「つ・・・まり、それで、お咲が、できたってわけかい」
孫娘の名前は
佐吉の「さき」をもらって、
咲と、なづけられている。
定次郎はどうしても信じられない。
お千香が口をぬぐい、
あげく、
「咲」と、なづける事を承諾する?
承諾するしかなかったか、
いかにも、佐吉の子とおもわせたかったか。
「親方。勘弁してくだせえ。
お咲にやあ、何の罪もねえこった。
お咲は佐吉を父親だと思ってるんです。
俺もそれは、充分に承知しているつもり・・・」
弥彦の言葉が、又も途切れた。
お千香が咲を産んだ。
その事が弥彦の鬱屈を
いっそう、大きくした。
親方が男の子を欲しがっているのを
よく、知っていた弥彦である。
「俺はお咲の出生の秘密を種にお千香ちゃんをなんど、おどかそうとしたか、
わかりゃしない。
だけど、それだけはしちゃいけない。
あのことはそれ一度限りのこと、そうかんがえていた」
もう一度、お千香と・・・。
思いがもたげてくるたびに、弥彦は自分を押さえつけた。
だが、生まれてきたのが女子であると、わかると、
今度は、
お千香がもう一度、やってくるのではないかと
待ち続ける弥彦になっていた。
はたして、弥彦の思惑どおり、お千香はやってきた。
一度堰を切った男が、
子供を授けるだけの交渉で、気がすむわけがない。
「お千香ちゃん。俺がどんな気持ちでいるか、わかってるのかい」
子種のためだけでなく、
お千香と濃い情をかわしたい。
「なあ、俺のことを好いてるって、そういってやってくれないか」
「嘘でいいんだ。このときだけでいいんだ」
だが、お千香の口から
弥彦を好いてるという慰めはえられなかった。
心をつなげない、結びとなれば、
弥彦はその行為をお千香に刻み付けるしかない。
『佐吉にだかれておっても、俺が恋しくなるなるように』
弥彦はあるとあらゆる性戯をお千香に試みるしかなかった。
口に出すことも出来ない結びであるゆえに
お千香独りの中で弥彦の狂態がきざみつけられる。
お千香にとって、
必要でないはずの弥彦の口での愛撫。
お千香の股の間に顔をうずめた弥彦の舌の動きと
陰核を吸い上げられてゆく奇妙な感覚に
お千香はとうとう、こらえきれず
嗚咽をもらした。
あとは、簡単だった。
弥彦に屈服した女性が居る。
「お千香ちゃん。あんた、誰のもので、そうなってるんだ?」
身体が心を裏切りだし、
お千香の芯がふるえ、
あがってくる、あくめにお千香は酔った。
その時、弥彦はお千香の中に打ち離すことなく、
事を終えた。
そうすれば、
お千香は、もう一度弥彦のもとにに来るしかなくなると、
判ったからだ。
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