判例百選・重判ナビ

百選重判掲載判例へのリンク・答案例等

日本アイ・ビー・エム(組合員資格)事件 東京高判平成17年2月24日 全文2/2

2012年03月31日 | 労働百選

第3 当裁判所の判断
1 X1ら3 名の利益代表者性について
X1 ら3 名はいずれも労働組合法2 条ただし書1 号の利益代表者に該当しないというべ
きである。その理由は,原判決事実及び理由の「第3 争点に対する判断」の1 項に記載の
とおりであるから,これを引用する(ただし,原判決25 頁2 行目の「X1 は,」を「X2 は,」
に改める。)。
参加人は,仮にX1 ら3 名がこれまでかかる地位に基づいて,現実にライン専門職の人
事権行使を助言等したり,人事上の機密事項に接したことがなかったとしても,それはX1
ら3 名が置かれている地位を否定するものではない旨主張する。しかし,X1 ら3 名が現
実にライン専門職の人事権行使を助言等したり,人事上の機密事項に接したことがなかっ
たというだけでなく,参加人においては,X1 ら3 名が置かれているスタッフ専門職とし
ての地位そのものが,直接には人事評価を行ったり,人事情報等に接することができない
ものであり,X1 ら3 名が使用者の利益を代表する者に該当するということはできない。
- 9 -
2 本件条項の効力について
(1)当裁判所が認定した事実は,次のとおり付加訂正するほか,原判決事実及び理由の「第3
争点に対する判断」の2 項(1)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ア原判決29 頁10 行目の末尾に「当時被控訴人支部の中央執行委員は全員一般職であっ
た。」を加え,同頁11 行目の「(乙1 の1 ないし3)」を「(乙1 の1 ないし3,乙227)」
に改める。
イ同30 頁17 行目及び18 行目を「参加人が明らかにした参加人の社員についてのデー
タによって,昭和57 年12 月当時と平成4 年12 月当時を比較すると,全社員数は1 万3327
人から2 万5032 人へ約1.8 倍に,一般職・主任の数は1 万0497 人から1 万8479 人へ約
1.7 倍に,ライン専門職の数は1481 人から3001 人へ約2.0 倍に,全社員数に占めるライ
ン専門職の割合は11.1%から12.0%へ0.9%増に,専任以上のスタッフ専門職の数は1349
人から3552 人へ約2.6 倍に,全社員数に占める専任以上のスタッフ専門職の割合は10.1%
から14.2%へ4.1%増になっている(丙4)。(ライン専門職やスタッフ専門職の各階層毎の
内訳を明らかにする証拠は提出されていない。)」に改める。
ウ同36 頁21 行目の末尾に「そして,X3 が,ストライキに招集されておらず通常勤務
の予定である旨答えたところ,Y3 はそれ以上の言動をしなかった。」を加える。
(2)本件条項の法的性質について
ア本件確認書(原判決別紙5)(省略)は,使用者である参加人と労働組合である被控訴
人支部が労働条件その他に関して合意し,書面を作成して署名押印したものであるから,
労組法14 条の労働協約に該当する。また,その有効期間についての定めはされていない。
そして,前記認定の事実(原判決引用)によれば,本件確認書は,参加人が導入した新人事
制度の下で,中労委和解成立以降の労使関係の安定化を図るために,協議の結果合意に至
った事項を確認したものということができる。
イ本件条項は,「ライン専門職および専任×××部員以上のスタッフ専門職は非組合員
とする。」と定め,1 項全体からみてもその適用範囲について特別の限定はされておらず,
また,前記認定(原判決引用)の本件条項が設けられた経緯からみても,単に労働協約の適
用を受けるべき人的範囲を画したものと解することはできず,非組合員の範囲そのものに
ついて労使が合意したものというべきである。
ウところで,使用者の利益代表者の範囲は,企業の規模や組織,その中の特定の地位に
ある者の職務権限等によって千差万別であるから,各企業の実態を離れて一律,一義的に
これを定めることは困難である。したがって,各企業において,各企業の実態に即して労
使が労働協約をもって組合員となる資格を有しない使用者の利益代表者の範囲を具体的に
合意することは,組合員となる資格を有しない者の範囲をめぐる労使間の紛争を防止する
ものであり,意味のあることといえる。労働組合はその自主的判断に基づき組合員の範囲
を決定することができるのであるから,その判断に基づいで使用者との間で労働協約をも
って非組合員の範囲を定めることは,何ら妨げられるものではない。また,使用者にとっ
ても,非組合員の範囲は人事制度や労務管理にかかわることであり,これを定めるについ
て一定の利益を有していることは否定できない。
したがって,非組合員の範囲について労働協約が結結された以上,労使の合意として効
力を有するものである。
- 10 -
しかし,使用者の利益代表者の範囲は,現実にはその判別が困難を伴うとしても,各企
業の実態に即して客観的に定まるものであって,労使の合意によって左右されるものでは
ない。しかも,組合員となる資格を有しない者の範囲の裏返しである組合員となる資格を
有する者の範囲は,本来,組合の自主的判断に委ねられるべきものであり,しかも,非組
合員の範囲を広いものとするか狭いものとするかは,組合員となり得る者の多少,組合員
のままで昇進したり就くことのできる職種の範囲に直接関係し,組合活動に及ぼす影響は
大きいものである。労働協約中の非組合員の範囲を定める条項の効力を考えるに当たって
は,このような事情は充分考慮すべきである。
(3)本件一部解約の効力
ア使用者と組合との間で,いったん労働協約が締結された場合であっても,労働協約の
解約の要件(労組法15 条3 項前段,4 項)を満たす場合には,一方当事者において,これ
を有効に解約をすることができる。
ところで,本件確認書の1 項は組合員の範囲に関するもの,2 項,及び3 項は組合員の
就業時間中の組合活動に関するもの,4 項は組合員の昇進問題の解決方法に関するもので
あり,一つの労働協約において複数の事項が協定されている。このような場合,各合意事
項は相互に関連を有し,又はある事項についての一方の譲歩と他の事項についての他方の
譲歩により全体の合意が成立するなど,労働協約全体が一体をなすものとして成立するの
が通例であるから,一方当事者が自己に不利な一部の条項のみを取り出して解約すること
は原則として許されないと解すべきである。ただ,その条項の労働協約の中での独立性の
程度,その条項が定める事項の性質をも考慮したとき,契約締結後の予期せぬ事情変更に
よりその条項を維持することができなくなり,又はこれを維持させることが客観的に著し
く妥当性を欠くに至っているか否か,その合意解約のための十分な交渉を経たが相手方の
同意が得られず,しかも協約全体の解約よりも労使関係上穏当な手段であるか否かを総合
的に考え合わせて,例外的に協約の一部の解約が許される場合があるとするのが相当であ
る。
イこれを本件について見ると,次のとおりである。
本件確認書は,全体としては,新人事制度下において中労委和解成立以降の労使関係の
安定化を図るために,協議の結果合意に至った事項を確認するものであるところ,1 項イ
と2 項は,スタッフ専門職である主任に組合員資格があることを確認した上で,その就業
時間内組合活動について一定の枠組みを定めるものであるから,相互に関連性を有するも
のである。
そして,ライン専門職および専任以上のスタッフ専門職を非組合員とする1 項ロの条項
(本件条項)は,組合員となり得る者の範囲を画するという点では同項イと関連性を有する
ものの,その部分のみの効力が失われ,協定が存在しない状態となっても,1 項イ及び2
項の効力に直接影響を及ぼすものではないから,独立性を有する条項と認めることができ
る。また,3 項及び4 項は,本件条項と直接関連するものではない。
もっとも,本件条項を含む本件確認書は,昭和57 年12 月に,それまで被控訴人支部等
と参加人との間で争われてきた複数の不当労働行為救済命令申立事件を全面的に解決する
ものとして成立した中労委和解,この和解成立と同日に被控訴人支部等と参加人との間で
作成された覚書と同日付けで作成されたものであり,覚書の3 項で「組合員の範囲および
- 11 -
中央執行委員の就業時間中の組合活動に関する取扱い等については,会社,組合で別途協
議するものとする。」と定めたのを受けたものである。そして,覚書は,中労委和解で,
参加人は組合員38 名の内一定の人員を一定期間内に専門職への昇進の措置をとるものと
するとされたのを受けて,その職位を主任×××部員とすることなどの具体的措置や実施
の時期を具体的に定めた1 項,専門職に昇進した者の職務に臨む態度について定めた2 項,
前記3 項,中労委和解で参加人が被控訴人支部に支払うものとされた解決金金一封の金額
を具体的に定めると共に,関係者はその金額を公表しないことを定めた4 項からなってい
る。これらの事実によれば,本件確認書は,中労委和解及び覚書の内容と実質的に関連し
ていることは明らかであり,本件条項を含む本件確認書が合意に至ることを前提として,
参加人が一定数の組合員の専門職への昇進や解決金支払の合意に応ずる関係にあったもの
と推認される。
他方,本件確認書が締結された後約10 年を経る間,参加人が導入した組織機構再編成
によりライン専門職のポストが減少し,その反面として,必ずしもそのすべてが労組法2
条ただし書1 号の利益代表者に該当するとは認められない専任以上のスタッフ専門職はそ
の実数でも全社員に対する比率でも大きく増加しており,これは同時に,ファーストライ
ンに所属する専任の増加,ひいてはその現実の職責において主任と大差のない専任の増加
を容易に推認させるものである。そのような状況下においては,組合員資格を一般職及び
スタッフ専門職のうちの主任のみにとどめることの妥当性,合理性は一層低下している。
また,被控訴人支部においては,この間,組合員の半数近くが主任に昇進しており,本件
条項を前提とすると,これらの者が専任に昇進すると組合員資格を失うこととなる。これ
を被控訴人支部の側から見れば,組合員が被控訴人支部にとどまる限り,専任及びこれと
対応関係にある職群III への昇進ないし昇格は断念せざるを得ず,当然これに伴う労働条
件の向上も果たせないこととなって,労働組合としての組織維持に影響を及ぼしかねない
事態といえる。このような事態は,本件確認書締結の時点で,被控訴人支部としてもある
程度は予測可能であり,組織維持は一般職からの加入により果たすべきものともいえ,い
わゆる事情変更とは異なる側面を有する。しかし,先に述べたとおり,組合員の範囲をど
のように定めるかという問題について使用者側にも一定の利益はあるとはいえ,本来労働
組合が自主的に定めるべきものであること,加えて,本件条項を含む本件確認書の協定に
より,労使関係の安定という労使双方の意図は約10 年にわたって一応実現されたと考え
られること,以上を勘案すれば,本件確認書締結後,約10 年を経過してもなお,被控訴
人支部が本件条項を解約することを認めないとするのは,著しく妥当性を欠くといわなけ
ればならない。
さらに,本件一部解約に至る経緯をみると,前記引用の原判決事実及び理由の「第3 争
点に対する判断」の2 項(1)エに認定したとおり,被控訴人が平成3 年7 月以降本件条項
の見直しを求めて参加人に協議を申し入れたのに対し,参加人は,表現に多少の違いはあ
るにせよ,一貫して見直しはあり得ないとの態度を取っており,本件一部解約の前後を通
じて,実質的な協議に応じていないこと,被控訴人支部は,そのような状況下のままいた
ずらに時間が経過するという事態を打開するため,やむなく本件一部解約の予告に至った
ことが認められる。なるほど,本件確認書3 項の一般職組合員の時間内組合活動の正常化
問題に対する被控訴人支部の対応は,必ずしも誠実であったとはいえないが,前記認定の
- 12 -
経過をみると,被控訴人支部が年間300 時間という対案を提案したこともあり,参加人の
提案する年間200 時間との間に隔たりがあったとはいえ,被控訴人支部としても並行して
この問題を協議することを拒否していたわけではなく,本件条項に関する協議が進まなか
った理由は,主として参加人側の強硬な態度にあったことは否めない。
また,労使関係に与える影響を考えれば,本件条項のみを白紙に戻す一部解約が協約全
体の解約より穏当な手段といえる。
ウ以上,イで摘記した事実関係に基づいて総合的に勘案すれば,本件確認書がその成立
の経緯からすると中労委和解や覚書と密接に関連するものであり,参加入が中労委和解及
び覚書で自らが行うべきものとされた事項を全て履行したことを考慮しても,なお,本件
一部解約が信義に反し,あるいは権利の濫用にあたるということはできず,本件条項は,
本件一部解約予告から90 日を経過した平成4 年8 月25 日に有効に解約されたというべき
である。
3 参加人の不当労働行為について
(1)労組法7 条3 号にいう支配介入の不当労働行為が成立するためには,使用者側に主観
的要件すなわち不当労働行為意思が存することを要するというべきであるが,この不当労
働行為意思とは,直接に組合弱体化ないし具体的反組合的行為に向けられた積極的意図で
あることを要せず,その行為が客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じ,又は生
じるおそれがあることの認識,認容があれば足りると解すべきである。そして,不当労働
行為に該当するか否かは,その行為自体の内容,程度,時期のみではなく,問題となる行
為が発生する前後の労使関係の実情,使用者,行為者,組合,労働者の認識等を総合して
判断すべきものである。
(2)本件行為②は,被控訴人支部の藤沢分会が,平成8 年7 月18 日付け書面でX1 を含む12
名の同分会役員就任を通知したところ,同日,参加人が藤沢分会に対し,藤沢事業所のY1
所長名で,X1 は専任部員であるため本件条項に基づき組合員資格がなく,分会執行委員
就任はあり得ないため「同氏の執行委員就任を直ちに撤回し,名簿を訂正することを求め
ます。」と記載した文書を発したものであり,前年7 月にも藤沢分会と参加人との間で同
様のやりとりがされたほか,X1 が組合役員として記載されている役員名簿の受領を拒否
し,X1 の上司が藤沢分会とX1 に対し,今後組合活動を行った場合は私的な職務外行為
とみなす旨強く注意するというような経緯の中で行われたものである。Y1 所長が本件行
為②の行為を行ったのは参加人の,本件確認書が締結された経緯に照らし本件条項のみの
一部解約は許されないとの従来からの見解に基づくものであることは藤沢分会やX1 にと
っても明らかであったものであり,本件条項の一部解約を主張する被控訴人支部とこれを
否定する参加人の意見が鋭く対立していた状況の中では,本件行為②は,本件条項の一部
解約を否定する参加人の意見を敷衍したにすぎないものと見ることができる。
また,本件行為③は,X2 の上司であったY2 が,X2 が関連会社であるGBS の非常勤
監査役の辞任を申し出ると共に被控訴人支部に加入したことを伝える書簡を同社の社長に
出したので,平成8 年1 月30 日付けの文書でX2 に対し辞任届の撤回を求めたが,この
文書には,非常勤監査役の職務をY2 に事前の相談なく独断で退任する手続を行うことは
重大な業務命令違反に該当するので,事の重大性を十分認識して対処すべきであるとした
上,職群Ⅱの上級管理者であるX2 は組合員にはなリ得ず,X2 が「使用者の利益を代表
- 13 -
する上級管理者としての職務と責任に反するような活動を行った場合は,相応の処分を行
わざるを得ない。」旨の記載があったことと,X3 の被控訴人支部加入を知ったX3 の上司
であるY3 が,平成8 年2 月16 日,X3 に対し当日午後予定されていた被控訴人支部によ
るストライキへの参加の有無を尋ねた上,「管理職であるあなたには組合員の資格がな
い。」,「ストライキに参加すれば処分の対象になり得る。」などと口頭で通告したことで
ある。このうち,Y2 のX2 宛の文書は,GBS の非常勤監査役の辞任届の撤回を求めると
共に,上司に相談なく関連会社の非常勤監査役を退任する手続をしたことは重大な業務命
令違反であると警告することに重点があり,X2 には組合員資格がない旨や組合活動を指
すと解される「使用者の利益を代表する上級管理者としての職務と責任に反するような活
動」を行つた場合は,相応の処分を行わざるを得ない旨記載したのは,非常勤監査役の辞
任を申し出たX2 の書簡に被控訴人支部に加入した旨の記載があったことから,本件条項
に基づく組合員資格についての参加人の認識を表明したものと解され,Y3 のX3 に対す
る口頭の通告も,X3 がストライキに招集されていないことを答えるとY3 はそれ以上の
言動をしていないことからすれば,本件条項に基づく組合員資格についての参加人の認識
を表明したものと解され,本件行為③はいずれも,本件条項の一部解約を主張する被控訴
人支部とこれを否定する参加人の意見が鋭く対立していた状況の中で,本件条項の一部解
約を否定する参加人の意見を敷衍したにすぎないものと見るのが相当である。
そして,前記のとおり,当裁判所は本件一部解約は有効であると判断するもので,客観
的には本件条項は,本件一部解約から90 日を経過した平成4 年8 月25 日には効力を失っ
たのであるが,中労委和解に基づき覚書と本件条項を含む本件確認書が締結されるに至っ
た経緯,中労委和解及び覚書の内容と本件確認書は実質的に関連しており,本件条項を含
む本件確認書が合意に至ることを前提として,参加人が一定数の組合員の専門職への昇進
や解決金支払いの合意に応ずる関係にあったこと,参加人は,中労委和解や覚書で自らが
行うべきものとされた事項は全て履行しているのに,被控訴人支部は本件確認書3 項に定
められた一般職の組合員が中央執行委員として就業時間中組合活動する場合の取り扱いに
ついての協議に誠実に応じていないと感じている上に,被控訴人支部が本件条項のみの一
部解約を主張するのは不公正であると考えていたこと,労働協約の一部である組合員の範
囲を限定する条項のみの解約が認められるか否か,認められるとするとその要件は何かに
ついては最高裁判所の判例もなく,通説というまでの地位を占める学説もなかった状況の
下では,法律専門家にとっても,本件条項のみの一部解約が有効とされるかどうかの判断
は微妙であることを考えると,本件行為②,③の当時,参加人が本件条項の一部解約は認
められないと考えるのも無理からぬ事情があったというべきであるから,本件行為②,③
の当時,参加人が本件条項が有効で,専任以上のスタッフ専門職には組合員資格がないと
考えその自己の考えを意見を表明したり敷衍して説明したりすることを支配介入による不
当労働行為意思の表れと見るのは相当でない。
以上を総合すれば,本件行為②,③を支配介入による不当労働行為と認めるのは相当で
ない。
(3)次に本件行為①について検討する。
チェックオフは参加人による被控訴人支部に対する便宜供与であるところ,参加人と被
控訴人支部との間にチェックオフ協定が存していることが窺われものの,その内容,効力
- 14 -
を明らかにする証拠はなく,被控訴人支部の組合員についてチェックオフが参加人におい
てどのような取扱いがされていたかはこれを認定するに足りる十分な証拠がない。本件行
為①は,X1 ら3 名についてこれまで実施していたチェックオフを中止したものではなく,
X1 ら3 名についてそれぞれ新たにチェックオフを開始することを求める申請を,X1 ら3
名はいずれも組合員ではないとして,拒否したものである。ところで,当時の被控訴人支
部の組合員約150 名中約20 名についてはチェックオフが実施されずに被控訴人支部が直
接組合費を徴収していたことが認められ,組合員であることとチェックオフ実施の関係は
明確でないのみか,X1 ら3 名について新たにチェックオフを開始することを拒否するこ
とが,被控訴人支部の活動に及ぼす悪影響はほとんどないものと推認される。このような,
被控訴人支部と参加人との間のチェックオフの実情に,前記のとおり本件条項のみの解約
は許されないと参加人が考えるのも無理からぬ事情があり,参加人がX1 ら3 名が組合員
であることに疑義を抱いていたことにはそれなりの理由があることをあわせ考えると,参
加人がX1 ら3 名にチェックオフという便宜供与を拒んだからといって,これが支配介入
による不当労働行為に該当するということはできないというべきである。
4 結論
以上のとおり本件各行為はいずれも不当労働行為である支配介入に当たらないから,本
件各行為について不当労働行為の救済を求める請求を棄却した控訴人の本件命令は正当で
あり,本件命令を取り消した原判決は誤りであるので,原判決を取り消し,本件請求をい
ずれも棄却することととして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14 民事部


日本アイ・ビー・エム(組合員資格)事件 東京高判平成17年2月24日 全文1/2

2012年03月31日 | 労働百選

平成17 年2 月24 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成15 年(行コ)第275 号不当労働行為救済命令取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判
所平成13 年(行ウ)第229 号)
平成16 年7 月8 日口頭弁論終結
判決
控訴人東京都労働委員会
披控訴人全日本金属情報機器労働組合
披控訴人全日本金属情報機器労働組合東京地方本部
披控訴人全日本金属情報機器労働組合日本アイビーエム支部
控訴人参加人日本アイ・ビー・エム株式会社
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は, 第1, 2 審とも被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
主文と同じ。
2 被控訴人ら
本件控訴を棄却する。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
控訴人参加人日本アイ・ビー・エム株式会社(以下「参加人」という。)は,従業員であ
るX1,X2 及びX3 の3 名(以下「X1 ら3 名」といい,各人については姓のみで表示する。)
が被控訴人全日本金属情報機器労働組合日本アイビーエム支部(以下「被控訴人支部」と
いう。)に加入したのに対し,同人らの組合員資格を認めず,①同支部が申請したX1 ら3
名の組合費のチェックオフを拒否し,② X1 の分会執行委員就任の撤回と役員名簿の訂正
を求め,③ X2 に対し「上級管理職としての職務と責任に反するような活動を行った場合
は相応の処分を行う。」と通告し,X3 に対し,「ストライキに参加すると処分の対象とな
りうる。」と口頭で通告した。被控訴人らは,参加人のこれらの行為が不当労働行為に当
たるとして,X1 ら3 名とともに控訴人に救済を申し立てた(以下「本件救済申立て」とい
う。)ところ,控訴人は,上記各行為はいずれも不当労働行為には当たらないとして申立
てを棄却する命令(以下「本件命令」という。)を発した。本件は,被控訴人らが本件命令
の取消しを求めた事案である。
原審は,参加人の上記各行為が不当労働行為にあたると判断して本件命令を取り消し,
請求を認容した。
- 2 -
このため控訴人が控訴をした。
2 本件における前提となる事実,争点及び争点に関する当事者の主張の骨子は,原判決
事実及び理由の「第2 事案の概要」の1 ないし3 項に記載のとおりであるから,これを引
用する。
3 当審における当事者の主張
(控訴人)
(1)本件条項の解約の効力について
ア期間の定めのない労働協約は,労働組合法15 条所定の手続を経ることによって解約
することができるが,労働協約は集団的及び継続的労使関係を規律する特性を有する約定
であるから,恣意的で労使関係を損なう解約には,権利濫用の問題が生じ得る。また,労
働協約は通常は一体的な契約であるから,当事者は自己に不利な部分のみを解約すること
は許されず,学説上一部解約は特別の事情がない限り否定的に考えられている。
イ本件では一部解約のための前提条件を満たしていないと思われる。
(ア)スタッフ専門職の増加というような事態は,本件確認書締結の時点で,被控訴人支部
としてもある程度予測可能であり,組織維持は一般職からの加入により果たすべきものと
もいえ,いわゆる事情変更とは異なる側面を有しており,特別の事情としての事情変更は
認められない。
また,一般職の組合員の組合活動(本件確認書3 項)については未解決のままであるから,
労使関係の安定という意図が実現されたとは考えられない。
このような状況下においては,被控訴人支部の受ける不利益のみを過大に考慮すべきで
はなく,被控訴人支部が本件条項に拘束されることが労組法の趣旨に反し,著しく妥当性
を欠くということにはならない。
(イ)合意解約のための十分な交渉を行ったかについては,被控訴人らと参加人は相互に利
害が相反する問題を抱えている状況下で,相互に自己に不利な事項について消極的に対応
していたのであって,本件条項に関する協議が進まなかった理由は主として参加人の強硬
な態度にあったと断じるのは一方的に過ぎ,合理性を欠いている。
(ウ)本件条項の独立性についても,そもそも本件確認書は,組合員の職位と就業時間内組
合活動時間とが連動する構成を採っており,スタッフ専門職である主任と一般職の就業時
間内組合活動時間が異なり,専任以上であれば,更に異なる就業時間内組合活動が合意さ
れることも考えられる。本件条項の一部解約を認めると,本件確認書は全体として当初の
確認書の意義が消減してしまうことになりかねない。本件確認書における組合員資格と就
業時間内組合活動時間との関係は,密接に関連している。
(エ)以上のとおり,期間の定めのない労働協約の一部解約は原則的に許されず,事情変更
等の特別の事情の存する場合に限って許されることに鑑みれば,本件確認書の本件条項の
解約には,事情変更その他特別の事情が存在するとはいえず,有効に解約されたとはいえ
ない。
(2)本件不当労働行為の成否について
ア不当労働行為制度上,不当労働行為意思の存否は,不当労働行為と目される当該行為
が発生する前後の事情を勘案して推認されるべきである。参加人が参加人の見解を主張す
ることが許されないわけではなく,不当労働行為意思を推認する事実にあたるか否かは,
- 3 -
その行為の内容,程度,時期などを考慮して総合的に判断する必要がある。不当労働行為
意思を基礎づける事実を吟味せず,本件各行為それ自体の存在が客観的に反組合的な行為
であると断定し,かつ,それのみで不当労働行為意思を認定するのは,誤っている。
イ控訴人は,本件命令において,本件各行為が発生した前後の労使関係の実情に即した
判断を行った。
すなわち,本件命令において,チェックオフ問題については,参加人が本件確認書につ
いて被控訴人支部の組織範囲ないし組合加入資格を定めたものと解して,チェックオフと
いう労使の合意に基づく便宜許与を拒んだとしても,本件労使関係上,公正さを欠いてい
るとまではいえない。また,参加人は,「部分解約」通告の効力を疑問視して,本件確認
書は1 項ロを含めて存続しており,X1 ら3 名のチェックオフ申請は,本件確認書に基づ
いてその取扱いを定めるべきであると主張しているのであるから,参加人がチェックオフ
申請に応じなかったとしても無理からぬものがある。また,他の本件各行為については,
参加人には不適切な対応も認められるが,チェックオフの判断と同様,本件確認書の一部
解約については双方の解釈に争いがあり,互いに自己の主張を維持し,正当であると主張
して,相手方を非難する態度を繰り返していた状況,及び上司の言動,文書の内容・程度
等を考察の上,参加人がX1 や同人の所属する分会に対し自己の見解を表明したことをも
って,直ちに被控訴人支部に対する支配介入にあたるとまではいえないと判断した。この
控訴人の判断に誤りはない。
前記のとおり,本件条項の解約は有効に成立したとはいえず,かつ,本件確認書の成立
は,中労委において労使の交渉や相互の譲歩の結果の和解と密接に関連するものであった。
また,本件条項の解約の前後,本件確認書に関して被控訴人支部と参加人との間では,本
件条項と一般職の就業時間内組合活動の問題で,相互に自己に不利となり得る懸案を抱え,
自己の主張を維持するため相手方を非難し合う状況にあった。上述の労使関係事情を考慮
すれば,不当労働行為が成立するとはいえない。
ウ仮に,本件条項の解約が有効と認められ得るとしても,本件確認書をめぐる被控訴人
らと参加人との労使関係の実情について,本件各行為が発生した前後においても,現実に
は被控訴人支部の一部解約の効力について,労使の見解が鋭く対立していた状況にあった。
したがって,本件支配介入の成否の判断は,支配介入の該当性を考慮するにあたって,本
件各行為の内容や程度,その時期などに加えて,本件条項の解約の法的な解釈の帰結は斟
酌されるとしても,上記の見解が鋭く対立していた状況を考慮して判断するのは当然であ
る。
本件条項の解約が私法上適法になされたか否か,また,その結果いかなる法的効果が生
ずるのかの問題にこだわり,当該労使関係の公正な形成維持を図るべく設けられた不当労
働行為制度の趣旨に反して,当該行為の外形や表面的,抽象的に観察するに止まり,本件
条項の解約が労使関係上不公正な形でなされたことを見落とし,その結果,不当労働行為
が成立すると判断するのは,当該労使関係の実情に配慮を欠くものである。
(参加人)
(1)本件条項の効力について
ア独立性の有無
(ア)専門職(主任×××部員以上)の組合員資格については,労使で見解を異にしているな
- 4 -
かにあって,被控訴人支部は,主任×××部員への昇進と解決金の獲得を最大の眼目とし
て,ライン専門職及び専任以上のスタッフ専門職は非組合員とすることに合意し,他方,
参加人は,組合員と非組合員の線引きについて労使合意することやそれまでの無秩序な中
央執行委員の時間内労働組合活動を一定程度是正(主任×××部員の中央執行委員の時間
内労働組合活動については本件中労委和解で合意)して労使関係秩序の確立を図ることの
見返りとして,真の業績評価等には目をつぶって主任×××部員への昇進(その表裏とし
て,組合員の主任×××部員へ昇進した場合の組合員資格)と解決金の支払について合意
したのである。このように,被控訴人支部は,主任×××部員への昇進と解決金とのギブ
アンドテイクで,組合員の範囲について参加人と合意し,かかる合意を含む本件中労委和
解を成立させたのである。
本件中労委和解における勧告,覚書及び確認書は不可分一体のものとして成立しており,
本件条項を規定した上記経緯からすれば,本件条項が本件中労委和解における他の条項と
の関係で,いわゆるギブアンドテイクの関係にあることは明白であって,他の条項から独
立しているとはいえない。
(イ)組合員の範囲の問題が組合自治の問題であるとすれば,一且労使で合意した以上は,
組合が自ら決めた組合員の範囲を遵守すべきことは当然であって,そのことと組合自治と
は何ら矛盾するものではない。また,労働協約中,組合員の範囲を定める条項は,労働組
合と使用者との間の団体的労使関係に関する基本的ルールを定めるものとして債務的効力
を有し,労使双方が協約当事者として,互いにかかる条項を遵守する義務を負うことは当
然であるから,この意味で使用者に固有の利益があることは明らかである。また,労使は
労働協約に組合員の範囲を定めることによって組合員の範囲に関する無用の争いを防止し
て労使関係の安定・確保を図り,かかる条項を労使関係の礎ないし前提として,組合員の
労働条件について団体交渉等を行うほか,使用者はかかる条項を基礎として人事上の諸制
度の制定・変更及び具体的な人員配置等の労務管理を行うといった点をみても,使用者に
も労働組合がその構成員である組合員の範囲を明確にすることについての法律上及び実際
上の利益があるというべきである。
本件条項はそもそも組合員の範囲を定める条項であって,原則として本件中労委和解を
含むすべての労働協約の人的適用範囲を定めるものでもあるから,客観的にも他の条項と
の関係で独立性を有するものでないことは明らかである。
(ウ)本件条項の存在を論理的前提にして,本件条項によって非組合員とした「専任××
×部員以上のスタッフ専門職」が中央執行委員となった場合の取扱いについては定めてい
ないのであるから,本件確認書が全体として一体をなすものとして成立していることは客
観的に明らかであり,本件条項が本件確認書において独立性を有していないことは明白で
ある。
イ事情変更の存否について
(ア)事情変更による労働協約の全部又は一部の解約は,当事者が協約締結時に全く予見し
得なかった異常な事態が発生し,当該協約(その規定)を維持するのが社会通念上著しく不
相当な場合にのみ例外的に認められるべきであるが,本件はそのような場合に当たらない。
(イ)スタッフ専門職の専任の数及び比率が本件中労委和解当時に比較して大きく増加した
事実はない。また,参加人においては,現行の専門職制度を導入した昭和56 年1 月の時
- 5 -
点から今日に至るまで,スタッフ専門職の専任以上の位置付けも職責も本件中労委和解当
時と何ら変更されていない。そもそも,職位に対応して権限と職責を付与することは参加
人の専権であるが,参加人は本件中労委和解によって定めた組合員の範囲を尊重して,職
位に対応した人事に関する権限と職責を明確に定め,これを変更していないのであるから,
組合員の範囲を変更すべき理由は全くない。
因みに,専任以上のスタッフ専門職の全社員に古める比率は,昭和57 年当時が約10.1%,
平成4 年当時は約14.2%であるが,他方で,その間,組合員の範囲に属する社員の人数は
約8000 名も増加(総数約1 万8000 名)していることを踏まえれば,専任以上のスタッフ専
門職の全社員に占める比率の上記程度の変化にことさら意味を持たせて,「これを維持さ
せることが客観的に著しく妥当性を欠く場合」に該当する事実であるなどということはで
きない。また,昭和57 年の本件中労委和解当時と本件一部解約予告当時を比較して,ラ
イン専門職のポストが減少したので,専任以上のスタッフ専門職の人数が増加したという
状況は全くない。
したがって,専任以上のスタッフ専門職の人数・比率を取り沙汰してみても,本件中労
委和解当時と本件一部解約予告当時を比較して大きな変化はなく,もとより専任以上のス
タッフ専門職の権限・職責に関して何らの意味も有しない。
(ウ)ファースト・ラインであるかセカンド・ラインであるかは,数え方の問題であって,
専門職の位置付け・権限・職責とは全く関係がない。
ウ労働協約を維持させることが客観的に著しく妥当性を欠くか
(ア)労働組合は,自ら定めた組合員の範囲において組合員を獲得すべきものであり,本件
においても,被控訴人支部は本件条項によって自ら定めた組合員の範囲において組合員を
獲得すべきである。被控訴人支部にとって本件条項に定める組合員の範囲を遵守したので
は被控訴人支部の組織維持に影響を及ぼしかねないなどという状況は存在しない。
(イ)中労委和解は,労使双方に条項の履行を求めるものであるにもかかわらず,被控訴人
支部のみがその履行に不誠実であるという状況において,事情変更と評価しうる事実がな
くとも一部解約が可能とする根拠は,論理的にも実質的にもない。
(ウ)労使双方とも,組合員の範囲に関して上記の合意をするについては,当時,専任以上
のスタッフ専門職の数・比率がどうであるかとか,主任や専任の職責がどうであるかとい
ったことについて議論したことはなく,もとより,本件中労委和解の締結後,比率が何%
になったら組合員の範囲を見直すといった話も一切していない。したがって,本件中労委
和解成立後,仮に専任以上のスタッフ専門職の数及び比率が増加していたとしても,その
ようなことがらは,本件中労委和解の成立過程及び成立時に何ら問題とされていない事項
であり,そのような事項が事情変更又は「これを維持させることが客観的に著しく妥当性
を欠く場合」に該当する事実とされる道理もなく,専任以上のスタッフ専門職の数及び比
率を取り沙汰すること自体,失当である。
エ一部解約に至るまでの交渉について
(ア)参加人は,本件中労委和解をすべて誠実に履行したが,これに反して,被控訴人支部
は本件中労委和解のうち被控訴人支部にとって利益なことのみを享受する一方で,被控訴
人支部にとって不利益な「一般職の中央執行委員の時間内組合活動の正常化」については,
参加人が再三にわたって申入れを行ったにもかかわらず,真面目に協議をしようとしなか
- 6 -
った。
(イ)本件中労委和解の当時,労使双方とも将来その一部解約など全く予期しておらず,そ
の後もおよそ事情変更に当たる事実など全く存しない上,被控訴人支部は本件確認書3 項
を未解決のままにしているのであるから,参加人が本件条項についてのみの一部解約に応
じなければならない理由はない。
(ウ)参加人は,平成5 年1 月30 日の時点で,被控訴人支部に対し,解約予告を撤回しな
い限り,組合員の範囲の線引きの話にはならないことを示しているのであって,組合員の
範囲の問題についての話合いがされなかったのは,被控訴人支部が解約予告を頑なに撤回
せず,話合いの機会を持とうとしなかったためである。
(エ)本件条項は,組合員の範囲を定めた労使合意として有効なものであるから,被控訴人
支部が本件条項を含む中労委和解をないがしろにするような主張を貫いたことのみに問題
があった。参加人の対応を強硬な態度などと断じるのは,論理性に欠け,著しく偏頗であ
る。
オ全部解約との比較について
(ア)本件中労委和解に至る前記経緯からすれば,被控訴人支部が本件中労委和解のうち,
自分たちが目的としていた主任×××部員への昇進(その表裏として,組合員の主任××
×部員へ昇進した場合の組合員資格)と多額の解決金を得ておきながら,一般職の中央執
行委員の時間内組合活動の取扱いを未解決のままとし,その上さらに本件条項のみを解約
することなど,まさしく「つまみ食い」であり,かつ,得るものだけ得たあとに合意を反
故にするという信義にもとる行為にほかならないのであって,到底許されるはずがない。
(イ)本件について,本件中労委和解の一部解約が許されるのであれば,労使が労働委員会
において和解をする意味など全くないといっても過言ではない。労使関係の安定を考えれ
ば,この点でも本件一部解約予告について穏当な手段という余地はない。
(2)参加人の不当労働行為意思について
本件各行為が客観的に不当労働行為に当たらない以上,参加人に不当労働行為意思がな
いことは明らかである。仮に本件一部解約予告が有効としても,不当労働行為意思の有無
は,当該行為が行われた時点に立って,その状況の下で判断されるべきものであって,事
後的に顧みて判断するものではない。本件各行為は,参加人が本件中労委和解を尊重・遵
守し,X1 ら3 名が組合員資格を有しないという認識に基づき,被控訴人支部らに対し,
本件中労委和解の誠実履行を求めた結果にほかならず,しかも,被控訴人支部の理不尽な
行為に対して筋を通した当たり前の対応をしたまでであって,参加人には,被控訴人支部
を弱体化させる意図はもとより,反組合的な結果を生じ,または生じさせるおそれがある
ことの認識・認容も全くなかった。
(3)X1 ら3 名の利益代表者性について
X1 ら3 名等専任以上のスタッフ専門職が「ライン専門職の人事権行使を助言等する立
場にあり,人事上の計画と方針に関する機密の事項に接する機会を有する」という地位に
あることは明白である。仮にX1 ら3 名がこれまでかかる地位に基づいて,現実にライン
専門職の人事権行使を助言等したり,人事上の機密事項に接したことがなかったとしても,
それはX1 ら3 名が置かれている地位を否定するものではない。
(被控訴人ら)
- 7 -
(1)組合員範囲条項の効力について
ア組合員の範囲について使用者に国有の利益が存在しないにもかかわらず,組合員の範
囲条項だけの一部解約は原則として認められないとすれば,使用者に固有の利益を認める
結果になる。組合員の範囲について使用者の固有の利益が認められないのであれば,当該
部分についての労働協約の一部解約に関して,一般の労働協約の一部解約と同様の厳格な
要件を課すことは不当である。組合員の範囲条項について,使用者の固有の利益がなく,
労働組合が自主的に決定できる以上,本件条項を解約しても,使用者の利益を侵害するこ
とはなく,許されると解すべきである。
イ組合員の範囲の問題は組合自治の問題であって,使用者の固有の利益が存在しないの
であるから,そのことを組合が使用者に対して約束して相互に拘束するという関係自体が
そもそも成り立ち得ない。また,憲法28 条,労働組合法2 条,7 条などの諸規定に鑑み
て,使用者がこの問題に容喙することは許されない。したがって,組合員の範囲を画した
文言の労働協約の解釈としては,その文面どおりの法的効力を認めることは妥当ではなく,
当該労働協約の適用を受けるべき組合員の範囲を画したものと解すべきである。したがっ
て,労働協約があっても,組合員の範囲について使用者が不当に介入することは,一部解
約を論じるまでもなく,不当労働行為にほかならない。
(2)一部解約の有効性について
ア組合員の範囲をどうするかということと,中央執行委員の就業時間内組合活動時間と
は実際には関連を有していないし,参加人も都労委や原審の審理の中でそのような主張は
してこなかった。また,組合員の範囲が専任以上か,主任までかによって,主任組合員の
就業時間内組合活動時間や別途協議することとした一般職の条項について取扱いが変わる
という関係ではなかった。したがって,本件条項は本件確認書において独立性を有してい
る。
イ10 年前においては予想できなかったが,今日では専任以上のスタッフ専門職に対し
て退職勧奨,退職強要が行われている。この専任以上のスタッフ専門職が労働組合に団結
することを阻止することは,労組法の趣旨に反して著しく妥当性を欠いている。
ウ被控訴人支部は,平成3 年12 月以降,参加人に対し,ねばり強く本件条項の見直しに
ついて交渉を申し入れ,協議をしてきた。また,一般職の組合活動時間についても協議を
拒否したことはない。これに対し,参加人は一貫して見直しはあり得ないとの態度をとっ
ており,本件一部解約の前後を通じて,実質的な協議に応じていない。
エそもそも組合員は一般職に限るとされていた参加人の取扱いを本件確認書で変更した
のであるから,将来,また変更される可能性があることは誰もが予測できる。また,主任
や専任などの会社の人事組織制度を前提として合意したものであるが,その前提となる人
事制度自体が5 年,10 年で変更される可能性は十分にある。したがって,本件条項が分
別して扱われることがあり得ることは当事者双方は十分に予想できたし,予想するのが合
理的である。
オ以上のとおり,本件の場合には一部解約を例外的に認める事情が備わっている。本件
条項については,確認書を定めて,組合が見直しを提案するまで約9 年が経過している。
この間は確認書どおり,主任までを組合員として組織してきた。しかし,この10 年間に
組織変更が行われて,専任以上のスタッフ専門職も増加し,また,役割も変わり,主任と
- 8 -
大差のない専任も増加している。10 年近く経過した場合には,本件条項の見直、しをす
るのは極めて当然である。それにもかかわらず,参加入は,確認書を締結したという一点
で頑なに見直しについての実質的協議を拒み,あくまで見直しを拒否している。このよう
な状態は労組法の趣旨に反したものにほかならず,一部解約は有効と認められるべきであ
る。
(3)不当労働行為意思に関する控訴人・参加人の主張に対する反論
ア支配介入が不当労働行為として成立するために要求される不当労働行為意思とは,直
接に組合弱体化ないし反組合的行為に向けられた積極的意図であることを要せず,その行
為が客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じ,または生じるおそれがあることの
認識,認容があれば足りると解すべきである。
イ本件各不当労働行為は,「行為の内容,程度,時期,場所,機会,動機,組合員に対
する影響力など,当該行為の前後の情況を総合して判断」したとしても,不当労働行為意
思に基づくものであることは明白である。参加人や管理職らのX1 ら3 名に対する本件各
言動等は,処分の威嚇や恫喝など組合員として行動した場合に加えられる不利益処分,制
裁を含むものであって,そうした内容からして単なる「見解」の表明などではあり得ない。
ウ組合員の範囲をどのようにするかという労働組合が自主的に決定すべき事柄に介入す
ること自体不当労働行為(支配介入)に他ならないのであって,参加人はそのような意思を
もって前記各行為に及んでいるのである。
被控訴人支部は,本件一部解約を通告する文書の中でも,本件条項は単に労働協約の適
用を受けるべき人的範囲についての合意にすぎない旨を明確に指摘し,その後都労委への
不当労働行為救済申立以前の労使交渉の中でも,このことを再三にわたって参加人に指摘
していた。したがって,この点につき参加入は法的解釈を十分認識していたのであり,本
件命令が擁護するような参加人が解釈した無理からぬ事情は,何ら存在しなかった。
さらに,本件命令の論理に従えば,使用者が何らかの「根拠」を持ってそれが不当労働
行為に該当しないと信じ込んでいる「振り」をすれば,如何に露骨な支配介入であっても,
「当時会社に不当労働行為の認識はなかった」として免責されることになるが,これが不
当な結果であることは論を待たない。


日本アイ・ビー・エム(組合員資格)事件 東京高判平成17年2月24日

2012年03月31日 | 労働百選

日本アイ・ビー・エム
http://www.ibm.com/jp/ja/
http://www-06.ibm.com/ibm/jp/about/index_g.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%A0
日本アイ・ビー・エム株式会社(にほんアイ・ビー・エム、日本IBM、英文表記:IBM Japan, Ltd.)は、米IBM(IBM Corporation)の日本法人。米IBMの100%子会社である有限会社アイ・ビー・エム・エーピー・ホールディングス(APH)の100%子会社であり、米IBMの孫会社にあたる。

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM Japan, Ltd.  
 IBM-Japan-Hakozaki-Facility.jpg
日本IBM本社(旧箱崎事業所)
種類 株式会社
略称 日本IBM
本社所在地  日本
〒103-8510
東京都中央区日本橋箱崎町十九番二十一号
北緯35度40分43.2秒 東経139度47分13.1秒 / 北緯35.678667度 東経139.786972度 / 35.678667; 139.786972
設立 1937年6月17日
業種 電気機器
事業内容 情報システムに関わるサービス、ソフトウェア、ハードウェア、ファイナンシングの提供
代表者 代表取締役 社長執行役員 橋本孝之
資本金 1,353億円
売上高 9,377億円(2010年)[1]
従業員数 2009年以降非公開 (2008年12月31日時点で16,111人)
主要株主 有限会社アイ・ビー・エム・エイ・ピー・ホルディングス(100%)


http://web.churoi.go.jp/han/h10004.html
全文:http://web.churoi.go.jp/han/pdf/h10004.pdf
事件名  日本アイビーエム 
事件番号  東京高裁平成15年(行コ)第275号
 控訴人  東京都労働委員会 
控訴人参加人  日本アイ・ビー・エム株式会社 
被控訴人  全日本金属情報機器労働組合日本アイビーエム支部 
被控訴人  全日本金属情報機器労働組合東京地方本部 
被控訴人  全日本金属情報機器労働組合 
判決年月日  平成17年 2月24日 
判決区分  一審判決の全部取消し 
  
事件概要  本件は、会社が、①支部のスタッフ専門職である組合員三名のチェックオフ申請を拒否したこと、②分会の執行員に就任した組合員X1の就任撤回と役員名簿の修正を要求したこと、③組合員X2、X3に対し、上級管理職の職務等に反する活動を行った場合の懲戒処分を示唆したことが不当労働行為であるとして争われた事件である。
 東京都労委は、いずれも不当労働行為に当たらないとして、申立てを棄却したが、これを不服として、組合が行政訴訟を提起した。
 東京地裁は、東京都労委の棄却命令を取り消し、組合の請求を認容した。
 本件は、東京都労委がこれを不服として、東京高裁に控訴したものであるが、同高裁は、会社の請求を認容し、原判決を取り消した。 
判決主文  1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。 
判決の要旨  5130 法2条但書との関係
X1ら3名が現実にライン専門職の人事権行使を助言したり、人事上の機密事項に接したことがなかったというだけでなく、参加人においては、X1ら3名が置かれているスタッフ専門職としての地位そのものが、直接には人事評価を行ったり、人事情報に接することができないものであり、X1ら3名が使用者の利益を代表する者に該当するということはできないとされた例。

5130 法2条但書との関係
労働組合は、その自主的判断に基づき組合員の範囲を決定することができるのであるから、その判断に基づいて使用者との間で、労働協約をもって非組合員の範囲を定めることを妨げられるものでなく、また、使用者にとっても、非組合員の範囲は人事制度や労務管理にかかわることであり、これを定めることについて一定の利益を有していることは否定できないから、非組合員の範囲について労働協約が締結された以上、労使の合意として効力を有するものであるが、使用者の利益代表者の範囲は、現実にはその判別が困難を伴うとしても、各企業の実態に即して客観的に定まるものであって、労使の合意によって左右されるものではなく、しかも、組合員となる資格を有しない者の範囲の裏返しである組合員となる資格を有する者の範囲は、本来組合の自主的判断に委ねられるべきものであり、非組合員の範囲を広いものとするか狭いものとするかは、組合員となり得る者の多少、組合員のままで昇進したり就くことのできる職種の範囲に直接関係し、組合活動に及ぼす影響は大きいものであるから、労働協約中の非組合員の範囲を定める条項の効力を考えるに当たっては、このような事情を十分考慮すべきであるとされた例。

2305 労働協約との関係
2249 その他使用者の態度
本件確認書の1項は組合員の範囲に関するもの、2項及び3項は組合員の就業時間中の組合活動に関するもの、4項は組合員の昇進問題の解決に関するものであり、このように一つの労働協約において複数の事項が協定されている場合、各合意事項は相互に関連を有し、又はある事項についての一方の譲歩と他の事項の他方の譲歩により全体の合意が成立するなど、労働協約全体が一体をなすものとして成立するのが通例であるから、一方当事者が自己に不利な条項のみを取り出して解約することは原則として許されないと解すべきであるが、その条項の労働協約の中での独立性の程度、その条項が定める事項の性質をも考慮したとき、契約締結後の予期せぬ事情変更によりその条項を維持することができなくなり、又はこれを維持させることが客観的に著しく妥当性を欠くに至っているか否か、その合意解約のための十分な交渉を経たが相手方の同意が得られず、しかも協約全体の解約よりも労使関係上穏当な手段であるか否かを総合的に考え合わせて、例外的に協約の一部解約が許される場合があるとするのが相当であり、本件の組合員の範囲に関する条項の解約が、信義に反し、あるいは権利の濫用に当たるということはできず、有効に解約されたというべきであるとされた例。

2610 職制上の地位にある者の言動
労働協約の条項の一部解約が認められるか否かの判断は微妙なものがあり、事業所の所長らによる組合員に対する本件言動の当時、参加人会社が本件条項の一部解約は認められないと考えるのも無理からぬ事情があったというべきであるから、参加人が本件条項が有効で、専任以上のスタッフ専門職には組合員資格がないと考えて、その自己の考えを意見として表明したり、敷衍して説明したりすることを支配介入の不当労働行為意思の表れとみるのは相当でなく、これら言動を不当労働行為と認めるのは相当でないとされた例。

2800 各種便宜供与の廃止・拒否
参加人会社はX1ら3名についてチェックオフを開始することを求める申請を、X1ら3名が組合員でないとして実施しなかったものであるところ、組合支部の組合員150名中20名についてはチェックオフが実施されずに組合支部が直接組合費を徴収していたことが認められ、組合員であることとチェックオフ実施の関係は明確でないのみか、X1ら3名について新たにチェックオフを開始することを拒否することが、組合支部の活動に及ぼす悪影響はほとんどないものと推認され、このような、組合支部と会社との間のチェックオフの実情に、本件条項のみの解約は許されないと会社が考えるのも無理からぬ事情があり、会社がX1ら3名が組合員であることに疑義を抱いていたことにはそれなりの理由があることを併せ考えると、会社がX1ら3名にチェックオフという便宜供与を拒んだからといって、これが支配介入による不当労働行為に該当するということはできないとされた例。

 
業種・規模  電気機械器具製造業