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憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ロビンの瞳・・終 (萩尾望都 ポーの一族より)

2022-12-12 13:10:09 | ロビンの瞳(ポーの一族より)

「ウェールズ(注・考証していないので、適当です)に・・いこう」

切符を買いに行くエドガーの背中をみつめ駅舎の待合にぽつねんと立ち尽くすアランの後ろ髪に触れるものがあった。

そっと、振りむくと、アランの髪にふれていたのは、赤い風船だった。

ヘリウムガスで膨らませた風船はふわふわと宙に舞い、風船が逃げ出さないように縛られた細い糸の先を、4、5才くらいの男の子がしっかり握り締めていた。

「あ?」

アランの声が漏れるのも無理が無い。

金色の髪に、ブルーアイ・・年頃もロビンを思い起こさせていた。

アランの声にきがついた男の子は、アランをみあげて小さく謝った。

「ごめんなさい」

幼子は風船がアランの気に触ったのだとおもったようだった。

「ううん」

アランは男の子の目の高さまでしゃがみこんでみた。

見れば見るほど、ロビンを思いこさせた。

ーエドガーに・・見せないほうが良いー

アランはそう判断すると、立ち上がりざまにその場をはなれようとした。

 

「あ?ああ!」

幼子の声と同時にアランはカフスボタンに風船の糸が絡んだ違和感を感じていた。

アランのカフスボタンに糸がとられ、少年の手から風船が離れ、駅舎の天井めがけて、ゆらゆらと登っていき始めていた。

「あっ」

アランが手をのばした先は、空をつかんだだけだった。

このまま、逃げ去るようにその場を離れる事が出来なくなったアランは、あたりを見回した。

小さな鈎がついている棒があれば、風船を取りなおすことができるかもしれない。

早く、風船を返して、その場を離れたいと、あたりを見渡しても、適当な道具はみつけられなかった。

天井まで届いた風船をみあげていた、そのアランの背中に手がのびてきていた。

「肩車をしてあげるから・・」

肩を叩かれ振り向けば、エドガーだった。

「早かったね・・」

「いいから・・」

エドガーに促され、アランはエドガーの肩をまたぎ、寸刻のちには、少年の手に赤い風船がわたされていた。

少年に風船を渡しおえると、逃げるように、立ち去ろうとしたのは、アランではなく、エドガーのほうだった。

足早に改札口に向かうエドガーの後ろを追いかけながら、アランはウェールズ行きの列車の発車時刻と、今の時間を確認していた。

エドガーが急いだわけがそこにあるのか、どうか、たしかめたかったせいだ。

だけど、取り急ぎ、プラットホームに駆け込む必要があるとは思えない時間だった。

多分、エドガーは、少年をそれ以上みつめていたくなかったに違いなかった。

急ぐ二人の背中に先の男の子の声がきこえてきていた。

「おにいちゃん・・たち・・ありがとう」

エドガーはきっと、耳をふさいでしまいたいだろう。

男の子の声がそのまま、ロビンにかさなってくるから・・。

ーおにいちゃんたち、また、逢える?ー

ロビンと同じ言葉がでてこないことを祈りながらアランは男の子をふりむくと、小さくてをふった。

プラットホームにかけこんで、二人で突っ立って汽車が来るまで、少年が同じ列車にのりこむわけでなかったのは、幸いだった。

ひどく無口なのは、いつものことだが、エドガーはなにひとつ喋ろうとしなかった。

列車がホームに滑り込み、降客と入れ違いに客車にはいり、空いた席に座って、列車が動き出すまでエドガーの口はとざされたままだった。

いつもなら、窓際に座るのはアランで、エドガーが通路側に座る。

まるで、アランを護るかのようないつものエドガーは消え果て、エドガーは窓の外をじっとみていた。

反対側のプラットホームに赤い風船がちらりと見えたとき、列車は、ホームと別れをつげていた。

言うか、言うまいか、迷ったままのアランがやっと口をひらいた。

話題をさけるほうが、おかしいとも、余計な気遣いが、エドガーの自尊心を逆撫でにするとも思えた。

「ロビン・・に・・にていたね」

それは、エドガーも感じていたことだろう。

感じていたからこそ、エドガーの様子がおかしかったんだ。

アランの言葉にエドガーは窓の外をみつめたまま、答えていた。

「そうだね・・。でも、ロビンは・・僕の胸に・・住んでる・・」

最後まで言葉をおしだそうとしているエドガーが、泣き顔をけどらせまいとしているのが、判るとアランは、大きな伸びをしてみせた。

「ロビンのほうが、可愛かったさ」

「う・・ん」

アランにふりむかないまま、エドガーの手が涙をぬぐったようにみえた。

 

アランもまた、小さな雫を指先でぬぐっていた。

エドガーが、一言でいなした言葉がアランの心にひびいていた。

ロビンは僕の胸に住んでいる。

エドガーがやっと、見極めた事実がアランの安堵を雫にかえていた。

列車が、暗いトンネルにさしかかると、エドガーがアランの手をまさぐってきていた。

エドガーの手を握り返すと、エドガーが、ぽつりとつぶやいた。

「アランがいてくれれば・・」

それでいいんだと最後までいわなかったのは、列車がトンネルをぬけでたせいかもしれない。

「また、キリアンが、追いかけてくるよ」

キリアンをいきぬかせるためにも、僕たちは死んじゃいけない。

エドガーの言っていた通りを胸にきざみつけるアランにエドガーが薄く笑った。

「次は捕まらないように・・、お願いしたいね」

エドガーのことだから、それでも、アランを護ってくれるとわかっているから、

アランは素直にうなづいた。

              終



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