「どうなさいました?」
「いや・・・」
主膳は取り繕う言葉を捜した。
「かなえ様にも、私が迷惑なのではないかと・・」
つまり、かなえの父、是紀こそが
主膳の来訪を疎んじているのではないかと
この若者が心配しているのだとかなえは考えた。
「そんなことはありませぬ。
父はいつも、主膳殿はまだ来ぬかとよくいっておりますに。
あれほど主膳様主膳様といっておるくせに、来て下されば、
やれ用事があるといってはもてなしもせず、
かなえこそ腹立たしく思いますに、よう主膳様は怒りもせず」
「いえ。そうではなく、是紀様は忙しい身の上。
それは重々承知の上でございますが、
其の代わりにといってはなんですが、
かなえ様が私なぞの相手をさせられて・・・」
「ああ。そんなことを気にやんでらしたのですか?」
主膳はそこはかとなくかなえの心の内を聞きただしてみたのである。
「もったうのうござります。
かなえは主膳様と話をさせていただくのはとてもたのしゅうございます。主膳様とこうやって話をしてみると、
父が主膳殿主膳殿という気持ちがようわかります」
かなえにとって、父親のお気に入りと言う枠から、
主膳をみているにすぎないのである。
でも、
「どういうことですか?」
主膳はもう少し具体的に聞いてみたかった。
「そうですね。主膳様はとても暖かい方だと思わされます。
何かと言うと気性のきつい父ですから、
主膳様の人をくるむような暖かさに父もひかれておるのでしょう」
―かなえ様はどうですか?―
主膳はもう一歩踏み入りたい思いを言葉にするのを堪えた。


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