おもしろニュース拾遺

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「ヒトラーのように」校長発言謝罪:地元教委

2005-12-24 10:47:34 | 迷言・妄言
 「ヒトラーのように」発言で物議を醸した高校校長について、新潟県の教育委員会が記者会見で謝罪した。新潟日報12月22日

 事の起こりは今年10月26日、新潟県小千谷市にある県立高校の職員会議での校長の発言。この日会議では「授業中に携帯電話をいじったり、スカート丈が極端に短かったりした生徒」への対応を論議していたが、この場で校長が「生徒は、繰り返し指導しなければならない。ヒトラーのようにやればいい」と発言していたことが報道された(朝日新聞)。これに対して県高等学校教職員組合は「ヒトラーを容認する発言だ。人権意識や国際感覚が欠如している」と、発言の撤回と謝罪を求めたという。

 「ヒトラーのように」問題。このセリフで日本近代史のあのエピソードを思い出す人もいたはず。
 1938年の衆議院本会議で、国家総動員体制について賛成の議論に立ったのが社会大衆党西尾末広代議士(戦後「民社党」初代委員長)。
 「日本は未曾有の変革を為さんとしております。 明治天皇の五ヶ条の御誓文の中にも『旧来の陋習を破り、天地の公道に基くべし』と記されております。 近衛首相はこの精神をしっかりと把握されまして、もっと大胆率直に日本の進むべき道はこれであると、 かのヒトラーの如く、ムッソリーニの如く、あるいはスターリンの如く大胆に進むべきであると思うのであります」
と演説したのである。
 内容的には政府の「改革」後押しであるし、ヒトラーやムッソリーニーは当時の日本の政界ではファシストとして英雄視されていたので、主旨は「問題ない」。最後の「スターリンの如く」が余計だった。社会大衆党がいち早く体制化と言うか、ファッショ化のバスに乗ってしまったのを妬む他の野党から、「共産主義の親玉のスターリンを賛美するとは何事か」と攻撃され、結局西尾は懲罰委員会にかけられ国会議員を除名された。

 さてこの校長発言。確かに現在の日本の常識ではヒトラー礼賛は「悪」である。しかし70年前はその正反対。例えば校長が「信長のようにやれ」と発言したらどうだったろう。これはOKだ。なぜなら現在の日本の首相も信長を尊敬しているからだ。しかしこれが延暦寺系の学校の校長ならクビが飛ぶでは済まない騒ぎになる。
 だからここでは「××のように」発言が穏当であるかはとりあえず問題にしない。また生徒たちが教師から学ぶものは、知識よりも教師の生き様なのだ。ヒトラーや信長が何をしたかの知識はすぐに忘れる。しかしどんな先生であったかの記憶は生涯残る。
 政治家も同じだ。「鬼畜米英」。上等じゃないか。それなら占領下でも(今のイラクのように)米軍と命がけで戦ったのかというと、一晩でコロッと変わって「皆さん、アメリカ民主主義を身につけましょう」と、「鬼畜」の命令をご神託扱い。この見事な転向ぶりがどれだけ日本の子供(後に戦後日本を作った)の精神に逆教育効果をもたらしたか。

 この「ヒトラー」校長、当初は「ヒトラーの例えは使ったが、『繰り返し繰り返し指導すれば、生徒は分かる』という趣旨。発言には何ら恥じる部分はなく、撤回する考えはない」(時事)と強気だった。また別のBlog情報では、この校長今年7月別の機会に「特攻隊のほうが君たちより幸せだったのかも知れない」と生徒の前で語っているという。まあそういうイデオロギーの持ち主ということだ。それならそれで堂々と「ヒトラーのごとく」演説を続けるのが教育者というものだ。
 ところがこの日の教育委員会の記者会見には当人は現れなかった。「冬休み前の最後の登校日でもあり、同席の必要はないと判断した」と教育委員会の説明(上記新潟日報)。「ぼくちゃんをかくまってください」と校長が教委に泣きついたことは明らかだ。

 教委によるとこの校長はこの問題で「全校生徒に謝罪」したという。何をどう謝ったのか不明だが、動機が自己保身であることは明らかだ。一連の発言は自己の信念でなく、右傾化という時流に単に乗っかっただけということか。「ヒトラーのごとく」勇猛に振る舞い、「特攻隊のように」命を捨てよと大声で弁じた校長が、自分の地位が危ういと感じるや泣き虫の子供のように振る舞う。このダブルスタンダードこそ、日本の教育不信の最大の原因なのだが、追求はヒトラー礼賛の是非というイデオロギー問題になっている。しかし周りの反応に応じてコロコロ言うことを変える人物と、「歴史認識」の議論などそもそも不可能だ。

教育とは信念を見せることではないのか。たとえそれが自分に不利であると承知でも、信念のために闘う姿を子供達に見せること。右であれ左であれ、その姿が人間への信頼を育てるのでないのか。と今日は熱血教育論で締めくくらせていただきます。