武弘・Takehiroの部屋

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歴史に見るマスコミの正体

2024年06月08日 01時32分17秒 | メディア

<以下の記事を復刻します。>

マスコミ出身の私がマスコミの“悪口”を言うのは少し気が引けるが、これも日本国民のためにと思えば、何らおかしくはないだろう。 実は高校生の頃に読んだら、とても面白かったので忘れられない話がある。いま手元に詳しい資料はないが、ほぼ覚えているので紹介したい。歴史の事実から、マスコミの正体というものが分かるだろう。
 
時は1814年。ナポレオンはヨーロッパ連合軍との戦いに敗れ、フランス皇帝の座を退位することになった。彼は地中海に浮かぶ小さな島・エルバ島に流される。
 ヨーロッパはナポレオン戦争から解放されて、新しい平和な時代を迎えるはずであった。ところが、ヨーロッパの列強がウィーンに集まって欧州の新秩序を話し合うのだが、「会議は踊る」で、各国の利害が対立し話し合いが進まなかった。またフランスでは、王に即位したルイ18世の悪政が目立ち、年金の支払い拒否などをしたため、国民から怨嗟の声が上がっていた。
 こうした不穏な情勢をナポレオンが見逃すわけがない。彼は翌1815年2月末、たった700人の将兵を連れただけでエルバ島を脱出、そして3月1日、フランスのカンヌに近いジュアン港に上陸した。
 
だいぶ前置きが長くなったが、ここから本題に入る。ナポレオンのフランス上陸はヨーロッパ中を驚かせた。厳重な警戒態勢をくぐり抜け、あのナポレオンがまた現われるとは! 皆が「まさか・・・」と思ったに違いない。
これを当時の新聞は何と書いたか。 まず「コルシカの怪物、ジュアン港に上陸」と書いた。この後、ナポレオンは疾風怒涛の勢いでパリを目指す。そして、新聞がどのように書いていったかを紹介したい。(ただし、詳細な資料が手元にないので、具体的な地名などは省略する。)  食人鬼、○○○へ進む」 「簒奪者、×××を侵す」 「ボナパルト、△△△を攻略」 「ナポレオン、▼▼▼に入る」・・・ そして最後に「皇帝陛下、あす忠誠なるパリ市に御帰還!」

これが当時の新聞記事なのだ。高校生の頃、私はこれを読んで笑ってしまった。新聞ってこうなんだと思った。初めは怪物、食人鬼と呼んだナポレオンを、最後は「皇帝陛下」と讃美したのである。その間、わずか18日間だ! それほどナポレオンの進撃が速かったのだが、新聞社は慌てふためいて論調を変えていった。(なお、ナポレオンはその後、ワーテルローの戦いで連合軍に敗れセントヘレナ島に流されるが、その話は直接関係ないので止める。)
 私が言いたいのは、当時の新聞も今の新聞・テレビも、マスコミとはそういうものだということだ。“自己保身”のためにはやむを得ないだろうが、情勢次第で論調がどんどん変わるのだ。
 肝心なのは、そうしたマスコミの論調に読者、視聴者がいかに冷静に客観的に対応できるかということである。昨日、悪人であった者が今日は善人になったり、逆に善人が悪人に変わったりする。それはマスコミの都合であって、国民はそれに翻弄されてはならない。 そうは言っても悲しいかな、われわれはマスコミから情報を受けている。
 
最後に、戦争とマスコミについて触れておこう。戦前、新聞が「鬼畜米英」とか言って戦争を煽ったのは事実だ。これは周知のことだから詳しく述べないが、マスコミも最初はおおむね戦争に反対していた。満州事変(1931年)が起きた時、ほとんどの新聞は戦争の拡大に反対した(一部の国粋主義・右翼の新聞を除いて)。
 ところが、戦火が拡大していくと国民の関心が高まる。戦争の記事を書くと新聞がどんどん売れるようになる。そうなると、いつの間にか戦争の善し悪しとは関係なく、読者と新聞が“一体”となって戦争を後押しするかのような雰囲気になってしまった。これが怖い。 

アメリカではもっと激しかった。米西戦争(アメリカとスペインの戦争、1898年)を前に、有名なジョーゼフ・ピューリツァーとウィリアム・ハーストの新聞が猛烈に扇動的な記事を載せて競争、“イエロー・ペーパー”と呼ばれたが、米国民を戦争に駆り立て発行部数を伸ばした。
 米西戦争はアメリカが勝利し、以後の国家的発展の礎になったが、新聞、テレビなどのマスコミは容易に戦争と結び付く要素があるのだ。以上が、歴史に見るマスコミの正体である。


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4 コメント

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勉強になりました (眞原政宏)
2012-07-07 02:42:37
矢嶋先生、マスコミと言う存在は、ある意味、必要悪であるかも知れないと考えています。人間が書くのですから、真実を追究すると言う命題以上に、各側の思想や哲学、あるいは保身や組織防衛が必ず存在する訳です、しかし一般市民は、それらの情報の中から、真実に辿り着く以外に手段を持ちません。現在は、ネットで多くの情報が得られましが、玉石混交で、情報の真偽を見抜く知識が求められていると思います、大変な時代ですが、若い人に、正しい情報の見抜き方を教えて行くと言うのも我々、オッサンの義務だと思います。
初鹿議員の「だんらんの会」に始めて出席しました。若い割りに胆力ある政治家だと思いますが、若干、知識不足ではないかと感じました。小沢氏の後を考えて、注視して行こうと思います。
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マスコミも必要悪 (矢嶋武弘)
2012-07-07 04:01:38
眞原さん、国家も役人も政治家も「必要悪」かもしれません。マスコミもそうでしょう。必要悪というのは、一定の存在価値があるということです。
紙によって書籍や新聞、電波によってテレビやラジオ、そしてインターネット、メディアも発展します。玉石混交は仕方がありません。
真実を見抜くのは100%は無理かもしれませんが、どこまでそこに迫るかだと思います。
いろいろな見方、考え方があることを知らせていくのが、われわれの義務だと思います。
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Unknown (おキヨ)
2020-04-28 13:29:30
マスコミは事の良しあしさえ簡単に変えてしまう力があるのですね。
それだけにマスコミ関係の人間が各自でその影響力を自覚しなければならないと思います。
人間は考える葦でもありますが、なびく葦でもあると思いますので。。。
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公正中立ですが・・・ (矢嶋武弘)
2020-04-29 09:51:42
マスコミの基本は公正中立だと思いますが、メディアによってかなり違います。テレビなどの放送は免許事業なのでそれが一番ですが、新聞、さらに週刊誌になるとそれぞれの個性、特性が出てきます。これはメディアの違いによって仕方がないでしょう。
問題はマスコミによって情報を得るわれわれですが、相当に客観的に対応しないと間違った判断をしがちです。
特に最近はSNS、インターネットの影響力が増大しているため、デマや中傷、炎上などが起きやすくなっています。
これらに対する規制や備えは十分ではありません。それは個々人が注意して対応しないと、とんでもないことが起きる可能性があります。
インターネットを含めたマスコミのあり方が、今や最も問われる時代になったと思います。
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