三角折りと潔癖

トイレ紙の三角折りをご覧になったことはおありだろうか。
次の人が取りやすいように、三角に折ってタグ状にしたものである。

私は大変重宝なものでその心映えがゆかしく、自分でも時には実行している。

ところが世の中にはこれを嫌う人もいて、むしろそちらの方が多いというある調査結果に驚いた。

米国の消防隊で始められ「ファイアー・フォールド」と呼ばれる。
それを日本の有名ホテルが採用して、今や全国各地に広まっている。
清掃員を始め、一般人もそれをするわけだが、三角折りを見るなり恐怖を覚え
ちぎり捨てる人がいるとのこと。理由は、排泄後の手で折るので汚染されてるから。
汚れた手で行うかどうかは、彼の想像ではないのか？　自分でやれば判ることであるが、事前に行う可能性もある。

この方どれくらい衛生的な環境でお育ちになったか知らないが、多分これを清潔脅迫神経症というのだろう。

たとい、大腸菌が心配だとしても、黴菌が怖くて生活ができるか？　ドアのノブ、電車のつり革、至る所に他人の触ったものがあるではないか。お金もそうだ。第一、トイレで手を洗う人がどのくらいいると思うか？　隠しカメラをつけた所、他人の目が無いと洗わない人がかなりいたそうだ。

これほど日本の子供が「ばい菌」を恐れ憎むようになったのは、「アンパンマン」の敵役「ばい菌マン」の存在が大きいのではないのか。いまの日本は清潔だ。70歳のわたしは幼い頃、シラミ駆除のため頭からＤＤＴをかけられた。教室で飲まされた「マクニン」の名どころか、新聞や雑誌の紙片がトイレに置いてあったことも知らない人がいまは大半だろう。寄生虫が駆逐されたおかげでいまや花粉症やアトピーが蔓延するようになった。

深読みかも知れないが、三角折りを嫌うのは、清潔脅迫神経症でなければ、それに便乗する大勢順応派ではないか。自分は考えたこともない他人への配慮が、三角の形で目の前に現れ、おのれの自己中心性を責めているように感じ、気が咎めて、その不愉快を紛らわすためイチャモンをつけているのではないのか。自分からは言い出せないが、誰かが言うと、待ってましたとばかりその尻馬に乗り、日頃の後ろめたさを吹き飛ばそうという、「いじめ」の取り巻きのようなたちの悪い行動をとるのだ。その調査で「ＮＯ］と投票した人の何割かは、多分、にわか反対論者である。強力そうな意見が出ればすぐそちらになびく意識の低い層で、日本型ファシズムの温床である。必ず待てよ、自分の本心はどうなんだと考え、大勢への反発力のある人間を育てない教育（あるいはＡ型的な風土）のせいで生み出されるこういう空気は恐ろしい。

自分がしたくないなら、利用だけしていればよい、菌が怖ければ破り捨てればよい(その際、床に散らさないでほしい)。病的な潔癖はわざわざ言いふらすことではない。他人のためを思うゆとりが無いのなら、せめて小人物の自覚に徹し、それができる人の行動にワイワイ寄ってたかってケチをつけるなかれ。