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【答案】平成21年度重判民法5事件 動産留保所有権者に対する土地所有者の明渡し等の請求 

2012年05月09日 | 重判民法答案

 最高裁判所平成21年03月10日第三小法廷 判決
(平成20(受)422 車両撤去土地明渡等請求事件)
(民集 第63巻3号385頁)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=37405&hanreiKbn=01

【問題】
1 Aは、Xと駐車場の賃貸借契約を締結し、信販会社Yと結んだ車両購入に関する立替払い契約に基づき購入した甲自動車を駐車していた。
2 AY間の契約は以下のようなものであった。
①60回分割返済、
②本件車両の所有権は、Aが本件立替金債務を完済するまで同債務の担保としてYに留保される
③Aは、本件車両の引渡を受け、善管注意をもって管理する
④Aが分割金の支払を怠って、Yから催告を受けたにもかかわらずこれを支払わなかったときは、当然に期限の利益を喪失し、残債務全額を直ちに支払う
⑤この場合、AはYからの本件車両の引渡請求に異議なく応じ
⑥Yは、公正な売却額で立替金債務の弁済に充当する
3 Aは、本件立替払契約上の分割金の不払により期限の利益を喪失し、残債務額全額の弁済期が経過した。
4 Yは訴え提起の時点まで、本件車両が本件土地上に存在していることを知らなかった。

Xは、Yに対して、本件車両の撤去及び駐車場の明渡し並びに駐車場使用料相当損害金の支払いを求めて訴えを提起した。Xの請求は認められるか。

【答案】
第1 本件車両の撤去及び本件土地の明渡し請求について
1 XのYに対する、本件土地所有権に基づく妨害排除権としての本件車両の撤去及び同所有権に基づく返還請求権としての本件土地の明渡請求が認められるためには、Yが甲の所有権者として本件土地を占有していることが必要であるところ、留保所有権を有するに過ぎないYが本件土地を占有しているといえるか。本件所有権留保権に基づきYが本件車両について有する権利の性質が問題となる。
2 留保所有権者が有する留保所有権は、原則として、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産の交換価値を把握するにとどまるが、残債務弁済期の経過後は、当該動産を占有し、処分することができる権能を有するものというべきである。そうだとすると、留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても、特段の事情がない限り、当該動産の撤去義務を負うことはないが、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務を免れないと解するのが相当である。
3 これを本件についてみるに、本件口頭弁論終結時において残債務弁済期は経過しており、Yは本件車両
を占有し処分することができる権能を有している。したがって、YはXの所有する土地を権限なく占有しており、XのYに対する本件車両の撤去及び本件土地の明渡し請求は認められる。
第2 駐車場使用料相当損害金の支払い請求について
1 XのYに対する、不法行為に基づく駐車場使用料相当損害金の支払請求が認められるためには、Yによる侵害に違法性が認められる必要があるが、Yに違法性が認められるためにはYが土地を権限なく占有していることが必要である。そして、不法行為の成立に関しても、Yの占有権原につき上に述べたことは妥当し、残債務弁済期が経過した後はYは本件車両を占有し、処分することができる権原を有するため、Yの侵害は違法となる。
2 もっとも、不法行為の成立には行為者に故意又は過失があることが必要であるところ、残債務弁済期の経過後であっても、留保所有権者は、原則として、当該動産が第三者の土地所有権の行使を妨害している事実を知らなければ過失がなく、上記妨害の事実を告げられるなどしてこれを知ったときに初めて過失が認められると解するのが相当である。
 YはXによる訴え提起により初めて本件車両が本件土地上にあり、Xの本件土地所有権を妨害している事実を知ったのであるから、本件訴状送達時以降過失が認められることになる。
3 よって、XのYに対する不法行為に基づく駐車場使用料相当損害金の支払請求は、Yへの訴状送達時以降の限度で認められる。