切られお富!

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美空ひばり主演 映画 『たけくらべ』 

2005-02-14 18:55:55 | アメリカの夜(映画日記)
新東宝作品で美空ひばり主演の映画『たけくらべ』の上映会(無料)があるというので、京王線芦花公園駅徒歩5分の世田谷文学館というところに行ってきた。

なんでこの映画が観たかったかというと、樋口一葉をまとめて読んでいた折、折角だからという事で日比谷線三ノ輪にある樋口一葉記念館に行ったのですが、そこでこの映画のスチールを見たのがきっかけ。(ついでながら、ここにある樋口一葉の写真は、五千円札と違ってとても生々しい。)

吉原なき時代に歌舞伎や落語に親しんでいるものとしては、吉原がどんな感じだったのかビジュアル的な関心があるんですよね。資料の写真の類はいろいろ見たことはあっても、それだけではもう一つリアルに掴めませんから。

因みに一葉記念館のすぐ近くは“今の吉原”で、「大門の見かえり柳いと長けれど~」で有名な見かえり柳は、ガソリンスタンドの脇にかなりみすぼらしい姿になっているし、通りは昼間っから白いワイシャツにオールバックのお兄さんが居並ぶわで、すさまじく興醒めな感じ。ただ、三ノ輪駅近くにある浄閑寺(通称投げ込み寺)には遊女達の葬られた無縁仏の墓があり、霊感の類とは縁のない私もさすがにちょっと薄気味が悪かった。(尚、そこには永井荷風の碑もあります。)

さて、肝心の映画ですが、1955年の新東宝作品で監督は五所平之助。カメラは小原譲治。美術は久保一雄。(美術助手・平田逸郎)モノクロスタンダードで上映時間88分。現在権利は松竹にあるそうですが、今回上映のフィルムは国立フィルムセンター所蔵の16mm。

はっきり言っちゃうと、私の美術面での期待は裏切られたし、傑作とは言いがたいのだけど、なかなか見逃しがたい点もあって面白かった。

まず、美術面からいうと、いわゆる「お歯黒溝」(吉原の周りに張り巡らされていた小さな堀。花魁がお歯黒を流したことからこの名がついた。)のオープンセットと、長屋の奥に吉原の角海老楼の時計台と建物が見えるオープンセットがなかなか圧巻。特に後者は、画面奥の2階建ての建物にいる仕出し(エキストラ)の姿までわかるほどの大規模なもので、素晴らしい奥行感。ただし、あとは通常の屋内のセットと取りたてて言うほどもないロケばかりで、吉原を表現したと言えるほどのセットはなし。

画面的には、この時代のフィルム感度を考えると意外にフォーカスが深く、室内シーンではセットの奥にやたらと通行人が通るやら、落ち葉を無闇に散らせるわで、奥行感を随分強調している印象。

で、芝居の方なのだけど、はっきりいって子役が下手。(もっとも、こういうのは監督の責任なんだが。)ヒロイン美登利(美空ひばり)と信如の恋に絡む正太(なんと今の幸四郎。当時の名はもちろん市川染五郎。顔に特徴があるのですぐ判るんだけど、下手なんだなあ、まだまだ当時は。)の関係がもうひとつ中途半端ではっきりしない。結局この映画、横軸に子供達の関係、縦軸に美登利(将来の花魁)-美登利の姉大巻花魁(岸恵子)-元花魁で落ちぶれた女(山田五十鈴)という構図になっており、これがまた山田五十鈴の芝居があんまり凄いもんだから、完全に縦軸の方に引っ張られてしまった格好。

特に最後の、花魁とはどんなものかを女が美登利に教えようとするくだりの、山田五十鈴と美空ひばりのカットバックは鬼気迫るものがあり、恐くなってくるほど。

映画はお歯黒溝を渡る人の姿で始まり、最後は美登利がお歯黒溝を渡るところで終わり、なかなか情緒ある構成。ただ、映画自体も吉原を囲むお歯黒溝さながらに、吉原の周りを旋回して終わってしまったように私には感じられ、ちょっと残念。

なお、この上映会は子供用に企画されたもののようだったのだけど、観客は99%ぐらい大人で、私の年代も見渡した限りはおらず、大変平均年齢の高い鑑賞会だった。もっとも、『たけくらべ』に限らず樋口一葉の世界は子供が見ちゃいけないような世界だと私は思いますが…。ワイルドの童話同様、子供が見ると生きていく希望を失いかねないですからねえ…。

なお、現在世田谷文学館では「映画監督・成瀬巳喜男展」をやってます。個人的にも成瀬巳喜男は大好きで、小津・黒澤・溝口に較べても、今見て一番遜色のない巨匠は絶対この人だと私は思っているんですが。
因みに私の好きな成瀬作品は『驟雨』(原節子と佐野周二!)とやっぱり『浮雲』(高峰秀子と森雅之)そして、『放浪記』と『あらくれ』、『杏っ子』といったあたり。

・世田谷文学館
・「生誕100年 映画監督・成瀬巳喜男」展

・映画 『たけくらべ』
・一葉記念館
・『 樋口一葉 明治の文学 』
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