武弘・Takehiroの部屋

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新・安珍と清姫(2)

2024年05月08日 02時29分01秒 | 「かぐや姫物語」、「新・安珍と清姫」

清姫はしばらく考えていましたが、やがて口を開きました。
「ヒュパティアやベアトリーチェの言うことは分かるわ。近いうちに両親にも話そうと思うの。安珍様は私をお嫁さんにもらいたいと言っているので、きっと両親も分かってくれると思う。もし、婿養子でなければならないとしたら、その時は安珍様とじっくりと相談するわ。みんなも私を助けて」
清姫は自分の気持を正直に明かしました。でも、婿養子と言っても安珍が快く還俗(げんぞく)するでしょうか。ドン・キホーテは賛成していましたが・・・
ヒュパティア「彼はいつも師僧の珍念和尚様のことを言ってたというじゃないの。その珍念様がお許しにならない限り、正直言って還俗は難しいと思う。それに、修行僧の妻帯も無理だと思うわ。あなたは駄目になった時の覚悟が出来ているの?」
ヒュパティアが厳しいことをはっきり言いました。彼女は男性に興味がない分、口調もとげとげしくなりますね。これには清姫も返す言葉がありません。すると、晶子が助け舟を出しました。
「お清は真剣に考えているじゃないの。みんなももう少し彼女の気持を察してあげてよ。ヒュパティア、あなたもそんなに厳しいことを言わず、お清の立場になって考えてよ」 

しばらくしてヒュパティアが言いました。「ごめん、私は“現実的”だからつい厳しいことを言ったけど、お清を助ける気持に変わりはないわ。安珍様の友人にも度量が大きい人もいるようだから、みんなで彼女を応援しましょう。お清、ごめんね」
清姫「ううん、いいの。あなたに厳しいことを言ってもらった方が、現実的になれて良いと思う。ヒュパティア、気にしないでね」
ヒュパティア「うん、分かった」
ベアトリーチェ「みんなの気持が一つになったと思うわ。これでお清は心置きなく、安珍様に本当のことが言えてよ。お清、しっかりやって」
清姫「うん、ありがとう」
こうして4人の気持は一つになったのですが、問題は安珍がどう考えるかにかかってきたようです。その一行は伊勢路を過ぎて、いよいよ清姫らがいる紀伊国の真砂(まなご)に差し掛かってきました。

 盛夏だというのに、山道に入ると少し涼しくなります。安珍らの一行は目指す熊野に近づいて、ますます元気が出てきました。しかし、ドン・キホーテら3人と安珍の気持はやや違うようです。友人らは熊野三山に初めて参詣するので胸をときめかせていましたが、安珍はこれが4度目なのと、もう一つどうしても気になることがありました。それはもちろん清姫のことです。
彼は時々浮かない顔付きをすることがありました。それは一抹の“不安”が胸をよぎるからです。清姫は会う度に美しさを増してきました。彼女はもう18歳になりますが、その年齢は当時としては“適齢期”になります。いや、むしろ遅いくらいでしょう。 清姫が自分を慕っていることは、安珍はもちろん分かっています。だから今度こそ、決着を付けなければなりません。ドン・キホーテらに明かしたように、自分は仏道に精進し、妻帯しないことを清姫に告げる時がやってきたのです。また必要があれば、それを彼女の両親にも伝えなければならないでしょう。

 一行は清姫がいる紀伊国・中辺路(なかへち)にやって来ました。彼女が住む真砂(まなご)の庄司清次の館は、目と鼻の先にあります。すると、ドン・キホーテが安珍に声をかけました。
「なあ、安珍、いよいよ清姫の所にやって来たが、覚悟はできているだろうな。俺はお前に妻帯して欲しいが、そうしないと決めたからには覚悟がいるぞ」
安珍が返事をしないでいると、今度はハムレットが口を出しました。
「安珍、清姫にはっきり言ったらいい。それが最善の道だ。君は仏道に専念して、珍念和尚に恩返しすることが一番だ」
そして、メフィストフェレスも口を挟もうとすると、安珍がそれをさえぎって答えました。
「みんな、分かったよ。君たちには心配をかけたくない。僕に任せてくれ」
安珍がはっきりと答えたので、3人はそれ以上話しかけませんでした。この後、一行は清姫のいる館に到着したのです。

 真砂の庄司清次の屋敷は、さすがに熊野国造(くまののくにのみやつこ)のものだけあって大きく堂々としていました。何度も来た安珍は驚きませんでしたが、友人達はみな一様に唖然としたのです。彼ら3人は安珍の弟子、または付き人のような形を取っていたので、まずドン・キホーテらがうやうやしく屋敷の門をくぐりました。
すると、玄関口に10人ほどの使用人がかしこまって出迎えましたが、その後ろに3人の乙女が武具に身を固め控えていました。これにはドン・キホーテらもびっくりしましたが、国造の館でなければ見られない光景です。3人は清姫の友人のヒュパティアらでしたが、武器に詳しいハムレットは、彼女らが持っている長い柄の刀は薙刀(なぎなた)だと判断しました。薙刀は中国の唐から伝わったそうですが、この頃はまだ珍しい武器で、ハムレットらがいる奥州の白河では全く見られません。その点、ここ紀州の真砂は都(みやこ)に近いだけあって“さすが”だとハムレットは思いました。彼らは格式のある出迎えに感心し館の中に入りましたが、安珍は山伏姿で最後尾に付きました。
皆が屋敷に入り一休みすると、気がほぐれたのか、若さのせいもあってか話が弾みました。ドン・キホーテらは早速、ベアトリーチェや与謝野晶子らに話しかけます。
ドン・キホーテ「あなたたち女人(にょにん)は、熊野へは入れないの?」
晶子「そんなことはないですわ。でも女人が山に入ろうとすると、白い眼で見られます。だから、私達は無理して山に行こうとは思いません」
メフィストフェレス「それは古いな~、もうそんな時代じゃないでしょ。女人もどんどん行けるようにならないと」
ベアトリーチェ「そうですよ。ですから私達は、来年こそ熊野詣ができるようにと、父母や親戚にいろいろ働きかけています。もう少し待ってくださいね」
ハムレット「時代は大きく変わっていきますよ。早く一緒に熊野詣がしたいな~、ハッハッハッハ。 あっ、そうそう、先ほどの薙刀姿は格好良かったですね。いつから薙刀を習っているのですか?」
ヒュパティア「去年からです。でも、なかなか上達しませんよ。私は運動神経が鈍いのかしら。ホッホッホッホ」
一同が和やかにおしゃべりをしていると、いつもの僧侶姿に戻った安珍がそこへ現われました。ヒュパティアらはギョッとして会話を止めました。そうです。そこに“水もしたたる”ような美男子が現われたのです。

 男性に興味がないヒュパティアでさえ息を呑みました。まさに美しく凛々しい青年僧の安珍だったのです。ベアトリーチェや晶子の驚きは大変なものでした。彼女らもこのように美しい青年に出会ったことはありません。女性陣が呆然としていると、ドン・キホーテが可笑しくなって茶々を入れました。
「安珍の男ぶりには、皆さん参りましたね。どんな女性でも彼にはそうなんですよ。ハッハッハッハッハ」
ドン・キホーテが大笑いしたので、一座はやっと緊張感がほぐれました。安珍は彼女らと初対面だったので自己紹介し、簡単に挨拶したのです。それから皆は若いので話が弾みました。特にドン・キホーテやメフィストフェレス、晶子の口数が多かったのですが、いつの間にか晶子のことが話題の中心になりました。
メフィスト「晶子さんはいま付き合っている人がいるそうですね。さっき、ベアトリーチェさんからそっと聞きましたよ」
晶子「まあ、ベアトリーチェったら、余計なことを言って(笑)。でも、そうなんですよ。私は自由な女ですから、相手の立場などは全然気になりません。はっきり言いましょう。自由恋愛なんです。私の彼とは“内縁”関係で、相手には奥さんがいるんですよ」
ハムレット「えっ、本当ですか・・・驚いたな」
晶子「彼が今のままで良いのか、それとも私を選ぶかは彼の自由です。私も努力しますが、どうなるかは分かりませんね。ホッホッホッホッホ」
ドン・キホーテ「これは驚いた。私も自由に勝手気ままに生きているが、晶子さん、あなたのような女性には会ったことがありませんよ!」
ベアトリーチェ「そうです。本当にこの人には呆れるばかりで、側で見ているとハラハラし通しなんです。私には全く真似ができませんわ」
そんな雑談を交わしていると、奥の方からきちんと着飾った若い女性がゆっくりとした足取りで現われました。そうです。彼女こそ当家の一人娘である清姫です。一座は一瞬、静まり返りました。というのも、清姫の美しさ、麗しさと言ったらありません。1年ぶりに彼女に会う安珍も、ただ呆然として見とれるだけです。
「まあ、きれい!」「素敵だわ」「とても可愛い!」 女性達から感嘆の声が上がりました。 

 清姫は腰を下ろすと、一座の人々に深々と頭を下げて挨拶しました。
「安珍様をはじめ皆様、遠路はるばるよくいらっしゃいました。あいにく、両親は隣り村の知人の家へ数日出かけておりますので、皆様にご挨拶できず失礼いたします。どうぞごゆっくりと休んでいただいて、旅の疲れを癒してほしいと思います」
凜とした彼女の挨拶に、一同は清々しい気分になりました。1年ぶりに清姫に会った安珍は、女性としてのその成長ぶりに目を見張りました。彼女は18歳のはずですが、この1年で見違えるように“女らしく”なっていたのです。もはや、少女ではありません。一人の成熟した女性なのです。
「清姫殿、お世話になりますので、なにとぞ宜しくお願いいたします」
安珍は型どおりの挨拶を済ますと、友人らを次々に紹介しました。気さくなドン・キホーテはすぐに打ち解けた雰囲気になり、清姫に話しかけます。
「清姫殿、いま晶子さんらとざっくばらんに話していたんですよ。私は遠慮がないので、気にしないでください。それにしても、あなたは美しいな~。感心しましたよ、ハッハッハッハ」
ドン・キホーテの“がさつ”な態度に、一座の空気はかえって和みました。こういう男がいると好都合ですね(笑)。清姫は少し顔を赤らめましたが、微笑が口元からこぼれました。
ヒュパティア「まあ、お清ったら恥ずかしそう・・・フッフッフッフ」
ハムレット「えっ、皆さんは“お清”と呼ぶんですか。それは親しみやすいな~」
晶子「そうですよ。私達はみんなそう呼び合います」
メフィストフェレス「へぇ~、ずいぶん馴れ馴れしいな」
ベアトリーチェ「だって、友達同士ですもの」
それから、若い人達の会話が弾みました。皆はすっかり打ち解けた様子で話に夢中になったのです。もっとも、安珍は仲間のおしゃべりを聞き流しながら、清姫のことが気になって仕方がありません。彼女も安珍のことが気になるようです。二人は自然に口数が少なくなり、互いに盗み見しているようでした。

 安珍は清姫の両親が不在なのはおかしいと思いましたが、取り立てて彼女に聞くことはしませんでした。でも、何か理由があるようです。それは2人だけになった時 清姫に聞くことにして、今はみんなの会話を楽しむことにしました。やがて一同の会合が終わると、清姫の計らいで安珍らはそれぞれの居場所に案内されました。
といっても、ドン・キホーテら3人は大部屋に入れられ、安珍だけが中央の客間に案内されたのです。明らかに安珍と他の人たちは区別されたのですが、誰も文句は言いません。3人は安珍の“弟子”という立場ですし、それに彼と清姫の特別な仲をわきまえていたからです。
ヒュパティアら女性陣は明日の再会を楽しみにしながら、それぞれ家路につきました。彼女らも男性陣と存分に語り合って満足したようです。安珍らの一行はここに2泊する予定ですから、明日も十分に“おもてなし”することになっていました。
客間に案内された安珍は使用人から夕食をいただき、一人ゆっくりとくつろぎました。ドン・キホーテらも大部屋で夕食をとりましたが、今夜、清姫が安珍と身の行く末について話し合うことを予想していました。 ハムレットは安珍が仏道に精進するため、彼女との関係を“清算”してほしいと願っていましたが、ドン・キホーテとメフィストフェレスは必ずしもそうではありません。しかし、安珍が何らかの決断を下すべき時期に来ているという点では、3人は一致していたのです。
そんな友人らの心配を知ってか知らずか、安珍も今度こそ自分の考えをはっきりと清姫に伝えたいと思っていました。すると・・・廊下に裳裾(もすそ)の擦れる音が聞こえたのも束の間、清姫が2人の侍女を従えて姿を現わしました。
清姫「お食事の方は済みましたか。田舎料理で失礼いたしました」
安珍「いえいえ、ご馳走にあずかりました」
清姫「お風呂を用意しておりますので、どうぞ湯浴みしてください」
安珍「それは有難い。さっそく使わせてもらいましょう」
清姫「安珍様、よろしかったら湯浴みのあと、私の琴を聞いてくださいますか」
安珍「おお、それは結構ですね。楽しみにしています」

 安珍はそう言うと、湯浴み場へと向かいました。湯浴み場と言っても露天風呂のことで、使用人が薪をくべています。夏の暑さもどこへやら、安珍は風呂にどっぷりと浸かり旅の疲れを癒しました。月の光が優しくほのかに、彼の体を照らします。
湯からあがると、安珍は晴れやかな気分になりました。薄衣(うすぎぬ)に着替えて渡り廊下を歩くと、心も足取りも軽やかになります。清姫の琴を聴くのは初めてなので興味しんしんでした。安珍が部屋に戻るともう侍女の姿はなく、彼女が一人だけで待っていました。
清姫「湯加減はどうでしたか」
安珍「ええ、とても気持が良かったですね」
清姫「それでは、私の琴を聞いてもらいましょう」
安珍はうながされて、上座の席につきました。清姫は夏の着物姿でしたが、どこか涼しげな感じがします。すると、なにか麝香(じゃこう)のような香りが漂ってきました。彼女が発しているのでしょうか・・・ 安珍はうっとりした気分になり、清姫をじっと見据えました。
そこには“女盛り”を迎える一人の美少女がいるのです。ふくよかな頬には、うっすらと微笑みをたたえていました。幸せが彼女を満たしています。清姫はゆっくりと琴を弾きはじめました。美しい音色が辺りに流れましたが、安珍はそれがどんな音楽なのか分かりません。ただ、静かに聴き入るばかりです。
一曲目が終わると、彼は清姫にどんな音楽かと尋ねましたが、その質問は儀礼であって本心から聞いたわけではありません。曲目などはどうでも良いことです。唐(から)の国から伝わった曲だと清姫は説明しましたが、安珍にはどうでも良いことでした。彼はただ清姫のあでやかな姿に見とれ、次々と彼女の琴の調べに酔っていたのです。
こうして夜も深まりました。ドン・キホーテらがいる大部屋の賑わいも、どうやら収まったようです。彼らは寝入ったのでしょうか・・・ しかし、清姫と2人きりでいる安珍は、とても寝ようという気持にはなれません。夜の帳(とばり)につつまれ、ここだけが静かに息づいているようです。


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3 コメント

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続編 (矢嶋武弘)
2013-10-30 06:48:30
琵琶さん、読んで頂いてありがとうございます。
のちほど、お邪魔します。
いま、地元で共産党関係者にお世話になっています。
返信する
●久しぶりに投票を設定してみました。ご意見お聞かせ下さい。 (琵琶玲玖)
2013-10-29 22:58:54
●久しぶりに投票を設定してみました。ご意見お聞かせ下さい。
《問》三年間選挙が無い…。そのうちに好き放題をしようとするのか!自公政権は!!それを絶対に許さないためには !!!(11月3日〆切)
http://blogs.yahoo.co.jp/biwalakesix
《答》
① 少なくとも3年後に予想される、衆参同時選挙では、自公政権を終わらせる。
②再来年2015(平成27年)春実施予定の一斉地方選で、国民主権勢力が圧勝する。
③変化の兆しの見えてきた、首長選、地方議員選で、連戦連勝を続け、自公政権を追い詰める。
④脱原発、反秘密保護法等の一点共闘の力を集中して、早期に国会解散をかちとる。
⑤その他(自公政権の存続を望む方も、こちらに投票してください。)
返信する
続稿を期待いたします。 (琵琶玲玖)
2013-10-29 22:57:39
ついつい、引き入れられました。
返信する

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