感想:きみの色

2024-09-20 07:39:44 | 劇場アニメ





山田尚子監督最新作!!



人を色として見分けるトツ子。
学校で生徒たちの中心にいる少女・きみに感じる鮮烈な色に憧れるが、
いつの間にかきみが学校を中退したことを知る。
古本屋のバイトをしながらギターを練習するきみ。
そこへバンドをやってみたいという少年ルイが訪れることで三人の想いが動き出す。





出だしから花に囲まれた長崎の鮮やかさに見惚れる!!
『リズと青い鳥』『聲の形』で見せた独特の柔らかい色彩をここでも遺憾なく発揮。

一人ひとりの歩くクセまで設定した絵コンテのこだわりがすごい。
『リズ』のオープニングが美しかったのもそこが大きかったしね。

キャラクターたちの心理を動作で表現する繊細さが昔から一貫していて
台詞のない場面でもグッとくるのはそのおかげ。





舞台となる学校はミッションスクールで、厳かな雰囲気なのかと思いきや
女性視点からの女子高のリアルさを描写してる。

熱心に祈りを捧げていても実際はダルいだけだろうし、
規律に厳しい寮生活も部屋ではだらしないのが当たり前。
やはりこういう「嘘をつかない」描写って青春モノにおいて大切だよね。

ただ、ものすごく気になったのがトツ子のルームメイト三人組の声優。
悠木碧、寿美菜子ときて、なんでやす子なんだよ!! 早見沙織にしてやれよ!!
今年の24時間テレビでこの映画のCMをやっていてなんとなく察したけどね。
実に気分悪いね。





演出で優秀なところがもう一点。

視線誘導が驚くほど巧み。
二人が向かい合って話している場面を
「左端に左向きの人物 → 右端に右向きの人物」の順にカットを割って
それを観客に目で追わせるという、劇場のスクリーンに映すことが前提の演出。
不自然さを感じさせずに溶かし込むのが実に上手い。

これに限らず、下手から上手へ、という視線の誘い方が多く、
意識しながら観るとうまいことハメこまれてる自分に気付いて
それ自体がとても心地よい。





トツ子、きみ、ルイ。
バンドを通じて3人の悩みを浮き立たせていくストーリー。
でも、その、過程が、なんか、普通。

リアルさに重きを置いているのはわかるし、
奇抜な悩みを入れていかにもアニメ的な方向へもっていきたくないのもわかる。

それでも登場人物たちの行動がいまいち共感できないことが多いし、
そもそもがトツ子の「他人を色で見る」という設定に
ほとんど意味がなかったのもなんだか勿体ない。



「自ら動くことで自分が何者か理解できる」という
若者へ向けたメッセージがいまいち伝わりにくかったのも残念だし、
きみが学校を辞めてまでバンドを始めること自体が
そのテーマに沿っているとは言い難い。

女二人男一人のバンドにもかかわらず恋愛要素を持ち込まなかったので
湿っぽくならなかったのは英断。



そしてクライマックスである文化祭の演奏。

劇場アニメだけあって豪勢に3曲歌ってくれる。
ラストのメイン曲が「水金地火木土天アーメン」とかいう変な歌。
曲自体の完成度はとても高いのだけれど、そういう曲調ではないのに
聴いた人たちがみんなノリノリになってるのがまったくもって違和感。

先にコンテを切ってあとから曲を追加したのだろうなあ。
こういうところで摺り合わせができてない作品は悲しくなるなあ。

ただ、歌は本当に上手かった!!
きみ役の高石あかりって聞いたことのない声優だったのだけれど、
もともと女優でやってた人なんだな。さすがに表現力が別格。




総括すると、なんというか、演出・絵コンテの秀逸さに対して
全体がかなりチグハグな印象を受けた。

言ってはいけないことなのだけれど、
この演出でユーフォ3期が観れたらどんなに素晴らしかっただろうか。



映画としては手放しで褒められる内容ではなかったけれど、
作中のアンビエントの気持ち良さが出色のクオリティ。
こういう柔らかく暖かい映画を観たあとはごはんがとても美味しい。

次回作に期待をかけるだけのポテンシャルは非常に高い!!
まだまだ推していく!!



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