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憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

宿業・・17   白蛇抄第7話

2022-08-27 20:57:49 | 宿業   白蛇抄第7話

無残にも、時は過ぎて行く。
朋世が孕んだと判ると、周汰は手放しで喜んでいた。
「今度はおなごのこがよいの」
周汰は朋世を抱き寄せた。
「草汰のように朋世ににているとよい」
「周汰さん?」
草汰が自分に似てないのではない。
朋世に似ているのだと周汰は思っている。
朋世に似ているから、尚更かわいい。
切れ長の瞳も朱を受けたような形の良い唇も
朋世そのものに見えた。
男の子である草汰でさえあれほどに、
愛くるしいのなら、朋世に似た娘は
いかほどに周汰の胸をつまらせるであろうか。
「ああ・・楽しみじゃの」
周汰は子の生まれる日を待った。
そして、その日を過ぎれば
また、朋世への周汰の思いを見せ付けられるようにもなる。

草汰をつれて周汰は浴場に歩いていった。
「とうちゃ。かあちゃは湯に、はいらねえんかな?」
「かあちゃは、ののさまに身体をふいてもらうに」
「なじょしてや?」
朋世が湯浴みをするのは
くどの、のの様の前に作った居風呂で、である。
「山の湯に行くには、かあちゃの身体では
あぶなかしいでな」
岩肌をさらけ出した場所が道の随所にある。
「うん?」
「かあちゃのおなかの子が
かあちゃといっしょにころげてはいけまい?」
「転げたら・・かあちゃもぽんぽのこも、いたいわなあ」
うん。と、草汰はうなづくと小さな足取りを速めた。
時折であるが、大きな盥の居風呂でなく
山の湯に入るのは子供にも楽しい事であった。
山の斜面に棚を作って掘り込まれた浴場を石で囲い、
たたきになだらかな岩をしきつめている。
湯船も広く、湯が次々とわきあがってきて、
身体が芯から、ように温まる。
ちゃぽと、音をさせて草汰は湯の中につかりこんだ。

次の日になると、
草汰は手桶を持って家を飛び出していった。
ほんのすこしでもいい。
かあちゃの、のの様の湯に山の湯をつかわせるのだ。
きっと、身体の芯まで、かあちゃを暖めてくれる。
かあちゃはときおり、臥せ込んでしまう。
とうちゃがかあちゃを奥の間に連れて行って、
傍に付いていてくれるが、
締め切られた板戸のむこうから、
小さくかあちゃの痛い声がきこえてくることがある。
わずか、みっつの草汰には、
それがなんのことか判る訳がなかった。
「かあちゃは・・まだ痛いかや」
でてきたとうちゃにたずねると、
「かあちゃにやや子ができるまでは
かあちゃはいたいんじゃ」
と、教えられた。
とうちゃの言葉どおり、
かあちゃのぽんぽにややこがおるようになったと
きかされてから、かあちゃは痛いのがなくなって、
とうちゃが慌てて、
かあちゃを奥の間に寝かせこませる事がなくなった。
だが、そのかわり、かあちゃは
こんどは山の湯にいけなくなってしまった。



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