明日香の細い道を尋ねて

生きて行くと言うことは考える事である。何をして何を食べて何に笑い何を求めるか、全ては考える事から始まるのだ。

鉄道ひとり旅 小海線の巻

2019-02-04 20:46:22 | 歴史・旅行
今日は録画しておいた鉄道ひとり旅を見た。ダーリンハニー吉川の鉄道旅行番組で私は割と気に入っているが、本日の目玉は小海線である。番組は中央線の小淵沢駅からスタートし、清里・野辺山を経て小諸まで行く。この小淵沢のある中央線沿線は、昔私が社会人になりたての頃、時計の行商をやっていた路線である(勿論当時は行商などと言わずに、小売店を相手に商品を卸して歩く「ルート営業」と言っていた)。私の得意先は中央線にあったので、小海線にはとうとう乗らなかったが、今見てみると懐かしい駅名が並んでいる。甲府は勿論得意先があったが、下諏訪・岡谷・辰野・上田・長野と殆ど各駅停車で店があった。今でこそ田舎巡りの旅にうってつけのルートであるが、我ながら良く歩いたもんだなぁ、と記憶が蘇ってくる。

当時の会社の社長は車嫌いの変わり者で、自社の車が事故を起こしたら大変なことになる、というのが口癖だった結果、営業は皆電車でカバンを持っていく「正に絵に描いた行商」であった。メタルバンドの重たい腕時計を山ほど詰め込んだジュラルミンのカバンを2つ、夏は猛暑の中を汗ダラダラで歩き、冬は冬で厳寒の中、雪の積もった田んぼの道をひたすら歩いてお店を訪問した。真夏の伊東では海水浴客が水着で歩く繁華街のアーケードを、スーツにネクタイ姿で重たいカバンを提げて歩いてたこともある。やっとたどり着いた小売店では商品の時計を説明して何とか少しでも買って貰い、ホテルに帰った頃には夕食と風呂だけが楽しみという「しがない肉体労働」の毎日だった。今ならクーラーの効いた車でサッと乗り付け、もっとスタイリッシュにビジネスをしただろうに、何しろ昭和47年の昔である。まだまだ給料が1万何千円かの高度成長期であった、いやー懐かしい。

さてと、昔話はそれくらいにして、番組に戻ろう。

小淵沢からスタートするが、駅が近代的なビルの2階建なのに駅前はだだっ広い空間が広がっていてギャップが激しい。これは出雲に行った時にも感じた事であるが、駅がでかい割りに街並みは江戸時代のままで古風豊かな都市の典型である。まあ小淵沢は登山の駅と思っていたので、私は何の感慨もない。小海線でまずは野辺山へ行く。国内最高点の駅という事で「ちょっと観光案内」が入る。観光案内と言っても吉川が感動した事をストレートに言いまくるだけなので、オタクの視点というのが前面に出ていて素人っぽく、なかなかである。何より事前に調べていないのがバレバレ、というのが面白い。行き当たりばったりというのが売りだ。小海線の駅名版は「星空をイメージしてロマンチック」である。こういう駅名版も洒落ていて、旅の感じが出ていて良い。ファミリーレストランのビックベンに昼飯を食べに入ったが、流石にここは撮影許可を事前にとってあったのだろう。もし許可が下りなかったら他を当たらなければならなくなって色々予定が狂ってしまうが、まさかブッツケ本番ということは無いと思うけど。この番組は突然通り過ぎる列車を撮影するシーンが豊富に出てくるにだが、これも本人達は「突然出くわす」ようで、ライブ感半端ない。まあ何箇所か撮影ポイントを決めておき、その他は「出たとこ勝負」という作り方らしい。吉川は「はしゃぎ回るところ」が少々うるさいが、総じて自分に素直で「鉄道オタクっぽい語り口」が楽しい。意外とこういう旅番組の方が、他局の作り込んだ映像とナレーションで見せる番組よりも「へぇ〜っ」と興味をそそられることが多かったりして、飽きない。

そういえば、以前青森から竜飛岬へ旅行した時、帰りを日本海沿岸ドライブと洒落込んだら台風に遭って、酒田あたりではコンバーチブルの屋根から雨が漏れてくるかというほどの土砂降りになった。あわてて一時休止してトラックの駐車スペースで雨宿りしたが、前が見えない程の雨が1時間位ですっかり上がり、星空が見えるくらいに晴れ渡って、夜の黒々とした日本海に町の灯りが点々と連なる幻想的な夜景が岬めぐりに次々見えて、まるで見果てぬ夢のように感じたことを突然思い出した。旅は若いうちにするものである。年を取って思い出すたびに、懐かしさが胸を熱くする。いや、勿論まだまだこれからも旅は続くのだが、もう車であちこち走り回るという若さに任せた旅は出来ないだろうと思う。そこで鉄道の出番である。

この鉄道というのは最近どのテレビ局でもやっていて、タレントが乗ったり降りたりして土地土地の風物を紹介するのがお決まりのようになっているが、名物紹介のような番組が多い中で、何故鉄道オタクのこんな自由気ままな番組が好きかと言うと、ダーリンハニー吉川に限らないが、自分の興味のあることだけに集中した「純粋さ」に共感を覚えるからに他ならない。六角精児の呑み鉄番組もそうだが出演者のキャラがほのぼのとして良いのである。そしてたまに珍しい電車に遭遇したりして写真を取ったり興奮するのを見ていると「おいおい、はしゃぎすぎだろう!?」と語りかけるのが、又楽しいのだ。言うならばダメな友人と一緒に旅をしている感覚だろうか。鉄道番組の中には「どうだ、絶景だろう?」とこれみよがしに押し付けてくる番組があるが、興ざめである。絶景なんて言うものは自分がこっそり見つけて密かに眺めるもので、人から教えてもらうものじゃないのだ。

私も時々こういう番組を見ては、また旅に出てみようと思う時がある。齢70、まだ体力があるうちに「折り畳み自転車を抱えて」長距離列車に乗り込み、まだ見ぬ未踏の地に足を踏み入れて彷徨ってみたい、そんな気持ちになっても不思議はない。時間と金はある。あとは身体がついて来るかどうか、だ。もう一度、いっちょ当てのない旅に出かけてみようか!

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