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労働40事件 労働時間の概念―三菱重工長崎造船所事件

2012年03月13日 | 労働百選

労働40事件 労働時間の概念―三菱重工長崎造船所事件

http://www.mhi.co.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%8F%B1%E9%87%8D%E5%B7%A5%E6%A5%AD
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%8F%B1%E9%87%8D%E5%B7%A5%E6%A5%AD%E9%95%B7%E5%B4%8E%E9%80%A0%E8%88%B9%E6%89%80
三菱重工業株式会社(みつびしじゅうこうぎょう、英: Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.)は、日本の企業。
三菱重工業株式会社
Mitsubishi Heavy Industries, Ltd. 

Mitsubishi heavy industries building konan minato tokyo.JPG
品川グランドコモンズの一角にある三菱重工ビル(本社)
種類 株式会社
市場情報 東証1部 7011 1950年5月29日上場
大証1部 7011 1950年5月29日上場
名証1部 7011 1950年8月上場
福証 7011 1952年1月上場
札証 7011 1950年6月上場
 
略称 三菱重工・重工・MHI
本社所在地  日本
〒108-8215
東京都港区港南二丁目16番5号
設立 1950年(昭和25年)1月11日
(中日本重工業株式会社)
業種 重工業、航空宇宙産業、軍需産業
事業内容 機械、建設機械、航空機、船舶、防衛機器の製造・販売
代表者 大宮 英明(代表取締役社長)
資本金 2656億0878万1千円
発行済株式総数 33億7364万7813株
売上高 連結:2兆9038億円
単独:2兆1885億円
営業利益 連結:1012億円
単独:627億円
純利益 連結:301億円
単独:106億円
純資産 連結:1兆3127億円
単独:1兆1283億円
総資産 連結:3兆9890億円
単独:3兆4547億円
従業員数 単独:34,139人
決算期 3月31日
主要株主 野村信託銀行(退職給付信託三菱東京UFJ銀行口)3.72%
明治安田生命保険2.3%
東京海上日動火災保険1.4%
主要子会社 三菱農機(株) 85.8%
三菱日立製鉄機械(株) 65.7%

 


http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=62775&hanreiKbn=02
事件番号 平成7(オ)2030
事件名 賃金請求事件
裁判年月日 平成12年03月09日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 集民 第197号75頁
原審裁判所名 福岡高等裁判所
原審事件番号 平成1(ネ)193
原審裁判年月日 平成7年04月20日
判示事項 
一 労働者が始業時刻前及び終業時刻後の事業場の入退場門と更衣所等との間の移動に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当しないとされた事例
二 労働者が終業時刻後の洗身等に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当しないとされた事例
三 労働者が休憩時間中の作業服及び保護具等の一部の着脱等に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当しないとされた事例
裁判要旨 
一 労働者が、就業規則により、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、終業後に更衣等を行うものとされ、また、使用者から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられ、右装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされていた造船所において、始業時刻前に入退場門から事業所内に入って更衣所等まで異動し、終業時刻後に更衣所等から右入退場門まで移動して事業所外に退出した場合、右各異動は、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができず、労働者が右各移動に要した時間は、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間に該当しない。
二 労働者が、就業規則により、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、終業後に更衣等を行うものとされ、また、使用者から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられていた造船所において、終業時刻後に手洗い、洗面、洗身、入浴を行い、洗身、入浴後に通勤服を着用した場合、右労働者が、使用者から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗身等を行うことを義務付けられてはおらず、特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったという事実関係の下においては、右洗身等は、これに引き続いてされた通勤服の着用を含めて、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができず、労働者が右洗身等に要した時間は、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間に該当しない。
三 労働者が、就業規則により、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、午前の終業については所定の終業時刻に実作業を中止し、午後の始業に間に合うよう作業場に到着し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものとされ、また、使用者から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられていた造船所において、午前の終業時刻後に作業場等から食堂等まで移動し、現場控所等において作業服及び保護具等の一部を脱離するなどし、午後の始業時刻前に食堂等から作業場等まで移動し、脱離した作業服及び保護具等を再び装着した場合、労働者が休憩時間中の右各行為に要した時間は、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間に該当しない。
参照法条 労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)32条
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319130804314050.pdf

           主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。    
            理    由
 上告代理人松本建男、同在間秀和、同竹下政行、同中島光孝、同鈴木宏一、同仙
谷由人、同有馬毅、同美奈川成章の上告理由第一について
 一 労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時
間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令
下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が
使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に
定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定
されるべきものではないと解するのが相当である。
 二 原審の確定したところによれば、(一) 昭和四八年六月当時、上告人ら(
上告人A1の関係においては、以下、同上告人訴訟被承継人A2のことを上告人と
いう。)は、被上告人に雇用され、L造船所において就業していた、(二)右当時、
被上告人のL造船所の就業規則は、上告人らの所属する一般部門の労働時間を午前
八時から正午まで及び午後一時から午後五時まで、休憩時間を正午から午後一時ま
でと定めるとともに、始終業基準として、始業に間に合うよう更衣等を完了して作
業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、午前の終業につ
いては所定の終業時刻に実作業を中止し、午後の始業に間に合うよう作業場に到着
し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定め、さらに、
始終業の勤怠把握基準として、始終業の勤怠は、更衣を済ませ始業時に体操をすべ
く所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準として判断する旨
定めていた、(三) 右当時、上告人らは、被上告人から、実作業に当たり、作業
- 1 -
服のほか所定の保護具、工具等(以下「保護具等」という。)の装着を義務付けら
れ、右装着を所定の更衣所又は控所等(以下「更衣所等」という。)において行う
ものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就業
を拒否されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があ
った、(四) 上告人らは、昭和四八年六月一日から同月三〇日までの間、(1)
 午前の始業時刻前に、① 所定の入退場門から事業所内に入って更衣所等まで移
動し、② 更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、
(2) 午前の終業時刻後に作業場又は実施基準線(被上告人が屋外造船現場作業
者に対し他の作業者との均衡を図るべく終業時刻にその線を通過することを認めて
いた線)から食堂等まで移動し、また、現場控所等において作業服及び保護具等の
一部を脱離するなどし、(3) 午後の始業時刻前に食堂等から作業場又は準備体
操場まで移動し、また、脱離した作業服及び保護具等を再び装着し、(4) 午後
の終業時刻後に、① 作業場又は実施基準線から更衣所等まで移動して作業服及び
保護具等を脱離し、② 手洗い、洗面、洗身、入浴を行い、また、洗身、入浴後に
通勤服を着用し、③ 更衣所等から右入退場門まで移動して事業所外に退出した、
(五) 上告人らは、被上告人から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗
身を行うことを義務付けられてはおらず、また、特に洗身をしなければ通勤が著し
く困難であるとまではいえなかった、というのであり、右事実認定は、原判決挙示
の証拠関係に照らして首肯するに足りる。
 三 【要旨一】右事実関係によれば、右二(四)(1)①及び(4)③の各移動
は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができないから、各上告
人が右各移動に要した時間は、いずれも労働基準法上の労働時間に該当しない。ま
た、上告人らは、被上告人から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗身等
を行うことを義務付けられてはおらず、特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難
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であるとまではいえなかったというのであるから、上告人らの洗身等は、これに引
き続いてされた通勤服の着用を含めて、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評
価することができず、各上告人が右二(四)(4)②の洗身等に要した時間は、労
働基準法上の労働時間に該当しないというべきである。他方、上告人らは、被上告
人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられていたなどと
いうのであるから、右二(四)(1)②及び(4)①の作業服及び保護具等の着脱
等は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、右着脱等に要
する時間は、それが社会通念上必要と認められる限り、労働基準法上の労働時間に
該当するというべきである。しかしながら、【要旨二】上告人らの休憩時間中にお
ける作業服及び保護具等の一部の着脱等については、使用者は、休憩時間中、労働
者を就業を命じた業務から解放して社会通念上休憩時間を自由に利用できる状態に
置けば足りるものと解されるから、右着脱等に要する時間は、特段の事情のない限
り、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえず、各上告人が右二(四)(2)
及び(3)の各行為に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえ
ない。以上と同旨の原審の判断は、是認するに足りる。論旨は、違憲をいう点を含
め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見
解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯する
に足り、右事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として
是認することができる。原判決に所論の違法はなく、所論引用の各判例は、事案を
異にし本件に適切でない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認
定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用す
ることができない。
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 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井
正雄 裁判官 大出峻郎)
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労働39事件 退職年金の減額ー松下電器産業(年金減額)事件その3

2012年03月13日 | 労働百選

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件契約の申込みをする時点において本件規程の存在を認識していたのであり,
被控訴人ら会社を退職する前であっても,その後であっても,本件規程の内容を容易に知ることができたところ,控訴人らは,それまでの好景気,不況等という社会経済面での経験を有していたことからすると,既受給者である控訴人らにとって本件給付利率改定の予測可能性がなかったということはできない。③についても,上記のとおり,同文言が一義的に明確であるとまではいえないが,「将来,経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合は,」と厳格な要件を規定していること,本件改廃規定による本件給付利率改定の要件を事前に一律に決定することは不可能であり,本件改廃規定による本件給付利率の改定をするにあたっては,本件給付利率の改定をする必要性と改定後の本件給付利率の相当性という要件が要求され,双方の要件が満たされるのであれば,本件利率改定は有効と評価されると解するのが相当であるから,この点をもって,本件改廃規定による本件給付利率の改定が信義則等に反するということはできない。④については,控訴人らとしては,本件契約を締結するに当たり,退職金を自分で運用するか本件制度を利用するかについて,その自由な選択によってこれを決定できたのであるから,その時点において被控訴人が優越的地位を有していたということはできない。また,本件改廃規定が存在するからといって,上記のとおり,被控訴人が何らの制限を受けることもなく自由に本件規程の内容を変更することが許されないことは当然のことであるから,本件改廃規定の存在が被控訴人の優越的地位を根拠づけるものではないというべきである。よって,この点に関する控訴人らの主張には理由がない。7以上のとおりであるから,本件改廃規定によって既受給者との間においても,本件給付利率の改定をすることは許されるというべきである。なお,控訴人らは,本件利率改定に先立ち,被控訴人が既受給者の個別同意を求め,当初の回答期間を延長してまで,既受給者の個別同意を得ようと

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していたことからしても,本件改廃規定による本件利率改定が許されないも
のであることは,被控訴人自身認識していたと主張する。そして,乙38ないし乙41によると,控訴人らの主張する上記事実が認められるのであるが,法律的には既受給者の個別同意なくして契約内容を変更できる場合であっても,紛争となることを回避するために契約相手方の個別同意を求めるということは,何ら不自然なことではないのであるから,被控訴人が上記のとおり既受給者の個別同意を求めたからといって,被控訴人自身,既受給者の個別同意がなければ本件利率改定ができないと認識していたと認めることはできない(甲15によると,被控訴人の労政グループが平成13年8月に作成した「雇用構造改革の推進にあたって」と題する文書には,本件福祉年金が被控訴人と個人との個別契約であり,既受給者の年金額を減額できるかどうかには法的疑義があって慎重な検討が必要である旨の記載があるが,この記載も,既受給者の個別同意がない限り本件利率改定ができないと被控訴人が認識していたことを示すものでないことは,その表現自体から明らかである。)。また,平成8年4月1日の労使合意により,平成9年3月21日以降の退職者につき本件給付利率を低くした際に,既受給者の本件給付利率を低くしなかったことは上記のとおりであるが,これも,上記と同様,既受給者との紛争を回避して,できるだけ穏便に本件制度の維持を図ろうとしたことによるものであると考えられるのであるから,この事実をもってしても,既受給者の個別同意がない限り本件利率改定ができないと被控訴人が認識していたと認めることはできない。Ⅲ本件利率改定が本件改廃規定の定める要件を満たすか否かについて1経済情勢,社会保障制度の大幅な変動について(1)括弧内に記載の書証及び弁論の全趣旨によると以下の事実が認められる。ア本件給付利率本件制度が開始された昭和41年から本件利率改定が行われた平成1

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4年までの約36年間についてみると,本件給付利率は,昭和41年か
ら平成9年3月20日までに本件契約を締結した者については年10%のままであり,平成9年3月21日以降の退職者は年9.5%,平成10年3月21日以降の退職者は年8.5%,平成11年3月21日以降の退職者は年7.5%とされたことは上記のとおりである。イ市場金利(運用利回り)の推移上記の間についてみると,貸付信託(5年)の年率は,昭和41年が7.32%であり,昭和48年までは7%台であったが,昭和49年から昭和51年までは8%台となり,いったん利率が低くなった後,昭和55年に8.4%となり,その後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成7年に1%台となり,平成8年には1%を割って,平成14年には0.05%となった。定期預金(1年)の年率は,昭和41年が5.5%であり,昭和49年,昭和50年は7%台となったが,昭和51年には6.75%となり,その後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成6年に1%台となり,平成8年に1%を割って,平成14年には0.04%となった。新発10年国債の年率は,昭和47年が6.91%であり,昭和49年から昭和59年まではほぼ7%台又は8%台であったが,昭和60年以降は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成14年には1.27%となった。(乙31,乙49)ウ貸出金利の推移上記の間についてみると,長期プライムレート(銀行が最優良の企業に貸し付ける長期資金の金利)の利率は,昭和41年が8.4%であり,昭和48年までは概ね8%台であったが,昭和49年から昭和51年までは9%台となり,いったん利率が低くなった後,昭和55年に9.16%となり,その後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成13年に1%台となり,平成14年には1.94%となった。公定歩合は,昭和

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41年が5.48%であり,昭和48年までは4%台後半から6%台前
半の間で推移していたが,昭和49年に9%となり,その後は,昭和55年,平成2年ころに一時的に高くなったものの,低下し続け,平成6年に1%台となり,平成8年に1%を割って,平成14年には0.1%となった。(乙31,乙49)エ年金資産の運用利回りの推移上記の間についてみると,被控訴人厚生年金基金の運用利回りは,昭和53年が10.12%であり,昭和62年までは概ね9%から10%の間で推移していたが,昭和63年に8.65%となり,その後は,ほぼ一貫して利率が低下し続け,平成11年に一時的に14.82%まで上昇したが,平成12年にはマイナス10.6%まで低下し,その後はマイナスのまま推移し,平成14年にはマイナス12.3%となった。年金資金運用基金(公的年金)の運用利回りは,昭和61年が17.07%であり,その後は概ね0%から10%の間で推移していたが,平成11年に10.94%となった後,平成12年にはマイナス5.72%まで低下し,その後はマイナスのまま推移し,平成14年にはマイナス8.46%となった。厚生年金基金連合会の運用利回りは,昭和61年が11.11%であり,その後は一時的な上昇はあったものの概ね0%から10%の間で推移していたが,平成11年に11.29%となった後,平成12年にはマイナス9.83%まで低下し,その後はマイナスのまま推移し,平成14年にはマイナス12.5%となった。(乙34)オ利率引下げ,解散をする厚生年金基金の急増平成9年ころから給付利率の引下げや解散をする厚生年金基金が増え始め,平成12年ころからは急増している。解散数についてみると,平成7年ころまでは毎年1件あるかないかくらいであったのが,平成13

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年には59基金,平成14年には73基金,平成15年には92基金が
解散している。(乙36の1ないし4,乙37,乙49,乙50)カ現役従業員と既受給者との間の格差年金原資1330万円(受給者平均額),20年保証,85歳(60歳平均余命男女平均)まで受給するとの前提条件で,キャッシュバランスプランの下での現役従業員について,60歳から80歳(確定年金のため)までの間に受給する年金総額を試算すると1860万円となり,年金原資を超えて受給する金額(すなわち,本件基本年金の利息相当分と本件終身年金の合計額)は530万円にすぎない。これに対し,同一の前提条件で,本件制度下(本件利率改定前)の既受給者について,60歳から85歳までの間に受給する年金総額を試算すると,①本件給付利率が10%の者の場合には3800万円となり,年金原資を超えて2470万円を受給することができることになり,本件利率改定後(8%)でも,年金総額は3325万円となり,年金原資を超えて1995万円を受給することができることになり,②本件給付利率が7.5%の者の場合は3200万円となり,年金原資を超えて1870万円を受給することができることになり,また,本件利率改定後(5.5%)でも,年金総額は2750万円となり,年金原資を超えて1420万円を受給することができることになる。(乙48)キ本件基本年金の利息,本件終身年金にあたるものとして被控訴人が受給者に支給した額本件福祉年金として被控訴人が受給者に支給した年金額のうち,当該受給者の拠出した原資額を超える部分は,昭和55年に6億4000万円を計上し,その後は一貫して増額を続け,平成8年には76億5000万円,平成10年には101億2000万円,平成12年には117億6000万円,平成13年には128億8000万円となった。(乙

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13,乙44)
ク被控訴人の業績の推移(ア) 平成8年当時,我が国は,所謂バブル経済崩壊後の日本経済の長期低迷状態による影響下にあった。そして,被控訴人の属する電器製品業界において,中国を中心としたアジア諸国の台頭が著しく,例えば,ノートPCの世界生産に占める中国の比率は,平成12年は,殆どなかったのが,平成16年は,80%に,DVDのそれは,平成11年が15%であったのが,平成16年に66%に増大している。これら中国を中心としたアジア諸国の台頭の結果,製造原価の安い電器製品が日本市場に流通し,日本国内における主要商品の単価を年ごとに下落させる要因の一つとなっていった。また,このことは,被控訴人を含む国内の電子工業生産額の減少をもたらした。その生産額は,平成8年には約25兆円であり,その後一進一退を繰返し,平成12年には約26兆円であったが,平成13年には19兆円に,平成14年には約18兆円に減少している。(乙70ないし乙72)(イ) 上記の電器製品業界の状況に呼応するように,被控訴人の業績が悪化し,スタンダード&プアーズは,平成14年3月,被控訴人の格付を,前回「A+」であったのを「A」に格下げした。この格下げは,国内の家電製品需要が低迷する中,同社の高コスト構造,成長戦略の不透明さにより,同社が期待する収益力とキャッシュフロー創出力の回復が,同社の予想を上回る時間を要するであろうとの見解や,キャッシュフローで裏付けられる債務返済能力や事業への継続的な投資力が,以前の格付け水準に見合わなくなろうだろうとの見通しも反映された結果であった。(乙79)(ウ) 被控訴人の営業利益等は次のとおり推移していった。a売上高は,平成元年3月期の決算で4兆0746億円と4兆円台を超え,その後,年間4兆円台を上下し,平成13年3月期に4兆

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8318億円であったのが,平成14年3月期には3兆9007億
円と激減し,平成15年3月期には4兆2378億円となった。b営業利益率(売上高に占める営業利益の占める割合)は,昭和41年11月期に10.1%だったのが,平成元年3月期には3.5%,平成13年3月期には1.6%,平成14年3月期にはマイナス2.4%,平成15年3月期には1.2%となり,次第に低下してきている。(乙10の1,2)c平成14年3月期の決算において,約1324億円の赤字を計上した。なお,その前後の被控訴人の純利益は,平成12年3月期が約423億円,平成13年3月期が約637億円,平成15年3月期が約288億円であった。(乙10の1)d株主資本利益率は,昭和41年11月期に10.8%だったのが,平成元年3月期には8.0%,平成13年3月期には2.4%,平成14年3月期にはマイナス5.1%,平成15年3月期には1.1%となり,次第に低下してきている。(乙10の1)ケ括弧内に記載の書証及び弁論の全趣旨によると,上記のような経済状態の中で,被控訴人が,雇用,賃金,退職金,年金等の各種制度について以下のとおりの見直しを行ったことが認められる。(ア) 地域限定社員制度の導入被控訴人は,高コスト体質の改善を掲げ,平成11年,春季労使交渉において,K労組に対し,貸金,賞与,福祉退職金,年金制度などの全面的な見直しを提案し,交渉を重ね,平成12年8月,地域限定社員制度(転居を伴う異動がない代わりに本給水準を1割ないし2割引き下げる制度)が導入され,被控訴人,主要分社,関係会社の従業員約7万8000人を対象に募集が行われ,約2万5000人がこれを選択し,該当者については約3万円から5万円,本給が引き下げられた。

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(イ) 特別ライフプラン等の実施
平成13年度に入って,新商品の開発増販を目指しながら,在庫削減,材料のコストダウン等のコスト削減の取組みを進め,更に,雇用構造改革の一環として早期退職者優遇施策(特別ライフプラン支援)が実施され,被控訴人,主要分社,関係会社の従業員約9万2500人を対象に募集が行われ,最終的に翌年3月末までに約1万1000人が退職した。同施策の実施に際し,被控訴人は退職者に対し,退職金に上乗せして,最大で年収の2.5年分相当(基準内賃金の40か月分)を支給した。また,同年末には,課長職以上の管理職の賞与について,同年の夏季賞与に比して15%の減額支給も行われた。(乙63ないし乙65)(ウ) 全社特別緊急経営施策の実施上記のとおり,平成14年3月期決算において,被控訴人が上場以来初の最終赤字を計上したことを受けて,同年には,全社特別緊急経営施策として,出張手当削減,超過勤務手当の割増率引下げ等が行われた。また,役員賞与ゼロ,役員年俸の30%以上のカット(役員の月次報酬は既に平成13年7月から20%カットされていた。),課長以上の管理職の年俸の10%ないし25%のカット,さらに労働組合員の賃金増額を凍結し半年の延期が実施されるなどした。(エ) 退職金制度,本件制度の抜本的見直し上記のとおり,被控訴人は,平成12年4月,被控訴人厚生年金基金の加算年金の給付利率を年7.5%から年5.5%に引き下げた。また,被控訴人は,平成14年4月,現役従業員に対する関係で本件制度を廃止し,同月1日付の退職者から,被控訴人厚生年金基金の加算年金の代わりに厚生年金基金第一加算年金(給付利率年5.5%,20年保証の終身年金)を,本件制度の代わりに厚生年金基金第二加

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算年金として市場金利連動型のキャッシュバランスプラン(終身年金
制度は採用されておらず,変動利率型で最長20年の確定年金であり,平成14年4月から当面年3.5%の給付利率で支給を開始している。)をそれぞれ導入した。その後,平成15年10月には,老齢厚生年金の代行返上に伴って,被控訴人厚生年金基金はK電器企業年金基金に組織変更され,厚生年金基金第一加算年金は企業年金基金第1年金(国債の利回りに連動する変動利率型の終身年金で,当面年2%の給付利率で支給を開始している。)に,厚生年金基金第二加算年金は企業年金基金第2年金に,それぞれ変更された。(乙68)(2)上記のとおり,被控訴人が,既受給者に対し,本件基本年金の利息相当分及び本件終身年金として支給する金額は年々増加している。そして,市場の貸出金利についてみると,長期プライムレートが,昭和41年に8.4%であったのに対し,昭和56年からほぼ一貫して低下を続けて,平成14年には1.94%となり,公定歩合も,昭和41年に5.48%であったのに対し,同じく昭和61年から低下を続けて,平成14年には0.1%と低下しており,本件基本年金の利息相当分に対する本件給付利率との間に大きい乖離が生じており,本件制度に関する被控訴人の負担は年々増大してきていると認めるのが相当である。また,市場での運用利回りについてみると,上記のとおり,貸付信託(5年)が,昭和41年に7.32%であったのに対し,昭和56年から低下を続けて平成14年には0.05%となり,定期預金(1年)が,昭和41年に5.5%であったのに対し,昭和52年から低下を続けて,平成14年には0.04%となり,新発10年国債についても,昭和47年に6.91%であったのに対し,昭和60年以降はほぼ一貫して低下を続けて,平成14年には1.27%となったというのであるから,控訴人らにとって,本件給付利率は,昭和41年当時であれば,市場での運用利回

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りより2.68%ないし4.5%高い運用利回りであったのが,平成14
年には市場での運用利回りより8.73%ないし9.96%高い利回りで運用していることになり,自分で退職金を運用した場合には到底得ることのできないような高利率での利息を取得しているということになる。他方,被控訴人の営業利益率についてみると,上記のとおり,本件制度の開始時には10.1%であったのに対し,平成13年3月期には1.6%に低下し,平成14年3月期にはマイナスとなったのであり,株主利益率についても,同様に大幅な減少がみられ,このような経済情勢の中で,被控訴人は,現役従業員の労働条件の低下を余儀なくされ,さらには,現役従業員との関係で本件制度を廃止し,本件給付利率よりはるかに低い利率での年金給付制度を導入したのであるから,本件福祉年金の既受給者と被控訴人ら会社の現役従業員との間には,年金の受給額等につき極めて大きな格差が生じていると判断される。従来と比較して市場での運用利回りが大幅に低下しているにもかかわらず,控訴人ら既受給者が何ら変わることなく上記のとおり極めて高利率での利息を取得することができるのは,被控訴人の存続と被控訴人ら会社の現役従業員の労務提供があってのことであり,そうであるとすると,上記のとおり,被控訴人の営業利益率が低下し,被控訴人ら会社の現役従業員の年金受給額との大幅な格差が生じている状況のもとで,控訴人ら既受給者の利益のみを維持し続けるということは,公平の観点からみても妥当な結論であるとはいい難い。また,これらの被控訴人をとりまく経済情勢,社会保障制度は,被控訴人に特有なものではなく,貸付信託等の運用利回りの低下を受けて,上記のとおり,年金資金運用基金や厚生年金基金連合会の運用利回りも大幅に低下しており,給付利率の引下げや解散をする厚生年金基金が急増しているというのである。そして,以上のことに,本件制度は,未だ公的な社会保障制度の整備が

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不十分であった時代に,従業員の退職後の生活の安定を図り,退職金の運
用先を提供する趣旨も含め,市場金利よりも若干有利な給付利率による年金を長期間に渡って継続的に支給し続けるということを目的とするものであり,現に,昭和41年に本件制度が発足した際の給付利率10%は,当時の長期プライムレート年8.4%よりも若干高めの利率であったことを総合すると,被控訴人において,控訴人らを含む既受給者に対し,従来と同率の本件給付利率を維持しながら本件福祉年金の給付を行うことが困難となるような経済情勢の変動があったと認めるのが相当である。また,被控訴人ら会社の現役従業員に対して予定されている年金の受給額は,本件福祉年金の既受給者との間で大きな格差が生じているというのであるから,そのことからすると,社会保障制度についても,被控訴人ら会社の現役従業員との関係で大幅な変動が生じていると認めるのが相当である。なお,平成16年度以降は,受給者の減少により,被控訴人が填補すべき額も年々減少することが予測されるのであるが(乙45),受給者の減少が生じるのは,被控訴人が現役従業員に対する関係で本件制度を廃止したことが原因であり,しかも本件制度を廃止した結果,現役従業員と既受給者との間に,年金原資を超えて受給できる金額について著しい格差が生じることが上記のとおりであるとすると,このことは,経済情勢,社会保障制度に大幅な変動があったという結論に影響を及ぼすものではないというべきである。(3)この点に関する控訴人らの主張について検討する。ア控訴人らは,本件規程が平成8年に改定され,その後に退職する従業員については本件給付利率が変更されたことから,それ以前に退職した従業員については本件給付利率を変更しないという決定がされたとして,そのような退職者については平成8年を比較の基準時とすべきであり,平成8年より後に退職した従業員についてはその退職時である本件契約

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締結時を比較の基準時とすべきであると主張する。
しかし,平成8年にされた本件規程の改定は,その時点における経済情勢の変動に鑑み,その後に退職する従業員については,本件給付利率を引き下げるということを内容とするものであったにとどまると考えられるのであり,それ以前に退職した従業員の本件給付利率が相当であるからこれを変更する必要性はないとの積極的判断がされたことを認めるに足りる証拠はない。また,上記改定により,平成9年3月21日以降の退職者については年9.5%,平成10年3月21日以降の退職者については年8.5%,平成11年3月21日以降の退職者については年7.5%と給付利率が改定されたのも,その当時の客観的情勢から適切と判断される給付利率を決定した訳ではなく,本件制度をできる限り従来と同一内容で維持するという方針,退職時期のわずかな違いで年金額が大幅に変更されるのも相当でないとの判断のもとに,段階的に給付利率を減らしていったににすぎないと認めることができる。したがって,上記控訴人らの主張は採用することができない。さらに,上記(1)(2)認定事実によれば,平成8年以降の出来事だけをとってみても,本件改廃規定が定める経済情勢,社会保障制度に大幅な変動があったということができる。イ控訴人らは,経済情勢,社会保障制度の大幅な変動には,被控訴人に関する経済情勢等の変動は含まれない旨主張するが,上記認定の被控訴人の営業状態の悪化等は,被控訴人固有の原因で発生したわけではなく,国内及び国際情勢の影響もその大きい原因を与えていたのであるから,この点に関する控訴人らの主張は採用できない。また,控訴人らは,被控訴人の平成14年3月期の赤字決算は,事業構造改革費用や保有株式の評価損の計上という特別な要因によるものであり,被控訴人は,その後V次的な大幅回復をし,豊富な余剰金を有し

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ている旨主張する。そして,甲7の1・2,甲22によれば,被控訴人
の平成14年3月期の決算は,売上高の大幅減少や価格低下の影響を受け,営業損失929億円,経常損失424億円を計上し,特別損失として雇傭構造改革や国内事業・流通部門の再編に伴う事業構造改革の費用1305億円,保有株式の評価損815億円を計上し,その結果当期純損失は,税引前2541億円,税引後(法人税調整額の差引)で1324億円であったこと,平成15年3月期の決算では,営業利益528億円,経常利益801億円,税引前当期純利益885億円,税引後当期純利益288億円を計上し,平成16年3月期の決算では,営業利益469億円,経常利益1052億円(受取配当金が増加した。),税引後当期純利益594億円を計上したことが認められる。ところで,平成14年3月期の決算では,事業構造改革の費用1305億円,保有株式の評価損815億円を計上しているが,平成14年3月期の決算では,既に,営業損失929億円が発生しているのであり,このことに上記(1)ク,ケの認定事実を総合すれば,当時の被控訴人は,高コスト等が原因で,慢性的な赤字体質に陥っていたのであり,本件制度の見直しを含め,被控訴人の構造改革は避けて通れない事柄であったこと,そして,それを実行したこともあって,その後の年度で大幅な回復を示したと認めることができる(乙76)。また,乙77によれば,被控訴人の平成14年3月期の決算では,赤字決算ながら,資本金2587億円に対し,資本合計が2兆5533億円あることが認められるが,乙77,乙78の1・2に弁論の全趣旨を総合すれば,被控訴人の純資産あるいは利益剰余金の大半は事業資産や投資資産に姿を変えており,必ずしもキャッシュが存在するわけではないことが認めらる。したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。控訴人らは,その他,本件利率改定後の事情を種々主張するが,本件利率改定後の事情は,上記経済状況の変動

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に関する認定に影響を及ぼさない。
ウ控訴人らは,本件制度のための被控訴人負担額が今後減少していくのであり,また,本件利率改定をした場合としなかった場合との差額は被控訴人の事業規模からみると大きなものではないのだから,本件利率改定を行う必要性はないと主張する。しかし,上記のとおり,被控訴人の負担額が減少していくのは,本件制度を廃止したためであると考えられるのであるから,今後の被控訴人負担額の減少を本件利率改定の必要性を否定する理由にすることは相当でない。また,被控訴人は,経費の節減のためにさまざまの施策を講じているのであり,その一つ一つによる効果は大きなものではないとしても,それを総合することによって経費節減の効果を生じさせようとしていると考えられるのであるから,本件利率改定による経費節減の効果が被控訴人の事業規模と比較して大きなものでないとしても,そのことは本件利率改定の必要性の程度を減少させるものではないというべきである。エ控訴人らは,現役従業員との間に年金受給額の格差が生じるのは,被控訴人の労務政策の変遷がもたらした結果にすぎず,その格差が何らかの法的効果をもたらすわけではないと主張する。しかし,被控訴人の労務政策に変更があったのは,上記認定事実によると,被控訴人の経済状態を含む経済情勢の大幅な変動があり,また,被控訴人をとりまく社会保障制度に大幅な変動があったことによるものであると認められるのであるから,そのような労務政策の変更があったことこそ,それは本件利率改定の必要性を基礎づけるものというべきである。オ控訴人らは,既受給者もかつては老後の生活保障も励みにして労務を提供し,被控訴人ら会社の利潤蓄積に貢献したところ,本件基本年金の

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利息相当分の受給は,その労務の提供の成果に対する還元という側面も
有していること等を理由として,現役従業員との格差を問題とするのは不合理であると主張する。しかし,現役従業員も被控訴人の業績に貢献しているうえ,控訴人らは,本件利率改定により利率が低下してもなお,市中金利,特に,長期プライムレートを大きく上回っており,その分,本件制度による恩恵を受けていると考えられるのであり,控訴人らの上記主張は採用できない。カ控訴人らは,経済情勢の変動を示す指標として,消費者物価指数等も重要な指標となるところ,消費者物価指数は平成8年以降極めて安定していると主張する。しかし,このことを考慮にいれても,上記(1)(2)に認定指摘した諸事情が存するのであり,本件改廃規定が規定する経済情勢,社会保障制度に大幅な変動が存するとの認定判断を覆すことができない。(4)以上のとおり,本件改廃規定が規定する経済情勢,社会保障制度に大幅な変動が存することが認められる。もっとも,上記のとおり,被控訴人は,本件改廃規定が規定する要件が認められれば,自由に本件規程を改定できる訳ではなく,本件利率改定内容の必要性,相当性を必要とすることは,事柄の性質上明らかである。また,本件利率改定に当たり,本件制度は退職労働者の福祉政策の一環として労働組合との協議のうえ発足したものであるから労働組合に対し理解を求めることが必要であるし,また,本件年金受給者は退職して労働組合員ではないから,不利益を受ける本件年金受給者に対しても,本件利率改定に対し理解を求める努力をする等手続の相当性が必要である。以下,この利率改定内容の必要性,相当性,本件利率改定手続の相当性につき順次検討することとする。2本件利率改定の内容の必要性,相当性について

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上記1で認定したところによれば,被控訴人は,業績低迷の対応策として,
被控訴人従業員に「キャッシュバランスプラン」を導入し,当面年3.5%の給付利率での支給が開始されており,本件基本年金の既受給者の受給額と現役従業員が退職後に受給しうる年金額との間に大きい格差が生じていること,従業員や取引先にコストダウン施策の協力を要請し,株主に対する配当減少も余儀なくされている一方,本件制度にかかる負担額が増大し,いわば,これら現在の従業員,被控訴人の取引先や株主の犠牲のもと,本件給付利率が高率を維持しているといっても過言でないこと,また,利率引下げ,解散をする厚生年金基金が急増していること,さらに,金融市場における利率,特に,平成14年当時の長期プライムレートと比較すると本件制度の給付利率と大きくかけ離れていること,そもそも,本件制度は,未だ公的な社会保障制度の整備が不十分であった時代に,従業員の退職後の生活の安定を図り,退職金の運用先を提供する趣旨も含め,市場金利よりも若干有利な給付利率による年金を長期間に渡って継続的に支給し続けるということを目的とするものであり,現に,昭和41年に本件制度が発足した際の給付利率10%は,当時の長期プライムレート年8.4%よりも若干高めの利率であったこと等を総合すれば,本件制度による給付利率を一律2%程度引下げる必要性があったこと,そして,引き下げ後の利率は,本件制度への加入時期に応じて,年5.5%ないし8%であり,一般金融市場における利率に比べ,なお相当程度高い利率であること等も考えれば,控訴人らの利益を著しく損なうものではなく,本件利率改定は相当な範囲のものであったと認めることができる。(したがって,将来,市中金利が本件給付利率と同程度かこれより高くなった場合は,本件給付利率も高く改訂されることが予想される。)。3本件利率改定の手続の相当性について(1)本件利率改定に際して労使協議がされたことは当事者間に争いがなく,乙55及び括弧内に記載の書証によると,本件利率改定に対する同意を得

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るために,被控訴人が既受給者に対して行った説明会等の手続は以下のと
おりであり,これにより,被控訴人は,本件利率改定につき既受給者の94.6%の同意を得たことが認められる。ア書簡の送付被控訴人は,平成14年4月末ころ,既受給者に対し,①被控訴人において本件利率改定をするに至った背景,趣旨を伝えるとともに,既受給者の理解を求める内容の書簡を,被控訴人のL社長(以下「L社長」という。)名で送付した。書簡については,その後も,②本件給付利率を一律2%引き下げることについての既受給者の理解を求める内容の被控訴人のM副社長(以下「M副社長」という。)名の書簡,③本件利率改定後の年金額の試算,及び本件利率改定に対する同意を求める内容が記載され,同意用の葉書が同封された被控訴人の労政グループ名の通知,④本件経過措置についての説明,分社・事業場・地区別説明会(以下「事業場別説明会」という。)の案内等が記載されたM副社長名の書簡,⑤同意した既受給者に対するM副社長名の礼状,⑥不同意者に対して再度同意を求める内容が記載されたM副社長名の書簡が送付された。(乙38ないし乙42,乙55)イN会定期支部総会後の会社説明会被控訴人の人事責任者は,同年5月ころから,全国35地区で行われたN会(被控訴人ら会社の定年退職者(定年扱い退職者を含む。)の親睦団体である。)の定期支部総会後に,本件利率改定について既受給者に対し直接説明し,理解を求めた。(乙8,乙56,乙57)ウフリーダイヤルの設置被控訴人は,同年5月半ばころから,既受給者からの様々な質問や意見に対し個別に直接回答するために,フリーダイヤルを設置した。エ事業場別説明会

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被控訴人は,同年6月末ころから,全国延べ81地区において事業場
別説明会を実施し,本件利率改定について既受給者に対し直接説明し,理解を求めた。(乙58ないし乙62,乙66)(2)括弧内に記載の書証及び弁論の全趣旨によると,本件利率改定に際して,被控訴人が控訴人らに本件規程等を以下のとおり送付したことが認められる。ア本件利率改定に際し,控訴人らをはじめとする本件福祉年金の既受給者から,被控訴人に対し,各人が退職した当時の本件規程を見せて欲しいとの要望が寄せられた。そこで,被控訴人は,原本が現存するものについてはワープロで作成し直し,原本が現存しないものについては現存する本件規程,労使の協定書や答申書,各種の社内通達など現存する他の資料を参考にして原本の内容を再現し,また,復刻版を作成するなどした。この復刻版の作成に際しては,若干の文字や送りがなの変更等を行った。(乙3の1ないし5)イまた,昭和59年10月1日改定の際には,預入限度額が退職金の70%以内から50%以内に変更されたことなどとの関係から,労使協定により経過措置が設けられたところ,本件規程の記載のみからでは経過措置の内容を知ることができないので,経過措置の対象となっていた既受給者に送付されることになる昭和61年10月1日改定及び平成2年4月1日改定に係る本件規程の復刻版には,分かりやすさの観点から第5条に括弧書きで経過措置の内容を付け加えた。同様の取扱いは,平成8年4月1日改定の際の経過措置についても行っている。なお,分かりやすさのため,復刻版の作成に際しては,「昭和65年」などと表記せず,平成の元号を用いた。(乙3の2,4,5,乙19の2,乙20)ウそして,被控訴人は,平成14年9月17日,本件利率改定の対象となった全ての既受給者に対し,前提となる事実3(1)の新年金証書の発送

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の際,各人の退職時に存在していた本件規程の復刻版(本文と別表)と
本件利率改定に伴い改定した新しい本件規程の別表も同封して発送した。(乙3の1ないし5,乙21(枝番も含む。),乙55)(3)上記認定のとおり,被控訴人は,本件利率改定をするにあたり,本件規程の復刻版を作成するなどしてこれを既受給者に送付したうえ,N会定期支部総会後の会社説明会や事業場別説明会で既受給者に対し本件利率改定をするに至った経緯を説明して理解を求め,これにより,被控訴人は,既受給者の94.6%の同意を得たものであり,本件利率改定の手続の相当性も認めることができる。4以上のとおり,本件改廃規定に基づく,本件利率改定は,有効であり,その効力が生じたことが明らかである。第4結論以上の次第で,控訴人らの請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却し,控訴人らが当審で追加した請求も,理由がないのでこれを棄却し,当審における訴訟費用は,控訴人らの負担とすることとして,主文のとおり判決する。大阪高等裁判所第1民事部裁判長裁判官横田勝年
裁判官東畑良雄
裁判官植屋伸一

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(別紙省略)


労働39事件 退職年金の減額ー松下電器産業(年金減額)事件その2

2012年03月13日 | 労働百選

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平成18年11月28日判決言渡
平成17年(ネ)第3134号福祉年金請求控訴事件原審大阪地方裁判所平成15年(ワ)第4986号,同第10361号,平成16年(ワ)第3315号,同第7398号,同第9207号,同第10912号,平成17年(ワ)第2873号判決主文1本件控訴をいずれも棄却する。2控訴人らが当審で追加した請求をいずれも棄却する。3当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。事実及び理由第1本件控訴の趣旨1原判決を取り消す。2被控訴人は,別紙請求債権目録記載の各控訴人に,同目録の「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録①欄記載の金員に対する平成14年9月25日から,同目録②欄記載の金員に対する平成15年3月25日から,同目録③欄記載の金員に対する同年9月23日から,同目録④欄記載の金員に対する平成16年3月23日から,同目録⑤欄記載の金員に対する同年9月22日から,同目録⑥欄記載の金員に対する平成17年3月23日から,同目録⑦記載の金員に対する同年9月22日から,同目録⑧記載の金員に対する平成18年3月23日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。(上記請求金額のうち,別紙請求債権目録⑦,同⑧欄記載の金員とこれに対する遅延損害金の支払いを求める部分は,当審で追加された請求である。)3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。4仮執行宣言第2事案の概要

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Ⅰ事案の概要本件は,被控訴人が私的に運営する福祉年金制度に加入して被控訴人との間でそれぞれ年金契約を締結していた控訴人らが,被控訴人の行った年金支給額の減額は,上記各年金契約に違反し違法無効であり,被控訴人は減額前の年金額を支払う義務がある旨主張して,被控訴人に対し,上記各年金契約に基づき,減額前の年金額と既払額の差額の支払いを求めた事案である。原審は,控訴人らの請求を棄却した。控訴人らは,本件控訴をし,当審で支払期が到来した上記の差額分について,請求を追加した。Ⅱ前提となる事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認める事実である。)1当事者(1)控訴人らは,いずれも被控訴人又はそのグループ会社(以下「被控訴人ら」或いは「被控訴人ら会社」という。)に永年勤務し,既に退職した者であり,被控訴人との間で,被控訴人の福祉年金制度(以下「本件制度」という。)に基づく福祉年金契約(以下「本件契約」という。)を締結した者である。(2)被控訴人は,電気,通信,電子及び照明機械器具の製造,販売等を業とする株式会社である。2本件制度の沿革,目的,被控訴人の福祉年金の内容(1)被控訴人は,昭和41年1月21日,被控訴人ら会社の退職者を対象とした本件制度を創設した。これは,社員として永年勤務し退職した者の退職後の生活の安定を図る目的で,被控訴人の創業者であるAの発案のもとに創設された制度であり,平成14年4月に現役従業員との関係では廃止された。(2)被控訴人は,被控訴人の制定した福祉年金規程(以下単に「本件規程」

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という。)に基づいて本件制度を運営しているところ,本件規程によると,
被控訴人の福祉年金(以下「本件福祉年金」という。)の内容は,以下のとおり,基本年金(以下「本件基本年金」という。)と終身年金(以下「本件終身年金」という。)である。(本件規程第4条)ア本件基本年金(本件規程第2章(第5条ないし第13条))被控訴人ら会社の退職者は,その希望により,被控訴人の社員退職金規程に基づいて受け取った退職金(退職慰労金,退職加給金,特別慰労金)の一部を年金原資として被控訴人に預け入れ,被控訴人は,その預入金に一定の利率(以下「本件給付利率」という。)による利息を付け,年2回ずつ,一定の支給期間,これを退職者に支給する。これが本件基本年金である。年金原資として予定されているものは,退職金以外はなかった。本件基本年金は,預入金とこれに対する支給期間中の利息とを合算した額をもとにして,支給期間中の各支給日における支給額が均等になるように計算されており,被控訴人は,これを,毎年3月21日と9月21日(ただし,その日が公休日である場合には翌日が支給日となる。)の年2回支給する。なお,3月21日支給分は前年9月21日から当年3月20日までの半期分として,9月21日支給分は当年3月21日から9月20日までの半期分としてそれぞれ支給される取扱いとなっている。(甲1,甲6)イ本件終身年金(本件規程第3章(第14条,第15条))本件基本年金の受給が完了した後,受給者が死亡するまでの間は,たとえ預入金がなくなっても,本件基本年金の最終支給日における支給額と同額を1回の支給額として本件終身年金が支給される。(3)本件規程の23条1項は「将来,経済情勢もしくは社会保障制度に大巾(以下「大幅」と表記する。)な変動があった場合,あるいは法制面での

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規制措置により必要が生じた場合は,この規程の全般的な改定または廃止
を行う。」と,同条2項は「この規程の改廃は社長が行う。」とそれぞれ規定している(以下「本件改廃規定」という。)。本件改廃規定は,昭和41年の本件規程制定時から存在し,2項が「この規程は社長が改廃する」から「この規程の改廃は社長が行う」に変更された外は,その内容に変更はない。(乙19の5)(4)被控訴人は,本件制度に基づき,退職者から預かった年金原資を,社内の他の資金と区別して管理・運用することなく,事業資金に組み込み,本件制度に基づく年金は,事業資金から支出された。したがって,本件制度の運営によって生じる赤字分(利息相当分及び本件終身年金)は,被控訴人の事業収益から賄われていた。(5)本件制度の変遷等ア本件制度発足当時(昭和41年),預入限度額は,原則として退職金の70%であったが,受給資格者の希望があれば100%を預入れることができた。また,本件基本年金の給付利率は年10%とされた。イ昭和59年10月1日の本件規程の改定により,本件制度の預入限度額が,退職金の50%以内かつ2000万円以内とされた。ただし,経過措置が設けられた。ウ平成8年4月1日に本件規程は,次のとおり改定された。(ア) 預入限度額は,退職金の50%以内かつ1800万円以内の金額とし(ただし,経過措置が設けられた。),本件契約を締結するためには,K電器厚生年金基金(昭和53年6月設立,以下「被控訴人厚生年金基金」という。)の加算年金を100%年金選択した後預け入れることができるとされた。(イ) 本件基本年金の給付利率を,平成9年3月21日以降の退職者につ

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いては年9.5%,平成10年3月21日以降の退職者については年
8.5%,平成11年3月21日以降の退職者については年7.5%とし,その改定の効果は,本件契約の既受給者には及ばないこととされた。エなお,他に,控訴人らに支給される年金としては,①厚生年金保険法に基づく老齢厚生年金(国が支給。被控訴人厚生年金基金が設立後は,同基金が国を代行して支給),②退職金からの預入に基づく,被控訴人厚生年金基金から支給される加算年金(以下「本件加算年金」という場合もある。)が存在した。3本件給付利率の引下げ及びこれによる本件基本年金の減額支給(1)被控訴人は,控訴人らを含む既受給者について,平成14年9月21日の支給分(同年3月21日から9月20日までの半期分)から,従来の本件給付利率を一律2%引き下げる旨決定し(以下「本件利率改定」という。),同月12日,その旨記載された社長書簡を発送し,同月17日,新年金証書,計算書等を発送して,控訴人らを含む既受給者に通知した。(乙21(枝番も含む。),乙43,乙55)(2)本件利率改定には,経過措置(以下「本件経過措置」という。)が設けられていた。その内容は,満60歳未満で退職した既受給者については満60歳到達後の最初の支給分から本件利率改定後の本件給付利率を適用し,平成13年9月21日以降に退職した本件利率改定の直近の既受給者については,少なくとも一度は本件利率改定前の本件給付利率による本件基本年金を支給することにし,いずれにも該当する場合にはどちらか遅い新年金額の支給日から,本件利率改定後の本件給付利率を適用するというものであった。(乙59)4控訴人らの本件基本年金の減額(1)控訴人らと被控訴人との間においては,それぞれ,原判決別紙一覧表の

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「①年金証書」欄,「②契約年金額」欄,「③支給期間」欄に記載された
内容の本件契約が成立しており,各控訴人には,各支給日に本件契約に基づき同一覧表の「②契約年金額半期支給額」欄記載の金額の本件基本年金が支給されていた。なお,控訴人らは,その退職時期に応じて,本件給付利率は,7.5%ないし10%であった。本件利率改定の結果,控訴人らに適用される本件給付利率は,5.5%ないし8%となり,原判決別紙一覧表「⑤既発生の未支給額」欄記載の金員が減額して支給された。(2)本件利率改定による支給額の差額各控訴人についての,本件利率改定がなければ各支給日に支給されたであろう金額と,各支給日に実際に支給された金額との差額は,本判決別紙請求債権目録の①ないし⑧欄にそれぞれ記載のとおりであり,平成18年3月23日支給分までのその合計額は,それぞれ別紙請求債権目録の「請求金額」欄記載のとおりであるところ,被控訴人は控訴人らに対しこれらをいずれも支給していない。5訴訟承継(1)控訴人B(控訴人番号21)は,平成18年4月9日死亡し,その権利義務は相続により,妻のC(高槻市)と子のD(京都市),同E(高槻市),同F(高槻市)が承継し,本件訴訟の控訴人の地位も同人らが承継した。(2)控訴人G(控訴人番号94)は,平成18年8月13日死亡し,その権利義務は相続により,妻のH(愛知県)と子のI(愛知県),同J(愛知県)が承継し,本件訴訟の控訴人の地位も同人らが承継した。Ⅲ本件利率改定が許されるか否かに関する当事者の主張本件の争点は,控訴人らの同意なしに一方的に本件利率改定が許されるか否

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かであり,この点に関する当事者双方の主張は,原判決9頁6行目から同39
頁20行目までに記載のとおりであるからこれを引用する(ただし,原判決39頁14行目の「1兆9513億0800億円」を「1兆9513億0800万円」と改める。)。第3当裁判所の判断当裁判所も,本件利率改定の効果は,控訴人らに生じており,控訴人らの請求は理由がないと判断する。その理由は次のとおりである。Ⅰ本件規程が本件契約内容になっているか否か。1前提となる事実や後記2の本件規程の内容等によれば,本件制度は,退職者に対する福祉の実現という目的の下に,被控訴人ら会社の退職者の多数の加入者との間の反復,継続する契約関係が予定され,また,各加入者の年金額を平等かつ公平に決定するため,支給率,支給期間等が技術的な計算により算出されており,被控訴人において,多数の契約者一人一人から,各自の年金額の基礎となる支給率,支給期間の計算過程等を含む契約内容全てについて等しく理解を得ることは困難である。被控訴人がこのような性質を有する制度の運営者として,多数の反復,継続する契約関係と技術的な契約内容とを合理的,画一的に処理し,また,各加入者を平等かつ公平に取り扱うという目的のために,あらかじめ,私企業における福祉年金制度の規律として合理性を有する本件規程を定めて,各加入者との間の年金契約の内容を,本件規程によらしめることとしており,制度上,これが容認されていると解される。そして,上記目的に照らせば,本件年金の受給を希望する者は,本件規程に定められた制度内容を一括して承諾して契約を締結するか,又は一括して拒否して契約を締結しないか二者択一をする以外になく,被控訴人との間で,預入限度内で退職金からの預入額を決める以外は,個別的に本件規程の定め以外の内容の特約を締結することはできないというべきである。他方,被控訴人の方も,有資格者から本件規程に基づく申込みがあれば,これを拒絶することもできないといわなければならない。

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したがって,本件契約については,本件規程が本件制度の規律としての合理性
を有しており,しかも,本件制度を規律する規範として本件規程が存在し,申込者がこれの内容を知ろうとすれば知り得た状況にあれば(いわゆる周知性),控訴人らにおいて,本件規程の具体的内容を知っていたか否かにかかわらず,本件規程によらない旨の特段の合意をしない限り,本件規程に従うとの意思で年金契約を締結したものとするのが相当であり,本件規程は,本件契約の内容となっていると解される。そして,本件規程には,後記2の本件規程の内容等に照らせば,本件規程中のうち本件改廃規定を除く部分の合理性は明らかに認められ,本件改廃規定の合理性についても,後記Ⅱの認定判断のとおり十分認められ,また,後記3のとおりその周知性も肯認されるのであるから,本件規程は,本件契約の内容となっているということができる。2本件規程の内容等(1)乙19の1ないし5によると,本件規程は,第1章ないし第4章と附則とからなり,「第1章総則」では,目的(第1条),受給資格を有する者は,原則として,勤続満15年以上の職員で,満55歳以上で退職する者であること(第2条),勤続年数の計算方法(第3条),本件福祉年金の内容は,本件基本年金と本件終身年金であること(第4条)が,「第2章基本年金」では,退職金の一部を年金原資とすること(第5条),年金受給者は退職金から年金原資額を拠出すること(第6条),年金の支給期間(第7条),年金額(第8条),支給期間の起算日は,本人の退職日により,毎年3月21日又は9月21日であり,年金原資とこれに対する一定の利率による利息相当額の合計額を本件基本年金の総額として本件基本年金が支給されること(第9条),年金支給日は毎年3月21日,9月21日であること(第10条),受給者の希望があれば,中途全額一時払い,中途一部一時払いをすること(第11条,第12条),受給者死亡の場合

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には,遺族に対し,中途全額一時払いの場合の金額が支払われること(第
13条)が,「第3章終身年金」では,本件終身年金の支給額,支給日(第14条),受給者が死亡した場合には本件終身年金の支給が打ち切られること(第15条)が,「第4章受給手続」では,業務取扱い部署を被控訴人本社人事部門内におくこと(第16条),年金受給開始手続(第17条),中途一時払い手続(第18条),受領方法(第19条),受給者の書類届出義務(第20条),年金受給権の譲渡及び担保の禁止(第21条),年金支給の取止め事由及びその場合は,第11条に定める金額を一時払いすること(第22条),本件改廃規定(第23条)が,それぞれ定められていることが認められる。(2)本件規程の改定経緯についてみるに,甲4,乙3の1ないし4,乙19の1ないし5,乙20,乙21(枝番も含む。),乙25,乙26,弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。ア本件規程は,昭和41年1月21日に制定され,昭和42年10月1日,昭和47年10月1日,昭和53年7月20日,昭和59年10月1日,昭和61年4月1日,平成2年4月1日,平成8年4月1日,平成10年10月1日,平成12年4月1日に,それぞれ改定がされた。その改定内容につき,主なものをあげると,昭和42年10月1日にされた改定は,受給資格者につき,それまで定年退職者とされていたのを満55歳以上の退職者とし,死亡等による場合は50歳以上としていたのを51歳以上とするものであった。昭和47年10月1日にされた改定は,年金原資と退職金との関係(第6条)について,それまで退職金規程による退職金の額から年金原資相当額を差し引いた額を退職金額とするとしていたのを,退職金規程による金額の退職金を支給したうえで,退職者が年金原資相当額を拠出すると変更するものであった。昭和59年10月1日にされた改定は,年金原資の預入限度額を変更するもので

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あった(前提となる事実2(5)イ)。平成8年4月1日にされた改定は,
年金原資の預入限度額,年金の給付利率を変更するものであった(前提となる事実2(5)ウ)。平成10年10月1日にされた改定は,本件年金受給手続時等における提出書類の変更と一部の表現を訂正し,本件改廃規定を第4章から附則に移すものであった。これらの改定のうち,昭和42年10月1日,平成10年10月1日,平成12年4月1日の各改定においては,従来の本件規程の原本に手書きで訂正をするという方法により,その改定結果が記録された。イ被控訴人は,本件規程の管理方法として,古い本件規程を保存するという管理方法を採っておらず,改定があるたびに古い本件規程を新しい本件規程に差し替えてきたため,原本が現存しないものがあり,原本が現存するのは,昭和41年1月21日制定のもの,昭和42年10月1日,昭和47年10月1日,平成10年10月1日,平成12年4月1日各改定のもののみである。ウ本件規程が制定された際には,K労組との協議に基づいてその内容が決定された。本件規程の昭和59年10月1日改定で,上記のとおり,年金原資の預入限度額の変更を行ったが,このときは,被控訴人とK労組との間で労働協約が締結された。また,本件規程の平成8年4月1日改定で,預入限度額の変更と将来の退職者との関係での利率改定が行われたが,その際も,被控訴人とK労組との間で協議がされて労働協約が締結され,これに基づき本件規程が改定された。(甲4,乙20,乙26,乙83)(3)控訴人らは,本件規程が被控訴人社内における事務処理準則にとどまると主張する。しかし,本件規程の内容は上記のとおりであり,受給資格,勤続年数の計算方法,本件規程により支給される年金が本件基本年金と本件終身年金とからなること,本件基本年金の原資は退職金の一部であり,

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年金受給者は退職金から年金原資を拠出すること,年金の支給期間,年金
額,年金支給日は毎年3月21日,9月21日であること,中途全額一時払い,中途一部一時払いができること,受給者死亡の場合の年金の支払方法等,本件契約に基づいて控訴人らが取得する権利の内容が具体的に定められているのであり,他に,本件契約に基づく控訴人らの権利の具体的な内容を定めたものがあるという事実は認められないのであるから,そうであるとすると,本件規程は,その内容自体からみて,単なる被控訴人社内の事務処理準則ではなく,本件契約を締結する退職者と被控訴人との間の契約内容を規律するものであるというべきである。また,本件規程の改定経緯をみても,契約内容の実質に一定程度以上の影響を及ぼす場合には,労使間協議が経られているのであって,そのことからみても,本件規程は,本件契約を締結する退職者と被控訴人との間の契約内容となることが予定されていたものであると認めるのが相当である。控訴人らは,数次にわたって改定された本件規程につき,その改定前の一部の原本が存在していないことを問題とする主張をするが,後記のとおり,本件規程が改定された場合,改定前の本件規程は,既に本件契約を締結した者についても,それが適用されることはなくなるのであるから,そのような改定前の本件規程の原本の一部が存在しないことは,本件規程が本件契約の内容になるべきものであると認めることの障害となるものではない。また,本件規程の改定のうち,昭和42年10月1日,平成10年10月1日,平成12年4月1日の各改定においては,従来の本件規程の原本に手書きで訂正をするという方法によりその改定結果が記録されているのであり,その記録方法に問題があることは控訴人らの主張するとおりであるが,そのことを勘案しても,上記のところからすると,本件規程が被控訴人社内における単なる事務処理準則とみることができないことは明らかである。3本件規程の周知性等

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(1)括弧内に記載の書証及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。ア被控訴人は,被控訴人ら会社の従業員に対し,「私たちの会社」,「明るい職場に正しいルール」,「ライフプラン入門」と題する冊子を配布していたが,これらの冊子には,本件規程の内容にそった本件制度の概要が記載されていた。(甲5,乙23,乙24)イ被控訴人ら会社の退職予定者は,55歳になった後,被控訴人厚生年金基金及び被控訴人ら会社の各事業場が主宰する「熟年設計セミナー」(以下「本件セミナー」という。)を受講することが可能となる。本件セミナーは,各種保険の手続の説明とともに,退職予定者が将来支給を受けることができる老齢厚生年金及び被控訴人厚生年金基金の加算年金の概要と受給手続など,主として退職後の生活設計について総合的に説明するものであり,本件制度の主要な内容と手続についても,受講者に配布する「熟年設計セミナーテキスト」(以下「本件テキスト」という。)の中で本件規程の内容を引用するなどして,本件セミナーにおいて説明されていた(ただし,平成13年4月以降,本件セミナーにおいては,本件テキストでなく,パワーポイントによる資料が使用されるようになった。)。本件セミナーは,任意参加であるが,退職予定者のほとんどの者がこれを受講していた。(甲14,乙9)ウ従業員が退職する日の2か月前ころ,被控訴人ら会社は,各事業場において,退職予定者に対する説明会を実施し,その際,「定年ご退職にあたって」と題する冊子を配布し,退職後に加入できる各種保険の加入手続,上記各種年金の受給手続など,必要となる諸手続について説明し,その中で,本件契約の締結手続についても説明を行っている。また,退職予定者に対して本件申込書を含む関連書類の交付も行い,本件契約の申込みの誘引をしていた。(甲6,乙4,乙8)

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エ本件申込書には,申込日,申込者(氏名,生年月日等),本件福祉年金の振込先金融機関(銀行名又は郵便局,口座番号等),家族状況をそれぞれ記載する欄があり,下部には,事業場処理欄,本社処理欄があって,それ以外には,申込者欄と金融機関欄との間に,「私は貴社の福祉年金規程を了承の上,下記により福祉年金の受給を申し込みます。記年金原資として,退職金の内円を充当します。」という記載がされているのみであった。本件契約の締結を希望する退職予定者は,上記説明会で本件申込書を受け取って,これをいったん持ち帰り,本件申込書に申込者の氏名,生年月日等,退職金のうち年金原資に充当する金額,本件福祉年金の振込先金融機関等の必要事項を記載し,退職日の1か月前までにこれを被控訴人に提出して本件契約の申込みをした。もっとも,担当者の説明を聞いたうえ,その場で申込書に記載して提出した者も存在した。これに対し,被控訴人は,本件申込書の記載事項等を確認したうえで,上記申込者に対し,氏名,証書番号,1年分の本件基本年金の金額,支給期間,退職日の翌日の日付,及び「貴殿に対しK電器福祉年金規程に基づいて本証書記載の基本年金を支給します」との文言が記載された福祉年金証書を交付することによって(平成11年4月以降の加入者に対しては,更に,本件規程(乙22,本件規程原本と細部の表現的な相違点はあるが,本件改廃規定はそのままである。)も福祉年金証書とともに交付していた。),上記申込みに対する承諾をし,本件契約が成立することとされていた。(乙4,乙5,乙22,乙27(枝番を含む。))(2)上記の事実によると,控訴人らは,本件契約の申込みをするにあたり,いったん本件申込書を持ち帰ってこれを読む機会が与えられていたのであ

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り,本件申込書の申込者欄,金融機関欄を記載する際に,控訴人らが被控
訴人の本件規程を了承の上で本件福祉年金の受給を申し込むこと,退職金のうち控訴人らが希望する一定の金額を年金原資とすることについては,当然にこれを読んで理解していたと認めるのが相当である。控訴人らは,「私は貴社の福祉年金規程を了承の上」という記載が例文に過ぎないと主張する。しかし,本件規程の内容は,上記2のとおりであり,本件制度を規律する規範として重要なものであることや,本件申込書には,申込日,申込者,金融機関,家族状況欄以外には,控訴人らが被控訴人の本件規程を了承の上で福祉年金の受給を申し込むこと,退職金のうち申込者が希望する一定の金額を年金原資とすることしか記載されていなかったのであり,その内容が複雑なものでも理解困難なものでもないのであって,上記控訴人らの主張は採用できない。また,本件制度は,異なる条件を有する多数の退職者を対象とするものであり,そのような多数の退職者との間で締結される本件契約の内容を確定するためには,その契約内容を確定するための一定の準則が存在し,その準則に各退職者の有する具体的な条件を当てはめることによって,各退職者の受ける本件福祉年金の内容が決定されることは,制度自体から当然に予定されることであって,永年にわたって企業に所属していた控訴人らにおいても,そのような当然のことを認識できなかったはずはないと考えられる。そうであるとすると,本件契約の内容となる準則である本件規程の存在については,上記の点からも,控訴人らにおいてこれを認識していたと認めるのが相当である。(3)次に,控訴人らは,本件規程の内容を知ろうとすれば知ることができる立場にあったことは次のとおりである。ア乙22,乙28,弁論の全趣旨によると,①被控訴人は,本件規程を,昭和41年から昭和58年までは被控訴人本社総務部,本社人事本部人

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事二部(昭和48年に「労政部」と名称変更),各事業場の人事担当部
署に,昭和59年以降は本社労政部(平成13年に「労政グループ」と名称変更)にそれぞれ備え置いていたこと,②被控訴人は,昭和46年以降,各事業場の人事担当社員に「人事業務必携」を配布しており,その中には本件規程の主要な内容が記載されていたこと,③被控訴人は,控訴人らに対し,本件規程の原本の写しを交付せず,また,本件規程がどこに備え置かれているかということを開示していなかったこと,もっとも,平成11年4月以降の加入者に対しては,本件規程(乙22,本件規程原本と細部の表現的な相違点はあるが,本件改廃規定はそのままである。)も福祉年金証書とともに交付していたこと,④被控訴人においては,本件契約を締結した者が本件規程の内容を知ろうと考えて被控訴人にこれを問い合わせれば,誰でもが本件規程の内容を知ることができることとなっていたことが認められる。イ上記のとおり,被控訴人は,被控訴人ら会社従業員に対し,「私たちの会社」,「明るい職場に正しいルール」,「ライフプラン入門」と題する冊子を配布していたところ,これらの冊子には本件規程の内容にそった本件制度の概要が記載されており,被控訴人ら会社の退職予定者の多くが本件セミナーを受講して,本件制度の主要な内容と手続について説明を受け,本件テキストにも本件規程の内容にそった本件制度の概要が記載されていたのであり,被控訴人ら会社を退職する直前には,各事業場において実施される説明会において,本件制度についての説明を受けるとともに,本件規程の内容を了承する旨が記載された本件申込書の交付を受けていたのである。ウ以上によると,控訴人らは,被控訴人ら会社を退職するより前の時点において,本件規程の主要な内容についての説明を受けていたのであり,上記のとおり,本件契約を締結するにあたり本件規程の詳細な内容を知

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ろうとすれば,各控訴人の勤務事業場等に問い合わせ,また,退職前説
明会で本件規程の内容を知りたい旨の希望をすることにより,本件規程の存在場所とその内容を知ることは容易であったと認められるのであり,退職後においても,在職時に勤務していた事業場や被控訴人本社に問い合わせることにより,本件規程の存在場所と内容を知ることは容易であったと認められる。Ⅱ本件改廃規定の解釈等1本件規程は,上記のとおり,本件契約の内容になっているのであるから,本件改廃規定についても,合理性が認められる限り,それが本件契約の内容にならない理由はないというべきである。控訴人らは,本件改廃規定が控訴人らにとって一方的に不利益な規定であるから,これが本件契約の内容になるためには,本件契約の締結にあたり,被控訴人が控訴人らに対し,本件改廃規定を実質的・直接的に告知することが必要である,いいかえれば,その条項を個別に取り上げてその趣旨を十分に説明することが不可欠であると主張する。しかし,上記のとおり,控訴人らは本件規程の存在を認識したのであり,また,本件規程の内容を容易に知ることができる立場にあったのである。本件契約を締結する直前まで控訴人らは被控訴人ら会社の従業員であって,そのような特別な社会的関係の中にあって上記の立場にあったことからすると,本件改廃規定が控訴人らにとって不利益な規定であるからといって,この規定を実質的・直接的に控訴人らに告知しない限り,本件改廃規定が本件契約の内容にならないと解する根拠はない。なお,本件改廃規定は,控訴人ら本件福祉年金の既受給者にとって,不利益な内容を含むものの,本件制度の目的趣旨に照らせば,本件改廃規定によって変更できる事項にはおのずと限界があり,例えば,預け入れ原資の元本をカットするような条項を追加することは勿論,本件給付利率を一般的な利

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率水準以下に下げること,中途一時払いの条項を削除するような改定は,到
底できるものではなく,被控訴人も,本件改定規程によるそのような変更ができる旨考えていなかったと認められるのである。そうすると,本件のように本件給付利率が変更される等された場合,契約者が,中途一時払いを請求して,他に有利な運用先を探す方法は残されているのであって,本件改廃規定は,退職者が本件制度に加入するかどうか意思決定をする際,その意思決定を左右するような,加入者に重大な損害や不利益を及ぼす可能性のある規定であるとも断定することができない。この点から考えても,本件改廃規定が,個別,具体的に控訴人らに開示説明されなかったとしても,本件改廃規定が本件契約の内容となることの妨げとならないと解することができる。そして,上記のとおり,本件改廃規定は,「将来,経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合,あるいは法制面での規制処置により必要が生じた場合」と厳格な要件を規定していること,本件契約に基づく年金支給は,受給者の死亡までの長期間継続するものであること,また,本件改廃規定によって変更できる事項は,本件制度の目的趣旨に照らせば,自ずと限界があることに照らせば,その内容には合理性が認められるというべきである。2本件改廃規定は,「将来,経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合,あるいは法制面での規制措置により必要が生じた場合は,この規程の全般的な改訂または廃止を行う。」と規定する。控訴人らは,本件改廃規定が未受給者に対する関係で本件制度の改定又は廃止を対象にするものであり,既受給者との間の契約内容の変更を予定したものではないと主張する。しかし,経済情勢等の大幅な変動があった場合に,本件制度の改定又は廃止という全面的な改定は行うが,既受給者を含む本件制度の対象者との間での部分的な契約内容の改定も一切行わないということは,本件制度のように長期間にわたって存続することが予定されている制度

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においてはおよそ考えられないところであって,本件制度の制定にあたって
も,特別の事情のない限り,本件改廃規定がそのような趣旨のものとして制定されたとは認め難いものであるが,本件全証拠によっても,上記の特別の事情は認められない。かえって,甲4によると,本件制度の導入にあたり,被控訴人とK労組は,将来経済情勢等の大幅な変動があったときは被控訴人とK労組との協議により本件制度を改廃するという本件改廃規定とほぼ同内容の規定を本件規程に盛り込むこととしたうえ,本件制度の細部運用として,そのような場合であっても,既受給者には不利にならないよう運営するという合意をしたことが認められる。上記合意は,本件改廃規定による本件規程の改定の効力が既受給者にも及ぶことを前提としたうえで,本件規程外の運用方針として,それにより既受給者に不当に不利益な影響が及ばないようにするという合意がされたものであると認めるのが相当である。そうすると,本件改廃規定による本件規程の改定の効力は既受給者に及ぶことが本件制度導入当初からの被控訴人及びK労組の認識であったとみられる。また,本件規程は,上記のとおり,本件契約の内容となることが予定されたものであるから,本件契約を締結するより前の未受給者との間では,将来の期待し得る内容という以上の意味を有しないものであり,そのような者との関係において,K労組等との協議が必要になるとしても,経済情勢等の大幅な変動等という上記の厳密な要件に限定することなく,被控訴人が本件制度を全面的に改定又は廃止することができることは当然であり,まして,部分的な改定であれば,K労組等との協議なくして被控訴人がこれをすることができる場合もあることは当然であって,特に後者については,本件改廃規定のような規定をおく必要があるとは考えられないものである。以上によると,本件改廃規定は,未受給者を対象とする本件制度の全面的な改定又は廃止だけでなく,既受給者を含む本件制度の対象者との間での部分的な契約内容の改定をも含む趣旨のものであると認めるのが相当である。

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よって,本件契約締結後に本件改廃規定による本件規程の改定がされた場
合には,改定後の本件規程がその契約内容になるというべきである。3控訴人らは,本件改廃規定の要件が不明確であり,そのような不明確な要件を定めた本件改廃規定によって本件利率改定をすることは許されないと主張する。たしかに同文言が一義的に明確であるとまではいえないが,「将来,経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合は,」と厳格な要件を規定していること,本件給付利率につきどのような場合にどの程度の改定をするかということを事前に一律に決定しておくことは不可能を強いるものであるというほかなく,その要件が一義的に明確でないからといって,そのことを理由に,およそ本件改廃規定による本件給付利率の改定が許されないと解することは相当でないというべきである。上記のとおり,どのような場合にどの程度の利率改定をするかということを事前に一律に決定できないことからすると,本件改廃規定による本件給付利率の改定をするにあたっては,本件給付利率の改定をする必要性と改定後の本件給付利率の相当性という要件が要求され,双方の要件が満たされるのであれば,本件利率改定は有効と評価されると解するのが相当である。4控訴人らは,控訴人らの本件福祉年金請求権は,退職時に締結された本件契約によってその総額につき発生し,その支払いにつき履行期が定められているにすぎないのであるから,本件改廃規定によって給付利率の減額改定をすることは契約法理に反するものであって許されないと主張する。しかしながら,本件契約の年金支払期間は,長期にわたり,その間に,経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動が起こることに備えて,本件改廃規定が設けられたものであって,退職時に締結された本件契約によって,その総額につき少なくとも抽象的には年金請求権が発生すると解するとしても,本件改廃規定は,既に退職者に発生した権利についても,厳格な要件でのも

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とでの事情変更が生じた場合にその権利内容を変更することができることを
定めたものと解せられ,上記控訴人らの主張は採用できない。5控訴人らは,本件改廃規定が本件規程の附則に規定されていることを理由として,そのような本件改廃規定により控訴人らと被控訴人との契約内容を変更することはできないと主張する。しかし,上記のとおり,本件規程は,「第1章総則」,「第2章基本年金」,「第3章終身年金」,「第4章受給手続」からなっているところ,本件改廃規定はその性質からみて上記のどの章にも属さないものであり,本件改廃規定のみを独立の章として規定することも本件規程全体のバランスから適当でないとの考え方のもとに,本件改廃規定を附則で定めたとみることもできるのであり,法律における附則の位置づけと本件規程のような民間会社で定められた規程における附則の位置づけとを同様にみることは適切でないと考えられる。したがって,本件改廃規定が本件規程の附則に定められていることは,本件改廃規定により本件給付利率の変更ができるかという問題に影響を及ぼすものではないというべきである。6控訴人らは,本件改廃規定を既受給者に対する給付利率引下げの根拠規定と解する場合には,本件改廃規定は信義則(民法1条2項),公序良俗(民法90条),消費者契約法10条に反して無効であると主張するので,この点について検討する。控訴人らは,上記のように主張する根拠として,①既発生の権利である本件福祉年金請求権を侵害すること,②既受給者にとって本件給付利率改定の予測可能性がないこと,③本件改廃規定の文言の不明確性,④被控訴人の優越的地位を挙げる。しかし,①については,上記のとおり,本件改廃規定が本件契約の内容となっていることからすると,本件改廃規定によって既受給者に対する本件福祉年金の給付利率を引き下げることがただちに信義則等に反するということはできない。②については,上記のとおり,控訴人らは本


労働39事件 退職年金の減額―松下電気産業(年金減額)事件

2012年03月13日 | 労働百選

労働39事件 退職年金の減額―松下電気産業(年金減額)事件


http://panasonic.co.jp/index3.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%8A%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF
パナソニック株式会社(英称:Panasonic Corporation)は、日本を代表する電機メーカーおよび日本最大の総合家電メーカーである。パナソニックグループの事業持株会社として三洋電機、パナホームなどを傘下に持つ。本社は大阪府門真市。創業者は松下幸之助。

旧社名は「松下電器産業株式会社(まつしたでんきさんぎょう 英称:Matsushita Electric Industrial Co., Ltd.)」。2008年10月1日に現社名へ変更された(詳細は社名変更を参照)。

グローバルブランドスローガンは「Panasonic ideas for life」。

パナソニック株式会社
Panasonic Corporation 

PanasonicHeadquarters.JPG
パナソニック本社(大阪府門真市)
種類 株式会社
市場情報 東証1部 6752
大証1部 6752
名証1部 6752
NYSE PC
 
略称 PC
Pana
パナ
本社所在地  日本
〒571-8501
大阪府門真市大字門真1006番地
北緯34度44分18.7秒 東経135度34分25.4秒 / 北緯34.738528度 東経135.573722度 / 34.738528; 135.573722座標: 北緯34度44分18.7秒 東経135度34分25.4秒 / 北緯34.738528度 東経135.573722度 / 34.738528; 135.573722
設立 1935年(昭和10年)12月15日
業種 電気機器
事業内容 デジタルAVCネットワーク42%
アプライアンス14%
電工・パナホーム20%
デバイス12%
その他12%
代表者 代表取締役社長:大坪文雄
資本金 2587億4000万円
売上高 連結:8兆6926億円
(2011年3月期)[1]
営業利益 連結:1788億円
(2011年3月期)[2]
純利益 連結:740億円
(2011年3月期)[3]
従業員数 連結:366,937名
単体:41,154名
(2011年3月期)
主要子会社 三洋電機
パナホーム他 多数
 

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=34515&hanreiKbn=04
事件番号 平成17(ネ)3134
事件名 福祉年金請求控訴事件
裁判年月日 平成18年11月28日
裁判所名・部 大阪高等裁判所  第1民事部
結果 棄却
原審裁判所名 大阪地方裁判所
原審事件番号 平成15(ワ)4986
原審結果 
判示事項の要旨  独自の福祉年金制度を設けて退職者との間で年金契約を締結し,退職者に支給した退職金の一部を年金の原資として拠出を受け,その原資に対する一定の利率による利息相当分と拠出した原資の取崩分を合わせた金額を,年2回年金として支給していた私企業が,「将来,経済情勢あるいは社会保障制度に大幅な変動があった場合」等には規程の改廃を行うとの内容の福祉年金規程に基づき,経済情勢等の大幅な変動を理由として,上記の利率を引下げ,退職者に対する年金支給額を減額した事例において,当該規程が年金契約の内容に含まれることを認めた上,経済情勢等の大幅な変動が認められることに加え,利率の引下げに必要性,相当性があり,利率改定の手続にも相当性があるとして,当該利率の引下げが有効と認められた事例
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070412115323.pdf


労働38事件 退職金の減額―小田急電鉄(退職金請求)事件

2012年03月13日 | 労働百選

労働38事件 退職金の減額―小田急電鉄(退職金請求)事件
http://www.odakyu.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E7%94%B0%E6%80%A5%E9%9B%BB%E9%89%84
小田急電鉄株式会社(おだきゅうでんてつ、英語: Odakyu Electric Railway Co., Ltd.、OER)は、東京都・神奈川県を中心に鉄道事業・不動産事業などを営む日本の会社である。小田急グループ108社(2005年10月1日現在)の中核企業。小田急の略称で呼ばれている。創業時の社名は小田原急行鉄道。

小田急ポイントサービスの加盟事業者。また関東の鉄道事業者22社局による共通乗車カードシステム「パスネット」に加盟していた。

キャッチコピーは「きょう、ロマンスカーで。」・「新しいマークで、小田急は次へ。」・「小田急は、次へ。」であり、2007年の小田原線開業80周年に際しては、「ありがとうを次のよろこびへ」。

小田急電鉄株式会社
Odakyu Electric Railway Co., Ltd. 

Odakyu Electric Railway Head Office.jpg

小田急明治安田生命ビル(本社所在地)
種類 株式会社
市場情報 東証1部 9007
 
略称 小田急、OER
本社所在地  日本
〒160-8309
東京都新宿区西新宿一丁目8番3号
本店所在地 東京都渋谷区代々木二丁目28番12号(小田急南新宿ビル)
設立 1948年(昭和23年)6月1日(特記事項参照)
業種 陸運業
事業内容 旅客鉄道事業 他
代表者 取締役会長 大須賀頼彦
取締役社長 山木利満
資本金 603億5900万円
売上高 単体:1665億円(2008年3月期)
連結:6240億円(2008年3月期)
総資産 単体:1兆417億円(2008年3月期)
連結:1兆2934億円(2008年3月期)
従業員数 単体:3443名、連結:1万3656名
(2008年3月31日現在)
決算期 3月
主要株主
第一生命保険 6.98%
日本生命保険 6.32%
日本マスタートラスト信託銀行(退職給付信託口・三菱電機口) 3.50%
明治安田生命保険 3.03%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 2.97%
(2008年3月31日現在)
主要子会社
小田急バス 100%
小田急百貨店 98%
小田急不動産 100%
小田急箱根ホールディングス 98.1%
江ノ島電鉄 54.0%

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=18545&hanreiKbn=04
事件番号 平成14(ネ)6224
事件名 小田急電鉄退職金請求
裁判年月日 平成15年12月11日
裁判所名・部 東京高等裁判所  第19民事部
結果 
原審裁判所名 東京地方裁判所
原審事件番号 平成14(ワ)2003
原審結果 
判示事項の要旨 
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2E3A9AEB35842709492570DE00063F3F.pdf

          主        文
     1 原判決を次のとおり変更する。
     2 被控訴人は,控訴人に対し,金276万2535円及びこれに対す
る平成14年2月14日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
     3 控訴人のその余の請求を棄却する。
     4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その3を被控訴
人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
     5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
          事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
 (1) 原判決を取り消す。
 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,金920万8451円及びこれに対する平
成12年12月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
 2 被控訴人
   控訴棄却
第2 事案の概要
 1 本件は,度重なる電車内での痴漢行為を理由に被控訴人会社から懲戒解雇さ
れた控訴人が,解雇手続には瑕疵があるし,事案の程度等からして重すぎる処分で
あるとして,解雇は無効であり,また,懲戒解雇に伴い退職金を不支給とするに
は,長年の功労を消し去るほどの不信行為が必要であるが,本件ではそれがあった
とはいえないなどと主張して,退職金相当額920万8451円及びこれに対する
遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は,控訴人の請求を棄却した。これに対して控訴人が不服を申し立てたも
のである。
 2 以上のほかの事案の概要は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理
由欄第2記載(1頁以下)のとおりであるから,これを引用する。
 (控訴人の当審における主張)
 (1) 本件懲戒解雇の無効について
    ア 原判決は,本件懲戒解雇手続において,弁明の機会が十分与えられた
とした。
 しかし,本件で,控訴人は,留置場の異常な状況下で,限られた時間で事実を認
めたにすぎないし,自認書を保留あるいは拒否したり,それ以外のことを話せたり
する状況ではなかった。弁明の機会の実質的保障はなかったというべきであるか
ら,本件懲戒解雇手続には瑕疵があり,無効である。
    イ 本件の痴漢行為は,犯罪行為ではあるが,刑法ではなく条例による処
罰である。その法定刑(改正前)は懲役6月までであり,窃盗や業務上横領などと
比較しても,はるかに軽いし,控訴人は,その上限でも処罰されていない。なお,
痴漢行為でも悪質なものは,強制わいせつで起訴されるのが通例であり,本件はそ
のような場合ではない。本件は報道等の形で公になっていないし,仮に,痴漢行為
に伴い被控訴人の会社名が報道されたとしても,世間はあくまで当該従業員個人の
問題としてとらえるのであって,会社に重大な悪影響があるとはいえない。なお,
電鉄会社が痴漢撲滅運動に力を入れているというのは,本件懲戒解雇後のことであ
る。
    ウ 本件懲戒解雇当時,被控訴人の社内規定における懲戒処分の種類は,
昇給停止の次が懲戒解雇であった。しかし,これでは実情にあった処分が難しいこ
とから,平成13年7月に諭旨解雇の導入が決定された。これは解雇はするが,退
職金は支給するというものであり,本件当時も,諭旨解雇があればそれが選択され
た可能性が高い。制度変更したことは,被控訴人が懲戒解雇の選択には実情に合わ
ない場合があることを認めたことにほかならない。
    エ 上記イ記載のとおり,本件の痴漢行為は,会社の業務を阻害したり,
会社に不利益を与えたりしていない。そのような場合には,当該行為に対する会社
内の評価が厳しいものであっても,それだけで懲戒解雇の事由があるというべきで
はない。会社に対する不利益の程度に応じた懲戒処分であるべきであり,懲戒解雇
は過酷にすぎ,無効である。
 (2) 本件退職金不支給について
    ア 退職金は,賃金の後払いであり,従業員の私生活のことを理由とし
て,しかも,将来に害をなす可能性があるというだけで,過去に働いた分を奪い取
ることが許されて良いはずはない。特に,被控訴人のように,支給基準が明確であ
れば,その賃金としての性質は一層強まるのであり,よほどのことがない限り奪わ
れるべきではない。退職金に功労報償的な性質が併存するとしても,なお,十分に
保護されるべき賃金であることに変わりはない。
    イ 本件では,被控訴人に具体的損害は発生していないし,被控訴人には
退職金支払の引当てもあったと思われる。その一方で,退職金を資産として計算し
ていた控訴人に対し,刑事責任を課し,被害者への民事責任を果たさせ,懲戒解雇
という社会的制裁を加え,さらに,控訴人の退職金を奪い取る必要はない。退職金
の不支給は,長年の勤続の労を抹消する不信行為があった場合に限られるのである
から,実際に会社の名誉,信用その他の社会的評価の低下毀損がない段階で,勤続
の労を抹消するのは行きすぎである。
    ウ 懲戒解雇の有効性と退職金不支給の有効性の判断は,分けて考えるべ
きであり,同じ基準を当てはめるべきではない。懲戒解雇には,企業が将来の損害
を予防する側面があるが,退職金はすでに労働者が働いて権利として成立している
ものであり,これを企業に支払わせることは企業に無理を強いるものではない。そ
れでもなおこれを支払わせるのが正義に反するという場合に不支給が認められるべ
きである。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所は,控訴人の請求は,金276万2535円及びこれに対する平成
14年2月14日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で
理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりであ
る。
 (1) 本件の事実関係
     証拠(甲1,8,10ないし12,14,15,24,25,乙1ない
し6,9ないし17,19,20ないし24,27ないし30,当審証人D,当審
での控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
    ア 被控訴人は,鉄道事業等を主たる業務とする株式会社である。控訴人
(昭和36年生)は,昭和55年4月1日,被控訴人に入社し,以来,約9年間,
ホームや改札等の駅業務に従事し,その後,約11年間は,案内所に勤務し,予約
受付けや,国内旅行業務の仕事に従事していた。控訴人の勤務態度は非常に真面目
であり,問題はなかった。控訴人は,勤続12年目の平成4年ころ,社内の試験を
受けて主任に昇進し,また,平成8年ころには,国家試験である旅行業の取扱主任
の資格を取得した。控訴人は,主任に昇進する少し前に,肩書住所地の土地建物を
購入した。
    イ 控訴人は,平成12年5月1日午後2時ころ,飲酒してA線に乗車
中,電車に乗っていた女子大生に対して,スカートの上から臀部を撫でるという痴
漢行為を行った。この事件で,控訴人は,逮捕勾留されたのち,東京都の公衆に著
しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(東京都迷惑防止条例)違反
で略式起訴され,罰金20万円に処せられた。被控訴人の担当者が,その釈放後に
控訴人から事情聴取したところ,控訴人は,そのほかに平成9年12月にも痴漢行
為を行い,逮捕起訴されて5万円の罰金刑に処せられたことも自供した。なお,控
訴人は,平成3年にも痴漢行為で検挙され,罰金3万円に処せられたことがある
が,このときは,この事件のことは話していない。
    ウ 被控訴人は,上記平成12年5月の事件につき,労働組合の代表も委
員となっている賞罰委員会を開催したうえ,同年6月14日,鉄道業に携わる者
が,破廉恥行為を再犯し,悪質な行為に及んだことは,他の係員に対する背信行為
であり,懲戒解雇に処すべきところであるが,事件の重大性を自覚し,深く反省し
ていることや,その行為が外部に発覚することがなかったこと等を考慮し,控訴人
を昇給停止及び降職に止めるとの処分をした。これにより,控訴人は,案内所の案
内主任であったが,主任職を外されることになった。なお,控訴人は,同月15
日,今後,このような不祥事を発生させた場合には,いかなる処分にも従うので,
寛大な処分をお願いしたいとの始末書(乙6)を作成し,被控訴人に提出した。
    エ 控訴人は,平成12年11月21日,午前7時50分ころ,B線の電
車内で女子高校生の臀部をスカートの上から撫で回した上,右手をそのスカート内
に差し入れ,右手指でその左臀部を撫で回すなどの痴漢行為(本件行為)を行い,
逮捕されたのち,同年12月1日,勾留されたまま,公衆に著しく迷惑をかける暴
力的不良行為の防止に関する条例(さいたま県迷惑防止条例)違反で正式起訴され
た。控訴人は,本件行為により,平成13年2月20日,浦和(現さいたま)地方
裁判所で,懲役4月,執行猶予3年の有罪判決を受け,同判決は確定した。なお,
本件行為につき,被害者との間では示談が成立している。
    オ 控訴人は,本件行為で大宮警察署に勾留中の平成12年11月24
日,同月27日及び同月28日,被控訴人の担当社員らの面会を受けた。控訴人
は,その際,本件行為を認めるとともに,前記平成3年の痴漢行為についても,同
社員らに話した。そして,控訴人は,同月28日には,本件行為を認め,被控訴人
のいかなる処分についても一切弁明をしない旨の「自認書」と題する被控訴人宛の
書面(乙4)に署名押印した。
    カ 被控訴人は,賞罰委員会の討議を経て,平成12年12月5日,控訴
人が同年11月21日に本件行為を行い,逮捕勾留後,上記の条例違反で起訴され
たことをもって,鉄道係員懲戒規程7条5号に該当するとして,控訴人を懲戒解雇
した。同規程(乙1)の7条5号とは,鉄道係員が「業務の内外を問わず,犯罪行
為を行ったとき」は,「降職,昇給停止または懲戒解雇に処する。ただし,情状に
より,出勤停止に止めることができる。」との規程である。なお,同規程は,その
後改正され,新たに諭旨解雇の条項が設けられた。これは依願退職ではなく,会社
側からの雇用契約の解除であるが,退職金については,最高で,本来の支給額の5
0%が支払われることになっている。
    キ 被控訴人には,基本的には,初任給等を基礎として定められる退職金
算定基礎額及び勤続年数を基準として算出した退職金を支給する旨の退職金支給規
則(乙2)がある。これに基づき算出した控訴人の退職金の額(各種加給金を含ま
ないもの)は,勤続20年9月になることから,920万8451円であった。た
だし,同規則の4条には,「懲戒解雇により退職するもの,または在職中懲戒解雇
に該当する行為があって,処分決定以前に退職するものには,原則として,退職金
は支給しない。」との条項(本件条項)があり,被控訴人は,これに基づき,上記
退職金を支給しなかった。もっとも,被控訴人は,控訴人の懲戒解雇につき,本人
及び家族の当面の生活設計を考慮し,解雇予告の除外認定手続(労働基準法20条
3項,19条2項)をとらず,控訴人に対し,解雇予告手当44万1300円及び
平成12年度の冬季一時金45万5873円を支払った。
    ク 控訴人は,肩書住居地の土地建物の購入資金として,被控訴人から1
560万円を借り受け,同土地建物に抵当権を設定していた。本件の懲戒解雇に伴
い,被控訴人は,その残債権約1186万円を抵当権とともに,住宅資金貸付保険
契約を締結していたC保険株式会社に譲渡した(甲6)。そして,同保険会社は,
平成13年10月,保険代位金の一括弁済を求める書面(甲7)を控訴人に送付し
た。なお,控訴人は,上記土地建物の取得のため,住宅金融公庫からも1000万
円余の借入れをし,抵当権を設定した。その債権は,その後,抵当権とともに,信
用保証会社に移転しているが,その債務も1000万円くらい残っている。
    ケ 控訴人は,懲戒解雇後は,警備会社に勤務し,警備員をしている。月
給は手取りで約20万円で賞与はなく,被控訴人に勤務していたころに比べると年
収で350万円くらいの減収になっている。家族は妻と中学生の子供二人で,妻も
パートをしているが,月6万円くらいしか収入がなく,年間の世帯収入は300万
円を少し超える程度である。控訴人は,上記住宅金融公庫関係のローンの支払はな
んとか継続しているものの,被控訴人から借り入れ,保険会社に移転したローンに
ついては,その支払ができないため,代理人弁護士を通じて,本訴の決着が付くま
で,その支払を猶予してもらっている。控訴人は,その結論いかんでは,上記土地
建物を処分することも考えているが,おおよそ1500万円くらいでしか売れない
見通しであり,いずれにせよ,ローン債務は残るため,自己破産の申立ても検討し
ている。
    コ 被控訴人における過去10年間の懲戒処分事例をみると,社会的に鉄
道係員としての特段のモラルを求められる行為を本人が故意に犯した事例すなわ
ち,定期券を無断作成し,その代金を着服した行為や,駅コインロッカーの収入金
の着服行為などでも,退職金のうち30%が支払われている事例がある。なお,被
控訴人は,本件行為のあった平成12年11月以前から,電車の中で痴漢撲滅のス
ポット放送を流すなど,電鉄会社として,痴漢撲滅運動に取り組んでいた。
 (2) 本件懲戒解雇の効力について
    ア 本件懲戒解雇がその手続に瑕疵がなく,また,処分の内容としても相
当な範囲を逸脱したものといえず,有効なものであることは,原判決事実及び理由
欄第3の1及び2(9頁以下)記載のとおりである。
    イ 控訴人は,本件で,控訴人は,留置場という異常な状況下で,限られ
た時間で事実を認めたにすぎないし,自認書を保留あるいは拒否したり,それ以外
のことを話せたりする状況ではなく,弁明の機会の実質的保障はなかったから,本
件懲戒解雇手続には瑕疵があると主張する。
 しかし,証拠(乙29,32,当審での控訴人本人)によれば,控訴人は,上記
の被控訴人の担当者らとの面接の際,未だ申告していなかった平成3年の痴漢行為
についてもみずから話すなどしているし,その際の会話の内容(乙29)などから
みても,自由に弁明ができないような状況であったとは認め難い。
 上記控訴人の主張は採用し難い。
    ウ 控訴人は,本件行為は,犯罪行為ではあるが,刑法ではなく条例によ
る処罰であること,その法定刑(改正前)は懲役6月までで,窃盗や業務上横領な
どと比較しても,はるかに軽いし,控訴人は,その上限でも処罰されていないこ
と,なお,痴漢行為でも悪質なものは強制わいせつで起訴されるのが通例である
が,本件はそのような場合ではないこと,本件行為が報道等の形で公になったこと
はないし,仮に,痴漢行為に伴い被控訴人の会社名が報道されたとしても,世間は
あくまで当該従業員個人の問題としてとらえるのであって,会社に相当重大な悪影
響があるとはいえないこと,なお,電鉄会社が痴漢撲滅運動に力を入れているとい
うのは,本件懲戒解雇後のことであること,さらに,本件懲戒解雇当時,被控訴人
の社内規定における懲戒処分の種類は,昇給停止の次が懲戒解雇であったが,それ
では実情にあった処分が難しいことから,平成13年7月に諭旨解雇が導入された
こと,本件当時も,諭旨解雇があればそれが選択された可能性が高いことなどから
して,本件懲戒解雇処分は不当であると主張する。
    エ しかし,痴漢行為が被害者に大きな精神的苦痛を与え,往々にして,
癒しがたい心の傷をもたらすものであることは周知の事実である。それが強制わい
せつとして起訴された場合はともかく,本件のような条例違反で起訴された場合に
は,その法定刑だけをみれば,必ずしも重大な犯罪とはいえないけれども,上記の
ような被害者に与える影響からすれば,窃盗や業務上横領などの財産犯あるいは暴
行や傷害などの粗暴犯などと比べて,決して軽微な犯罪であるなどということはで
きない。
 まして,控訴人は,そのような電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電
鉄会社の社員であり,その従事する職務に伴う倫理規範として,そのような行為を
決して行ってはならない立場にある。しかも,控訴人は,本件行為のわずか半年前
に,同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ,昇給停止及び降職の処分を受け,今後,
このような不祥事を発生させた場合には,いかなる処分にも従うので,寛大な処分
をお願いしたいとの始末書(乙6)を提出しながら,再び同種の犯罪行為で検挙さ
れたものである。このような事情からすれば,本件行為が報道等の形で公になるか
否かを問わず,その社内における処分が懲戒解雇という最も厳しいものとなったと
しても,それはやむを得ないものというべきである。
    オ なお,控訴人は,被控訴人が痴漢撲滅運動に力を入れているのは,本
件懲戒解雇後のことであると主張するが,被控訴人が本件行為のあった平成12年
11月以前から会社を挙げて痴漢撲滅運動に取り組んでいたことは,証拠(乙22
ないし24,いずれも枝番を含む。)から明らかである。上記控訴人の主張は採用
し難い。
 また,本件懲戒解雇後,諭旨解雇の制度が設けられていることは上記(1)認定
のとおりであるけれども,本件の処分当時,そのような制度がなかった以上,それ
が直接,本件懲戒解雇処分の当否に影響を及ぼすものではない。なお,上記エのよ
うな本件行為に至る経緯及びその内容等からすれば,必ずしも,本件が,本来は諭
旨解雇に該当する事案であるともいい切れない。
 (3) 本件退職金の不支給について
    ア 被控訴人には,基本的には,初任給等を基礎として定められる退職金
算定基礎額及び勤続年数を基準として算出した退職金を支給する旨の退職金支給規
則があること,そして,同規則の4条には,「懲戒解雇により退職するもの,また
は在職中懲戒解雇に該当する行為があって,処分決定以前に退職するものには,原
則として,退職金は支給しない。」との条項(本件条項)があることは,上記
(1)認定のとおりである。
 上記のような退職金の支給制限規定は,一方で,退職金が功労報償的な性格を有
することに由来するものである。しかし,他方,退職金は,賃金の後払い的な性格
を有し,従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。こと
に,本件のように,退職金支給規則に基づき,給与及び勤続年数を基準として,支
給条件が明確に規定されている場合には,その退職金は,賃金の後払い的な意味合
いが強い。
 そして,その場合,従業員は,そのような退職金の受給を見込んで,それを前提
にローンによる住宅の取得等の生活設計を立てている場合も多いと考えられる。そ
れは必ずしも不合理な期待とはいえないのであるから,そのような期待を剥奪する
には,相当の合理的理由が必要とされる。そのような事情がない場合には,懲戒解
雇の場合であっても,本件条項は全面的に適用されないというべきである。
    イ そうすると,このような賃金の後払い的要素の強い退職金について,
その退職金全額を不支給とするには,それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消し
てしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに,それが,業務上
の横領や背任など,会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為で
ある場合には,それが会社の名誉信用を著しく害し,会社に無視しえないような現
実的損害を生じさせるなど,上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性
を有することが必要であると解される。
 このような事情がないにもかかわらず,会社と直接関係のない非違行為を理由
に,退職金の全額を不支給とすることは,経済的にみて過酷な処分というべきであ
り,不利益処分一般に要求される比例原則にも反すると考えられる。
 なお,上記の点の判断に際しては,当該労働者の過去の功,すなわち,その勤務
態度や服務実績等も考慮されるべきことはいうまでもない。
    ウ もっとも,退職金が功労報償的な性格を有するものであること,そし
て,その支給の可否については,会社の側に一定の合理的な裁量の余地があると考
えられることからすれば,当該職務外の非違行為が,上記のような強度な背信性を
有するとまではいえない場合であっても,常に退職金の全額を支給すべきであると
はいえない。
 そうすると,このような場合には,当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続
の功などの個別的事情に応じ,退職金のうち,一定割合を支給すべきものである。
本件条項は,このような趣旨を定めたものと解すべきであり,その限度で,合理性
を持つと考えられる。なお,上記(1)認定のように,被控訴人において,過去
に,懲戒解雇の場合であっても,一定の割合で減額された退職金が支給された例が
あることは,本件条項を上記のように解すべきことの1つの裏付けとなるものであ
る。また,本件後に被控訴人の会社で設けられた諭旨解雇の制度において,退職金
の一定割合の支給が認められているのも,上記の解釈と基本的に通じる考え方に基
づくものと理解される。
    エ 本件でこれをみるに,本件行為が悪質なものであり,決して犯情が軽
微なものとはいえないこと,また,控訴人は,過去に3度にわたり,痴漢行為で検
挙されたのみならず,本件行為の約半年前にも痴漢行為で逮捕され,罰金刑に処せ
られたこと,そして,その時には昇給停止及び降職という処分にとどめられ,引き
続き被控訴人における勤務を続けながら,やり直しの機会を与えられたにもかかわ
らず,さらに同種行為で検挙され,正式に起訴されるに至ったものであること,控
訴人は,この種の痴漢行為を率先して防止,撲滅すべき電鉄会社の社員であったこ
とは,上記(2)記載のとおりである。
 このような面だけをみれば,本件では,控訴人の永年の勤続の功を抹消してしま
うほどの重大な不信行為があったと評価する余地もないではない。
    オ しかし,他方,本件行為及び控訴人の過去の痴漢行為は,いずれも電
車内での事件とはいえ,会社の業務自体とは関係なくなされた,控訴人の私生活上
の行為である。
 そして,これらについては,報道等によって,社外にその事実が明らかにされた
わけではなく,被控訴人の社会的評価や信用の低下や毀損が現実に生じたわけでは
ない。なお,控訴人が電鉄会社に勤務する社員として,痴漢行為のような乗客に迷
惑を及ぼす行為をしてはならないという職務上のモラルがあることは前述のとおり
である。しかし,それが雇用を継続するか否かの判断においてはともかく,賃金の
後払い的な要素を含む退職金の支給・不支給の点について,決定的な影響を及ぼす
ような事情であるとは認め難い。
    カ さらに,上記(1)認定事実からすれば,被控訴人において,過去に
退職金の一部が支給された事例は,いずれも金額の多寡はともかく,業務上取り扱
う金銭の着服という会社に対する直接の背信行為である。本件行為が被害者に与え
る影響からすれば,決して軽微な犯罪であるなどとはいえないことは前記説示のと
おりであるが,会社に対する関係では,直ちに直接的な背信行為とまでは断定でき
ない。そうすると,それらの者が過去に処分歴がなく,いわゆる初犯であった(当
審証人D)という点を考慮しても,それが本件事案と対比して,背信性が軽度であ
ると言い切れるか否か疑問が残る。
 加えて,控訴人の功労という面を検討しても,その20年余の勤務態度が非常に
真面目であったことは被控訴人の人事担当者も認めるところである(当審証人
D)。また,控訴人は,旅行業の取扱主任の資格も取得するなど,自己の職務上の
能力を高める努力をしていた様子も窺われる。
    キ このようにみてくると,本件行為が,上記イのような相当強度な背信
性を持つ行為であるとまではいえないと考えられる。
 そうすると,被控訴人は,本件条項に基づき,その退職金の全額について,支給
を拒むことはできないというべきである。しかし,他方,上記のように,本件行為
が職務外の行為であるとはいえ,会社及び従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでい
る被控訴人にとって,相当の不信行為であることは否定できないのであるから,本
件がその全額を支給すべき事案であるとは認め難い。
    ク そうすると,本件については,上記ウに述べたところに従い,本来支
給されるべき退職金のうち,一定割合での支給が認められるべきである。
 その具体的割合については,上述のような本件行為の性格,内容や,本件懲戒解
雇に至った経緯,また,控訴人の過去の勤務態度等の諸事情に加え,とりわけ,過
去の被控訴人における割合的な支給事例等をも考慮すれば,本来の退職金の支給額
の3割である276万2535円であるとするのが相当である。
    ケ 上記退職金に対する遅延損害金については,本件では,その支給時期
や,支払の催告についての具体的な主張,立証がない。
 そうすると,上記退職金については,本件の訴状が被控訴人に送達された日であ
る平成14年2月7日から,労働基準法23条1項に定める7日の期間が経過した
翌日である同年2月14日から遅滞が生じると解すべきである。
 また,本件の雇用契約は商法503条の附属的商行為に当たると解されるので,
上記退職金の遅延損害金の割合は,請求どおり,商事法定利率である年6分の割合
によるべきものである。
 2 結論
   したがって,被控訴人は,控訴人に対し,退職金として,276万2535
円及びこれらに対する平成14年2月14日から支払済みまで商事法定利率年6分
の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
 そこで,控訴人の請求を上記の限度で認容することとし,これと異なる原判決を
一部変更することとする。
 よって,主文のとおり判決する。
 (口頭弁論終結の日 平成15年7月1日)
   東京高等裁判所第19民事部
    裁判長裁判官    淺 生 重 機
         裁判官    及 川 憲 夫
         裁判官    竹 田 光 広


労働37事件 賞与の在籍日支給―大和銀行事件

2012年03月13日 | 労働百選

労働37事件 賞与の在籍日支給―大和銀行事件

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%92%8C%E9%8A%80%E8%A1%8C

旧大和銀行本店ビル
現りそな銀行本店ビル(大阪市中央区)
大和銀行 株式会社大和銀行(だいわぎんこう、英称:The Daiwa Bank, Limited.)はかつて日本に存在していた銀行の一つ。

創案者・野村徳七の「自主独往」精神を受け継ぎ、一時、邦銀でも有数の海外拠点網・都銀唯一の信託併営等の総合金融機能を発揮し、 企業年金信託では信託業界トップに立っていた。

信託併営であることから出店計画が認可されにくかったと言われており都市銀行では北海道拓殖銀行に次いで2番目に小規模で、 金融激戦地帯である近畿地方では大阪府指定金融機関を受託していた。

分離した証券部が野村証券となるなど現在は薄れている野村財閥中核の銀行として誕生。

ニューヨーク支店の巨額損失事件時住友銀行との合併が報道された。実際合併こそなかったが、アメリカ国内の支店網は住友銀行に譲渡された。

自主独往の精神を受け継いできたものの、2003年3月に大和銀行を存続会社としてあさひ銀行と合併しりそな銀行となった。


http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=70434&hanreiKbn=02
事件番号 昭和56(オ)661
事件名 未払賃金
裁判年月日 昭和57年10月07日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 集民 第137号297頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所
原審事件番号 昭和55(ネ)1858
原審裁判年月日 昭和56年03月20日
判示事項 賞与の支給日前に退職した者が当該賞与の受給権を有しないとされた事例
裁判要旨 就業規則の「賞与は決算期毎の業績により各決算期につき一回支給する。」との定めが「賞与は決算期毎の業績により支給日に在籍している者に対し各決算期につき一回支給する。」と改訂された場合において、右改訂前から、年二回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し、右就業規則の改訂は単に従業員組合の要請によつて右慣行を明文化したにとどまるものであつて、その内容においても合理性を有するときは、賞与の支給日前に退職した者は当該賞与の受給権を有しない。
参照法条 労働基準法24条
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319132510152510.pdf

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について
 原審の適法に確定したところによれば、被上告銀行においては、本件就業規則三
二条の改訂前から年二回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍し
ている者に対してのみ右決算期間を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在
し、右規則三二条の改訂は単に被上告銀行の従業員組合の要請によつて右慣行を明
文化したにとどまるものであつて、その内容においても合理性を有するというので
あり、右事実関係のもとにおいては、上告人は、被上告銀行を退職したのちである
昭和五四年六月一五日及び同年一二月一〇日を支給日とする各賞与については受給
権を有しないとした原審の判断は、結局正当として是認することができる。論旨は、
ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は
原審の認定しない事項を前提とし、若しくは原判決の結論に影響しない点について
原判決を論難するものであつて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一
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