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「風にそよぐ葦」

1973 新潮社(初出1949-50 毎日新聞連載) 
石川達三作品集第6巻

開戦前夜から戦後の日本国憲法施行に至るまでを時代背景に,出版・評論・医療の分野で生きる知識階級の日本人とその家族の出会う苦難を中心に描いた社会小説。

主な登場人物:


出版社「新評論」の社長、葦沢悠平と息子の泰介、邦男。
医学博士の児玉と娘の榕子、有美子
国際論家の清原節雄

中国での戦争が泥沼化して、物資が底をつき各家庭の金属製品までも供出しているのに、さらに米英に戦いを挑もうとしていた1941の日本では、反戦思想を抱いているだけで危険人物とみなされるようになる。

葦沢悠平は「中央公論」社長の嶋中雄作、清原は清原冽がモデルとされている。
大学時代に「赤化」したのは長男の泰介、二等兵の彼を虐待し死に追いやる下士官は広瀬充次郎。軍国主義教育に染まった次男の邦雄は父親を密告する。女性たちはどうかというと、児玉家の長女榕子は熱愛する夫泰介を兵役から救い出そうと奔走して却って疑いを招き、かれの悲惨な末路を招く。次女有美子は音楽を愛しピアノを弾く一方で、学徒動員の労働に邁進し、過労で倒れる。
下士官の広瀬は軍隊で活躍した後は闇で大儲けし、戦後その金で議員に立候補する。
邦雄は父親の意見が正しいことを歳月と経験で知る。これら2人の若い男たちはいかにもいそうな感じである。女たちにはやや堅苦しさを感じるが作家の女性観の古さかも知れない。

葦沢悠平は戦中は右からの弾圧を受け、戦後は社内の労働運動からの攻撃にさらされた挙句GHQから公職追放される。清沢は日本に見切りをつけハワイに移住する。

自由主義者の生きる道はいつの時代でも苦しいのである。「生きている兵隊」などで筆禍事件を起こした作者ならではの力のこもった筆致である。

わたしは2004年に茨木で府立図書館から取り寄せて読んだことがあるが、こちらでも石川達三の小説は大半閉架で、近来とみに気短になったせいかわざわざ注文する気も起きず、ただ読めない不満だけが残った。しかし最近17‐9‐7の毎日新聞「言論の自由」貫いた生涯ー特高拷問描いた石川達三という記事がきっかけで、立ち入り自由な島根大学図書館の書庫から借り出した。その直後に岩波現代文庫版を生協に発見した。共謀罪法が成立し、きな臭くなった今こそ、読むべき本とされているのだろう。

→「48歳の抵抗」11-12-15
→「誰のための女」11-12-12
→「暗黒日記」21-3-9
※「風にそよぐ葦」は1951年に春原政久監督、木暮実千代・東山千恵子・北沢彪出演で映画化されている。「風にそよぐ」は2009のフランス映画で全く無関係である。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (桃すけ)
2017-12-02 19:20:02
石川達三で読んだのは「48歳の抵抗」だけです。「風にそよぐ葦」タイトルだけは印象に残っているのですが、たぶん、読んでいないと思う。20歳くらいのころ、いろんな作家を片っ端から読んでいた時期、石川達三は、別のものも読んでみようと思わなかったんですよね。理由はよくわからないけれど・・・。
「最近17‐9‐7の毎日新聞「言論の自由」貫いた生涯ー特高拷問描いた石川達三」とありますが、そういう背景はまったく知りませんでした。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2017-12-02 19:37:52
桃すけ様
コメントありがとうございます。
「風にそよぐ葦」はかなり硬いですが、戦後間もなく毎日新聞に連載された時はよく読まれたようですね。当時は軍部批判が大はやりだったのですがそういう風潮に乗ったわけではなく、書かずにはいられない個人的な事情があったんだと思います。私は朝日に連載された「人間の壁」が一番好きでしたね。ちょうど多感な時期に、小学校の先生が主人公になっているので。私の周囲の先生たちは、土地柄のせいか、組合活動はしていませんでしたが。
「48歳の抵抗」は、ちょっと経路が代わり面白いですね。
 
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