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映画「愛と憎しみの伝説」


1981 米 129分 DVD鑑賞 原題≪Mommie Dearest≫
監督 フランク・ペリー 
出演 フェイ・ダナウェイ ダイアナ・スカーウッド
原作 クリスティーナ・クロフォード

1920年代後半から60年代まで活躍した米国の映画女優 ジョーン・クロフォード(1905-1977)の死の翌年出版された、養女の手記「大好きなママ」の映画化だが、あまりにもひどい児童虐待とハリウッドの内幕暴露のために顰蹙を買い、その年の最低映画賞(ラジー賞)5部門をとったばかりか、のちに80年代の最低賞まで与えられたといういわくつき。私の好きなフェイ・ダナウェイが、それで失脚したとも言われる作品で、日本での劇場公開もされていない。

ジョーン・クロフォードは、活躍した時期が時期なので、「雨」1932 「グランド・ホテル」1932 「大砂塵」1954「何がジェーンに起こったか」1962 は見たが「大砂塵」以外はあまり印象に残っていない。

彼女はテキサスの貧しい家に生まれ、最底辺から苦労して這上がって大スターになった。
映画でも自分に課した厳しい日課(4時起き、ジョギング、氷の洗顔)や家での演技の練習など努力家と完璧主義の面が描かれている。
 山あり谷ありの中で不屈の精神でアカデミー賞も取り、財産、大豪邸、名声、キャリアには恵まれたが、家族運が悪く、結婚離婚を繰り返し、不妊体質で子供が産めなかった。そこで養子(4人)を迎えたのだが、最初の養子クリスティーヌに死後、暴露本を出されるに至ったのである。
死人に反論はできず、子供の言うままを100%信じるわけにはいかない。
が、話半分でも十分にひどい。クロフォードを尊敬していたというフェイ・ダナウェイは
40歳を目前として女優生命をかけてこの役に挑んだという。

スター女優であるということは庶民の理解の外であるが、母と娘、女性が子供を持ちたいとはどういうことか、子育てに向く性格と向かない性格、など、いろいろと考えさせてくれる。

 完璧主義者、思い込みが強く、他人に自説を押付ける人は子育てに向かないようだ。
 子供時代に手に入らなかったものや環境を子供に与えるのも自己満足であり、有難迷惑の場合が多い。
「愛する相手がほしくて」養子をとったと言うが、その実「自分が愛されたくて」なのである。
だから「お前は私を愛したことなどない。奪うばかりで与えてくれない」と叫ぶのである。

彼女は見掛けを大事にした。
女優としても女性としても完璧でありたかった。その為には母親にならねばならなかった。
自己像を完ぺきにするために子供を手に入れたかったわけだ。
赤ん坊を抱いて階段のてっぺんでポーズするシーンは聖母子像のようだが、この一瞬の満足とひきかえに、子供を持つことの責任、長い年月にわたる苦労、を見通せなかったからと言って一概に彼女を責めるわけには行かない。


それは当時の社会通念だったから。今でも、社会も女性にも、こういう思い込みが強いようだ。子供を産む時は、万一の場合、この地獄に向合う覚悟があるか、死後にまでこういう本を出されていいかを自分に問いかける必要がある。

その意味でこの作品は、制作後30年以上たって徐々に受け入れられてきて、これから長い時間を経て存在価値が出てくるのではないか。フェイ・ダナウェイの女優生命をかけた熱演が報いられる日が来ることを。それにしても、クロフォードもフェイ・ダナウェイも、「101匹ワンちゃん」とか「眠り姫」「白雪姫」などの悪女・魔女に似ているが、あるいはこちらの方が真似たのだろうか。

「小公子」のセドリックの口癖である「大好きなママ」、当時は母が子供にそう呼ばせることが流行したという。彼女もそういう甘い母子関係が理想だったろうに。殴ったあとでそう呼ばせるのは倒錯と言うものだ。

亡き母を非難することは自分自身をも傷つけることである。暴露本を出すのは母と抱き合って無理心中を図るような企画だけれど、そうしなくては生きて行けない、本人の切実な事情がある。彼女も女優になり母の後を追っている。男性や子供との関係はどうであったか知らないが、凄まじい母娘関係を何とか生きのびたことをひとまず祝いたいと思う。

「無知」 18-1-26

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (aosta)
2016-06-02 20:45:19
Biancaさま
またお邪魔させていただきますね。
フェウ・ダナウェイ、私も大好きな女優の一人です。知的でクール、どこか斜に構えた雰囲気に憧れていましたっけ。初めてみた作品は、マルチェロ・マストロヤンニと共演した「恋人たちの場所」。確か中学生の頃だったように記憶しています。(地方の映画館では封切りから何年も経って上映されるのが常。それも製作年度などお構いなし。)映画自体は、お決まりの悲恋ものでしたが、彼女は薄幸のデザイナー(?)役を魅力的に演じていました。前年度の「俺たちに明日はない」を観たのはそのあと。衝撃的な最期に大ショック。共演はウォーレン・ビューティだったでしょうか?フェイ・ダナウェイのことしか覚えていません(笑)
その後の「アレンジメント」(これはカーク・ダグラスでしたね)や「オクラホマ巨人」(ジャック・パランスが極太の葉巻を吸うシーンのいやらしさ!)と、ずっと彼女の主演作をおっかけたものです。
その彼女がジョーン・クロフォード役を演じた作品があったなんて全く知りませんでした。ジョーン・クロフォードの映画といえば、やっぱり「大砂塵」ですね!
あの「ジャニー・ギター」の憂愁を帯びた旋律と男勝りのクロフォードの突き刺すような眼差しが忘れられません。「何がジェーンに起こったか」はただただ恐ろしい映画でした。
すみません。あまり懐かしい映画や女優さんたちの名前に、思わず反応してしまいました<m(__)m>
 
 
 
Unknown (Bianca)
2016-06-04 20:47:34
aostaさま

おおびっくり!私のブログは日ごろコメントがめったにないのに、突然コメントの嵐。遅くなってごめんなさい。今夜はこれについてお返事し残りはまた後からということにするのでご了承ください。

「フェイ・ダナウェイ」は私にとっては「俺たちに明日はない」につきます。ちょうど20代半ばの私自身の青春と時代の風潮ー世界的な若者の反乱ーとが重なって、思い入れも大きくなったのか。絶望的な状況から生まれた反抗があの犯罪になったわけで、敗残の死という分りきった結果に向かってひた走る初々しい純愛物語という風に感じました。ほかには「華麗なる賭け」が好き。
そうそう、「大砂塵」といえば「ジャニーギター」ですね。むしろ「ジャニー・ギター」にひかれて「大砂塵」を見たようなものかも……。
それにしても随分、映画館で見ておられますね。

そろそろ映画の斜陽期が始まる時代でしたね……。
 
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