★★ なぜいまさら,無料メールサービスなのか?
ご存じの通り,インターネット上では, いくつかの大手の会社によって,無料のWebメールサービスが 公開されている. この「Webメールサービス」では,主に インターネット・エクスプローラ等のブラウザによって, 受信トレイ等のページを表示し,メールのやりとりをする. このため,OutlookExpress等のメールソフトを使用するメール (POPメール)と区別して,「Webメール」と呼ばれているわけだ.
代表的な無料サービスとしては
- マイクロソフト: Windows Live Mail(旧「MSN Hotmail」,容量2GB)
- Yahoo! Japan: Yahoo!メール(容量2GB)
があげられる. これらの無料Webメールサービスは,基本的には ユーザが加入してるプロバイダ(ISP)のメールを 補完するために,利用されている場合が多い. 具体的には
- 家族のために,プロバイダ提供メールアドレス以外のアドレスが,無料で欲しい場合
- プロバイダ提供のメールアドレスを,送信先に知られたくない場合
- パソコンが壊れたときのために,プロバイダ提供メールアドレスに 届いたメールを,保存するための,転送先として 別のメールアドレスが欲しい場合
といったケースがそれに当たる.
ちなみにYahoo!メールの場合は,広告メールの受信を承諾すれば無償で,Live Mailの場合は有償契約で,メールソフトによる 送受信も可能となる.これは,Webメールサービスが主に広告収入によって成り立っているため広告の表示されないメールソフトによるメール送受信は原則無料では不可能なためだ.(注:但し,送信メールの本文の終わりに,短い広告文がつく場合はある)
これらのWebメールアドレスは,Yahoo!メッセンジャー等の インスタント・メッセンジャー(IM)のユーザ名としても 使用されている場合が多いため,非常に加入者は多く 既に多くのインターネットユーザが,これらのサービスを利用している.
そのような,状況下,2年という長期間のベータテストを経て インターネット検索大手のGoogleから 無償Webメールサービス「GMail」が8月23日より,日本でも一般公開された. (注:日本では,現在でもベータテスト中.GMailアカウント取得はこちら)
しかし疑問は残る.これほどWebメールサービスが一般に普及した後に,果たしてGMailが,一般的なユーザに受け入れられる余地が あるのだろうか?
そこで,このほどWaterMindでは,実際にGMailに加入して, 他のWebメールサービスと比較検討を試みた.その結果,このGMailは,既存のメールソフトのあり方すらも 問い直す画期的なメールサービスであることが判明した.
★★ GMailにはフォルダがない!
Gmailの第一の特徴は,フォルダが存在しないという点だ. Webメールサービスにおいても,メールソフトにおいても 受信者別にフォルダをあらかじめ作成し,受信したメールを,自動もしくは手動振り分けによって,振り分けて保存しているユーザが多いはずだ. この方法ならば,特定のメールを検索機能を使用しなくても 探し出しやすいと思われるからだ.
しかしGMailでは,フォルダによるメール管理は,いくつかの点で 問題があると主張する.その主張の詳細は,下記ページを参照.
・ヘルプセンター:フォルダを作成するにはどうすればよいですか?
GMailでは,従来の「フォルダ」の概念を拡張した 「ラベル」というしくみを導入した.
「ラベル」は,ユーザがメールに対して貼り付けることのできる 任意の分類名だ.このラベルの一覧は,GMailページの左横に 常時表示されており,フォルダ感覚でクリックし そのラベルを持つメールの一覧を表示できる.
「ラベル」の「フォルダ」に対するアドバンテージは,
- 1つのメールに複数のラベルを付けることが出来る
- ラベルはメールに直接付けられる:フォルダに保存した場合は,そのフォルダから メールを移動した場合,以前に保存されていた フォルダの痕跡は,メールには残らない.ラベルは,メールと一体化(属性化・プロパティ化)しているため GMailでは,フォルダ方式のように, 「フォルダ間のメールの移動」に類似した操作も 存在しない.
などがある. メールに対するラベル付けは,一端ラベルを作成してしまえば マウス操作で簡単に行うことができる.
★★ メールのやりとりを「掲示板化」するスレッド表示
通常のWebメールサービスやメールソフトでは 受信したメールは「受信トレイ」フォルダに, 送信したメールは「送信済みアイテム」フォルダに保存される. つまり,受信したメールと送信したメールは別々のフォルダに 分けられて保存される.
GMailにおいても「受信トレイ」は存在するのだが,これまでの 表示方法とは全く異なる. 受信したメールと送信したメールが,混ざった状態で 受信トレイ内に表示されるのだ. もちろんただ単純に,混在状態で表示されるわけではなく, 送信したメールとその返信として受信したメールが 1行にまとめられて表示される. これがいわゆる「スレッド表示」だ.
インターネット上にある掲示板(BBS)のページによく見られるように 「スレッド」とは,最初に提示されたメッセージと,それに対する 返信メッセージの集まりのことだ. GMailでは,送信したメールとそれに対して返信されてきた受信メールを 自動的に関連づけて,1行で表示する. またその1行をクリックすると,一つの話題に関するすべての 送受信メールが,会話の流れのように表示される. まさに,掲示板と同じ考え方を,メールに導入しているわけだ.
この方式の採用により, 従来のメール管理方法であった,受信・送信でフォルダ分離され, また主に,時系列で(1次元的に)表示されてきた, 受信(送信)メール一覧と比較して,格段に, メールの検索回数を少なくすることに,GMailは成功している.
★★ 不要と思われるメールは,削除せず,保存(アーカイブ)する
GMailに,フォルダが存在しないことは,今述べたとおりだ.では,受信トレイに溜まってきたメールは,どうするのだろうか?
もちろん,そのままにしておいても良いかも知れないが, 既に不要な送受信メール(スレッド)については, 受信トレイにおいておいてもジャマなだけだろう. フォルダがあれば,後ほど必要になりそうなメールについては 受信トレイから,フォルダにメールを移動して 保管しておけばよいが,GMailにフォルダは存在しない.では,後ほど必要になりそうなメールでも,受信トレイの整理のためには しぶしぶ削除しなければいけないのだろうか?
この問題に対するGMailの解答は,極めて単純なものだ. 実は,GMailには例外的に,フォルダに似た仕組みが 一つだけ存在する.それが,アーカイブ(書庫)だ. アーカイブはフォルダに似ているものの,実体は「ラベル」の一種で このラベルのついているメールは,「受信トレイ」には表示されない.
受信トレイにおいて,メールを選択し, 「アーカイブ」ボタンをクリックすると,そのメールは, 受信トレイから消え,アーカイブに保存される. しかしアーカイブされたメールは削除されたわけではないので,検索すれば再び表示できる. (注:「すべてのメール」リンクでも表示可能)
またアーカイブされたメールは,再び受信トレイに 「移動」することも可能だ. (注:「移動」という言葉は,ラベルとは本来無縁で不適切だが, 一般ユーザにわかりやすくするために,使用されているのだろう)
このような「受信トイレを空にするように努める」タイプのメール運用, 言い換えれば,現在必要な受信メールだけ受信トレイに残し, 不要なメールは別のフォルダ(アーカイブ)に移動する方法は 大量にメールを受信する 一般のビジネスマンの間では, 一般的に採用されており,違和感もなく,受け入れやすい方法だろう.
この方法において受信トレイは, 「やるべき仕事の一覧表(ToDOリスト)」の役割をも担うことになる.
★★ 既存のサービスを凌駕する作り込まれたシステム
GMailには,この他にも次のような特徴がある.
- リアルタイム受信トレイ:「更新」ボタンをクリックしなくても,メールが届くと同時に, 表示しておいた受信トレイも自動更新される. (注:但し受信トレイではなく,スレッド表示中に,そのスレッドに届いたメールは,スレッド表示内で自動更新されない模様)
- 各Googleソフトとの連携:Googleのインスタントメッセンジャーである「GoogleTalk」を立ち上げておけば,メール受信と同時にポップアップ表示が出る. Googleのデスクトップ検索ソフト「Googleデスクトップ」を起動し,ガジェットを設定しておけば,受信トレイが常に表示される.またGMail内のメール検索も,Googleデスクトップから可能.インターネット・エクスプローラのツールバーの一つ 「Googleツールバー」によって,GMailのページを表示したり,GMail内のメール検索できる.
- 完全無償で可能なメールソフトでの送受信:他のWebメールサービスでは,メールソフトを使用したWebメールの送受信は,完全無償でないものが多い.
- 無償で携帯電話による送受信可能(注:日本では開始未定)
- 無償で添付ファイルのウイルスチェック
- 無償で他のメールアドレスへの転送可能
- 無償では最大級の2.7GBの大容量
- SSLによる暗号化通信で,セキュリティアップ
- 送信メールの下書きを自動保存
- キーボードによる機能呼び出し(ショートカット)が可能
- メールアドレスの一部に自由に文字を追加できる(エイリアス機能)
- AJAX技術により,ページ読み込みがほとんど発生しない
- RSSリーダによるメールの一覧表示可能
- 受信メールを表示すると,内容に関連したページのリンクを自動表示
- 迷惑メール対策として,新しい技術(DomainKeys)を採用し 迷惑メール判断の精度を向上
- 他のサービスのアドレス帳の取り込みが可能
★★ まとめ: 次世代のメールサービス
このように,Webメールサービスとしては後発のGMailは 既存のWebメールサービスだけでなく,メールソフトのあり方も問い直す画期的なコンセプトを持っている. 実際,他のWebメールサービスは,GMailに脅威を感じており 容量の増量やAJAXによる操作性の向上などの強化策を 取り始めている.
また,メールのスレッド表示については,OutlookExpressを始め ほとんどのメールソフトがサポートしているが,送信メールとの 混在スレッド表示のためには,受信トレイへの送信メールの 自動コピーなどの小細工が必要になる.
この点については,今後GMailのスレッド表示に準拠した メールソフトの登場もあるかもしれない.
迷惑メール対策に関しては,キーワード指定によるフィルタや, 学習型フィルタを持つメールソフトが多いが,GMailでは, いち早く新しい対策技術を導入しており,より高い判別精度が 期待されている.このため,迷惑メールに苦しんでいるユーザの中には,この迷惑メール対策機能のために,プロバイダのメールアドレスを使用せずに,GMailのアドレスをメインで使用しているユーザもいるようだ.
迷惑メール対策については,GMailの採用した技術とは別に SenderIDと言う技術もあり,どちらが主流になるかはまだわからないが 今後登場するメールサーバソフトには,どちらかが先ず間違いなく採用されるだろう.
・参考:SenderID
またWebメール書き込み中に,誤って,戻るボタンを押すなどして 本文を失った経験を持つユーザは少なくないと思う.下書き自動保存機能は,地味な機能ではあるが, 非常に重要な機能であり,ブログ書き込みなどにも搭載して欲しい機能の一つと言える.
このように見ていくとGMailは,現在の主なメール使用形態である 「メールソフトとプロバイダ提供のメールアドレス(アカウント)」という 組み合わせと置き換わるほどの,強力な潜在能力を持っているのかのもしれない.まだ,不具合や改良すべき点など多々あるようだが,今後の動向に注目していきたいサービスだ.
★★ 参考リンク
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ITMedia:GMail記事一覧