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労働30事件 労働者に対する損害賠償請求―茨城石炭商事事件

2012年03月09日 | 労働百選

労働30事件 労働者に対する損害賠償請求―茨城石炭商事事件

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=54209&hanreiKbn=02
事件番号 昭和49(オ)1073
事件名 損害賠償請求
裁判年月日 昭和51年07月08日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 民集 第30巻7号689頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 昭和48(ネ)720
原審裁判年月日 昭和49年07月30日
判示事項 使用者がその事業の執行につき被用者の惹起した自動車事故により損害を被つた場合において信義則上被用者に対し右損害の一部についてのみ賠償及び求償の請求が許されるにすぎないとされた事例
裁判要旨 石油等の輸送及び販売を業とする使用者が、業務上タンクローリーを運転中の被用者の惹起した自動車事故により、直接損害を被り、かつ、第三者に対する損害賠償義務を履行したことに基づき損害を被つた場合において、使用者が業務上車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険に加入せず、また、右事故は被用者が特命により臨時的に乗務中生じたものであり、被用者の勤務成績は普通以上である等判示の事実関係のもとでは、使用者は、信義則上、右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない。
参照法条 民法1条2項,民法709条,民法715条3項
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319122016142947.pdf

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人中井川昇一の上告理由について
 使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を
被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合に
は、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条
件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使
用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信
義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求
をすることができるものと解すべきである。

 原審の適法に確定したところによると、(一)上告人は、石炭、石油、プロパンガ
ス等の輸送及び販売を業とする資本金八〇〇万円の株式会社であつて、従業員約五
〇名を擁し、タンクローリー、小型貨物自動車等の業務用車両を二〇台近く保有し
ていたが、経費節減のため、右車両につき対人賠償責任保険にのみ加人し、対物賠
償責任保険及び車両保険には加入していなかつた、(二)被上告人Bは、主として小
型貨物自動車の運転業務に従事し、タンクローリーには特命により臨時的に乗務す
るにすぎず、本件事故当時、同被上告人は、重油をほぼ満載したタンクローリーを
運転して交通の渋滞しはじめた国道上を進行中、車間距離不保持及び前方注視不十
分等の過失により、急停車した先行車に追突したものである、(三)本件事故当時、
被上告人Bは月額約四万五〇〇〇円の給与を支給され、その勤務成績は普通以上で
あつた、というのであり、右事実関係のもとにおいては、上告人がその直接被つた
損害及び被害者に対する損害賠償義務の履行により被つた損害のうち被上告人Bに
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対して賠償及び求償を請求しうる範囲は、信義則上右損害額の四分の一を限度とす
べきであり、したがつてその他の被上告人らについてもこれと同額である旨の原審
の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、
右と異なる見解を主張して原判決を論難するものにすぎず、採用することができな
い。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光
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