※敬称がついてたりついてなかったりテキトーでスイマセン。本の話になると、クセで敬称略になりがち・・・。だって「太宰治さんが」なんて言わないじゃんねえ。
東京芸大で一学年違いに所属した岩城宏之と山本直純は、ものすごい仲良しだったっぽい。学校の授業はソコソコに、自分たちでオーケストラを作ったり、有名な演奏会にもぐりこんだり、まさに「古き良き青春」を謳歌した様子が描かれた本が、「森のうた―山本直純との芸大青春記 」
ですね。画像は2003年出版の講談社文庫版ですが、わたしの手元にあるのは1990年に出た朝日文庫版です。
・・・なんだ、2003年に出版されてたのかっっ!2003年なら、わたし既にハタラいていて、本をお金出して買える身分になってたはず。出版に気づいてなかったな・・・。
岩城さんの古いエッセイは、「現代だと『不適切』扱いなんじゃないのー!?」と思う表現がけっこう出てきてビックリする。放送禁止用語も使っちゃいます。90年でもまだ、あの言葉って使えたんだのう。
で、岩城さんは打楽器科、直純さんは作曲科に所属してるわけなんですね。指揮科じゃない。
指揮科じゃないふたりが、指揮に夢中になって過ごすっていうふうだから、この二人の話は面白いんですねえ。指揮科に入って指揮をガリガリ勉強して成功する話じゃあ、そりゃ普通のサクセスストーリーだもんな。
で、直純さんは既に作曲のアルバイトをしていて、岩城さんも打楽器であっちこっちのオーケストラにアルバイトに行きまくっていた、と。(芸大的に、そういうプロオケのアルバイトは本当は禁止。)
ある時、近衛秀麿管弦楽団の仕事で、関西公演に長期公演に出かけることになったと。で、出発前にスティックなんかを取りに学校へ行ったら、直純と会ったので、
「オイ、一緒に行かねえか」
と言ったら、下着も何も持ってないけど、直純さんもくっついて関西に来ることになったとゆーんですね。「特急つばめ」で大阪に行くんだけど、三等の切符しか買ってないのに、一等席にふんぞり返ってみたりする。で、車掌に見つかって逃げる!
車掌が走って行くナオズミを追って、先へいってしまったころ、ぼくはトイレを出る。
ナオズミは、次の次のトイレにとびこむ。そのときぼくは、車掌の後ろにいるのだ。やはり、陽動作戦である。
結局、先頭の三等車でふたりともつかまってしまった。
「おそれいりますが・・・」
といわれたのは、幸い横浜を過ぎていた。
つかまったのは静岡まであと三十分ぐらいのところだった。静岡さえのりきれば、次の名古屋までは停車しない。名古屋でおっぽり出されたって、大阪までは近い。
天祐神助がわれわれを救ってくれた。
楽員で、やはり前の日の団体には乗らずに、この汽車に乗っていたおじさんがいた。
普段ガクタイ(※「オーケストラ」の業界的呼び名)は誰でもこの人から逃げ回っていた。ものすごいおしゃべりな人で、始まったら止まらないので有名だった。
「シャベリウス」というあだ名だった。
で、この「シャベリウス」さんが車掌さんにペラペラペ~ラと迫力で言い訳してくれて、ふたりは無事に大阪に着いたのです。
そんでこの関西公演、前半が「宝塚劇場」で後半が「朝日会館」と「毎日会館」だったそうな。朝日会館と毎日会館は、「おそろしくきたない」会館だったそうです。古かったということかな。ドコにあったんだろう。
戦後スグの当時は上等な演奏会は、だいたい「宝塚劇場」だったらしい。そーか・・・本当にお金かかった進んだ施設を作ったんだねえ、小林一三は~。
岩城は何度も宝塚の劇場にオーケストラの一員として来ていて、「宝塚に行くのは楽しみでもあった」と書いてます。昼間、劇場の近くの喫茶店とかお好み焼き屋に行って、「ヅカスターに出会えるんじゃないかな~」とキョロキョロしてたらしい。しかし若手の花形スターにはなかなか会えなかったんですと。
そしてオーケストラで打楽器をやりにきた岩城が泊まるのは、もっちろん宝塚ホテルです。
二十日間公演に直純を連れてきたのを、オーケストラの人が知って、「どうせ来ているなら、なにかやらせてやれよ」という話になって、直純も安いバイト代しか出ないけど、トライアングルを叩いたりすることになった、と。
ところがある日の公演で、直純がメチャクチャな叩き方をして、岩城は超怒ったわけです。宝塚のアノ橋の上で喧嘩になりました。
宝塚の劇場から橋を渡ってホテルに戻る途中、ぼくは怒り狂って、文句を言いつづけた。直純も珍しくションボリしていた。
「おまえなんか、消えちまえ!」
「オオ、消えりゃいいんだろ」
本当に消えてしまった。暗い橋の上である。キョロキョロしていたら、下の方から、
「オオ、助けてくれヨー」
声がする。
欄干から身を乗り出して下を見た。
欄干の出っぱりにぶらさがっている。そういえば、怒鳴ったとき、暗い中で何かがスッと横に飛んだような気がしていた。跳馬をとびこえるようにして消えていったのだろう。
ぼくはひっぱりあげようとしたが、あまりにおかしくてゲラゲラ笑いが止まらない。全然力が出ないのだ。
ナオズミの両手は、だんだん下にズリ落ちていく。
川には水がなく、数メートル下がゴロゴロした石だらけの河原なのだ。落ちたら死ぬ。ぼくは大笑いしながら、真っ青になった。
「ハハハ・・・・・・、おまえがんばってろよ。死ぬなよ。助けを呼んでくるからな」
顔色真っ青で、しかもゲラゲラ笑いながら橋のたもとの一杯飲み屋にとびこんだ。オーケストラの仲間が数人のんでいた。
無事に助け上げて事なきを得た。
再度ホテルの方に歩く。
「バカだな、おまえ、何であんなことをしたんだ」
「だって、オメエが消えろ!って言ったからヨ」
「まあな」
ホテルに着いて、死にそこなったショックを消すといって、ナオズミはプリンを二十五個食べた。
宝塚の町を知っているから、情景が具体的に浮かんでおもしろかったです。
以上の引用はすべて、「森のうた」からでした。
岩城さんの文章を読む楽しみを説明するに、佐渡裕さんが「音の影 (文春文庫)」に書いた解説がとにかく秀逸。
やはり何が面白いかって、岩城さんの様々な人間臭さが見えることだろう。僕が好きなのは、岩城さんの負けず嫌いの性格が、色々なところで姿を現すこと。この本には「こんちくしょう」的な言葉が、決して汚くなく何度か登場してくる。そうだ、指揮者とガクタイ、オーケストラのマネージャー、評論家、マニアックなファン、厄介な現代音楽。毎日のように「こんちくしょう!」の連続なのだ。
「音の影」解説 298頁より
こりゃ名文だと思いましたよ。これ以上、何も言うことないね。
そして生意気娘Kの「音楽エッセイブーム」はますます燃える!・・・はずが、現在、予算の都合上、ちょっと中断中でございます。(情けない理由だのう・・・)だって、2月と3月はまた観劇がイロイロあるんだもん!
そーだそーだ。いま読んでる中村紘子の「チャイコフスキー・コンクール (中公文庫)」を読み終わったら、中断するのだ!(読んでるんじゃんかよっっ!)
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