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憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

邪宗の双神・42   白蛇抄第6話

2022-12-22 11:13:02 | 邪宗の双神   白蛇抄第6話

食事を終え腹をはらした白銅を玄関先まで送出すと、
澄明は再び鏑木の部屋に入っていた。
澄明は座り込むと宿根神の言った事と白銅の言った事とを考えていた。
宿根神の言った双を成した神とは誰の事なのか、
どう言う経緯かで、双をなしたかという事は、
城に上がった白銅が主膳から聞かされる話で
当て所がついていく事になる。
さらに、澄明は白銅の言った
魂が一つになっているという言葉にひかかる物があった。
宿根神の言葉から双神が元一つの者であったと明かされてみると、
双神は例えて言えば澄明と白銅のように
魂を一つの物にする為に溶けあいたいと思うのではないか?
が、まほろばの中にというのであれば
彼等には実体がないのは確かな事である。
それであるのに御互いが睦み合う事が出来ず、
元一つになりたいという要求だけは止めど無く涌かされて行くのである。
生き越して行きたいと思わされる根源力が
白銅との睦み合いの中で生じてきた事を
澄明は自らの通り越しでよく判っているのである。
それは、只の性の交渉だけでは得られぬ
白銅の情による白銅の魂からの息吹を与えられたせいであろう。
双神が情の篭ったシャクテイを求める由縁はそこにあるのではないか?
彼等自身が元の一つの者であるなら、
御互いのシャクテイで
お互いの魂の重なり合いで、魂を潤していたのではなかったのだろうか?
其れが双に分かたれ魂を重ねる事もできず、
シャクテイを得られぬ餓えの苦しさの余り、
他からのシャクテイで満たす事しかできなかった。
双神のやむを得ぬ行動をとめるには元の通り、
双神を、元一つの者に戻すしか方法がないのだろうが、
一体、どうやれば良いというのだろうか。
『さにわを許すとも言うた』
双神の実体さえ掴めていない者が一体、どうさにわにかければ良い?
それさえ判らぬ事なのに、さにわを許すという事は何を意味するのか?
澄明はつと立ちあがると、白峰を呼んだ。
「白峰。聞きたい事がある」
澄明に呼ばわれたのであれば、朱雀の守護の中に入る事も叶う事であり、
ゆるりと澄明の前に現われた。
「知っておったか?」
澄明の守護に入り、澄明の足下に入った白峰であれば
白峰の社に行かずとも澄明が呼びつける事が叶うという事でもある。
「知らぬ振りをしていたかったのですが、すぐ外におるのであらば、
社に行く時間が無駄になりましょう?」
「ま・まあの・・・」
守護にはいった白峰が天上におらず、澄明恋しさも手伝って
澄明の周りをうろついているのも、外聞が悪い事である。
それを図星にされ白峰は気まずそうに言葉を詰めた。
「気がついておりましたか?」
澄明が言うのは先に澄明自身に降り下った神がいるという事だった。
当然その神が降り立った気配を白峰も感じていた。
「あまり・・・・知らぬ神じゃったな」
白峰が知らぬのは無理ない。
宿根神は、人の生き様を他の神に介在されぬ為にも、
その居場所を天空界とは異なる所としていたのである。
「宿根神と聞きました」
澄明が言うと、白峰が
「げっ」
と、声を上げたのである。
「宿根が?何を言いに来た?」
「双神の事です。だが、いくつか判らない事があるのです」
白峰にも判らない事を聞いて見た所で仕方の無い事である。
澄明はさにわを許すという神の心を、
白峰なら量れるか、
あるいは故々、理を発するという事がどういう事であるのかを
尋ねてみたかったのである。
「何ゆえ、宿根神は私に双神のさにわを許すのか?」
「そ、そう言うたのか?」
白峰はじっと考え込んでいた。
白峰の頭の中に朧に浮かんだ事をそのまま、口に出しては
澄明が、気ずつなかろうと、
どう言えば良いか、あるいは判らぬと言うた方が良いかを考え込んでもいた。
「判りませぬか?白峰ならどんな時にさにわを許しますか?」
「ひのえ。お前の性分があろう?」
「どういう事ですか?」
「かりに白銅になら、政勝になら、宿根は理をいわぬまま、さにわを許すであろう。
御前だから、敢えて言うてきたのじゃろう」
白銅や政勝であれば即座に双神をついえる事を決断してしまえるのである。
そんな、人間にわざわざさにわを許すと伝える必要がない。
「そんな物言いでは、判りません」
「じゃろうな。例えば御前が一番しとうない事をせねばならぬとすれば、
わしとて先にそれが、御前の意志でなく
神の意志であるというておいてやりたいじゃろう」
「しとうない事?」
「わしも考えておった。
御前が、此度の事、どうやれば因縁通り越しできるかと考えておろう?」
澄明は心の底を読む白峰にはっとした顔を見せながら、
何故見透かす事が出来るのかを考えていた。
「ひのえ。わしも、同じじゃ。
波陀羅を読めぬおまえと同じ様に
塞ぎをしてくる御前を読めぬとならば
御前ならどう、考えるかを静慮するしかない。読んだ訳でない」
「・・・・・・」
「因縁を通り越させようという時に、どうにも、通り越せぬ因縁があるの?」
ひのえならどう考えるかという、初歩に戻って見た時に
ひのえなら因縁の通り越しを考えるだろうという所に辿りついていた。
その因縁を考えて見たら
この先の運命の流れはつらつら紐解く如くにみえだしてきたのである。
白峰が見定めた一樹たちの運命が白峰の考えたとおりだと澄明はおもった。
が、澄明はその事をそうだと認める言葉を発する事で、
今度こそそれが言霊になるのを避けていた。
「そんな事はありません」
白峰はその言葉の裏の澄明の思いが判ると、
「まあ良いわ。その因縁どう、繰り合わせても避けられぬ。
ならば死体がでるの?
その、死体を波陀羅が乗っ取るか?そこまでは、御前も浮ばされておろう?」
やはり、一樹が死ぬ。白峰の読みを無念そうに聞く澄明だった。
「は・・・白銅にも言わなんだのに」
敢えて、言霊をさけても、運命はやはり変わらぬという事である。
「頭で考える男でないからの、言うてもい言わんでも、同じじゃがの」
どうせいでも、その内白銅にも判る事を、
澄明が何故白銅に喋らなかったのか、喋れなかったのか。
只々、その無念な浮かびが、言霊になる事を恐れていたからであった。
「そ、それで」
澄明は先を促がした。
「これはわしが思う事ぞ」
澄明の心痛が痛く白峰も言霊の浚いをしておくと
「その内に波陀羅も政勝らの守護に黒龍がおるのに気がつこう。
波陀羅ではどうにもならぬと判ったら双神が自ら動くしかない。
実体のない双神であれば、
波陀羅に死人の中に住まう法を教える事が出来た双神ならば、
その死体どうする?」
「・・・・」
双神の一方が一樹の身体を奪い取り、政勝にちかづいてゆくことであろう。
「波陀羅は、身体を乗っ取った者の殺し方を知って居るわの?」
「・・・・・・・」
一樹を死なせ、あげく、双神の道具に使われるのである。
波陀羅は深い恨みと共に双神を撃とうとすることになろう。
それは、一樹の身体を乗っ取った双神にしかできないことである。
実体のない神が一樹の中に潜り込んだ時だけに出来ることである。
澄明も迂闊に死体が出る事を前提とした言葉に肯く訳には行かない。
否定すれば白峰の言葉が余計に具体的になってしまいそうで
黙って聞いている事しかできないのである。
「御前の事だ。容だけの者になっているといえども
波陀羅に子殺しの因縁作らせたくなかろう?」
澄明のおもいをさっして、白峰も死体が一樹であるという事を言明せずにいる。
が、白峰のいうとおりである。
容だけであっても因縁は生じる。
そして、澄明は双神をついえるしかない定めなのである。
どのみち、ついえるしかない双神を波陀羅にまかせ、
因縁を作らせることになるのなら、澄明が手を下す決心になろうというのである。
「すると、私が?」
波陀羅の恨みを諌め様としての事なのか?澄明の言葉に白峰は頷いた。
「双神に手を懸けざるを得なくなる。それが、双神へのさにわになる」
そう言う理を発さざるを得なかった、宿根神の澄明への思いはこうであったかと
思うほど、白峰を刺貫いていた。
澄明は双神をも、救ってやりたいのだ。
だが、どうにもならない。
救ってやりたい本人がさにわにかけ命をとるしかない。
宿根神は諦めよというのだ。
それしか、法がない事を諭しに来たのだ。
そして、それを澄明の意志でなく、
宿根神の命で決行せざることであるとして、
澄明の悲痛をとりはらってやろうとしていたのである。
「あ・・・」
澄明は両手で顔を覆った。
覆った手の間から嗚咽が漏れた。
「私は、誰も何も救えぬまま・・・・双神を潰える。それが・・・・さにわですか?」
「そうだ」
話した以上、もう白峰も頭を振る事はしなかった。
「だから、巡り巡って、
あの波陀羅の呪詛の心の畳針が私の手元に来たという訳ですか?」
皮肉な運命の巡りを誰に言い募るわけでなく、
澄明の心の底から迸って来る苦しさを押さえる事ができず
吐出すかのように澄明はうめいた。
「そうやって、御前がもがくから宿根が現れずにおれなんだのじゃろう?」
本来、人事を差配する神であれば、
いさい私情が混じるのを疎んで、
他の神達とも凡そ交わる事も無いのである。
凡そ人の思念なぞに関わる事をせず
恐ろしい程の冷徹さで人の生き様を差配すると言われている。
その宿根神が心動かされて理を入れねばならぬほどの
澄明の思いの深さに
悲しみの深さに白峰は頭を垂れるしかなかった。

 



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