植物生態学者の見た「自然と山の幸」

刻々と自然は移り変わり,人工の景観が,自然の植生を破壊する。さあ!大変。せめて食べられる野生植物のすべてを次世代へ残そう

カノコユリが咲きはじめた

2008-08-31 12:32:46 | ワイルド・フードなどの料理,その他利用法
写真は下甑島産のもの。
カノコユリ Lilium speciosum Thunb.
花に, 鹿の子絞りのような乳頭状突起があり, 学名の種名が示すように美しい。
花は美しいが, 鱗片には苦みがある。 でも昔, 薩摩地方では食べていた, と聞く。
鹿児島県,串木野市の沖に浮かぶ甑島3島は,カノコユリの自生地。7月上―中旬に訪れると,いくつか
の自生地で大群生を見ることができる。とくに3島の真ん中の平良島(中甑島)は,自生密度が高い。
 交通は串木野港からのフェリー。上甑島と中甑島の間は橋で結ばれているが,この2つの島と,下甑島を
つなぐ橋はない。地図と時刻表をみると想像がつくように,下甑島ゆきは,屋久島ゆきよりも時間がかかる。

 下甑島へ渡ったのは,7月10日,7月27日。いずれも1998年のことであった。
島の北部, 鹿島村は景色がいい。 最北端・鳥の巣灯台からは,中甑島が目の前に見え,海を見下ろす斜面
の草原に,カノコユリが点々と見えた。

下甑村役場のある手打へかう道(島内の山間部を貫く車道)ぞいでも,ぽつぽつとはえているカノコユリ
に逢うことがあり,西海岸の片野浦のワスレグサ自生地近辺にも, カノコユリは急斜面に, 点々とはえている。
甑島3島のカノコユリは, 大群落であっても, 多くは岩ごろごろの急斜面で, 近づいて見ることは困難。
そのかわり, 集落に植え込まれたもの, 観光施設で育てているものが, 見事に美しい。
純白のもの(シロカノコユリ,シラタマユリ)は,稀に自生中に見られるもので,白花品は畑で栽培されている。真っ白の花に見とれて暑さを忘れる。
 甑島のカノコユリは,極端に早く咲くものと,おそく咲くものがあり,開花期は最大2カ月におよぶ,とおもっている。

カノコユリは,山の崖地などにはえる多年草。鱗茎は大きく,紅褐色か,やや黄褐色,球形,径10㎝内外。
色が濃い鱗茎は苦みがつよく,淡色の鱗茎は苦みが少ない。
 茎は高さ 1―1.5m,葉は短い柄があって披針形,長さ10―18㎝,
花は7―8月,茎の上方に,数個から20数個つき,花被片は白色で,淡紅色を帯び,内面に隆起する肉質の濃紅色の斑点があり,広披針形で,長さ 8―10㎝,つよくそり反る。花梗は長くつよく,苞は葉状となる。

四国,九州にはえ,九州西部海岸と甑島のものは,分布域やや狭・個体数多,四国山中と,九州西部海岸寄りの山中にはえるものは,分布域やや狭・個体数やや稀。台湾の北部,中国の江西省にも分布する。
●研究者(阿部定夫,田村輝夫)は,生態的に本来のカノコユリ(シマカノコユリ)var. speciosum と, タキユリ var. clivorum Abe et Tamura に大別している。
それによると, シマカノコユリは, 九州の西海岸と甑島に分布し, 花は横向きまたはやや下向き, 柱頭は
頭状になるもので, タキユリは, 四国,愛媛県北宇和群,高知県,徳島県西部と南部の山中の岸壁, 九州の
西彼杵(にしそのぎ)半島と,九十九(つくも)島に分布し,茎は細くて下垂し,花は下向き,柱頭はやや
頭状の截形になる,という。

《食用事情》 鱗片に苦みの少ないものは, にんじん, スイート・コーンなどと,かき揚げ天ぷらにできる。
ゆでて乾燥した鱗片は,古くから中華料理の材料であった。
 苦みのつよいものも, 澱粉をとれる。