おもしろニュース拾遺

 BC級ニュースが織り成す可笑しくも愛しい『人間喜劇』。おもしろうてやがて悲しき・・・

従業員「全員参加」の着服:JR西子会社

2005-12-15 10:11:25 | 詐欺
 
(写真はトワイライトエクスプレスのサロンカー)

 ほぼ満席に近い列車の中で人が殺された。当然目撃者は多いはずだが、乗客の誰一人としていかなる異常にも気付かなかった。この謎を解け、という推理小説があった。答えはバカバカしいもので、乗客みんながグルだった。
 ご存じのように、こういう「全員参加」型の犯罪はミステリーでは禁じ手。犯人は幽霊でした、というのがトリックにならないように、全員が犯人では推理の醍醐味はない。

 しかし仮構の世界ではバカバカしすぎて相手にされないような犯罪が、現実世界ではいとも当然のように行われる。よくあるカラ出張で資金捻出や、最近次々と明るみに出る警察の「裏金」疑惑などもそうだが、組織ぐるみの犯罪だ。「和をもって貴しとなす」日本社会ではこういう「全員参加」型の犯罪が可能である。一人の「抜け忍」、つまり告発があっても崩壊するのだからある意味想像を絶する悪の帝国だ。

 それにしても昨日公表されたJR西日本子会社の着服事件は、その規模と年月の長さで、日本型犯罪に不感症になっている人をも驚かすものだ。期間は17年間、「犯人」は従業員34人全員、のべ人数(退職者含む)では100人を超えるという。金田一少年張りに容疑者を一堂に会して、「犯人はあなた・・」と名指ししていくと番組が終わらない。と言うか、ほとんど犯人大集会になってしまうほどの規模だ。

 事件を一言で言うと、寝台特急「トワイライトエクスプレス」の車内で販売するコーヒーの代金を、同社の子会社「ジェイアール西日本フードサービスネット」の社員が常習的に着服していた(共同)。具体的な手口は、「乗客が夜景などを見ながら自由にくつろぐ4号車の「サロンカー」では、隣の食堂車の従業員がコーヒー(1杯420円)の注文を受けている。この際、売上伝票を発行せず、受け取った代金をそのまま着服、チーフパーサーが管理、分配していた。」(毎日新聞)。
 よくあるワンマンカーの運転手が料金を直接受け取ってポケットに入れてしまうという、あの「コツコツ」着服だ。しかし塵も積もればで、「稼ぎ」は一人年間36000円程度、トータルでは1400万円超という。

たった一人の”抜け忍”が「”和”の犯罪」を崩壊させる

 この犯罪は1989年のトワイライトエクスプレス運行開始直後から行われていた。「全員参加」だから「参加者」には犯罪の意識はなかった、と言うより「それは犯罪じゃない?」と異議を唱える者こそ”犯罪者”とされるのだ。
 よく独裁国家の官製選挙で大統領の「信任」投票で99%の支持などと公表される。しかしこの日本社会型「和」の犯罪では、100%でなければ崩壊だ。日本社会の「和」は、「99%」では失敗という完璧な「独裁」を意味しているのだ。

 今回の発覚は「今月9日、従業員からの内部告発で表面化」(毎日)という。百数十名の中からたった一人の「カムイ」、”抜け忍”が17年の不正を経て登場したということだ。「内部告発」は日本語では辞書の中だけで存在する言葉なのか。