切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

3月 国立劇場 『通し狂言 本朝二十四孝』

2005-03-28 08:31:49 | かぶき讃(劇評)
花粉舞う毎日。最近はすっかり出不精になってしまった私ですが、マスクに普段しない伊達メガネ姿で国立劇場のある三宅坂まで行ってきました!

というわけで、かなり集中力欠いてるんですが、薬を飲むと眠くなりそうだし、でも「十種香」はちょっとだれる芝居ではあるし…。

今回は若手花形歌舞伎公演ということで、時蔵・彦三郎、歌六は若くないにしても(でも確か時蔵って新勘三郎と同い年だったよな。)、愛之助、孝太郎と若手中心の芝居。

今回、通し狂言ということなのだけど、「勝頼切腹」と「道行」が加わったというだけなので、純粋な意味で「通し狂言 本朝二十四孝」といえるのかどうか疑問の残るところなのだけど、今までもうひとつ解せなかった「十種香」の意味合いがかなりはっきりしたとはいえる。

切腹した偽の勝頼と濡衣が恋仲であること。濡衣は非業の死を遂げた恋人とうりふたつの男(勝頼)と旅して(道行)、謙信館に侵入したこと。「十種香」の場が恋人の死からちょうど1年後に当ること。これらの前提は以前から筋書き上は理解していたつもりだったのだけど、実際に演じられてみると、「十種香」までも、観ている方はどうしても濡衣に肩入れしてしまって、八重垣姫が割りを喰う感じではある。

で、実際の芝居はどうだったのかというと、残念ながら全体の印象は極めて薄いものに感じてしまった。

孝太郎の濡衣はかなりがんばってはいたものの、もうひとつ色気が薄い。今回、全体の監修が芝翫だということもあって、てきぱきとした動きに芝翫の姿を彷彿とさせるものがあったとはいえ、何か消化不良。

人気の美男役者・愛之助の勝頼(本物、偽者二役)ももうひとつ輪郭がはっきりしない。最初の盲目の偽勝頼もやや平凡だったし、関西和事の雰囲気のあった田舎で育った本物の勝頼の登場シーンはそこそこの印象だったが、どうも問題を感じたのが道行きで、孝太郎の手踊りの間の待っている姿がもうひとつ呆けた感じで雰囲気を欠いている感じがした。そして、肝心の「十種香」。ここもふっくらとした貴公子の雰囲気には乏しく、かといってみずみずしさもなく、随分ぎすぎすした感じに見えた。ただ、かなり難しい役だし、厳しいことを言うのも酷か…。

因みに、私の好きな「十種香」の勝頼は、①梅幸、②二代目鴈治郎、③梅玉といった辺りで、最近でも菊五郎もよかったし、この役に関しては團十郎も悪くない。容姿から言ったら、本来ティーンエイジャーのはずの勝頼役を、随分貫禄のあった梅幸や決して美しくはない二代目鴈治郎がやると絶品だというところが芝居の面白さなのだけど、この二人がやると何とも言えない気品があるんですよね…。魁春襲名の時の兄・梅玉の勝頼も私好みで、梅幸以来の貴公子の雰囲気だったなあ…。というわけで、かなりハードルの高い役。今後の愛之助に期待というところか。

そして、残念ながら一番期待を外された感があったのが、じつは時蔵の八重垣姫。本興行では初役だというのは意外だったのだけど、やはりこの人には合ってない役なのかなという印象を持ってしまった。文楽の八重垣姫はとても積極的な女の子として描かれるのだけど、歌舞伎の方はおとなしめな印象の少女として描かれる場合が多いような気がする。そのためか、台詞の強弱、特に弱音部の使いまわしで“少女性”を見せているケースが多いのではないかと思う。私が見たことのある、歌右衛門、魁春、雀右衛門、三代目鴈治郎、といった面々の場合、その感が顕著で、今回の時蔵は比較的台詞の強弱の強調は薄く感じた。時蔵という人は、見た目もすっとした姐さん肌の役者という印象があるので、「あどけなさ」ではなく、ややつんとした深窓の令嬢といった感じの造形なら面白くなるかもという感じもするのだが…。(『エヴァンゲリオン』の惣流・アスカ・ラングレーなんていう例は歌舞伎っぽくないか…。)「姐さん」が少女を演じようとする無理とでもいうものを正直なところ感じた。ただ、狐火の颯爽とした感じは良かったことを考えると、文楽並の活発な女の子という造形もありだとは思うんだけど・・・。

なお、敢えて言いたいのだけど、そもそも松嶋屋の若手(孝太郎、愛之助)が揃っているのだから、関西風の「二十四孝」にするという手もあったのではないかという気がする。以前、鴈治郎の八重垣姫に秀太郎の濡衣(因みにこの時の勝頼は團十郎。)で、黒塗りの御殿の舞台(白木の舞台になったのは明治の九代目團十郎以来のこと。)という芝居があったのだけど、なんで関西の若手が入って、鴈治郎でなく芝翫監修なのかなという気がする。確かに、八重垣姫、濡衣、勝頼の三役を経験している芝翫は貴重な存在なのだし、パンフレットの文章(三役の注意点について書かれた文章)なんかは面白かったのだけど、柱巻きをしない鴈治郎の八重垣姫に、秀太郎の艶っぽかった濡衣がなかなか良かっただけに、こういう芸を継承したらどうかという気がしたのだけど、どうだろう?(でも、最初は基本形からということか?)

あと、若手の今回の公演で気付かされたのだけど、この芝居ってよくよく考えてみると、じつに少女漫画的なシチュエーションを持っていて新しい掘り下げ方があるのかもしれない。そもそもティーンエイジャーの話だし、「道行」の、死んだ恋人とそっくりな男と夫婦のフリをして旅する女スパイ(濡衣)っていう設定はなかなか想像力を掻き立てますね。(それ故に今回の愛之助の「道行」はややぞんざいに感じたんだけど。)どなたか、少女漫画家の方、マンガにしてはいかがですか?

【参考】
歌舞伎修業―片岡愛之助の青春
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2 コメント

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初めまして! (雪柳)
2005-04-10 17:16:10
初めまして。

私も同じ公演を観劇しました(^^)

とっても読み応えのある記事!

カブキズキ初心者の私には思いもつかない点、気付き・・歌舞伎の楽しみ方は、それぞれの人にいろいろなポイントがあるのだなぁと興味深かったです。



私もこの公演の感想をブログにUPしています。

まだまだ青い見方で恥ずかしくもあるのですが、こちらの記事を是非トラックバックさせてください!



いろいろな感想を読むのは、私にとってとても楽しいことなんです(^^)

これからも甘口辛口取り混ぜたレポートを楽しみにしております♪
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コメントありがとうございます。 (切られお富)
2005-04-12 10:42:32
雪柳さん、はじめまして。

コメントが遅れました。ゴメンナサイ。



私の駄文を読んでいただきありがとうございます。



私は歌舞伎好きですけど、歌舞伎から自由に何か言いたいなあと思って書いています。(専門的になりすぎるとどうも蛸壺っぽくなってくるので。)



なので、一部の贔屓筋を怒らせそうなことも随分書いてますが、どうか大目にみてください。(笑)



雪柳さんの記事も是非読ませていただきます。



今後もヨロシクです!!!

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