでしょう。そうなればあなたが提督として地球を治め…」
『君は統合宇宙軍の総指揮官だったな。よろしい引き続きこちらからも調査を続ける。』
「すべては世界の本当の統合と平和の為に。」
 それを最後に通信は切れた。しばしの沈黙が流れ、男は手元の飲料水を一口飲んで漏らした。
「能無しめ。いつまでも影の指揮官面ができると思ったら大間違いだ。」
 そう言うと彼は肖像画へと視線を向けた。その瞳は見たもの全てが恐れるような黒い輝きを放っている。
「すべてが終われば奴は用済みだ。折を見て始末するとしよう。どの道奴は私を利用しているつもりだろうがそうは行かないぞ。」
 そう言うと席から立ち上がり右手を上げた。
「ハイル!!全ては我が栄光のナチスドイツと偉大なる先人たちの為に!!ハイル!!」

 1月24日、シンガポール泊地。夜明けと共に「天龍」率いる特務艦隊出航の合図であるラッパが響いた。
「錨上げ!!機関全速前進!!ようそろ!!」
 空母「天龍」の第1艦橋に航海長天野純少佐の声が響いた。
「後続の「伊勢」「日向」両艦ともに出航体勢に入りました。「ミズーリ」は沖合い5海里(約9・4キロ)にて待機中。」
 続いてオペレーターのエマ・グレンジャー少佐の報告が届いた。先んじて出航していた先頭を進む正木俊介大佐の第2戦隊からの連絡であった。
「合流次第陣を展開、敵潜水艦に備え警戒厳とし各艦対潜ヘリ部隊用意。」
 新たに少将となった未沙からの指示が各艦へと通達された。
「早瀬司令、左舷をご覧下さい。」
 一歩後ろにひかえる参謀長デビッド・E・スプルーアンス中佐が双眼鏡を構えて左舷の桟橋を見ていた。なにやら人が集まっているようである。未沙も双眼鏡を構えて見た。
「あれは…」
 それはシンガポール基地の要員であった。集まっていた200人ほどが「天龍」へと敬礼を送っている。
「司令、何か合図を送っているようです。」
 艦橋にいたスタッフからの言葉に双眼鏡を外すと発光信号で合図をしている。
「ぶ・う・ん・と・ぶ・じ・の・こ・う・か・い・を・い・の・る・し・ん・が・ぽ・ー・る・き・ち・よ・う・い・ん・い・ち・ど・う」
 未沙が一文字一文字口に出した。彼女を含めた艦橋のスタッフ達は敬礼の構えを見せる。
 それは艦橋だけではなく甲板や対空砲座にいたスタッフ達にも広がっていった。

 一方甲板には現在上空を警戒している第二航空隊長沖野誠二中佐と彼の第3、第4小隊を除く全パイロットが上がってきていた。
「総員!!敬礼!!」
 輝の号令に集まった全員が敬礼をする。しばらくしてなおれの号令がかけられると輝が語りだした。
「改めて言わせて貰う。各員、ご苦労だった。今回諸君は初めての実戦を経験した。これから俺たちはより過酷な戦場へと向かうことになる。辛いことも多々あるだろう。しかしあの桟橋にいる人たちのことを忘れるな。俺たちを送り出してくれた彼らのためにも戦い抜くんだと言う事を忘れるな。」
 その訓示に一同がいっそう表情を引き締めていた。
「よろしい、では第二航空隊は待機室へと戻ってくれ。第一航空隊は本日の訓練の前に体操を行う。全員運動着に着替えて30分後に集合せよ。」

 一時間後、朝の体操とジョギング等を終えた一同は朝食のため食堂へと来ていた。
「腹減った~。」
 そう言っていつもの席に座った柿崎幸雄伍長は見慣れない人が食堂にいることに気がついた。
「隊長、見慣れない人ですね。」
 隣に座った小隊長の久野一矢中尉は奥のテーブルにいた男を見た。
「はじめて見るが、シンガポールで乗ってきたのかな?」
 その言葉が聞こえたのか自分のトレイを持ちその男が彼らのテーブルへとやってきた。
「ハロー!!タワーリッシ!!ここいいかなムッシュ?」
 その言葉にきょとんとした二人だったがすぐさま一矢が返した。
「ど、どうぞ。」
「おおセンキュー、センキュー。本日も晴天なり。」
 そう言って一矢の向かいに座った彼は自己紹介を始めた。
「俺ちゃんはマードックてんだ。天才的パイロットさ。モンキーって呼んでくれ。」
 モンキーが手を差し出してきたので一矢と柿崎は握手を交わした。
「へぇ、パイロットですか、何に乗っているんですか?」
 一矢の質問に彼は得意げに答えた。
「自動車と空を飛ぶものなら全般だよ。あと特技は演技かな~?」
 そう言っていると所用で遅れて食堂へとやってきた輝が一矢達の席へとトレイを持ってやってきた。
「お疲れさん。ん?あなたは確か…」
 その言葉を聴いてモンキーが声を出した。
「よう、たしか一条輝君じゃないの。久しぶり~。」
「マードックさんですね!!お久しぶりです!!なぜここに?」
 どうやら二人は知り合いのようだ。
「実は俺ちゃんAチームのメンバーでねぇ、ちょっと野暮用があって他の皆より遅れてきたのよ~。」
 聴きながら輝はマードックの隣に座った。
「一条中佐、お知り合いなんですか?」
 一矢は輝に疑問を投げかけた。握手をしていた輝が一矢に向き直って答えた。
「ああ、こちらのマードックさんはその筋では有名なパイロットで各地でアクロバットなんかもされてたんだよ。」
「そうそう、でもマクロスの進宙式に一般アクロバットで来たらそのまま乗せられちゃったのさ。その時に一条と沖野に知り合ったんだよ。」
 二人に話を聞いて一矢と柿崎は感心したようにうなずいていた。
「じゃあこの艦で一緒に戦うことになるんですね。」
 柿崎の言葉にマードックが笑顔で答えた。
「おうよ!!ただ俺が乗るのはもっぱらヘリだろうな。ま、よろしく。」
「こちらとしても実に心強い限りです。」
 そう言って彼らは輝とマードックのマクロス時代の話に盛り上がっていた。

 ちょうど同じ頃、「天龍」艦尾の使われていない空き倉庫の中に三人の人影があった。薄明かりの中で何か話している。
「いいか、今からきっかり60時間後に行動する。」
 一人が発したその言葉に二人が手元の時計を確認して答える。
「OK、ばっちり合ってるぜ。」
「おれはまず艦内で騒ぎを起こし注意を引き付ける。二人は隙を見てブリッジを押さえるんだ。」
 薄明かりの倉庫に小さな笑い声が響いた。
「腕が鳴るわね。」
「ではボチボチいくとしますか。」
 会話はそこで終わった。彼らは一体何者か。果たして何をたくらんでいるのか。

 次回に続く。

 今年最後の更新です。皆様今年もお世話になりました。では良いお年を。

 PS・前回の小説で番外編をとコメントしておりましたがいざ書き上げて今後のネタばれが懸念される内容だったため差し控えさせていただきました。今後書き直しもしくは時期を見ての掲載とさせていただきますのでご了承下さい。

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