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憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―鬼の子(おんのこ)― 34 白蛇抄第14話

2022-09-06 07:00:26 | ―おんの子(鬼の子)―  白蛇抄第14話

だが、はらんだか?

はらんでおるのか?

澄明の言葉が浮かび上がる。

―百日精を留め置かれ、膨れ上がった情念を受けながら、

それでも孕まねば、自然は三条様のものになれときこしめます―

 

―自然はなるがまま。これが自然―

澄明がいう。

―自然を勝る情念が味方せぬことこそ、なってはならない。

そのあかしです―

孕まぬはつまり、なってはならぬという神の意思だという。

―神の意思というは、自然です。

自然というがこれは己の化身とお悟り下さい―

「勢のおもいはどうなるという?」

語気荒く澄明を正した。

―天は相応の人を与えます―

光来への心を引かせたかも知れぬ主膳。

ひいては三条は悪童丸にまさるやもしれぬというか?

「そうあらば、勢の心が三条にかたぶくというか?」

―器にあうものがよります―

勢の心を絡める男が寄るというか?

澄明に反駁して見せた言葉の端がよみがえる。

三条の心が確かに痛い。

勢の心を吸われるような三条の思いのよせかたである。

踏みつけにしても痛いとも思えぬ男ではない。

これがすなわち心にはいりこまれることか?

 

「澄明。この期に及んで、まだ、ならぬかもしれぬというか?」

嫁ぐ前、勢は三条に何故に嫁がねばならぬと詰め寄った。

なんのため、悪童丸の精をうけた?

このまま、悪童丸を呼んで遁世できようとたずねた。

勢の言葉に澄明は微笑んだ。

嫁ぐしか、因縁を通り越す事はできぬと澄明はいった。

そも因縁を通るとは、親もしくは前世からの引継ぎである。

ただ事を通るだけで、おわらせとうなかりましょう?

かなえさまの思いを、光来童子の思いを二人の身で

実際に味わうことこそが事が通り越す事であり、

因縁納消につながるのです。

それが、光来とかなえにとっての本当のせいじゅでもある。

「かなえの思いをあじわえというのだな?」

「で、なければ同じ事を繰り返すだけです」

因縁通りの形を通ることが違う結末を迎える事に

つながるとは信じ難い事であろう。

「離れ離れになり、

十年先に死であがなうしかない恋でよろしゅうございますか?」

べつに死ぬのはかまわぬが、

かなえが十年先にでも光来とそいとげたかどうかわからない。

これが、今生の別れになり、

悪童丸と再びあうこともかなわぬとなるが、つらい。

「さきゆき、共に暮らせる因縁に変転させるには、通るしかないのです。そして、とおりこすしかないのです。

通り越すと言う事は因縁をしいたそもそもの思いを

自分が通りつくして己の中ですんだことにするしかないのです」

「すんだこと?」

「あたらしい生き様をもとめるには、

この因縁をすんだ事にするしかありません。

そのためには、とおりこすしかないのです」

「・・・・」

「とおりこすとは、同じ因縁の巻き返しから、

因縁の発祥である思いを全て、受け止め攫えてしまうことです」

「そ、それで・・もし、かなえのように

主膳の元に残る思いに差配されたらどうする?」

「とおりこせなかったということでしょう」

あっさりと、いいきると

「明王にまさるば、三条様の元でひととして、いきるもさいわい」

明王の真言に誓いだてた恋さえ吹き飛ばし

自然が三条をおしてくるのなら、勢姫は人として、生きよ。

言い放つ澄明の言葉こそ父光来の思いか?

澄明の言葉を解する思いが沸かされるのを身のうちで

受け止めると勢は言い放った。

「澄明。ならば、わらわは飛んでみしょう」

その時はかなえのように恋に舞うてみせる。

言い放つ勢の言葉を背で受けた事を澄明は思い返している。



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