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【答案】平成21年度重判民法3事件 利息制限法制限超過利息過払金の返還請求権の消滅時効の起算点

2012年05月09日 | 重判民法答案

最高裁判所平成21年01月22日第一小法廷判決
(平成20(受)468 不当利得返還等請求事件)
(民集第63巻1号247頁)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=37212&hanreiKbn=01

【問題】
 Xは、貸金業者であるYとの間で、一つの基本契約に基づいて昭和57年(1982年)8月10日から平成17年(2005年)3月2日にかけて、継続的に借入れと返済を繰り返す金銭消費貸借取引を行った。借入れは、借入金の残元金が一定額となる限度で繰り返し行い、また、返済借入金債務の残額の合計を基準として各回の最低返済額を設定して、毎月行われていた。
 Xは、その結果、利息制限法を超える利息を支払い、よって過払金が発生したと主張して、平成19年(2007年)になって、不当利得の返還を求めてYを訴えた。これに対して、Yは、過払金発生時から10年を経過した部分については消滅時効が完成しているとして、時効を援用した。
 Yの主張は認められるか。

【答案】

 消滅時効の起算時は「権利を主張することができる時」から進行するところ(166条1項)、本件においてYは本件不当利得返還請求権については、過払金発生時が「権利を主張することができる時」であり、同時点から10年を経過した部分は消滅時効が完成している旨主張している。そこで、本件のような過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借において、消滅時効の起算時、すなわち「権利を主張することができる時」はいつかが問題となる。


 過払金充当合意においては、新たな借入金債務の発生が見込まれる限り、過払金を同債務に充当することとし、借主が過払金に係る不当利得返還請求権を行使することは通常想定されていない。
 そこで、一般に、過払金充当合意には、借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点、すなわち、基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし、それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず、これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解すべきである。
 そうすると、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり、過払金返還請求権の行使を妨げるものと解する。
 したがって、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、過払金返還請求権の行使について、上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り、同取引が終了した時点をもって「権利を主張することができる時」というべきであり、消滅時効は同時点から進行すると解するのが相当である。

 本件では上記と異なる合意が存在するなど特段の事情は存在しない。したがって、XY間における基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点から過払金請求権の消滅時効は進行するのであるから、Yの主張は認められない。