正眼の仕事が一つ増えた。
さそくに、家に帰ってひのえを呼ばわる。
「ひのえ」
「はい」
「わしも断れなんだわ」
「やはり・・・」
「そう。思うておったか?」
「はい」
「ならばいうが。おまけにひのえが良いと言うたら婚儀を許すと言うた」
「え?」
「あれは、どうにもならん。いっそ、共に死んでやれ」
「父上?」
「と、言いたくなるほど深い思いじゃ。後はお前が断りたければ、断われ」
「あ」
詰まる所、父は白銅との縁組を望んでいると言う事であった。
正眼はちらりとひのえの顔を見た。
厭ではないらしいの。そう見える。
後は、白銅が胸中で封じている事で、
通り越しができる勝算があるのだろう。
それに委ねてみよう。と、思うと自室に引篭もった。
「あふりが無いか」
呟いた正眼は直ぐに白峰が、そんな落ち度をする訳が無いとおもう。
齢千年を生き長らえた蛇神がそんな落ち度を・・?
「一千年!?」
寿命やも知れぬ。
ふと湧いた思いが当てはまるのか、正眼は考えなおしはじめた。
三日もすると、かのとが白銅の元に現れた。
「どうですか?」
「正眼殿の許しは得た」
「え?」
父に理を言わせるのをどうに言えば良いか。
白銅に悟られてもいけない。
やっと、腹決めと案を成して来て見れば白銅の方が早かった。
「あ、ならば」
「いや、条件付じゃ。おまけにこれが強情の首を縦に振らせよと言う」
「ふ」
かのとは思わず吹き出した。
「ならば・・・」
「なにか、良い案があるのか?」
膝を乗り出してくる所を見ると、白胴も考えが付かなかったのであろう。
「いっそ一思いに抱いてみればよい」
「なんと?」
「不知火と善嬉を呼びましょう。それと私。
三人で結界を張れば、白峰も気がつきませぬ。」
「いや。結界が張られたを見れば・・・判ろう」
「その気は、おありですね」
「あ、」
計らずも、その試みに載る言葉を吐いてしまった白銅である。
「ならば良うございませぬか。あとは知らぬ存ぜぬで、通せば良い」
「しかし」
「一度や二度で性が変るほどひのえを抱けませぬ。
白峰が気が付く訳がない」
「ああ、その手があるか・・・。
いや、その身代、蛇の性になっているというて
断りを入れてくるが、それも、わしがひのえを・・・抱かば・・・」
「あ。それ。それでもよう御座いましょうが。
ひのえが言うておったと夫から、聞きました。
障りの下血に妖しの毒気も落ちて行くと言うたそうです。
産を成した後に来たる障りで白峰の事なぞ、跡形ものう落ちます」
「そ、そうなのか?」
「ええ。自分に言霊を知らずにかけております。それも、大言霊ですよ」
「そんな域に達しっているのか?」
「だから、危ういのです。うっかり情に振られて掛けた言葉に
自分が操られる事になってしまいます」
「成る程」
「そう、なさいませ」
「あ、いや、それは・・・」
「そうですね」
これからひのえを抱くぞと式でも飛ばして三人に触れ回るようなものである。はい。とは言えぬだろうとも思うと
「助きがいらば・・・お何時でも」
かのとは、それだけ言いおいた。
かのとが帰ると白銅はふううと溜息を付いた。
白峰に体を開いてそう思い込むなら、
白銅であらばもっと、はっきりひのえの心があろう。
それを引き出すのは情交の力を借りるが一番早いのかもしれぬ。
そんな事を、ぼんやり考えている。
同時にひのえを二度と白峰の元に行かせてはならぬと思う。
あれが帰ってくるうちは良い。
自分をなくして白峰の物になったら、もう、どうしょうもない。
そう、思うと白銅は立ち上がり玄関に向った。
そして、ひのえの家に駆け込んだ。
「あ」
玄関先に顔を出した、ひのえが小さく声を上げた。
「今日は、ひのえに逢いにきた。良いな」
言うと、ずかずかとひのえの部屋に上がり込んで行った。
後を追うようにひのえが自分の部屋に入ると
「何の御用ですか?」
素っ気無い言葉を掛けるが、白銅がそんな事で退く気はない。
「ひのえを貰い受けようと思うてな」
「まだ、言うておるのですか」
「おうよ」
「無理です」
「無理かどうか試して見ねば判るまい」
「!?白銅。かのとに要らぬ知恵をつけられましたな」
「そういう事じゃの」
ひのえの手を掴むと同時に式神を飛ばした。
「何を?」
「さあ?」
ぐうとひのえを寄せ付けると白銅の力は強い。
脆くその腕に引かれ、瞬く間にひのえの口を吸われた。
その手が更にひのえの着物の裾を割って行くに流石に
「白胴。父上を呼びます」
「呼んでみるがよい。正眼殿も男であらば。
この気持ちよう判っておるわ。
かてて、ひのえの事を変えてくれと望んでいるのは、正眼殿だ」
「な・・それで・・この狼藉ですか?」
「白峰が事は、狼藉でないと言うか?」
強気な娘である。
「ええ。狼藉ではありませぬ」
「ほ、そんな事は結果でそうなったのであろうが?」
「い・・・いや・・・」
白銅の手が押さえ付けた物の中ににぐうと指を入れこんで来る。
「わしが事も狼藉かどうか、成してみねば判るまい」
「い、や」
中指と人差し指。
二本の指がひのえのほとの中で蠢くと
白銅の親指が、くと曲がり軽く精汁をなすくると
ぐうと滑らしにほとを開き上げると小さな尖った物に
親指の腹を刷り上げて撫で回してゆく。
中に入った指を抜き差しする様にされると、
ひのえに既に渋りが込み上げて来ていた。
「ああ」
おもわす漏らした声をかみ殺す様にして白銅の胸に縋った。
「ひのえ。じつうが欲しかろう」
「いや、なりませぬ」
「そういうが・・・」
すでに白銅の指がひどく滑っている。
それをもっときつく動かしながら
「それでも、強情じゃの」
思いきり裾を捲り上げると白銅はひのえのほとをじっと見た。
この男、ほんに経験がない。
あぶな絵の如きを見た事があるぐらいである。
我ながら今の前戯一つもようできたと思っているぐらいである。
ええーーい。ままよとひのえに被さって行けば、
そのままひのえの物につるりと呑み込まれた気がした。
軽く蠢かしてみるだけでひのえが「う」とうめく。
そして白銅が思いをはたす頃には
ひのえがしっかり白銅の胸の中に縁りかかっていた。
「気が落ちたか」
「あ・・・」
白銅の尋ねるとおりである。
「人の物はどうじゃ?」
「・・・・」
「ひのえの心はどうじゃ?」
「ききますまいな。こうしておるに・・・・」
白峰には返せなかった睦言がつらつらと口に出る。
「わしは、そなたが初めてじゃ。」
「すみませなんだ」
白峰との事が白銅にひどく申し訳なく思う。
確かに白峰の事がひのえの中で大きな蟠りを作っていた。
それがあっさりと白銅に抱かれてしまうと、
何を拘る事であったかと思うのである。
かのとの言う事が、そういう事かと、ひのえは思うと
「それでも、良いのですね?ひのえで良いのですね?」
と、自ずから白銅に確かめずにはおけなかった。
「そうじゃ」
「ああ・・・・白銅」
「ひのえ」
そんな甘言を聞かされても堪らないと踏んだのか
正眼はとうに外に出ていた。
が、出て驚いた。
「ほ、結界か?」
三重に重なった結界が張られている。
成る程と思うて正眼も己の結界を重ねた。
当分、家の中には入れそうもない。
結界の四本柱の内側に正眼はぼんやりと突っ立っていた。
「さて」
正眼が頃合を見計らって家に入ろうとした時、
向こうからかのとが歩んでくるのが見えた。
「父上」
「よう、やりおったの。こういう訳か」
見上げる結界の中の一つはかのとが張った物に間違いはない。
「あ、はい。父上。それには、色々話さなければならぬことが・・・」
「ふむ。わしも判らぬ事が多い。おまえ。なんぞ、知っておるの?」
「あ、はい。ひのえが白峰の事庇うておる事がいくつか。
私も黙っておりましたが、あれは寿命が来ております」
「やはり。そうか。千年も生き越せばの」
「いえ。蛇はよう生きて二百年。
善嬉に読ませた様に白峰が七度の生き越しができたのも
ひのえの前世に産ませた子にその体を移したればこそ」
「そういうことか。が、ならば、此度はそうせぬと言うわけか?
百夜の満願がかなったが、白峰の終りか。
あふりも奴が死ぬるまでか・・・」
「いえ、そんな甘い考えでは。
確かに白峰は此度、天空界に上がり子蛇に台を譲ります。
が、その後、その子蛇にひのえの後世を孕ませる算段なのです。
そして後世が死ぬる時に、天空界に、引き上げ
己が妻にする腹積りでおるのです」
「な、何?」
「その為の百日百夜。
ひのえの魂の性まで蛇の物に変える為に百度精をはたき込むが目的」
「それでは?」
「白銅と夫婦にさせても、次の代があふりを上げて
白銅が潤房に及ぶ事はもはや、相成らぬ事でありましょう」
「それで、白銅を唆したか?
が、それならば憐れと思うて白銅にあないな事をさせれば
なお、苦しむでないか?何を考えておる」
「・・・・」
黙っているかのとに正眼が更に畳掛けた。
「要らぬことを言うたは御前だろうに?
口吻が如きを言うにあないに赤うなる男がおかしいのとは思っておった」
「それは、父上の理を頂くための手段。
因を成すにひのえにうんと言わせねばなりますまいに?」
「因!?なんの因という?
夫婦になっても潤房が事がなければその血も性も変えられるに」
「夫婦でなければひのえと通じた者の子を討つ事は出来ませぬ」
語気荒く言い切ると
しんと、黙ったかのとを
仰天の顔で口を開けたまま見ていた正眼の咽喉から
ぐうと音がすると、得心したのであろう。
「あ、おおう。そうであったか」
と、言った。
が、その顔が又、考えこみ始めた。
「しかし、子蛇というても神。絶つ事が出来なかろう?」
「抜かりは御座いませぬ。龍が現れましてな。
又、ゆくりとその話はしますが・・・。
剣を・・・草薙の剣を置いて行きました」
「あ、それならば、討てる・・・」
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