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【答案】百選68事件 東亜ペイント事件

2012年04月29日 | 労働百選答案

1 Xは本件転勤命令は無効であり、したがって無効な転勤命令に従わなかったことを理由になされた本件解雇も無効である旨主張して、従業員としての地位確認及び未払賃金の支払を請求している。そこで、本件解雇が無効か否かにつき以下検討する。
2(1)  まず、Y社の本件転勤命令が適法といえるためには、前提としてY社の配転命令権が労働契約上根拠付けられることが必要である。
 本件においては、Y社就業規則13条は「業務上の都合により社員に異動を命ずることがある。」と規定し、配転命令権を根拠付ける一般条項を定めている。このような条項は、一般に幅広い能力開発の必要性や雇用の柔軟性の確保の要請から「合理的」なものと解することができる。また、本件就業規則は労働者に「周知」されているものと思われる。したがって、労契法7条本文により本件就業規則は労働契約の内容となっているということができる。
(2) もっとも、労働者と使用者の間に、就業規則規定より有利な合意がある場合には、有利な合意が優先する(同条ただし書)。本件では、XとY社の間に勤務地を大阪ないしその近郊に限定する旨の合意が個別にあったかが一応問題となるが、Y社では全国に十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、Xは大学卒業資格の営業担当者としてY社に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の明示的合意もなされなかったというのであるから、上記のような合意は認められない。
(3) したがって、Y社の配転命令権は労働契約上根拠付けられており、Y社はXの個別的同意なくとも本件転勤命令を適法に発しうるのが原則である。
3(1) もっとも、使用者がその裁量により配転命令を適法に発しうる場合であっても、転勤、特に転居を伴う転勤が、一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えることを考えると、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されない(労契法5条参照)。そこでいかなる場合が権利の濫用に当たるかについて考えるに、使用者の勤務地決定についての裁量権と転勤が労働者の生活関係に与える影響の調和の観点からは、転勤命令が権利の濫用に当たる場合とは、()当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合、または()業務上の必要性が存する場合であっても①当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、若しくは②労働者に対し通常甘受すべき限度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合に限られると解するのが相当である。そして、上記業務上の必要性については、当該転勤先への異動が、余人をもっては容易に変えがたいといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。
(2)ア 本件についてこれをみるに、()業務上の必要性につき、名古屋営業所に転勤させる者は是非ともXでなければならないというような高度の必要性まではなかったものの、名古屋営業所のG主任の後任者として適当な者を名古屋営業所へ転勤させる必要性があったのであるから、主任待遇で営業に従事していたXを選び名古屋営業所勤務を命じた本件転勤命令は労働力の適正配置の観点からは企業の合理的運営に寄与する点が認められ、業務上の必要性が優に存したものということができる。したがって、本件は()転勤命令につき業務上の必要性がない場合には当たらない。
イ 次に()①動機・目的の点につき、本件転勤命令は、元々広島営業所の主任が配置転換され、後任にはXが適任であるとしてXに広島営業所への転勤が打診されたところ、Xがこれを拒否したため、次善の作として名古屋営業所主任を広島営業所主任に当て、Xには名古屋営業所主任への転勤を内示したという経緯で下されたものであり、かかる経緯に鑑みると本年転勤命令が不当な動機・目的をもってなされたものであるとはいうことができない。
ウ さらに、()②Xの被る不利益の点につき、Xには同居の母親がいるが、同人は71歳とXの介護がなければ日常用を足すことが困難な高齢ではなく、実際病気もなく健康で食事の用意や買い物もできたというのである。同人は生まれてから大阪以外に住んだことはなく、老人仲間で月2、3回句会を開いており、Xの転勤に伴い母親も転居するとなれば、なれない地での生活に不安を感じ、また仲間との上記活動ができなくなるという一定の不利益は認められるものの、かかる不利益が業務上の必要性を害してまでXの転勤拒否を正当化するほどの重大な不利益とまではいえない。また、Xの妻は保育所で保母として勤務しており、同保育所が発足直後で同人が運営委員の役職に会ったことを考えると、同人がXの転勤に伴い転居し保育所を退職することは同人にとって大きな決断を迫る事情であるということは認められる。しかし、同人が従前の仕事を継続することをどうしても望むなら、Xの単身赴任ということも考えられないではなく、Xの母親が健康で介護が不要であること、Xの転勤先は名古屋であり大阪まで定期的に帰宅するにさほど遠くないこと、等を考えると、最悪単身赴任という選択肢を余儀なくされたとしても、Xの転勤拒否を正当化しうる程に重大な不利益とまでいえるかは疑問である。さらに、Xの長女は2歳と幼少で周囲との社会的関係を築くに至っておらず、転勤に伴う不利益としてはさほど大きくない。以上のことを総合的に考慮すると、本件転勤命令が、Xに対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとまではいうことはできない。
エ 以上より、本件転勤命令は権利の濫用に当たらないと解するのが相当である。
4 よって、本件転勤命令は適法であり、Xの転勤拒否は就業規則68条6項の懲戒解雇事由に該当するため、本件解雇は適法である。本件解雇の無効を前提とするXの上記各請求は認められない。


平成21年度重要判例解説労働法目次・リンク

2012年04月27日 | 労働重判目次・リンク

平成21年度重要判例解説労働法目次・リンク

1事件 個人業務委託契約者と労組法上の労働者―INAXメンテナンス事件
東京高判平成21年9月16日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81446&hanreiKbn=06
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81446&hanreiKbn=06

2事件 勤務医の宿日直業務および炊く勅勤務と労基法上の労働時間―奈良県事件
奈良地判平成21年4月22日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37702&hanreiKbn=04
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090703144644.pdf

3事件 急激な需要減による休業と期間労働者の賃金請求権―いすゞ自動車事件
宇都宮地決平成21年5月12日

4事件 現に雇用される組合員が不存在となった組合との団体交渉等を命じる救済命令の拘束力―ネスレ日本島田工場事件
東京高判平成20年11月12日

5事件 旧国鉄の分割民営化に当たっての組合所属による差別と損害―鉄道建設・運輸施設整備支援紀行事件
東京高判平成21年3月25日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=80390&hanreiKbn=06
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100705103336.pdf

6事件 定年後の再雇用に関する選択制度と高年齢者雇用安定法―NTT西日本事件
大阪高判平成21年11月27日

7事件 偽装解散に対する親会社の雇用契約上の責任―第一交通産業ほか(佐野第一交通)事件
大阪高判平成19年10月26日

8 技術者のうつ病発症と安全配慮義務および労基法19条
東京地判平成20年4月22日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37794&hanreiKbn=06
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090707142451.pdf


【答案】百選96事件 朝日火災海上保険(高田)事件

2012年04月22日 | 労働百選答案

1 Xの地位確認請求及び給与等の支払請求が認められるかは、本件労働協約及び就業規則変更の拘束力がXに対して及ぶかによって決されるため、以下この点につき検討する。
2 労働協約の変更がXを拘束するかについて
(1) 労働組合法17条は、一の工場事業の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるにいたったときは、当該工場事業場に使用されている他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるとし、いわゆる労働協約の一般的拘束力を認めている。ところで本件労動協約は、Y社の従業員の定年を一律に満57歳とし、退職金の支給基準率を引き下げることを主たる内容とするものであり、この規定が適用されるとするならば従来定年が満63歳とされているXにとって不利益となる。そこで、このような不利益な労働協約の変更に、他の未組織同種労働者が労組法17条により拘束されるかが問題となる。
(2)ア 同条の趣旨は、主として一の事業者の四分の三以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにある。かかる趣旨からすると、未組織の同種労働者についても労働組合団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現のためには、一の事業場においては同種労働者につきできる限り同一の労働条件が適用されることが好ましく、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利なものであることのゆえに、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。そして、同条が、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者に及ぶ範囲について何らの限定もしていないことも、上記のように労働条件の有利不利を問わず未組織労働者に対しても労働協約の規範的効力が及ぶことを認める趣旨に出たものと解される。さらに、労働協約の締結に当たっては、そのときどきの社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利不利をいうことは適当ではない。したがって、同条の適用に当たっては、労働協約上の基準が一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、そのことだけで上記不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼしえないものと解するのは相当ではないというべきである。
イ しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、①労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、②労働協約が締結されるに至った経緯、③当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当である。
(3)ア これを本件についてみると、まず、本件労働協約は、Xが勤務していたY社において、労働組合法17条の要件を満たすものとして、その基準は、一部Xにとって不利益な内容を含むとしても、原則としては、Xに適用されてしかるべきものと解される。
イ そこでさらに進んで上記特段の事情の有無について検討するに、②本件労働協約が締結されるに至った経緯をみると、Y社においては、かねてから、鉄道部出身の労働者の労働条件とそれ以外の労働者の労働条件の統一を図ることが労使間の長年の懸案事項であって、また、退職金制度については、変更前の退職手当規程に従った退職金の支払を続けていくことは、Y社の経営を著しく悪化させることになり、これを回避するためには、退職金支給率が変更されるまでは退職金算出の基準額を昭和53年度の本俸額に据え置くという変則的な措置を執らざるを得なかったなどの事情があったというのであるから、組合が、組合員全員の雇用の安定を図り、全体として均衡のとれた労働条件を獲得するために、一部の労働者にとっては不利益な部分がある労働条件を受け入れる結果となる本件労働協約を終結したことにはそれなりの合理的な理由があったものということができる。そうであれば、本件労働協約上の基準の一部の有利、不利をとらえて、Xへの不利益部分の適用を全面的に否定することは相当でない。
 しかしながら他面、①本件労働協約の内容に照らすと、その効力が生じた昭和58年7月11日に既に満57歳に達していたXのような労働者にその効力を及ぼしたならば、Xは、本件労働協約が効力を生じたその日に、既に定年に達していたものとして上告人を退職したことになるだけでなく、それと同時に、その退職により取得した退職金請求権の額までもが変更前の退職手当規程によって算出される金額よりも減額される結果になるというのであって、本件労働協約によって専ら大きな不利益だけを受ける立場にあることがうかがわれるのである。また、退職手当規程等によってあらかじめ退職金の支給条件が明確に定められている場合には、労働者は、その退職によってあらかじめ定められた支給条件に従って算出される金額の退職金請求権を取得することになること、退職金がそれまでの労働の対償である賃金の後払的な性格をも有することを考慮すると、少なくとも、本件労働協約をXに適用してその退職金の額を昭和53年度の本俸額に変更前の退職手当規程に定められた退職金支給率を案じた金額である2007万8800円を下回る額にまで減額することは、Xが具体的に取得した退職金請求権を、その意思に反して、組合が処分ないし変更するのとほとんど等しい結果になるといわざるを得ない。加えて、③Xは、Y社と組合との間で締結された労働協約によって非組合員とするものとされていて、組合員の範囲から除外されていたというのである。以上のことからすると、本件労働協約が締結されるに至った前記の経緯を考慮しても、右のような立場にある被上告人の退職金の額を前記金額を下回る額にまで減額するという不利益をXに甘受させることは、著しく不合理であって、その限りにおいて、本件労働協約の効力はXに及ぶものではないと解するのが相当である。
3 就業規則の変更がXを拘束するかの点について
(1) 次に、本件就業規則は本件労働協約と同内容を定めており、これが適用されるとすれば前述のようにXにとって不利益となる。そこで本件就業規則の変更がXとの関係で効力を有するか。
(2) 労契法9条本文によれば、使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することができないのが原則である。しかしながら、()変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ()就業規則の変更が、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、同法10条により例外的に変更後の就業規則が労働者に適用されることになる。
(3) 本件では()「周知」の要件は満たすと思われ、()「合理」性の点について検討する。
 まず、変更前の退職手当規程に定められた退職金を支払い続けることによる経営の悪化を回避し、退職金の支払に関する前記のような変則的な措置を解消するために、Y社が変更前の退職手当規程に定められた退職金支給率を引き下げたこと自体には高度の必要性(②)を肯定することができる。
 しかしながら、退職手当規程の変更と同時にされた就業規則の変更による定年年齢の引下げの結果、その効力が生じた昭和58年7月11日に、既に定年に達していたものとしてY社を退職することになるXの退職金の額を前記の2007万8800円を下回る額にまで減額する措置は、Xにとって過大な不利益であり(①)、法的規範性を是認することができるだけの内容の相当性(③)は認められない。以上の事情を総合的に判断すると、本件変更後の就業規則は「合理的」なものであるということはできず、本件就業規則の変更はXとの関係において効力を有しないというべきである。
4 以上より、本件労働協約の変更及び就業規則の変更はいずれもXに対して効力を及ぼさないものであり、Xの各請求は認められる。


【答案】百選95事件 朝日火災海上保険(石堂)事件

2012年04月21日 | 労働百選答案

1 Xは本件労働協約改定はXにとって不利益な変更であるためXとの関係で規範的効力(労組法)を生じず無効であるとして、従前の満65歳定年制を前提とする労働契約上の地位と退職金の支払を受ける権利を有することの確認を求めている。Xのこの請求が認められるか否かは、従来の労働協約上の労働条件を新しい労働協約によって労働者の不利益に変更することが可能かという点にかかっているため、この点につき検討する。
2 労働組合は労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする(労組法2条本文)ため、本件のように従前の労働条件を不利に変更する労働協約を締結することはできないかにも思われる。
 しかしながら団体交渉はいわば労使の相互譲歩の取引であり、その結果、労働協約には、労働者に有利な条項と不利な条項が一体的に規定されることが多い。また、継続的な労使関係においては有利化不利化の判断は困難である。さらに、労働組合としては、組合員の長期的な利益を保証するために、それ自体としては不利益に見える協定を締結することも考えられる。とすれば、労働協約によって労働者の労働条件を引き下げることも許され、これには規範的効力が認められると解すべきである。
 もっとも、特定の又は一部の組合員を殊更に不利益に取り扱うことを目的として締結された等、労働組合の目的を逸脱して締結された場合には、例外的に規範的効力は否定されるものと解するのが相当である。そして、上記労働組合の目的逸脱の有無の判断に当たっては、①組合員に生じる不利益の程度、②当該協約の全体としての合理性・必要性、③締結に至るまでの交渉経緯、④組合員の意見の反映の程度等を総合的に考慮することが必要である。
3 これを本件について検討する。
(1) まず①につき、確かに本件協約は、従来の63歳の定年を満57歳に変更し、また退職金の支給基準率も71.0から51.0に引き下げるというものであって、昭和53年度から昭和61年度までの間に昇給があったこと、満60歳までは特別社員として正社員の60%に相当する賃金で再雇用可能という代償措置が設けられたことを考慮に入れてもXの被る不利益の程度は決して小さいものということはできない。
(2) しかしながら他方、②Y社においては、かねてから、鉄道部出身の労働者の労働条件とそれ以外の労働者の労働条件の統一を図ることが労使間の長年の懸案事項であって、また、退職金制度については、変更前の退職手当規程に従った退職金の支払を続けていくことは、Y社の経営を著しく悪化させることになり、これを回避するためには、退職金支給率が変更されるまでは退職金算出の基準額を昭和五三年度の本俸額に据え置くという変則的な措置を執らざるを得なかったなどの事情があったというのであるから、協約改定により定年年齢を早期に変更し、支給基準率を引き下げる必要性は高く、このため組合が組合員全員の雇用の安定を図り、全体として均衡のとれた労働条件を獲得するために、一部の労働者にとっては不利益な部分がある労働条件を受け入れる結果となる本件労働協約を終結したことにはそれなりの合理的な理由があったものということができる。
(3) そして③組合は、常任闘争委員会や全国支部闘争委員会で討議を重ね、組合員による職場討議や投票等も行った上で、本件労働協約の締結を決定したという本件協約締結に至るまでの一連の交渉経緯を見ると、組合は組合員の多様な意見を汲み上げ、組合員全体の利益の公正な調整のための真摯な努力を行ったと評価でき、上記各手続により④組合員の意見は十分に本件協約に反映されているといえる。
(4) 以上のことを総合的に評価すると、本件協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず、その規範的効力は認められるというべきである。よって、本件Xの各請求は認められない。


【答案】百選99事件 御國ハイヤー事件

2012年04月20日 | 労働百選答案

1 X社はYらに不法行為に基づく損害賠償を請求している。もしXらの行為が「争議行為」であって「正当」なものであるとするならば、労組法8条の定める民事免責によりX社の請求は認められないことになる。そこで、本件行為が「争議行為」であって「正当」なものといえるかにつき検討する。
2 「争議行為」とは、団体交渉において要求を貫徹するために使用者に圧力をかける労務不提供を中心とした行為である。
 まず、本件行為の内容は、Yらがその労務であるタクシーの運転を行わないことであり、労務不提供行為といえる。そして、本件行為は、団交再開を目的としており、団交を再開するよう圧力をかける労務不提供といえるので、「争議行為」に当たる。
 次に、本件行為に付随し、Yらが従業員に対し業務遂行をやめるように働きかけたピケッティング行為も、労務不提供と一体になって使用者に圧力をかける行為であるため、「争議行為」に含まれる。
3(1) では、本件「争議行為」は「正当」性を有するか。「争議行為」の主体・目的・手続・態様から正当性を判断する。
(2) 本件行為の主体は、従業員で構成される組合であり、その要求事項が基本給の引き上げ等団交の対象事項たる従業員の労働条件改善であることから、主体と目的は正当といえる。また、手続面では、既に複数回の団交を重ねており、正当な手続きが踏まれている。
(3)ア それでは、態様につき、Yらがピケッティングという積極的行為まで行った点が態様上「正当」性を有するか。
イ ストライキは必然的に企業の業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にある。とすると、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、不法に使用者側の自由意思を抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されず、これをもって正当な争議行為と解することはできないというべきである。したがって、労働者側が、ストライキの期間中、非組合員等による営業用自動車の運行を阻止するために、説得活動の範囲を超えて、当該自動車等を労働者側の排他的占有下に置いてしまうなどの行為をすることは許されず、このような自動車運行阻止の行為を正当な争議行為とすることはできないと解するのが相当である。
ウ これを本件についてみるに、F地本が実施した本件ストライキにおいて、Yらは、地本の決定に従い、X社が本件タクシーを稼働させるのを阻止することとし、二回にわたり、本件タクシーの傍らに座り込み、あるいは寝転ぶなどして、X社の退去要求に応ぜず、結局、X社は、本件タクシーを車庫から搬出することができなかったというのである。このことからすると、Yらは、説得活動の範囲を超えて、X社の管理に係る本件タクシーを地本の排他的占有下に置き、X社がこれを搬出して稼働させるのを実力で阻止したものといわなければならない。したがって、本件Yらの行為はX社の管理に係るタクシー四二台のうち組合員が乗務する予定になっていた本件タクシーのみを運行阻止の対象としたものであり、エンジンキーや自動車検査証の占有を奪取するなどの手段は採られず、暴力や破壊行為に及んだものでもなく、専務やその他の従業員が両車庫に出入りすることは容認していたなど、地本において無用の混乱を回避するよう配慮した面がうかがわれ、また、X社においても本件タクシーを搬出させてほしい旨を申し入れるにとどめており、そのため、Yらがその搬出を暴力等の実力行使をもって妨害するといった事態には至らなかったといった本件諸事情を考慮に入れても、Yらの本件自動車運行阻止の行為は、その態様において、争議行為として「正当」な範囲にとどまるものということはできないといわざるをえない。
 以上により、Yらによるピケッティングを含む本件行為は、「正当」なものということができない。
4 よって、Yらによる本件行為は労組法8条の規定する民事免責事由に該当せず、X社の請求は認められる。


【答案】百選77事件 高知放送事件

2012年04月20日 | 労働百選答案

1 Xとしては、本件解雇が労契法16条に違反し無効であることを理由に、XがY会社の従業員としての地位を有することの確認請求、解雇期間中の賃金請求(民法536条2項)、違法な解雇に基づく損害賠償請求(民法709条)をなすことが考えられる。そこで本件解雇の違法性につき検討する。
2 Xの各行為は放送事業者としてのYの信用を失墜させるものであり、就業規則15条3号の普通解雇事由に該当する。しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、使用者は解雇権を濫用したものとして当該解雇は無効となる(労契法16条)。そして、上記の社会通念上相当であると認められるか否かの判断にあたっては、①被用者側の非違行為の態様・程度、②これにより使用者側が被る損害、③使用者側の帰責性、④被用者の従前の勤務状況、⑤他の被用者の処分との均衡、⑥従前の同種事案についての処分との均衡等、諸般の事情を当該具体的事案に照らし総合的に考慮すべきである。
3 これを本件について検討する。
(1) まず①の点につき、確かに、Xが寝過ごしという同一態様に基づき特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、さらに、第2事故直後においては率直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると、Xに非がないということはできない。しかしながら他面において、本件自己はいずれもXの寝過ごしという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではない。また、通常はファックス担当者が先に起きてアナウンサーを起こすことになっていたところ、本件第1、第2事故ともファックス担当者においても寝過ごし、定時にXを起こしてニュース言行を手交しなかったのであり、事故発生につきXのみを攻めるのは酷である。さらに、Xは第1事故については直ちに謝罪し、第2事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力している。また、事実と異なる事故報告書を提出した点についても、1階通路ドアの開閉情況にXの誤解があり、また短期間内に2度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、この点を強く攻めることはできない。
(2) 次に、②の点につき、確かに担当アナウンサーの寝過ごしによる放送不能という事態は、定時放送を使命とするY社の対外的信用を著しく失墜するものである。しかしながら、事故により生じた空白時間は第1事故においては10分間、第2事故においては5分間という短時間であって、放送時刻が午前6時という聴取率が比較的低い早朝であったことも考えると、解雇という重大な処分をもって臨むほどの損害の重大性があったといえるかは疑問である。
(3) そして③の点につき、早朝の放送においては担当者の寝過ごしという事態が生じることは十分想定しうるにもかかわらず、Y社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったのであり、Y社にも本件事故につき一定の帰責性が認められる。
(4) また、④Xはこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くない。
(5) さらに、⑤第2事故において同時に寝過ごしたファックス担当者Bはけん責処分に処せられたに過ぎない。
(6) 加えて、⑥Y社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったというのである。
(7) 以上の事情を総合的に判断すると、Xに対して解雇をもってのぞむことはいささか苛酷にすぎるというべきで、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないというべきである。したがって本件解雇は解雇権を濫用したものとして、労契法16条に違反し無効である。
4 よって、Xの上記各請求は認められる。


 


【答案】百選12事件 大日本印刷事件 

2012年04月20日 | 労働百選答案

1(1) Yが労働契約上の権利を有する地位にあるといえるためには、その前提として、XY社間に労働契約が成立していなければならない。そこで、採用内定の法的性質が問題となる。
(2) 採用内定の実体は多様であるため、事案ごとに契約の内容を具体的に検討し、入社までに特段の合意が予定されていなければ、採用内定の時点で労働契約が成立すると解する。
(3) 本件では、平成23年8月11日に内定通知がなされ、Zはこれを受けて誓約書をY社に提出しているが、その他には入社までに労働契約の締結に関し特段の意思表示は予定されていなかったといえる。
 したがって、本件では、内定通知・誓約書送付の時点でY社とX1間に、効力始期付解約権留保付の労働契約が成立したというべきである。
2(1) 以上のように本件採用内定によってYX間に解約留保権付雇用契約が成立したと解した場合、本件採用内定取消の通知は、上記解約権に基づく解約申し入れと見るべきであるところ、本件における解約事由が、社会通念上相当として是認することができるものであるといえるかが次に問題となる。
(2)ア わが国の雇用事情に照らすとき、大学新規卒業予定者で、いつたん特定企業との間に採用内定の関係に入つた者は、このように解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入つた者の試用期間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべきである。
イ そこでさらに試用契約における解約権のあり様につきみるに、試用契約における解約権は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解される。そして、今日における雇用の実情にかんがみるときは、このような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができる。しかしながら、他方、雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき、留保解約権の行使は、上記のような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものと解すべきである。この理は、採用内定期間中の留保解約権の行使についても同様に妥当するものと考えられる。したがつて、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると、本件採用内定取消事由の中心をなすものは「Yはグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかつた。」というものである。しかしながら、グルーミーな印象であることは当初からわかつていたことであるから、Xとしてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたというべきである。これにもかかわらず、不適格と思いながら採用を内定し、その後当該不適格性を打ち消す材料が出なかつたので内定を取り消すということは、上記のように採用内定時において収集困難な判定資料を後日における調査観察により補完し最終的決定を留保するという解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきである。したがって、上記のような事由をもつて、本件誓約書の確認事項二、⑤所定の「その他の事由によつて入社後の勤務に不適当と認められたとき」という解約事由にあたるということはできない。


平成20年度重要判例解説労働法目次・リンク

2012年04月15日 | 労働重判目次・リンク

1事件 個人的な訴訟提起等を理由とする懲戒解雇の有効性―モルガン・スタンレー・ジャパン・リミテッド(本訴)事件

2事件 教員任期制に基づく任期付教員の再任拒否の可否―京都大学事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36367&hanreiKbn=06
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080522142115.pdf

3事件 無効な解雇期間中の中間収入の控除対象となる賃金の範囲―社会福祉法人いずみ福祉会事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=32811&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060329155412.pdf

4事件 時限ストに対するロックアウトの正当性―安威川生コンクリート工業事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=32909&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061020160220.pdf

5事件 地方自治体における期限付き嘱託職員の再任拒否の可否―昭和町
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=33099&hanreiKbn=04
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060531144843.pdf

6事件 賃金絵師度を成果主義型に変更する就業規則の拘束力―ノイズ研究所事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=33273&hanreiKbn=04
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060630134131.pdf

7事件 事件から長期間経過した後になされた懲戒解雇の効力―ネスレ日本事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=33623&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061010130337.pdf

 


【答案】百選12事件 大日本印刷事件

2012年04月14日 | 労働百選答案

1(1) Yが労働契約上の権利を有する地位にあるといえるためには、その前提として、XY社間に労働契約が成立していなければならない。そこで、採用内定の法的性質が問題となる。
(2) 採用内定の実体は多様であるため、事案ごとに契約の内容を具体的に検討し、入社までに特段の合意が予定されていなければ、採用内定の時点で労働契約が成立すると解する。
(3) 本件では、平成23年8月11日に内定通知がなされ、Zはこれを受けて誓約書をY社に提出しているが、その他には入社までに労働契約の締結に関し特段の意思表示は予定されていなかったといえる。
 したがって、本件では、内定通知・誓約書送付の時点でY社とX1間に、効力始期付解約権留保付の労働契約が成立したというべきである。
2(1) 以上のように本件採用内定によってYX間に解約留保権付雇用契約が成立したと解した場合、本件採用内定取消の通知は、上記解約権に基づく解約申し入れと見るべきであるところ、本件における解約事由が、社会通念上相当として是認することができるものであるといえるかが次に問題となる。
(2)ア わが国の雇用事情に照らすとき、大学新規卒業予定者で、いつたん特定企業との間に採用内定の関係に入つた者は、このように解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入つた者の試用期間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべきである。
イ そこでさらに試用契約における解約権の有無及びその制約につきみるに、試用契約における解約権は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解される。そして、今日における雇用の実情にかんがみるときは、このような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができる。しかしながら、他方、雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき、留保解約権の行使は、上記のような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものと解すべきである。この理は、採用内定期間中の留保解約権の行使についても同様に妥当するものと考えられる。したがつて、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると、本件採用内定取消事由の中心をなすものは「Yはグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかつた。」というものである。しかしながら、グルーミーな印象であることは当初からわかつていたことであるから、Xとしてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたというべきである。これにもかかわらず、不適格と思いながら採用を内定し、その後当該不適格性を打ち消す材料が出なかつたので内定を取り消すということは、上記のように採用内定時において収集困難な判定資料を後日における調査観察により補完し最終的決定を留保するという解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきである。したがって、上記のような事由をもつて、本件誓約書の確認事項二、⑤所定の「その他の事由によつて入社後の勤務に不適当と認められたとき」という解約事由にあたるということはできない。

4 よって、Xの行った本件解約は無効であり、Yの労働契約上の地位の確認請求は認められる。


【答案】百選4事件 朝日放送事件(最判平成7年2月28日)

2012年04月14日 | 労働百選答案

1 Xに団体交渉応諾義務が生じるか否かは、Xが労組法7条の「使用者」に当たりXに同条2号の不当労働行為が成立するか否かによって決せられる。そこでこの点につき検討する。

2 一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。

3 これを本件についてみるに、確かに請負3社は、Xとは別個独立の事業主体として、テレビの番組制作の業務につきXとの間の請負契約に基づき、その雇用する従業員をXの下に派遣してその業務に従事させていたものであり、もとより、Xは上記従業員に対する関係で労働契約上の雇用主に当たるものではない。
 しかしながら、Xは、請負3社から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決定していた。また、請負3社は、単にほぼ固定している一定の従業員のうちだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたに過ぎない。さらに、Xの下に派遣される請負3社の従業員は、このようにして決定されたことに従い、Xから支給ないし貸与される器材等を使用し、Xの作業秩序に組み込まれてXの従業員とともに番組制作業務に従事していた。そして、請負3社の従業員の作業の振興は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、すべてXの従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていた、というのである。これらの事実を総合すれば、Xは、実質的に見て、請負3社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負3社と部分的とはいえ同旨できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったものというべきである。したがって、この限りにおいて、労働組合法7条にいう「使用者」にあたるものと解するのが相当である。

4 そうすると、Xは自ら決定することができる勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等に関する限り、正当な理由がなければ請負3社の従業員が組織するZ労働組合との団体交渉を拒否することができないものというべきである。これにもかかわらず、XはZ労働組合との安泰交渉を拒否したのであって、当該行為は、労組法7条2号の不当労働行為を構成するものというべきである。よって、