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明日香の細い道を尋ねて

生きて行くと言うことは考える事である。何をして何を食べて何に笑い何を求めるか、全ては考える事から始まるのだ。

読書の勧め(12)「教養として知っておきたい33の経済理論」大村大次郎著

2022-04-18 18:54:23 | ニュース

今、一番大事なことは経済だ、・・・ということで、私も遅ればせながら経済の本を読んでみた。最初 Amazon の読み放題で見た時には、正しい経済理論を学べると考えていたのだが、表題にある通り、過去の経済理論をザッと説明した本だった。まあ、「正しい」経済理論という考え方自体が問題があるのだが、まずは一通り読んでみて、私なりの感想を書いてみたい。

(A)経済行動における人間の心理を解説

1、途中撤退・・・「見込み違い」があるということを見込んでおくこと。

莫大な投資計画は、途中で中止することができない。燃料費の高騰・騒音問題・乗客率など、当初の目論見が外れて「採算が取れない」と分かった段階で、そこまでの投資金額を捨て、事業から撤退する勇気があるかどうか。これは「コンコルドの誤謬」と言って、事業を起こすときに考えて置かなければならない重要なこととされている。ダムなど大規模な公共事業は何年もかかるプロジェクトだが、途中で状況が変わった場合の判断に「本来無関係な」発注責任問題や建設業者の利益が絡んできて、元々の目的が「すっかり忘れ去られる」場合が大変多い。結局、作ったが何の役にも立っていない、ということになる。これは最初に「中止の場合」を想定して、ハッキリ取り決めておくべきである。つまり、利益と損失を「セットで常に考えておく」ことが、経済の大前提である。

2、返報性の法則

これは経済理論というより心理学である。譲歩的依頼法とは、まず重い依頼をした後に、それよりは軽い依頼をして承知してもらうという方法。これを英語で「ドア・イン・ザ・フェイス」という。これは「行動経済学」というべき交渉術である。アフリカや東南アジアなどの市場では当たり前のように行われている交渉ごとの基本だ。また逆に「フット・イン・ザ・ドア」という手法もある。つまり経済の基本には、心理学とも言える「個人の成功体験」が大きく理論化されている。

3、囚人のジレンマ

これはゲーム理論だ。さまざまな状況によって、人の経済行動は変わって行く、という考え方である。その典型が「囚人のジレンマ」と呼ばれる心理で、2人の囚人のうち一方が自白することでもう一方の刑期が変わる、という設定だ(これは私が思うに、自分の判断に「相手の行動」を含めるから問題が起きる。相手がどういう行動をしても「自分の判断」に関係なければ、この囚人のジレンマは起きないのでは無いか)。但し、この囚人のジレンマにおいては、期間が限定されていないと「逆にお互い協力し合う」という結果が出ているそうだ。これは、長期間になれば審問を継続するためにお互いの利益を考慮して、フィフティ=フィフティの行動を取る、と考えられている。つまり、「短期」だと自分の利益を優先、「長期」だと互いの利益を考慮するらしい。これは田舎の人=同じ人間と長く付き合う=長期、と、都会の人=付き合いが浅い=短期、の違いでもある。現代のネット社会では、この「一回切りの関係性」が色濃く現れる。つまり、利己的心理の極限化である。なお、「最後通牒ゲーム理論」というのがあって、人は嫉妬から「自分の利益を捨てる」こともあると説明される。状況によっては、人は損を選ぶこともあるという話。この辺りは人間心理のパターンをゲーム理論で説明しているが、なかなか経済の問題に入っていかないので、何となく飽きて来る。この辺が学術書のしんどい所だ。

(B)売らんがための企業の取り組みを解説

1、ナッジ理論、つまり契約解除の方法が複雑なために継続してしまう。

これは日常的によくある話である。契約したはいいけど解約の方法がわからない、何ていう質問が「よくある質問」の第一位にきているなんぞ、企業としては最低のやり方である。最近は「無料」のものしかやってないので、そういう問題には「とんと無縁」になってしまった。スマホの契約には政府の指導で段々と分かりやすくなってはきたが、どの契約が一番「お得」かなんて考えていると、ドツボにハマってしまう。やはり商売は「正直」が一番。少しぐらい高くたって、心の平安が大事だよね、とか思ってしまった。これは業者の思惑に乗せられてしまう消費者心理。

2、心の家計簿

物の価値は人の気持ちによって変わる、という理論。これは言い直せば至極当たり前のことで、物の値段はその時その時の状況によって変わる、である。むしろ「気持ち」こそが変化する実体だということ。物の価値は変わらない。「心理的価値」が変わるのである。これはレストランの値段にも当然表れていて、コストに含まれるものに「宣伝費」や「眺望の良い場所の家賃」など、料理自体の価値以外の部分が含まれているから高くなる。お客は「そういう付加価値」を含めて、味わっているのだ。

3、自信過剰の法則

これは余り印象に残らなかった(というか、メモに書いてあることが意味不明)。

4、品揃えが少ない方が売り上げが伸びる。

商品選択の法則の問題点は、何を置いて何を置かないかの選択にある。陳列品数が多いと売り上げが伸びない理由は、店側が「商品を未選択」のまま陳列しているからだ。店主が事前に商品を選択していれば、買う側の消費者の選択が楽になる。つまり、接客によって商品の優劣を説明する「前に」あらかじめ店側が「選別しておく」ことで、お客は安心して「自分の好み」だけに集中できるということ。そうすることによって、お客は「個性の発揮」に専念できるわけだ。当然の理屈である。最近コンビニなどに行っても商品が「無駄に多すぎる」な、と感じていたところだったので納得した。

5、損失回避の法則

今の生活が良くなるよりも、今の生活が壊されることを回避することが重要。それは今の生活がある程度受容できる程度のものの場合。失う物がなければ、人は賭けに出る。まあ、これも当たり前と言えば当たり前だ。

6、ハロー効果

人はたった一つのことで全体の印象を決めてしまいがちだ、という理論。これは最初のイメージが全てを決定するという現象を表している。但し私の過去の経験から言うと、最初に少し悪い印象を与えておいて、後から「良い印象に変化」した時は、「実際以上に」いい印象になりやすい。しかし実際に店でこれをやるのは難しい。「二度目」が無いからだ。これは、消費者という移り気な対象に対しては、とても取れる戦術では無い。だから本にも持ってないのだろう。素人考えは学術本には通用しない(アジャパーっ!)

ここからいよいよ経済理論の説明に入る(前振りが長かったぁ!)

(C)歴史を変えた経済理論

1、アダム・スミスの国富論

そもそもは多くの国が、産業や貿易を「特定の企業に独占させ」ていた。それに真っ向から反対した理論(今で言う、いわゆる独占禁止法)。一般的に、独占した場合の価格は高いが、競争した場合の価格は安い。そこから、政府は経済に関与するなという理論が生まれた。これはアダム・スミスの功績と言われている。それは国民全体が豊かにならなければ、国は豊かにならないと言う彼の信念から生まれた。そのためにはどうするか、と言うことを書いたのが国富論。労働者の報酬を増やせば、国全体が豊かになると説明する。

ところで私が読んだ別の本では、労働者が十分な賃金を得られるようにするために、適正な報酬を払えない会社は「淘汰すべき」だという理論もある。日本は中小企業の数が物凄く多い。零細企業やパパママストアは、積極的に統廃合すべきなのかなと考えた。そして税金は、払えるものが払う式に変える(勿論、今でもある程度はそうであるが)。何より経営者が減れば、それだけ高額所得者が減って賃金が平準化される理屈である。つまり会社の数を減らし、ダブついている経営者=社長の数を減らせば、もっと合理的な少数大規模の企業のみの社会になる。その結果、持っている者が払い、持たざる者は払わなくて良い理想社会が実現するわけだ。ただ、ここで問題になるのは「投資家」の存在である。

人間は太鼓の昔から「働いて収穫する」ように出来ている。しかし溜め込んだお金で投資して儲けた場合、それは「働いている」と言えるのか?

ここが問題だ。現代における投資家は、結局は「自分では使い切れない額の金」を投資という方法でぐるぐる回しているだけで、ちっとも「自分は働いてないではないか」という疑問が湧いてくる。本来は使い切れないお金を独占するのではなく、労働者に公平に分配すれば、経済が回っていくはずである。だから経営者は事業拡大を投資家の資金に頼るのでなく、新たに労働者=出資者を参加させることで解決するのが正しいと思っている。基本的に、私は投資家が嫌いなのだ。

2、資本主義と共産主義

① まず産業革命が起こり、大量資本の投下による大量生産・大量消費の時代がやってくる。資本家が労働者を使って利潤を得る形が出来上がった。つまり、「働く者」が利益を享受できない仕組みが出来たのである。それ以前は大地主が小作農を使って利益を上げる構図があったが、私は「土地の所有者」という存在自体がナンセンスだと思う。土地は「それを利用して価値を生み出すことができる者」が所有するべきだ。あるいは別の機関が所有して、労働するものに貸し出すべきである。・・・これ、共産主義になっちゃうなぁ・・・。

② マルクス資本論が誕生。彼は、資本家は必ず労働者を搾取すると考えた。そこから、貧富の格差が生まれる。昔は代々の家業を営む「身分制社会」があり、そこでは「失業」という観念がなかった。それが時代の流れで「流動的な労働環境」が発生し、そこから生み出された「失業問題」が大きな社会問題になっていた。経済状況による雇用の喪失を何とかして安定化する目的で、「共産主義」が考えられた。この労働者主体の仕組みを作るために考えられたのが「共産主義革命=階級闘争」である。人間は自分の財産を死守する。その昔からの固陋な習慣を捨てて「みんなの為に」分かち合おうという人が、実は日本にもいたのである。それが渋沢栄一である(ちょっと NHK に毒されているかもしれないが、これは事実のようだ)。やっぱり偉人というのは存在する。

③ しかし共産主義社会の経済は停滞・破綻した。共産革命を起こした人々は実は「経済に明るかったわけじゃなかった」のである。マルクスは別に「計画経済」を主張していたわけではない。計画経済を考えたのは「ソ連の官僚」である。毛沢東は内戦に勝利して中国を作ったが、彼の起こした文化大革命は史上最悪な失敗だった。レーニンも同じく失敗している。これらの失敗は共産主義の失敗ではなく、経済を知らない人間がトップにいたことによる失敗だと思う。現在、世界的には「共産主義の復権」が叫ばれているのは理由があるのだ。資本家が余りに財産を独占したからである。自由な労働と正当な報酬のバランスが大事だ。問題は、利益に占める「資本」をどう評価するかでは無いだろうか。

人々が考える「公平の意味」をどう捉えるか。今私が考えていることは、才能と労働に応じて公平に報酬を得る、という仕組みである。そこでは「資本を投資することで報酬を得る」ことは出来ない。そして決算においては「労働=人件費」はコストと考えるのではなく、配分前の「最終利益」と考えるのである。利益は「労働した者」で分配する。資本家は労働していないから分配に与れないとするのだ。これじゃ投資家がいなくなってしまうじゃないか、と心配する必要はない。投資は国家が行い、利益は国民に再分配するでどうだろう。これ、一種の共産主義である。

④ 共産主義に対抗してケインズの経済理論が浮上した。彼は経済問題の中心である「失業問題」を公共事業で解決しようとした。最初は上手く行ったが日本では90年代から国中で失敗し、箱物行政などと言われて公共事業=官僚の「無策の象徴」と揶揄された。公共事業は「価値あるもの」を作って初めて生きて来る。お金をばらまきゃいいてもんではない。ケインズは「不況の時」には公共事業をやれ、いっていたが、日本では「三十年も無駄な公共事業をやっている」そうだ。政治家というのは、どうしても人気取りに走りたがる。これは日本人の体質だろうか。昨今の再開発ブームというのも本当に価値があるのかどうか、検証が必要だろう。

とにかく「失業をなくすことが経済の根本」である、というのが分かっただけでもこの本を読んだ価値があると思う。お金を儲けることが経済ではないのだ。

(D)真経済理論

いよいよ結論に到達!と思ったが、そうではなかった。著者はニクソン・ショックによる「ドルの不換紙幣化」を取り上げて、現在の世界経済をサラッと解説。ここが一番興味があるところなのだが、私の期待は裏切られたようである。著者はマネタリズム理論など新しい経済論の動きを解説しているが、肝心の「答え」は書いてはいない。勿論、表題にある通り「教養として知っておきたい33の経済理論」であるから、説明するのが目的で「答えを言う」のは別の本、という体裁なのである。残念!

久しぶりに学術関連の本を読んでみたが、どうも私にはピンと来なかった。もう少し「これを何とかするにはどうしたらいいのか?」的な意欲というか熱量が欲しかった、と言うべきか。世の中には億万長者が何百人もいるというのに、一方では今日食べる物にも困っている貧困層の人々が何万人もいる。こういう不公平を放置しておいて「国の発展、経済の発展」を論じるのは如何と思う。人々がそれぞれキチンと職業を持ち失業者がなくなって、基本的人権の守られた生活を送れるようになったら、どれほど幸せだろうか。

利益を得るのは悪いことではないが、必要以上に利益を溜め込むのは問題では無いかと思う。そこで私は「私有財産一身一代法」を考え出した(過去ブログを参照してください)。やはり個人財産は、何らかの形で「制限」するべきである。際限なく財産を増やしていって遺産という形で「囲い込む」のは、もうやめたらと思う。「私ぐらいの生活程度」つまり月18万程度で人類全体が暮らせるだけの物は、今現在「生産できている」はずだと思うが、どうだろう。この本を読んで、そんな社会主義の夢物語を想像してしまった。現代は「見えない身分社会」でがんじがらめになった社会である。資本家という支配者層から、我々労働者が自らの自由を取り戻すのはいつのことだろうか。一応、この本を読んだ感想は、労働というものをもう一度考え直そうということだった。

時代は「労働する者」が利益を享受する社会へと向かって動いている。



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