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日本アイ・ビー・エム(組合員資格)事件 東京高判平成17年2月24日 全文1/2

2012年03月31日 | 労働百選

平成17 年2 月24 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成15 年(行コ)第275 号不当労働行為救済命令取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判
所平成13 年(行ウ)第229 号)
平成16 年7 月8 日口頭弁論終結
判決
控訴人東京都労働委員会
披控訴人全日本金属情報機器労働組合
披控訴人全日本金属情報機器労働組合東京地方本部
披控訴人全日本金属情報機器労働組合日本アイビーエム支部
控訴人参加人日本アイ・ビー・エム株式会社
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は, 第1, 2 審とも被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
主文と同じ。
2 被控訴人ら
本件控訴を棄却する。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
控訴人参加人日本アイ・ビー・エム株式会社(以下「参加人」という。)は,従業員であ
るX1,X2 及びX3 の3 名(以下「X1 ら3 名」といい,各人については姓のみで表示する。)
が被控訴人全日本金属情報機器労働組合日本アイビーエム支部(以下「被控訴人支部」と
いう。)に加入したのに対し,同人らの組合員資格を認めず,①同支部が申請したX1 ら3
名の組合費のチェックオフを拒否し,② X1 の分会執行委員就任の撤回と役員名簿の訂正
を求め,③ X2 に対し「上級管理職としての職務と責任に反するような活動を行った場合
は相応の処分を行う。」と通告し,X3 に対し,「ストライキに参加すると処分の対象とな
りうる。」と口頭で通告した。被控訴人らは,参加人のこれらの行為が不当労働行為に当
たるとして,X1 ら3 名とともに控訴人に救済を申し立てた(以下「本件救済申立て」とい
う。)ところ,控訴人は,上記各行為はいずれも不当労働行為には当たらないとして申立
てを棄却する命令(以下「本件命令」という。)を発した。本件は,被控訴人らが本件命令
の取消しを求めた事案である。
原審は,参加人の上記各行為が不当労働行為にあたると判断して本件命令を取り消し,
請求を認容した。
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このため控訴人が控訴をした。
2 本件における前提となる事実,争点及び争点に関する当事者の主張の骨子は,原判決
事実及び理由の「第2 事案の概要」の1 ないし3 項に記載のとおりであるから,これを引
用する。
3 当審における当事者の主張
(控訴人)
(1)本件条項の解約の効力について
ア期間の定めのない労働協約は,労働組合法15 条所定の手続を経ることによって解約
することができるが,労働協約は集団的及び継続的労使関係を規律する特性を有する約定
であるから,恣意的で労使関係を損なう解約には,権利濫用の問題が生じ得る。また,労
働協約は通常は一体的な契約であるから,当事者は自己に不利な部分のみを解約すること
は許されず,学説上一部解約は特別の事情がない限り否定的に考えられている。
イ本件では一部解約のための前提条件を満たしていないと思われる。
(ア)スタッフ専門職の増加というような事態は,本件確認書締結の時点で,被控訴人支部
としてもある程度予測可能であり,組織維持は一般職からの加入により果たすべきものと
もいえ,いわゆる事情変更とは異なる側面を有しており,特別の事情としての事情変更は
認められない。
また,一般職の組合員の組合活動(本件確認書3 項)については未解決のままであるから,
労使関係の安定という意図が実現されたとは考えられない。
このような状況下においては,被控訴人支部の受ける不利益のみを過大に考慮すべきで
はなく,被控訴人支部が本件条項に拘束されることが労組法の趣旨に反し,著しく妥当性
を欠くということにはならない。
(イ)合意解約のための十分な交渉を行ったかについては,被控訴人らと参加人は相互に利
害が相反する問題を抱えている状況下で,相互に自己に不利な事項について消極的に対応
していたのであって,本件条項に関する協議が進まなかった理由は主として参加人の強硬
な態度にあったと断じるのは一方的に過ぎ,合理性を欠いている。
(ウ)本件条項の独立性についても,そもそも本件確認書は,組合員の職位と就業時間内組
合活動時間とが連動する構成を採っており,スタッフ専門職である主任と一般職の就業時
間内組合活動時間が異なり,専任以上であれば,更に異なる就業時間内組合活動が合意さ
れることも考えられる。本件条項の一部解約を認めると,本件確認書は全体として当初の
確認書の意義が消減してしまうことになりかねない。本件確認書における組合員資格と就
業時間内組合活動時間との関係は,密接に関連している。
(エ)以上のとおり,期間の定めのない労働協約の一部解約は原則的に許されず,事情変更
等の特別の事情の存する場合に限って許されることに鑑みれば,本件確認書の本件条項の
解約には,事情変更その他特別の事情が存在するとはいえず,有効に解約されたとはいえ
ない。
(2)本件不当労働行為の成否について
ア不当労働行為制度上,不当労働行為意思の存否は,不当労働行為と目される当該行為
が発生する前後の事情を勘案して推認されるべきである。参加人が参加人の見解を主張す
ることが許されないわけではなく,不当労働行為意思を推認する事実にあたるか否かは,
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その行為の内容,程度,時期などを考慮して総合的に判断する必要がある。不当労働行為
意思を基礎づける事実を吟味せず,本件各行為それ自体の存在が客観的に反組合的な行為
であると断定し,かつ,それのみで不当労働行為意思を認定するのは,誤っている。
イ控訴人は,本件命令において,本件各行為が発生した前後の労使関係の実情に即した
判断を行った。
すなわち,本件命令において,チェックオフ問題については,参加人が本件確認書につ
いて被控訴人支部の組織範囲ないし組合加入資格を定めたものと解して,チェックオフと
いう労使の合意に基づく便宜許与を拒んだとしても,本件労使関係上,公正さを欠いてい
るとまではいえない。また,参加人は,「部分解約」通告の効力を疑問視して,本件確認
書は1 項ロを含めて存続しており,X1 ら3 名のチェックオフ申請は,本件確認書に基づ
いてその取扱いを定めるべきであると主張しているのであるから,参加人がチェックオフ
申請に応じなかったとしても無理からぬものがある。また,他の本件各行為については,
参加人には不適切な対応も認められるが,チェックオフの判断と同様,本件確認書の一部
解約については双方の解釈に争いがあり,互いに自己の主張を維持し,正当であると主張
して,相手方を非難する態度を繰り返していた状況,及び上司の言動,文書の内容・程度
等を考察の上,参加人がX1 や同人の所属する分会に対し自己の見解を表明したことをも
って,直ちに被控訴人支部に対する支配介入にあたるとまではいえないと判断した。この
控訴人の判断に誤りはない。
前記のとおり,本件条項の解約は有効に成立したとはいえず,かつ,本件確認書の成立
は,中労委において労使の交渉や相互の譲歩の結果の和解と密接に関連するものであった。
また,本件条項の解約の前後,本件確認書に関して被控訴人支部と参加人との間では,本
件条項と一般職の就業時間内組合活動の問題で,相互に自己に不利となり得る懸案を抱え,
自己の主張を維持するため相手方を非難し合う状況にあった。上述の労使関係事情を考慮
すれば,不当労働行為が成立するとはいえない。
ウ仮に,本件条項の解約が有効と認められ得るとしても,本件確認書をめぐる被控訴人
らと参加人との労使関係の実情について,本件各行為が発生した前後においても,現実に
は被控訴人支部の一部解約の効力について,労使の見解が鋭く対立していた状況にあった。
したがって,本件支配介入の成否の判断は,支配介入の該当性を考慮するにあたって,本
件各行為の内容や程度,その時期などに加えて,本件条項の解約の法的な解釈の帰結は斟
酌されるとしても,上記の見解が鋭く対立していた状況を考慮して判断するのは当然であ
る。
本件条項の解約が私法上適法になされたか否か,また,その結果いかなる法的効果が生
ずるのかの問題にこだわり,当該労使関係の公正な形成維持を図るべく設けられた不当労
働行為制度の趣旨に反して,当該行為の外形や表面的,抽象的に観察するに止まり,本件
条項の解約が労使関係上不公正な形でなされたことを見落とし,その結果,不当労働行為
が成立すると判断するのは,当該労使関係の実情に配慮を欠くものである。
(参加人)
(1)本件条項の効力について
ア独立性の有無
(ア)専門職(主任×××部員以上)の組合員資格については,労使で見解を異にしているな
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かにあって,被控訴人支部は,主任×××部員への昇進と解決金の獲得を最大の眼目とし
て,ライン専門職及び専任以上のスタッフ専門職は非組合員とすることに合意し,他方,
参加人は,組合員と非組合員の線引きについて労使合意することやそれまでの無秩序な中
央執行委員の時間内労働組合活動を一定程度是正(主任×××部員の中央執行委員の時間
内労働組合活動については本件中労委和解で合意)して労使関係秩序の確立を図ることの
見返りとして,真の業績評価等には目をつぶって主任×××部員への昇進(その表裏とし
て,組合員の主任×××部員へ昇進した場合の組合員資格)と解決金の支払について合意
したのである。このように,被控訴人支部は,主任×××部員への昇進と解決金とのギブ
アンドテイクで,組合員の範囲について参加人と合意し,かかる合意を含む本件中労委和
解を成立させたのである。
本件中労委和解における勧告,覚書及び確認書は不可分一体のものとして成立しており,
本件条項を規定した上記経緯からすれば,本件条項が本件中労委和解における他の条項と
の関係で,いわゆるギブアンドテイクの関係にあることは明白であって,他の条項から独
立しているとはいえない。
(イ)組合員の範囲の問題が組合自治の問題であるとすれば,一且労使で合意した以上は,
組合が自ら決めた組合員の範囲を遵守すべきことは当然であって,そのことと組合自治と
は何ら矛盾するものではない。また,労働協約中,組合員の範囲を定める条項は,労働組
合と使用者との間の団体的労使関係に関する基本的ルールを定めるものとして債務的効力
を有し,労使双方が協約当事者として,互いにかかる条項を遵守する義務を負うことは当
然であるから,この意味で使用者に固有の利益があることは明らかである。また,労使は
労働協約に組合員の範囲を定めることによって組合員の範囲に関する無用の争いを防止し
て労使関係の安定・確保を図り,かかる条項を労使関係の礎ないし前提として,組合員の
労働条件について団体交渉等を行うほか,使用者はかかる条項を基礎として人事上の諸制
度の制定・変更及び具体的な人員配置等の労務管理を行うといった点をみても,使用者に
も労働組合がその構成員である組合員の範囲を明確にすることについての法律上及び実際
上の利益があるというべきである。
本件条項はそもそも組合員の範囲を定める条項であって,原則として本件中労委和解を
含むすべての労働協約の人的適用範囲を定めるものでもあるから,客観的にも他の条項と
の関係で独立性を有するものでないことは明らかである。
(ウ)本件条項の存在を論理的前提にして,本件条項によって非組合員とした「専任××
×部員以上のスタッフ専門職」が中央執行委員となった場合の取扱いについては定めてい
ないのであるから,本件確認書が全体として一体をなすものとして成立していることは客
観的に明らかであり,本件条項が本件確認書において独立性を有していないことは明白で
ある。
イ事情変更の存否について
(ア)事情変更による労働協約の全部又は一部の解約は,当事者が協約締結時に全く予見し
得なかった異常な事態が発生し,当該協約(その規定)を維持するのが社会通念上著しく不
相当な場合にのみ例外的に認められるべきであるが,本件はそのような場合に当たらない。
(イ)スタッフ専門職の専任の数及び比率が本件中労委和解当時に比較して大きく増加した
事実はない。また,参加人においては,現行の専門職制度を導入した昭和56 年1 月の時
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点から今日に至るまで,スタッフ専門職の専任以上の位置付けも職責も本件中労委和解当
時と何ら変更されていない。そもそも,職位に対応して権限と職責を付与することは参加
人の専権であるが,参加人は本件中労委和解によって定めた組合員の範囲を尊重して,職
位に対応した人事に関する権限と職責を明確に定め,これを変更していないのであるから,
組合員の範囲を変更すべき理由は全くない。
因みに,専任以上のスタッフ専門職の全社員に古める比率は,昭和57 年当時が約10.1%,
平成4 年当時は約14.2%であるが,他方で,その間,組合員の範囲に属する社員の人数は
約8000 名も増加(総数約1 万8000 名)していることを踏まえれば,専任以上のスタッフ専
門職の全社員に占める比率の上記程度の変化にことさら意味を持たせて,「これを維持さ
せることが客観的に著しく妥当性を欠く場合」に該当する事実であるなどということはで
きない。また,昭和57 年の本件中労委和解当時と本件一部解約予告当時を比較して,ラ
イン専門職のポストが減少したので,専任以上のスタッフ専門職の人数が増加したという
状況は全くない。
したがって,専任以上のスタッフ専門職の人数・比率を取り沙汰してみても,本件中労
委和解当時と本件一部解約予告当時を比較して大きな変化はなく,もとより専任以上のス
タッフ専門職の権限・職責に関して何らの意味も有しない。
(ウ)ファースト・ラインであるかセカンド・ラインであるかは,数え方の問題であって,
専門職の位置付け・権限・職責とは全く関係がない。
ウ労働協約を維持させることが客観的に著しく妥当性を欠くか
(ア)労働組合は,自ら定めた組合員の範囲において組合員を獲得すべきものであり,本件
においても,被控訴人支部は本件条項によって自ら定めた組合員の範囲において組合員を
獲得すべきである。被控訴人支部にとって本件条項に定める組合員の範囲を遵守したので
は被控訴人支部の組織維持に影響を及ぼしかねないなどという状況は存在しない。
(イ)中労委和解は,労使双方に条項の履行を求めるものであるにもかかわらず,被控訴人
支部のみがその履行に不誠実であるという状況において,事情変更と評価しうる事実がな
くとも一部解約が可能とする根拠は,論理的にも実質的にもない。
(ウ)労使双方とも,組合員の範囲に関して上記の合意をするについては,当時,専任以上
のスタッフ専門職の数・比率がどうであるかとか,主任や専任の職責がどうであるかとい
ったことについて議論したことはなく,もとより,本件中労委和解の締結後,比率が何%
になったら組合員の範囲を見直すといった話も一切していない。したがって,本件中労委
和解成立後,仮に専任以上のスタッフ専門職の数及び比率が増加していたとしても,その
ようなことがらは,本件中労委和解の成立過程及び成立時に何ら問題とされていない事項
であり,そのような事項が事情変更又は「これを維持させることが客観的に著しく妥当性
を欠く場合」に該当する事実とされる道理もなく,専任以上のスタッフ専門職の数及び比
率を取り沙汰すること自体,失当である。
エ一部解約に至るまでの交渉について
(ア)参加人は,本件中労委和解をすべて誠実に履行したが,これに反して,被控訴人支部
は本件中労委和解のうち被控訴人支部にとって利益なことのみを享受する一方で,被控訴
人支部にとって不利益な「一般職の中央執行委員の時間内組合活動の正常化」については,
参加人が再三にわたって申入れを行ったにもかかわらず,真面目に協議をしようとしなか
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った。
(イ)本件中労委和解の当時,労使双方とも将来その一部解約など全く予期しておらず,そ
の後もおよそ事情変更に当たる事実など全く存しない上,被控訴人支部は本件確認書3 項
を未解決のままにしているのであるから,参加人が本件条項についてのみの一部解約に応
じなければならない理由はない。
(ウ)参加人は,平成5 年1 月30 日の時点で,被控訴人支部に対し,解約予告を撤回しな
い限り,組合員の範囲の線引きの話にはならないことを示しているのであって,組合員の
範囲の問題についての話合いがされなかったのは,被控訴人支部が解約予告を頑なに撤回
せず,話合いの機会を持とうとしなかったためである。
(エ)本件条項は,組合員の範囲を定めた労使合意として有効なものであるから,被控訴人
支部が本件条項を含む中労委和解をないがしろにするような主張を貫いたことのみに問題
があった。参加人の対応を強硬な態度などと断じるのは,論理性に欠け,著しく偏頗であ
る。
オ全部解約との比較について
(ア)本件中労委和解に至る前記経緯からすれば,被控訴人支部が本件中労委和解のうち,
自分たちが目的としていた主任×××部員への昇進(その表裏として,組合員の主任××
×部員へ昇進した場合の組合員資格)と多額の解決金を得ておきながら,一般職の中央執
行委員の時間内組合活動の取扱いを未解決のままとし,その上さらに本件条項のみを解約
することなど,まさしく「つまみ食い」であり,かつ,得るものだけ得たあとに合意を反
故にするという信義にもとる行為にほかならないのであって,到底許されるはずがない。
(イ)本件について,本件中労委和解の一部解約が許されるのであれば,労使が労働委員会
において和解をする意味など全くないといっても過言ではない。労使関係の安定を考えれ
ば,この点でも本件一部解約予告について穏当な手段という余地はない。
(2)参加人の不当労働行為意思について
本件各行為が客観的に不当労働行為に当たらない以上,参加人に不当労働行為意思がな
いことは明らかである。仮に本件一部解約予告が有効としても,不当労働行為意思の有無
は,当該行為が行われた時点に立って,その状況の下で判断されるべきものであって,事
後的に顧みて判断するものではない。本件各行為は,参加人が本件中労委和解を尊重・遵
守し,X1 ら3 名が組合員資格を有しないという認識に基づき,被控訴人支部らに対し,
本件中労委和解の誠実履行を求めた結果にほかならず,しかも,被控訴人支部の理不尽な
行為に対して筋を通した当たり前の対応をしたまでであって,参加人には,被控訴人支部
を弱体化させる意図はもとより,反組合的な結果を生じ,または生じさせるおそれがある
ことの認識・認容も全くなかった。
(3)X1 ら3 名の利益代表者性について
X1 ら3 名等専任以上のスタッフ専門職が「ライン専門職の人事権行使を助言等する立
場にあり,人事上の計画と方針に関する機密の事項に接する機会を有する」という地位に
あることは明白である。仮にX1 ら3 名がこれまでかかる地位に基づいて,現実にライン
専門職の人事権行使を助言等したり,人事上の機密事項に接したことがなかったとしても,
それはX1 ら3 名が置かれている地位を否定するものではない。
(被控訴人ら)
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(1)組合員範囲条項の効力について
ア組合員の範囲について使用者に国有の利益が存在しないにもかかわらず,組合員の範
囲条項だけの一部解約は原則として認められないとすれば,使用者に固有の利益を認める
結果になる。組合員の範囲について使用者の固有の利益が認められないのであれば,当該
部分についての労働協約の一部解約に関して,一般の労働協約の一部解約と同様の厳格な
要件を課すことは不当である。組合員の範囲条項について,使用者の固有の利益がなく,
労働組合が自主的に決定できる以上,本件条項を解約しても,使用者の利益を侵害するこ
とはなく,許されると解すべきである。
イ組合員の範囲の問題は組合自治の問題であって,使用者の固有の利益が存在しないの
であるから,そのことを組合が使用者に対して約束して相互に拘束するという関係自体が
そもそも成り立ち得ない。また,憲法28 条,労働組合法2 条,7 条などの諸規定に鑑み
て,使用者がこの問題に容喙することは許されない。したがって,組合員の範囲を画した
文言の労働協約の解釈としては,その文面どおりの法的効力を認めることは妥当ではなく,
当該労働協約の適用を受けるべき組合員の範囲を画したものと解すべきである。したがっ
て,労働協約があっても,組合員の範囲について使用者が不当に介入することは,一部解
約を論じるまでもなく,不当労働行為にほかならない。
(2)一部解約の有効性について
ア組合員の範囲をどうするかということと,中央執行委員の就業時間内組合活動時間と
は実際には関連を有していないし,参加人も都労委や原審の審理の中でそのような主張は
してこなかった。また,組合員の範囲が専任以上か,主任までかによって,主任組合員の
就業時間内組合活動時間や別途協議することとした一般職の条項について取扱いが変わる
という関係ではなかった。したがって,本件条項は本件確認書において独立性を有してい
る。
イ10 年前においては予想できなかったが,今日では専任以上のスタッフ専門職に対し
て退職勧奨,退職強要が行われている。この専任以上のスタッフ専門職が労働組合に団結
することを阻止することは,労組法の趣旨に反して著しく妥当性を欠いている。
ウ被控訴人支部は,平成3 年12 月以降,参加人に対し,ねばり強く本件条項の見直しに
ついて交渉を申し入れ,協議をしてきた。また,一般職の組合活動時間についても協議を
拒否したことはない。これに対し,参加人は一貫して見直しはあり得ないとの態度をとっ
ており,本件一部解約の前後を通じて,実質的な協議に応じていない。
エそもそも組合員は一般職に限るとされていた参加人の取扱いを本件確認書で変更した
のであるから,将来,また変更される可能性があることは誰もが予測できる。また,主任
や専任などの会社の人事組織制度を前提として合意したものであるが,その前提となる人
事制度自体が5 年,10 年で変更される可能性は十分にある。したがって,本件条項が分
別して扱われることがあり得ることは当事者双方は十分に予想できたし,予想するのが合
理的である。
オ以上のとおり,本件の場合には一部解約を例外的に認める事情が備わっている。本件
条項については,確認書を定めて,組合が見直しを提案するまで約9 年が経過している。
この間は確認書どおり,主任までを組合員として組織してきた。しかし,この10 年間に
組織変更が行われて,専任以上のスタッフ専門職も増加し,また,役割も変わり,主任と
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大差のない専任も増加している。10 年近く経過した場合には,本件条項の見直、しをす
るのは極めて当然である。それにもかかわらず,参加入は,確認書を締結したという一点
で頑なに見直しについての実質的協議を拒み,あくまで見直しを拒否している。このよう
な状態は労組法の趣旨に反したものにほかならず,一部解約は有効と認められるべきであ
る。
(3)不当労働行為意思に関する控訴人・参加人の主張に対する反論
ア支配介入が不当労働行為として成立するために要求される不当労働行為意思とは,直
接に組合弱体化ないし反組合的行為に向けられた積極的意図であることを要せず,その行
為が客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じ,または生じるおそれがあることの
認識,認容があれば足りると解すべきである。
イ本件各不当労働行為は,「行為の内容,程度,時期,場所,機会,動機,組合員に対
する影響力など,当該行為の前後の情況を総合して判断」したとしても,不当労働行為意
思に基づくものであることは明白である。参加人や管理職らのX1 ら3 名に対する本件各
言動等は,処分の威嚇や恫喝など組合員として行動した場合に加えられる不利益処分,制
裁を含むものであって,そうした内容からして単なる「見解」の表明などではあり得ない。
ウ組合員の範囲をどのようにするかという労働組合が自主的に決定すべき事柄に介入す
ること自体不当労働行為(支配介入)に他ならないのであって,参加人はそのような意思を
もって前記各行為に及んでいるのである。
被控訴人支部は,本件一部解約を通告する文書の中でも,本件条項は単に労働協約の適
用を受けるべき人的範囲についての合意にすぎない旨を明確に指摘し,その後都労委への
不当労働行為救済申立以前の労使交渉の中でも,このことを再三にわたって参加人に指摘
していた。したがって,この点につき参加入は法的解釈を十分認識していたのであり,本
件命令が擁護するような参加人が解釈した無理からぬ事情は,何ら存在しなかった。
さらに,本件命令の論理に従えば,使用者が何らかの「根拠」を持ってそれが不当労働
行為に該当しないと信じ込んでいる「振り」をすれば,如何に露骨な支配介入であっても,
「当時会社に不当労働行為の認識はなかった」として免責されることになるが,これが不
当な結果であることは論を待たない。