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新国立劇場事件最高裁平成23年4月12日第三小法廷判決

2012年04月01日 | 労働重判

主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
平成21年(行ヒ)第226号上告代理人廣見和夫ほかの上告受理申立て理由,
同上告参加代理人古川景一,同川口美貴の各上告受理申立て理由及び同第227号
上告代理人古川景一,同川口美貴,同水口洋介ほかの各上告受理申立て理由につい

1 本件は,年間を通して多数のオペラ公演を主催している財団法人である平成
21年(行ヒ)第226号被上告人・同第227号被上告参加人X1(以下「被上
告財団」という。)が,音楽家等の個人加盟による職能別労働組合である平成21
年(行ヒ)第226号上告参加人・同第227号上告人X2(以下「上告組合」と
いう。)に加入している合唱団員1名につき,毎年実施する合唱団員選抜の手続に
おいて,過去4年間は,原則として年間シーズンの全ての公演に出演することが可
能である契約メンバーの合唱団員として合格とし,その者との間で期間1年の出演
基本契約を締結していたが,次期シーズンについては上記の者を不合格としたこと
及びこのことに関する上告組合からの団体交渉の申入れに応じなかったことについ
て,東京都労働委員会において,被上告財団が上記申入れに応じなかったことは不
当労働行為に該当するが上記の者を不合格としたことはこれに該当しないとして,
被上告財団に対し団体交渉に応ずべきこと等を命じ,上告組合のその余の申立てを
棄却する旨の命令を発し,中央労働委員会において,被上告財団及び上告組合の各
再審査申立てをいずれも棄却する旨の命令を発したため,被上告財団及び上告組合
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が,中央労働委員会の上記命令に関し,それぞれ各自の再審査申立てを棄却した部
分の取消しを求める事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)ア 上告組合は,職業音楽家と音楽関連業務に携わる労働者の個人加盟によ
る職能別労働組合である。
イ 被上告財団は,新国立劇場の施設において現代舞台芸術の公演等を行うとと
もに同施設の管理運営を行っている財団法人であり,年間を通して多数のオペラ公
演を主催している。
(2)ア 被上告財団は,毎年,主催するオペラ公演に出演する新国立劇場合唱団
のメンバーを試聴会を開いて選抜し,合格者との間で,8月から翌年7月までの年
間シーズンの全ての公演(ただし,被上告財団が当該シーズンの開始前にあらかじ
め出演を指定しないものがある。例えば,男声合唱だけの演目には女性団員は出演
しないし,他の合唱団が出演する演目もある。)に出演することが可能である契約
メンバーと,被上告財団がその都度指定する公演に出演することが可能である登録
メンバー(契約メンバーだけでは合唱団のメンバーが足りない場合等に合唱団に加
わることになる。)に分けて,出演契約を締結していた。
イ 契約メンバーは毎年40名程度であり,メンバーは毎年入れ替わりがあっ
た。被上告財団が主催するオペラ公演は,年間10~12の公演があり,1公演に
つき2~8回の上演が行われていた。
(3)ア 試聴会は,次期シーズンの契約を希望する合唱団のメンバー及び公募に
よる参加者を対象に,新国立劇場のオペラ芸術監督や合唱指揮者らがオペラ・アリ
ア等の歌唱技能を審査するものであり,被上告財団は,試聴会の審査結果等によ
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り,契約メンバー合格者及び登録メンバー合格者を選抜した。契約メンバー合格者
の方が合格に要する技能等の水準が高かった。
イ 被上告財団は,契約メンバー合格者に対して,期間を1年とする出演基本契
約の締結を申し出て,面談の上,契約メンバーになることとなった者との間で,同
契約を締結し,その上で,各公演ごとに個別公演出演契約を締結していた。これに
対し,登録メンバー合格者(契約メンバー合格者のうち,本人の希望又は面談の結
果,登録メンバーになることとなった者を含む。)は,被上告財団との間で,その
出演する公演ごとに出演契約を締結した。
(4)ア 被上告財団と契約メンバーとの間で締結されていた出演基本契約の主な
内容は,次のとおりである。なお,同契約の内容は,被上告財団が一方的に決定し
ており,各メンバーにより出演対象となる公演が異なるほかは,全ての契約メンバ
ーに共通である。
(ア) 被上告財団は,契約メンバーに対し,被上告財団の主催するオペラ公演に
出演することを依頼し,契約メンバーはこれを承諾する。
(イ) 契約メンバーが出演する公演(以下「個別公演」という。)は,出演基本
契約に係る契約書(以下「出演基本契約書」という。)の別紙「出演公演一覧」に
記載のとおりとする(なお,同別紙には,年間シーズンの公演名,公演時期,上演
回数及び当該契約メンバーの出演の有無等が記載されており,この記載は,各契約
メンバーごとに異なっていた。)。
(ウ) 契約メンバーは,合唱メンバーとして個別公演に出演し,必要な稽古等に
参加し,その他個別公演に伴う業務で被上告財団と合意するものを行う。
(エ) 契約メンバーが個別公演に出演するに当たり,被上告財団と契約メンバー
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は,契約メンバーの個別公演への出演を確定し,当該個別公演の出演業務の内容及
び出演条件等を定めるため,原則として当該個別公演の稽古が開始される月の前々
月の末日までに,個別公演出演契約を締結する。個別公演出演契約に係る契約書に
記載されない事項については,出演基本契約に従うものとする。
(オ) 被上告財団は,契約メンバーに対し,出演業務の遂行に対する報酬を,個
別公演出演契約締結の上,個別公演ごとに支払う。報酬は,出演基本契約書の別紙
「報酬等一覧」に掲げる単価等に基づいて算定する(なお,同別紙には,報酬は公
演出演料(1回当たりの金額が定められている。)及び超過稽古手当(超過時間に
より区分された金額が定められている。)等から成ること,稽古を欠席,遅刻又は
早退した場合には報酬を減額すること等が記載されていた。)。
イ 出演基本契約書の条項には,被上告財団が契約メンバーに対して個別公演出
演契約の締結を申し出た場合に契約メンバーにその締結を義務付ける旨を明示する
規定や,契約メンバーが被上告財団以外の者が主催する公演に出演したり,個人公
演を開いたり,個人レッスンをしたりすること等の音楽活動を禁止,制限する規定
はなかった。
(5)ア 前記(4)ア(エ)に基づき締結される個別公演出演契約には,出演を確定す
る個別公演の公演日程等が定められたほか,当該個別公演の出演業務の内容及び出
演条件等は,同契約に係る契約書に定める特記事項を除き,全て出演基本契約のと
おりとすること等が定められた。
イ 被上告財団は,個別公演の稽古等の確定した日程を,その稽古等が行われる
月の前々月の末日までに決定し,契約メンバーに提示していた。歌唱技能の提供の
方法や提供すべき歌唱の内容については,合唱指揮者等の指揮があった。また,前
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記(4)ア(オ)のとおり,出演基本契約上,稽古を欠席,遅刻又は早退した場合には
報酬を減額することが定められており,実際にも,契約メンバーは,稽古への参加
状況について被上告財団の監督を受けていた。
(6)ア 実際の運用では,契約メンバーが,当該シーズンの一部の個別公演への
出演を辞退し,個別公演出演契約を締結しないことがあった。もっとも,辞退の件
数は,1シーズンにつき延べ数件程度とかなり少なく,また,辞退の理由の大半
は,出産,育児によるものや他の公演への出演によるものであった。
イ 被上告財団は,個別公演への出演を辞退した契約メンバーに対しても,当該
契約メンバー本人に特段の希望がある場合や当該契約メンバーが試聴会で不合格と
なった場合を除き,翌シーズンの出演基本契約の締結を申し出ており,再契約にお
いて特に不利な取扱いをしたことはなかった。契約メンバーが個別公演への出演を
辞退したことを理由として被上告財団から制裁を課されたこともなかった。
ウ 契約メンバー合格者は,出演基本契約締結のための面談の際,被上告財団か
ら,全ての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望された。
もっとも,契約メンバーとして同契約を締結するに当たって,全ての個別公演に確
定的に出演することができる旨の申告や届出が要求されることはなく,1,2の個
別公演には出演することができないという者でも,被上告財団の意向により契約メ
ンバーとなる者がいた。他方,契約メンバー合格者であっても,本人の希望により
登録メンバーとなる者や,出演することができる公演が限られることから被上告財
団の意向により登録メンバーとなる者がいた。
(7)ア Aは,上告組合に加入している者であり,新国立劇場合唱団の契約メン
バーとして,平成11年8月から同15年7月までの4シーズンにわたり,毎年,
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被上告財団との間で出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を
締結し,公演に出演していた。Aは,その間,被上告財団から,年間約300万円
の報酬(超過稽古手当を含む。)を受けていた。
イ Aは,平成13年1月から同年3月まで文化庁在外派遣研修員としてウィー
ンに派遣され,その間,予定されていた公演への出演を辞退したが,翌シーズンも
契約メンバーとして出演基本契約を締結した。
ウ Aが公演への出演や稽古への参加のため新国立劇場に行った日数は,平成1
4年8月から同15年7月までのシーズンにおいて,約230日であった。Aは,
その間,個人でリサイタルを開いたり,生徒に個人レッスンをするなどの音楽活動
も行っていた。
(8)ア Aは,被上告財団から,平成15年2月20日,同年8月から始まるシ
ーズンについて,試聴会の審査の結果,契約メンバーとしては不合格であると告知
された(以下,被上告財団がAを不合格としたことを「本件不合格措置」とい
う。)。
イ 上告組合は,平成15年3月4日,被上告財団に対し,文書により,「Aの
次期シーズンの契約について」を議題とする団体交渉の申入れ(以下「本件団交申
入れ」という。)を行った。これに対し,被上告財団は,同月7日,「A氏と当財
団との関係が雇用関係にないので,これを前提とする団体交渉申し入れは受諾出来
ない」などと文書で回答した。
(9) 上告組合は,平成15年5月6日,東京都労働委員会に対し,本件不合格
措置及び本件団交申入れに対する被上告財団の対応が不当労働行為に当たるとし
て,救済申立てをしたところ,同委員会は,本件団交申入れに対する被上告財団の
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対応は不当労働行為に該当するが本件不合格措置はこれに該当しないとして,被上
告財団に対し団体交渉に応ずべきこと等を命じ,その余の申立てを棄却する旨の命
令を発した。同命令に関し,被上告財団は救済を命じた部分につき,上告組合は申
立棄却部分につき,中央労働委員会に対しそれぞれ再審査を申し立てたが,同委員
会は,これらの再審査申立てをいずれも棄却する旨の命令を発した。
3 原審は,上記事実関係等の下において要旨次のとおり判断し,契約メンバー
であるAは労働組合法上の労働者に当たらず,したがって,本件団交申入れに対す
る被上告財団の対応及び本件不合格措置について不当労働行為が成立する余地はな
いとして,被上告財団の請求を認容し,上告組合の請求を棄却すべきものとした。
契約メンバーは,被上告財団と出演基本契約を締結しただけでは個別公演に出演
する法的な義務はなく,個別公演出演契約を締結する法的な義務はないというべき
であるから,契約メンバーには,労務ないし業務を提供することについて諾否の自
由がないとはいえない。また,契約メンバーは,個別公演出演契約を締結しない限
り,業務遂行の日時,場所,方法等について被上告財団の指揮監督を受けることは
ない。さらに,契約メンバーは,出演基本契約を締結しただけでは報酬の支払を受
けることはなく,他方で,出演することが予定されている公演はあらかじめ決まっ
ており,予定された公演以外に随時出演を求められることはないから,被上告財団
との間の指揮命令,支配監督関係は相当に希薄というべきである。したがって,契
約メンバーが被上告財団との間で出演基本契約を締結したことによって,労務ない
し業務の処分について被上告財団から指揮命令,支配監督を受ける関係になってい
るとは認められず,契約メンバーであるAは労働組合法上の労働者に当たるという
ことはできない。
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4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係等によれば,出演基本契約は,年間を通して多数のオペラ公演を主
催する被上告財団が,試聴会の審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認め
た者を,原則として年間シーズンの全ての公演に出演することが可能である契約メ
ンバーとして確保することにより,上記各公演を円滑かつ確実に遂行することを目
的として締結されていたものであるといえるから,契約メンバーは,上記各公演の
実施に不可欠な歌唱労働力として被上告財団の組織に組み入れられていたものとい
うべきである。また,契約メンバーは,出演基本契約を締結する際,被上告財団か
ら,全ての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望されてお
り,出演基本契約書には,被上告財団は契約メンバーに対し被上告財団の主催する
オペラ公演に出演することを依頼し,契約メンバーはこれを承諾すること,契約メ
ンバーは個別公演に出演し,必要な稽古等に参加し,その他個別公演に伴う業務で
被上告財団と合意するものを行うことが記載され,出演基本契約書の別紙「出演公
演一覧」には,年間シーズンの公演名,公演時期,上演回数及び当該契約メンバー
の出演の有無等が記載されていたことなどに照らせば,出演基本契約書の条項に個
別公演出演契約の締結を義務付ける旨を明示する規定がなく,契約メンバーが個別
公演への出演を辞退したことを理由に被上告財団から再契約において不利な取扱い
を受けたり制裁を課されたりしたことがなかったとしても,そのことから直ちに,
契約メンバーが何らの理由もなく全く自由に公演を辞退することができたものとい
うことはできず,むしろ,契約メンバーが個別公演への出演を辞退した例は,出
産,育児や他の公演への出演等を理由とする僅少なものにとどまっていたことにも
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鑑みると,各当事者の認識や契約の実際の運用においては,契約メンバーは,基本
的に被上告財団からの個別公演出演の申込みに応ずべき関係にあったものとみるの
が相当である。しかも,契約メンバーと被上告財団との間で締結されていた出演基
本契約の内容は,被上告財団により一方的に決定され,契約メンバーがいかなる態
様で歌唱の労務を提供するかについても,専ら被上告財団が,年間シーズンの公演
の件数,演目,各公演の日程及び上演回数,これに要する稽古の日程,その演目の
合唱団の構成等を一方的に決定していたのであり,これらの事項につき,契約メン
バーの側に交渉の余地があったということはできない。そして,契約メンバーは,
このようにして被上告財団により決定された公演日程等に従い,各個別公演及びそ
の稽古につき,被上告財団の指定する日時,場所において,その指定する演目に応
じて歌唱の労務を提供していたのであり,歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱
の内容については被上告財団の選定する合唱指揮者等の指揮を受け,稽古への参加
状況については被上告財団の監督を受けていたというのであるから,契約メンバー
は,被上告財団の指揮監督の下において歌唱の労務を提供していたものというべき
である。なお,公演や稽古の日時,場所等は,上記のとおり専ら被上告財団が一方
的に決定しており,契約メンバーであるAが公演への出演や稽古への参加のため新
国立劇場に行った日数は,平成14年8月から同15年7月までのシーズンにおい
て約230日であったというのであるから,契約メンバーは時間的にも場所的にも
一定の拘束を受けていたものということができる。さらに,契約メンバーは,被上
告財団の指示に従って公演及び稽古に参加し歌唱の労務を提供した場合に,出演基
本契約書の別紙「報酬等一覧」に掲げる単価及び計算方法に基づいて算定された報
酬の支払を受けていたのであり,予定された時間を超えて稽古に参加した場合には
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超過時間により区分された超過稽古手当も支払われており,Aに支払われていた報
酬(上記手当を含む。)の金額の合計は年間約300万円であったというのである
から,その報酬は,歌唱の労務の提供それ自体の対価であるとみるのが相当であ
る。
以上の諸事情を総合考慮すれば,契約メンバーであるAは,被上告財団との関係
において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,Aが被上告財団
との関係において労働組合法上の労働者に当たることを前提とした上で,被上告財
団が本件不合格措置を採ったこと及び本件団交申入れに応じなかったことが不当労
働行為に当たるか否かについて更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す
こととする。
よって,裁判官全員一致の意見により,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 大谷剛彦 裁判官
寺田逸郎)


新国立劇場事件最高裁平成23年4月12日第三小法廷判決

2012年04月01日 | 労働重判

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81241&hanreiKbn=02
事件番号 平成21(行ヒ)226
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月12日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
判例集等巻・号・頁 民集 
第65巻3号943頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成20(行コ)303
原審裁判年月日 平成21年03月25日
判示事項 年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例

裁判要旨 
年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員は,次の(1)~(5)など判示の事実関係の下では,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たる。
(1) 出演基本契約は,上記法人が,試聴会の審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認めた者を,原則として契約期間の全ての公演に出演することが可能である合唱団員として確保することにより,上記各公演を円滑かつ確実に遂行することを目的として締結されていた。
(2) 合唱団員は,出演基本契約を締結する際,上記法人から,あらかじめ上記法人が指定する全ての公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望され,合唱団員が公演への出演を辞退した例は,出産,育児や他の公演への出演等を理由とする僅少なものにとどまっていた。
(3) 出演基本契約の内容や,契約期間の公演の件数,演目,各公演の日程及び上演回数,これに要する稽古の日程,その演目の合唱団の構成等は,上記法人が一方的に決定していた。
(4) 合唱団員は,各公演及びその稽古につき,上記法人の指定する日時,場所において,その指定する演目に応じて歌唱の労務を提供し,歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容について上記法人の選定する合唱指揮者等の指揮を受け,稽古への参加状況について上記法人の監督を受けていた。
(5) 合唱団員は,上記法人の指示に従って公演及び稽古に参加し歌唱の労務を提供した場合に,出演基本契約で定められた単価及び計算方法に基づいて算定された報酬の支払を受け,予定された時間を超えて稽古に参加した場合には超過時間により区分された超過稽古手当の支払を受けていた。

参照法条 労働組合法3条,労働組合法7条
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110412150301.pdf


平成18年度重要判例解説労働法4事件

2012年03月27日 | 労働重判

労働法4事件 時限ストに対するロックアウトの正当性―安威川生コンクリート工業事件

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=32909&hanreiKbn=02
事件番号 平成15(受)723
事件名 賃金支払請求事件
裁判年月日 平成18年04月18日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集等巻・号・頁 民集 第60巻4号1548頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所
原審事件番号 平成7(ネ)656
原審裁判年月日 平成14年12月27日
判示事項 時限ストライキ等の争議行為のため受注を返上せざるを得なくなったことなどにより損害を被った生コンクリート製造販売業者のしたロックアウトが使用者の正当な争議行為と認められた事例
裁判要旨 生コンクリート製造販売業者が時限ストライキ等の争議行為に対しロックアウトをした場合において,上記時限ストライキの態様から,上記業者は,取引慣行上,その日の受注の全部を返上するなどして,終日事実上休業の状態にせざるを得ず,時限ストライキが解除された後に従業員が提供した労務は,就労しなかった時間に係る減額がされた後の賃金にも到底見合わないものであったこと,上記業者は,上記争議行為が開始された後,受注が減少して資金繰りが著しく悪化し,納入先の信用も損なわれ,甚大な損害を被ったこと,上記争議行為における従業員らの要求は,同人ら全員が以前所属していた組合と上記業者との間に成立していた合意を,同人らが上記組合を脱退した直後に覆そうとするものであることなど判示の事情の下では,上記ロックアウトは,衡平の見地からみて,上記争議行為に対する対抗防衛手段として相当であり,使用者の正当な争議行為と認められる。
参照法条 労働組合法8条,労働関係調整法7条
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061020160220.pdf

主文
原判決のうち上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき被上告人らの控訴をいずれも棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
理由
上告代理人池田俊,同奥村正道の上告受理申立て理由について
1 本件は,生コンクリートの製造等を営む上告人に雇用され,車両の運転等の
業務に従事してきた被上告人らが,上告人の行ったロックアウトにより就労するこ
とができなかった期間に係る賃金の支払等を求めている事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人は,生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造及び販売を
営む資本金1000万円の株式会社であり,A協同組合(以下「協同組合」とい
う。)に加入している。被上告人らは,上告人に雇用され,コンクリートミキサー
車の運転等の業務に従事してきた。上告人の従業員は,管理職を除けば,後記の本
件争議行為当時,被上告人らのほかにはいなかった。
(2) 上告人の従業員が加入していた労働組合(以下「旧組合」という。)は,
昭和58年10月10日,B労組(以下「B労組」という。)とC労組(以下「C
労組」という。)とに分かれた。この際,被上告人らは,いずれもC労組に加入し
た。
(3)ア上告人は,C労組所属の従業員に対する解雇をめぐるC労組との協議に
おいて,この解雇を無効と認めた上で,昭和57年に旧組合がした争議行為の責任
をC労組において追及すべきこと,同争議行為により上告人の被った損害を回復す
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るための同62年3月までの賃上げの停止及び一時金の不支給を受け入れるべきこ
となどから成る6項目の要求をした。次いで,上告人は,上記要求に係る措置を実
施するとして,C労組及びB労組に対し,同59年10月29日付けで,労働条件
の切下げ(労働時間の延長,割増賃金の減額等),同62年3月までの賃上げの停
止及び一時金の不支給等を申し入れた。
イこれに対し,C労組は,昭和60年4月11日,上記要求について解決に努
力することなどを上告人との間で合意し,さらに,同年6月25日,上記の争議に
おける旧組合の行為のすべてが正しかったとは考えていない旨を表明した。もっと
も,上記の労働条件の切下げの実施に対しては,C労組所属の従業員(被上告人ら
を含む。)が,それまでの労働条件による割増賃金等の仮払の仮処分を申し立てて
争ったが,結局,上告人とC労組との間で,同61年5月17日,上告人からの金
員の支払と引換えに,C労組が,同62年3月20日まで,上記の労働条件の切下
げを受け入れ,賃上げの停止,一時金の不支給等にも応ずるとの合意が成立し,上
記仮処分申立ては取り下げられた。
ウB労組は,昭和59年12月13日,昭和59年度から同61年度までの3
年間企業再建に協力し,賃上げ及び一時金支給の凍結を受け入れることなどについ
ては上告人と合意したが,前記の労働条件の切下げの実施に対しては抗議した。
その後,上告人の従業員でB労組に所属するものは,全員が退職した。
(4) 上告人の従業員でC労組に所属するもの(被上告人らを含む。)は,昭和
62年9月16日,C労組を脱退し,その当時上告人の従業員で所属するものはい
なくなっていたB労組に加入した。B労組は,同日,上告人に対し,賃上げの凍結
を解除し,さかのぼって賃上げ及び一時金支給をし,かつ,切り下げられた労働条
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件をさかのぼって旧に復し,賃金差額の全額及び一時金を支払うよう要求して団体
交渉を申し入れた。
団体交渉において,上告人は,前記の6項目の要求についての解決策を先に協議
すべきであるなどの主張をしたが,B労組及び被上告人らは,C労組が先にした同
61年5月17日付け合意には拘束されないとして交渉を決裂させた。
(5) 被上告人らは,昭和62年11月5日に24時間ストライキを行い,更に
同月13日,26日,同年12月2日,7日,14日,15日にもそれぞれ1時間
ないし8時間の時限ストライキを行ったほか(以下,これらのストライキを併せて
「本件ストライキ」という。),車両の運転速度を殊更に落とす,生コンの車両積
載量を減らす,納入先工事現場への輸送等の途中であるにもかかわらず休憩を取る
ため生コンを上告人の工場に持ち帰るなどの怠業的行為(以下,これらの行為と本
件ストライキとを併せて「本件争議行為」という。)にも及んだ。このため,上告
人は,管理職等を動員して持ち帰られた生コンを納入先に輸送するなどの対応をし
なければならず,納入先では工程に遅れが生じた。
(6)ア協同組合に加入している業者による生コンの製造及び販売に関しては,
需要者からD協同組合へ,更に協同組合へと順次注文がされ,これを受けて,協同
組合が加入業者に対し実績に基づきあらかじめ定めてある配分率に従って決めた量
を日々発注して売買契約を締結し,加入業者が受注した生コンを協同組合の指定し
た納入先に納入するという方式の取引が行われていた。上告人の売上げも,大半は
この方式によるものであった。
協同組合に加入している業者は,ストライキが行われた場合,それにより出荷不
能となった分の受注を協同組合に返上し,協同組合がその分を他の業者に割り替え
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て発注し直すこととしていたが,ストライキの解除時期が不明な場合には,出荷不
能となる注文がどれほどであるかが判明しないため,業者は,その日に割り当てら
れた分の受注の全部を返上するほかなかった。
また,業者において争議が発生し,ストライキが予告なく行われることが見込ま
れる場合には,発注先業者を当日急きょ割り替えることにより対処するのが容易で
ないため,協同組合は,当該業者に割り当てる注文をあらかじめ定めてある配分率
による量よりも大幅に減らし,業者もそれを受け入れるのが慣例であった。
イ本件ストライキは,事前には通告しないか,又はせいぜい開始約3分前に通
告して開始し,解除時期の予告はせず,上告人が割り当てられたその日の受注を協
同組合に返上したころ合いを見計らって解除するという態様で繰り返された。その
ため,上告人は,その日の受注の全部を返上して,終日,事実上休業の状態にせざ
るを得ず,また,協同組合からの割当てそのものを大幅に減らされることも受け入
れざるを得なかった。
これにより,上告人は,昭和62年11月にはあらかじめ定められた配分率から
予定されていた量の23%,同年12月(同月1日から19日まで)には同じく1
3%しか受注及び出荷をすることができず,その結果,売上げが1億1000万円
以上減少し,資金繰りが著しく悪化した。
さらに,前記のとおり上告人の生コンの納入の遅れにより納入先の工程の遅延が
生じたため,上告人の取引上の信用は少なからず害された。
(7) そこで,上告人は,昭和62年12月20日,被上告人らに対しロックア
ウトを行う旨を通告してその工場への立入り及び就労を拒否した(以下,これによ
るロックアウトを「本件ロックアウト」という。)。このため,現場作業員として
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就労する者が皆無となり,上告人の操業は全面的に停止した。上告人は,被上告人
らに対し,同月21日以降の分の賃金を支払っていない。
B労組及び被上告人らは,それぞれ,上告人に対し,本件ロックアウトは容認す
ることができないから,直ちにこれを解除し,B労組の要求について解決をするこ
とを求める旨の申入れをした。
上告人は,本件ロックアウト開始後も,被上告人らとの間では交渉を続け,同6
3年11月23日には,被上告人らが退職した上,会社を設立し,上告人から生コ
ンの輸送を請け負うこととすることでおおむね交渉がまとまったが,B労組の委員
長の反対により,結局合意の成立には至らなかった。
上告人は,平成元年1月ころ事業の継続を断念した。
3 原審は,上記事実関係の下において次のとおり判断し,本件ロックアウトに
正当性を認めることはできないとして,被上告人らの賃金請求を一部認容すべきも
のとした。
(1) 本件争議行為においては,上告人の被上告人らに対する賃金の負担は,被
上告人らの提供した労務に見合わないものとなっており,被上告人らの就労を受け
入れて賃金の支払を継続するのは,上告人の損害を拡大することになる。しかし,
本件争議行為は,暴力的態様のものではなく,また,上告人は,操業再開の努力を
全くといってよいほどしていない。そうすると,本件争議行為によって上告人が著
しく不利な圧力を受けたとまではいえない。
(2) 上告人とC労組との間に成立していた昭和61年5月17日付けの合意
は,同62年3月20日までの暫定的措置を約したにすぎず,権利放棄を明確に定
めたものではないから,これとの関係からみても,本件争議行為を労使間の信義に
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反するものとはいえない。
(3) 上記の各点に加え,上告人が操業再開に向けた真しな努力をしているとは
評価し難いことを考慮すれば,本件ロックアウトは,被上告人らの要求に対して一
切妥協しないために強行されたものであり,防衛手段としての域を超え,攻撃的な
意図をもってされたものというべきであるから,正当性を認めることができない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1) 個々の具体的な労働争議の場において,労働者の争議行為により使用者側
が著しく不利な圧力を受けることになるような場合には,衡平の原則に照らし,労
使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を認められる限りに
おいては,使用者の争議行為も正当なものとして是認されると解すべきであり,使
用者のロックアウトが正当な争議行為として是認されるかどうかも,上記に述べた
ところに従い,個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度,経過,組合側
の争議行為の態様,それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸
事情に照らし,衡平の見地からみて労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段とし
て相当と認められるかどうかによってこれを決すべきである。このような相当性を
認めることができる場合には,使用者は,正当な争議行為をしたものとして,当該
ロックアウトの期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義
務を免れるものというべきである(最高裁昭和44年(オ)第1256号同50年
4月25日第三小法廷判決・民集29巻4号481頁,最高裁昭和51年(オ)第
541号同55年4月11日第二小法廷判決・民集34巻3号330頁,最高裁昭
和53年(行ツ)第29号同58年6月13日第二小法廷判決・民集37巻5号6
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36頁参照)。
(2) 本件についてこれをみると,前記事実関係によれば,次のように解するの
が相当である。
ア本件争議行為のうちの時限ストライキは,事前には通告しないか,又は直前
に通告して開始し,上告人が割り当てられたその日の受注を協同組合に返上したこ
ろ合いを見計らって解除するという態様で6回にわたり繰り返された。そのため,
これらがいずれも比較的短時間の時限ストライキであったにもかかわらず,上告人
は,取引慣行上,その日の受注を全部返上するなどして,終日,事実上休業の状態
にせざるを得なかった。このような状況においては,被上告人らの提供した労務
は,ストライキにより就労しなかった時間に係る減額がされた後の賃金にも到底見
合わないものであり,かえって上告人に賃金負担による損害を被らせるだけのもの
であった。そして,上告人は,本件争議行為が開始された後は,受注が減少して資
金繰りが著しく悪化し,納入先の信用も損なわれたというのであるから,本件争議
行為によって上告人が被った損害は,その規模等からみて甚大なものであったとい
うべきである。
このような本件争議行為の態様及びこれによって上告人の被った打撃の程度に照
らすと,上告人が本件争議行為により著しく不利な圧力を受けたことは明らかであ
る。本件争議行為が暴力的態様のものではなかったことなどの原審の指摘する事情
は,上告人が上記のようにして著しく不利な圧力を受けたことを否定する理由にな
るものではない。
イ上告人とC労組との間に成立していた昭和61年5月17日付けの合意は,
確認書の文言やその締結に至る経緯を考慮すれば,① 同59年11月1日から同
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62年3月20日までの期間については,上告人による申入れのとおり切り下げら
れた労働条件に従って賃金請求権が発生するものとし,C労組は,その期間の賃金
については引上げの要求をせず,同期間に係る一時金の支払も要求しない,② 同
月21日以降の労働条件は,従来の労働協約を基本として協議し,同日以降の期間
に係る賃金についての引上げ及び一時金の支払についても協議するという趣旨のも
のと解するのが相当である。一方,本件争議行為におけるB労組の要求は,そ及的
な賃上げ並びに一時金及び割増賃金の支払を求めるというものであり,上記合意を
覆すものであることが明らかである。そして,本件争議行為当時B労組に所属して
いた上告人の従業員は,被上告人らを含め,上記合意の当時は皆C労組に属してい
たのであるから,C労組との間に成立していた合意を覆すような要求を,しかも,
C労組を脱退した直後に持ち出すのは,労使間の信義の見地からみて相当な交渉態
度とはいい難い。
労使間のこのような交渉態度,経過からすると,本件争議行為に対し上告人が本
件ロックアウトをもって臨んだことも,やむを得ないところであったということが
できる。
ウ本件争議行為が開始される以前から上告人が事業を放棄する機をうかがって
いたというような事情は見当たらない。また,本件争議行為の態様及びそれによる
打撃の程度等からすると,上告人としては,操業再開を図るより先に,過重な賃金
の負担を免れるためまずはロックアウトによってこれに対抗しようとするのもやむ
を得ないものというべきである。したがって,本件ロックアウトをもって攻撃的な
意図でされたものとみるのは当たらない。
エ上記アないしウに説示したところその他前記事実関係によれば,本件ロック
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アウトは,本件争議行為の態様,それによって上告人の受ける打撃の程度,争議に
おける上告人と被上告人ら及びB労組との交渉態度,経過に関する具体的事情に照
らし,衡平の見地からみて,本件争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認め
られるものというべきである。
5 上記のとおり,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の
違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れな
い。そして,以上説示したところによれば,被上告人らの賃金請求は全部理由がな
いから,これを棄却した第1審判決は正当であり,被上告人らの控訴をいずれも棄
却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官濱田邦夫裁判官上田豊三裁判官藤田宙靖裁判官
堀籠幸男)