やがて・・・。
「私には、正しい選択を見出すことは出来ません。
流れのまま、
なるがまま、
自然という大きな川に身を任すしかない気がします」
瑠墺が結んだ言葉にすかさず数馬が異を唱えだす。
「だから、絹を量王に合わせてみろというのか?
なるにまかせてしまえというのか?」
瑠墺は数馬を見つめる。
どういえばこの男に得心を与えられるか。その思いにたって、沸いてくる感情を口に乗せていくしかなかった。
「数馬さん。貴方という一人の人間の駄々っ子な感情だけでは、絹さんが打帰る葛藤を解決できない、と、申し上げているのです。
ですが、私は貴方というに人間をして
絹さんの宿星に一石投じさせるために
天が出会いを仕組んだとも思えるのです。
そうでなければ、とっくに、量王の正妃に納まっていたはずでしょう」
有馬は瑠墺の言葉を咀嚼している。
かみ締めなおした瑠墺の解釈は
有馬に別の解釈を生じさせていた。
星読みのせいで、量王の妃への軌道が狂ったのではなく
むしろ、
量王の妃になるが、狂った軌道でしかなく、
軌道を修正するがため、星読みの行動も天がしつらえたと解釈できる。
と、なると・・?
数馬こそが渤国の統治者になる定めをおうていると取れなくもない。
「さすれば、たずねます」
有馬が率直なのはもとよりである。
「数馬の宿星はいかに?」
瑠墺は首を振るしかなかった。
「数馬さんの星はまだ、陰星なのです」
「陰星?それはどういうことでしょうか?」
有馬が陰星の意味を知るはずもない。
「星を読み取るのは、その星々の位置、配置もさることながら、大きさ、形、そして、光度と色が、宿命を教えてくれるのです。
ところが、数馬さんの星はまだ、色と光度がないのです。
色も光度もないということは、内なる熱がまだ外に放出されていないということで、いかなるエネルギーを蓄積しているか、計り知れない星でもあるのです。
この蓄積されたエネルギーが放出されるきっかけが来なければ静星として、滅星になります。
つまり、そこに存在するだけの惑星のように穏やかな星として終わるのですが
きっかけと蓄積の頂点がうまくかみ合えば、陽星として動き始めます。
私はその陽星を判じるだけなのです。
おそらく、渤国の星読みもおなじ。
そして、星を読むくらいですから、
人の心も読めると思います。
が、
我欲、我執により、心の目はくらみ、心の耳はふさがれます」
我欲・・・
我執・・・
星読みの我執は量王への恋慕に始まる。
分をわきまえず、星読みという政権の補佐役を逸脱した。
これが、星読みの我執なら
また、数馬の絹への恋慕も我執であるのかもしれない。
「きっかけと、おっしゃられたが
たとえば、どんなことがきっかけになりえますか?」
有馬はただただ、絹と数馬の結びを願っているに過ぎない。
そこまで、人の幸いに必死になる人間だからこそ、人望を得るのだと、瑠墺は心の中で有馬をたたえていた。
「おそらく、
絹さんの宿星の照射。
絹さんが数馬さんを心底認めて
つかんでいこうとすれば、変わるでしょう」
小さく瑠墺が笑ったように見えた。
「星の軌道を変えるのはたやすいものです。
ですが、人の心を変えるのはむつかしい」
瑠墺は己の思念の中に自在に入り込む。
自分で自分に語りかけ、
自分で自分に答えを導く。
『どうすれば、絹さんの心が数馬さんを照らすようになるか。
そのきっかけをどう作るか。
どうすれば、絹さんが数馬への恋慕を認め、その想いに殉じていくきにさせられるか・・?
少なくとも、ここで、じっとしていても、何も始まらない気がする。
どうあがいても絹さんの宿星は正妃をさししめす。
絹さんを和国に縛り付けておけば、
その想いにより、またも星が軌道をかえる。
宿星は絹を渤国に連れ戻すために
量王を差し向けるかもしれない。
量王が和国に来るということは
それは、戦を意味する。
そして、量王は絹をみつけ、渤国へ連れ帰る。
和国の滅亡と量王の反映と量王の妃になる絹・・・。
このまま、絹さんが和国にとどまったら・・・どうなるか、
その想定を瑠墺は皆に告げた。
「宿星というのは厄介なものです。
宿星の持つ運命・・使命を阻むことは出来ないのです。絹さんを渤国へつれていかぬとなれば、
渤国のほうが、絹さんを連れ戻しに来る。
渤国が和国に乗り込んでくるということはどういうことかわかりますね?」
「なんという・・厄介な・・・」
瑠墺の言葉そのままでしか言い表せない思いが象二郎にも、重かった。
瑠墺は思念を深くする。
他に手立てはないか・・・。
数馬がどうすれば絹に認められるか。
いっさいの答えは浮かばず、
ただ、星読みの声だけが響いた。
「妹は和国の者をとものうて、
渤国へ帰ってまいります」
それは、絹の心をよんだか?
宿星を読んだか?
絹への念じか?
だが・・・。
宿星の軌道を変えるが
星読みの役目であるのなら、
これは、その言葉にのるが、得策と思えた。
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