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通し狂言 義経千本桜 Aプロ(鳥居前・渡海屋・大物浦)国立劇場

2022-10-08 23:59:59 | かぶき讃(劇評)
観てきましたので、簡単に感想!

義経千本桜の三役通しを国立劇場で観るのは、2001年の團十郎の時以来ですかね。あの時は團十郎一世一代の名舞台で、三役ともよかったんですよね。今回は菊之助が三役に挑戦、どうなりますか?

で、今回は今の時世の仕方のない構成で、三部構成だったわけだけど、芝居が始まる前に、三回とも菊之助のナレーションによるプロジェクターを使った説明が入りました。大河ドラマの影響なのか、団体客対策なのか?わたしは要らないと思ったけど、歌舞伎に馴染みのない人には必要なのかな?国立劇場の発案なのか、菊之助の希望なのか、わたしにはわかりません。どうせ説明するなら、「伊達の十役」で猿之助がやるような口上風の説明のほうが、歌舞伎っぽくてわたしは好きだな~。

さて、まずは鳥居前から。

鳥居前はちょっと前なら三津五郎、近年だと松緑の印象があって、荒事味のある鳥居前の忠信が、スマートな菊之助に合うのかな~と思って観ていたけど、体重増量したのかな~とさえ思える立派な舞台でした。引っ込みまで含め、快調な出だしですよ。

静御前の米吉は、少女のような静御前。白拍子であるこの役をどう捉えるかは、人によって全然違うし、ドラマなどでも美人女優の役って感じのものもあれば、大河の石橋静河みたいなキャラの場合もある。ただ、この場の義経が錦之助だということもあって、釣り合い的にちょっと若々しすぎるかな~という感じがしなくもなかったかな。

義経の錦之助、弁慶の彦三郎、静御前の米吉、狐忠信の菊之助と並べてみると、全般的に若くて華やかな鳥居前という印象でしたね。

次が問題の、渡海屋・大物浦。

わたしは、菊之助がこの役を初役でやった2015年の国立劇場公演を観ているけど(ちょっと前だと思ったら、七年前!)、その時より焦点がぼやけてしまっている気がしました。渡海屋は、渡海屋銀平(実は平知盛)の人物としての大きさを見せる部分で、ココがカッコよくないと、大物浦の勇壮さが引き立たない。

[以前の記事]・7月歌舞伎鑑賞教室(国立劇場)「義経千本桜 渡海屋・大物浦」

たとえば、敵方の武士を軽くいなすくだりで(といっても実は味方で、義経主従をだますための一芝居なんだけど)、吉右衛門なら、懐の広い大物風だし、仁左衛門なら爽やかな調子で軽くいなし、團十郎ならおおらかな明るい調子で押し切っちゃう感じになる。

菊之助は芸風的にクールな人なんで、銀平の大物感を、自分の芸風と結びつけたキャラとして打ち出し切れていない気がしました。ただ、大物浦の安徳天皇の台詞の後の悲壮感はよかった。ココの原作は天皇制に対するニヒリズムを含んでますもんね。

今回の舞台の出色は、梅枝の銀平女房お柳(実は内侍の局)。前半の市井の女房として貫禄といい、内侍の局の姿になってからの天皇を預かる大役としての局役も、古風で貫禄があって、それでいて若々しい美しさもあり、堪能させてもらいました。團十郎のときは、四世雀右衛門が名演を見せた役ですからね。あと、お安ちゃん(実は安徳天皇)の丑之助くんもよかったですが。

最後に、大物浦といえば、弁慶のほら貝まででおしまいで、彦三郎の弁慶が口跡といい、貫禄といいよかったんだけど、この最後の最後で行儀の悪い年寄り客がいて、ウンザリしました。センスあるなしは年齢と関係ないんですよね。

以上、簡単ですが、Aプロの感想でした。

PS:帰りに、菊之助夫人と娘さんたちのお姿をロビーでお見掛けしました。微笑ましいですね。ちょっと吉右衛門夫人のロビーの貫禄を思い出しました。もちろん、親子なんだから当たり前とはいえ・・・。
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