真にスサノオが眠るかどうかわからぬが、スサノオの墓は確かにあった。
「おおなもちの亡骸は?」
「うむ」
返事を返したがアマテラスは言葉をつなごうとしない。
「スサノオをこのままにしておくのも、哀れでな。
社をひとつ、建立してやろうとおもっている」
にぎはやひの問いをかわすかのようである。
「おおなもちの亡骸は?」
にぎはやひはもう一度尋ねなおした。
先のように剣をつきつけてくれば
アマテラスにとって都合のわるい質問であり、
再び、話をそらすとしても、同じである。
「見ぬほうがよいぞ」
アマテラスには、臆するということがないとみえた。
「それはどういう意味だろうか?」
亡骸を墓所に埋めたのではないのか?
亡骸は無残に放置されたか?
さらされているということか?
が、そうであるならば、
アマテラスは前言をたがえることになる。
「まあ、よいわ。ついてくるがよい」
ひかえおる兵士に手をあげ、
「馬を」
と、命じた。
ここにくるときににぎはやひをのせた馬の手綱を握っていた兵に
「諫早もだ」
にぎはやひにも馬を与えよとつけくわえた。
「良い名じゃろう」
言うと、からからと笑いあげた。
「諫早が曉速(にぎはや)をのせるか」
どちらも、すばやいという意である。
だが、その笑いの後ろには、やはり、あざけりがある。
いくら、速い名前でもスサノオ・おおなもちの元にかけつけるにまにあわず、
死んだ者にあいにいくに速き馬にのっていく速き者でしかない。
馬とにぎはやひの名前のめぐり合わせが見事な皮肉になってしまうのが
おかしくてたまらない。
そんなアマテラスのかんらの笑い声がおさまるのを待つしかない。
やがて、くくと忍び笑いで〆るとアマテラスが馬上の人となった。
「ついてこい」
一鞭あてると飛ぶように走り出した馬の背のアマテラスをめどうに
にぎはやひもあとをおった。
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