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憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

宿根の星 幾たび 煌輝を知らんや 序

2022-09-03 17:07:21 | 宿根の星 幾たび 煌輝を知らんや

領国との均衡が崩れる。
君主の崩御を表ざたにするには時期が悪すぎた。
渤国の君主である量王の心そのまま、外海を境に眼前の渤国は微かな霧にけぶりその姿を現さない。

いま、天領の地でさえ渤国の間者が入り込んでいる。
御社の瑠墺でさえ、血生臭い匂いをかぎ、君主の元に参じてきていたが、間者の横行は目に余る。
一説に君主の崩御の裏にも間者の企てがあったともいう。
齢五十五。死に急ぐ年齢ではない。毒を盛られたともいう。急逝すぎたせいもあるが、瑠墺の天文敦煌の知識によれば、天運星の語る通りであり、君主の宿星も衰退を表していた。国が滅びる。この運命を読んだ瑠墺の胸中やいかばかりであったか?
君主の崩御の原因が病気であれ、暗殺であれ、どの形にせよ、亡国への軋みが始まる。
国が滅びると判っておりながら、この国に留まるか?小手先だけの崩御の揉み消しがどうなろう?亡国を少しばかり遅らせたところで、いずれは、渤国量王の腕(かいな)の中。
瑠墺の身の上もそうか?
瑠墺は重臣孝道の檄におじける小姓に近寄っていった。
「柩は宮中の中庭。えんじゅの木の根方に・・・」
孝道が瑠墺に気が付くと、瑠墺は軽く頭を下げた。
「聴こえたろう?とにかく内密に・・」
小姓はまだ乾かぬ頬のまま、孝道に礼をかえすと、君主の臥する部屋に歩みだした。
小姓が歩み去るを見届けると孝道は瑠墺をふりかえった。
「この時期にとんだ事になってしまった。量王はこの国を侵食するきでおる」
血気あふるる若き量王は、この三年の間に自国の領土を武力による圧政で増やしていた。
外海の向こうの大陸に、四つの国があったのはすでに三年前のことになっていた。
だが、血気だけで、武力だけで大国を統合し支配下におけるかというと疑問である。
隣国を乱し、崩壊させた挙句僅か三年で一国のものに統治する。
「手腕と人望・・・類まれな運気。天は量王に加担するしかなかったのでしょう」
暗にこの国の滅亡をにおわしてみるが孝道は気が付かぬ顔で瑠墺に頷く。
素知らぬ顔で相手の技量を認めるところを見ると、孝道の腹は決まっているのだろう。
死に場所を定めた男は抜けるように明るい。
「いずれにせよ。おめおめ引き下がっては、いずれ遇わす顔がない」
一矢も報いなからば、いずれ君主のおわすいそはらに登るさえかなうまいと、孝道は笑う。
「共に滅ぶか?」
瑠墺の問いは己の進退を量りかねてのことでもある。
「ほろばぬわ」
孝道は苦い顔をした。
「そうか・・」
国が滅ぶ前に孝道は死ぬつもりでいるとみえた。

「巨星・・落つ・・なれど・・」
瑠璃波の言葉が量王の腕の中で途切れると量王は先を尋ねる。
「いらぬ・・男がひとり・・」
「どう・・いらぬ?」
「私にはよめませぬ・・」
瑠璃波の思念でもよめぬ?
「わからぬからか?」
瑠璃波が要らぬ男とその存在を疎むのはなぜなのか?
「味方に引き入れたところで役に立たぬ。敵に廻したら・・」
又、瑠璃波の言葉が途切れるのは星の運気をよんでいるせいであろう。
「天下を取る男でもない。だが・・」
言い渋る瑠璃波の身体をよせつけると
「おまえは・・」
言葉を選んだ。「量王が四国を治める男になる」と瑠璃波は近寄ってきた。
瑠璃波は星を読む。この特殊な才能で量王を見極め、己の地位を確保した。
瑠璃波は策士であり、量王の女である。
愛情というものとは、程遠いが量王にはどちらの瑠璃波も必要であった。
「そやつが天下を取る男なら・・・わしをすてるか?」
瑠璃波はかすかに首を振って見せたが、結句、瑠璃波がここにいる理由はそれでしかない。
女のくせに、天下国家を掌握したいか?
男なら量王に取って代わる所であろうが女である瑠璃波は己の手の中に天下を掌握した男を捕らえてみせる。
その才能と女である事を武器に量王を手中に納めている。
「こやつは・・・」
また、黙る。
「よ・・めぬ・・」
読めぬから怖しいだけであろう?
深い海で泳ぐ人間が海の深さを意識したら泳げぬようになる。
「よんでみたとて・・なにもありはせぬ・・」
「そうであろうか?」
瑠璃波よりいくらか念が強い。それだけのことであろう?
「だが・・・。この不安はなんだという?」
量王にすがりつきだした瑠璃波はか弱い女になる。
量王の後ろで天下を政ろうかというほどの女が見せる、意外なか弱さが量王の心を曳き、瑠璃波を牛耳る男が生じる。
「喪に服されもせず・・帝は中庭に隠されるかな?」
「ご推察の通り・・・」
あとは小さな瑠璃波の喘ぎに変わり、量王の褥は文字通り夢中になる。

 



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