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最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

『かぞくのくに』-”在日”と近くて遠い国との関係の物語

2012-08-26 13:05:37 | 最近見た映画

       【2012年8月12日】 京都シネマ


 原作者であり、この映画の監督であるヤン・ヨンヒは大阪生まれの在日コリアン2世である。実の兄2人を、北朝鮮の『帰国政策』で北鮮に送られ、兄弟離れ離れになるという実話が今回の映画の下地となっている。


 ストーリーは、《帰国事業》で《総連》の幹部である父親に従い、兄弟の中でひとり北朝鮮に渡った兄が25年ぶりに日本に帰ってくることになった。病気の治療目的のたった3ヶ月の帰国である。日本に残っている父と妹、それにかつての同級生が歓迎するが、当人は感情を表に表さず言葉も少ない。
 ある日、滞在予定を繰り上げ、急遽帰国するよう本国から指令が入る。


        
                                                        



 朝鮮半島と日本とは、近くでありながら、複雑で深くややこしい問題を抱えた歴史を持っている。

 以前私の住んでいた横浜や京都・大阪では、『在日』は身近な存在なのに、無頓着であった。
 小学生のころ、1クラス50人以上であったが、その中から年に1人かふたり、はにかみながら教壇に並び、先生に「このたび《祖国》に帰るのだ」と紹介されて、教室を去っていった姿を今でも思い出す。いずれも、街の外れの朝鮮人が寄り添って生活する貧しい地域の子供もだったが、クラス仲間と別れる時、ちょっとさびしそうな表情の中に新しい地での生活への期待からか、笑みがこぼれていたのが印象的だった。


日韓併合』から始まる、そもそもの始まりから『創氏改名』の経緯も『強制連行』も話も当時は知るべくもなく、同じ日本に住んで生活していながら、どうして彼らだけが特別貧しいのか不思議でならなかった。

 大学に進み、京都に来てから『朝総連』などの団体の存在を知った。在日朝鮮人2世であろうか、その学生組織等あって、学生の自治会活動に『金日成』の主体思想(チュチェ思想)を持ち込もうと躍起になっていた。当時金日成全盛で、まだ北朝鮮にも勢いがあった。

 後で知ったことによると、『帰国事業』(帰還事業-大韓民国側の『民団』からは『北送事業』と呼ばれたいたようだ)は、1959年の12月に新潟から最初の帰国船は出港してから1984年まで続いたという事だ。

 行先は南の韓国ではなく北朝鮮で、この映画のモデルになったケースのように、多くの南の出身者も済州島の出身者も北に《帰還》したから話がややこしい。朝鮮が1つという前提ならありうることだが、北朝鮮が社会主義国家の優位性を示す事業として展開したから、南からの反発も強かったようだ。

 当初、南も今の様なひらかれた国でなく、軍事独裁政権が牛耳っていた《恐ろしい国》だった。北朝鮮は一貫して良く分からない国だが、韓国もある時期まで独裁政治が支配する自由の全くない国だったし、反日感情も根強く、ついこの間まで、「歌謡曲」から「映画」まで日本の大衆文化は全面禁止だった。
 だから、《北に帰る》という事は《差別の横行する日本にとどまる》よりずっと《明るい未来が映る希望の国に行ける》という期待があったのかもしれない。
 この物語の父親のように《新しい理想に燃える、生活に困らない社会主義の国》北朝鮮は、少なくとも最初は、日本で虐げられ差別されている『在日』にとって、より魅力的な《希望の国》に映ったに違いない。しかし、途中から状況が変わってくるとは、はじめ思ってもいなかったかもしれない。


 

                   

 スクリーンに『息もできない』のヤン・イクチュンも出ていたが、言われなければわからない程、別人のようだった。



 イタリアやフランス等のヨーロッパの映画を見ていると、《難民》とか《不法移民》とかのテーマが頻繁に登場し、日本と比べそれぞれの国民の対応も慣れているというかおおらかに感じられる一方、日本では《外国籍の人の問題》とは係わることの少ない、遠いよその国の問題であるという風に思いがちであったが、この映画で、そうではないとという事を改めて思い知らされた。


 韓国・朝鮮は日本に最も近い国でありながら、最も分かりにくい国の一つである







   『帰国事業』(帰還事業)の関連ページ

   『かぞくのくに』-公式サイト



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