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A.モラヴィア「軽蔑」

          映画と小説の舞台になったカプリ島

アルベルト・モラヴィア(1907~1990)著 大久保昭男訳 原題 <IL DISPREZZO> 2009年刊 初出1954年 河出書房新社世界文学全集Ⅱ-3  池澤夏樹個人編集 

1963年制作の映画「軽蔑」を見たあとで1969年に本を読んだことがある。
(あら筋)シナリオライターの主人公はいつ頃からか、妻の愛が失われ、自分を軽蔑していることに気づく。それは誤解に基づくことを説明し、自分を軽蔑すべきではないと、男性得意のワザだが論理的に説得しようとするが、妻の軽蔑は益々募るだけ。現代の日本でも寝耳に水の離婚話が持上った時など、男性の心理状態がこのようになるのではないだろうか。両性の考え方や行動の仕方の違いが、くっきりと浮びあがる。

この歳になると、夫婦間のイザコザは読むだけでこたえる。主人公は2人の不和は、生まれ育った環境や価値観が違いすぎるところにあったと言う結論を下す。若いときも小説の方には感銘を受けた。18章と21章に、素晴しい文章がある。カプリ島の海を見て自殺への誘惑を感じるところ(18章)と、永遠に去っていった妻を呼び戻すために本を書こうと決意するところ(21章)は詩的な文体で感動を与える。

映画の方は、大勢が絶賛しているが、わたしは感銘を受けなかった。バルドーやミシェル・ピコリ、ジャック・パランス、更に巨匠フリッツ・ラングなどの豪華俳優陣、100万ドルの予算で、ゴダールが初めて商業大作に挑んだのだが、私にとってはそれが逆効果だったようだ。私はまだ世間を知らない理想主義者だったので、こういう大人の映画を味わうことは無理だったのだろう、と言いたいが、年齢や経験とは関係ないのかも知れない。

ところで池澤夏樹(福永武彦はかれの父親)の解説によると、モラヴィアの妻の不貞の相手が何と映画界の巨星ルキノ・ヴィスコンティだったと言う!映画にもなったモラヴィアの「金曜日の別荘で」はそれを物語っている。妻エルサ・モランテも戦後イタリアで最大の女性作家と言われ、夫と同じ全集に収録されている。→モランテ「アルトゥーロの島」10-06-24
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軽蔑 (ハコベの花)
2010-06-16 23:02:39
Bianca様
 映画をよく観て居られるのですね。私も高校生の頃は毎週映画館へ行っておりましたが、結婚と同時にすっかり映画とはご無沙汰になってしまいました。
「軽蔑」本を読んでみたくなりました。池澤夏樹が福永の息子さんだと知ったとき、池澤の本を1冊買いましたが、まだ読まないでそのままになっています。
私の友人たちの中で夫を軽蔑していない人が居るのだろうかと見回してみましたが、残念ながら殆どおりません。長い結婚生活の中でホトホト愛想をつかしてしまったようです。理由は妻を自分の隷属物だと思っているからです。経済的な理由で別れる人はいませんが、心の中は夫への軽蔑で一杯なのです。「長生きしてやるからな」と言われて鳥肌が立ったという奥さんがいます。聞いた人は笑いながら頷いていました。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2010-06-17 08:43:31
池澤夏樹は作家としてはさておき、読者としては大変「目利き」だと感じました。最近ずっと小説は読まなかったのですが、この全集を読みたいと思います。ところで夫を軽蔑していながら(夫は妻を嫌悪していながら?)その結婚が続くというのは不思議ですね。誠実に生きようとしたら、離婚の選択もあるはずですが、それが出来ないのはおっしゃるように日本女性の経済的な無力と、はみ出した者への日本社会の圧力などがあるのでしょうか。でも若い世代ではかなり変化してきているようですね。
 
 
 
Unknown (C.C.)
2010-06-20 17:45:23
ビアンカさん、こんばんは。アルベルト・モラヴィア、好きな作家の一人ですとはいいつつ「倦怠」しか読んだ事がないのですが・・・。「軽蔑」ではバルドーが強烈な性を発してたのがよーく覚えてます。たしか初めのシーンで全裸の彼女がベッドのシーツにくるまれているのや、カプリの絶壁に立っているだけでどうも野性的な魅力がプンプン漂ってて、ティーンで初めて見た時は「ウォオオオオ!!!」って爆弾をおとされたような感覚でした(男性の様ですね、笑)
最近見たゴダールとトリュフォーのドキュメンタリーでは、「アメリカの夜」をつくったトリュフォーに、貴様は商業的だとののしった手紙を送り2人の関係は永遠に破壊されたとありましたけど、ゴダールも「軽蔑」のような商業的なも手がけてますよね???
 
 
 
Unknown (Unknown)
2010-06-21 18:25:01
BBは「性獣」って感じでした。CCさん、10代で、おませですね。原作は、20代の悩める作家の立場から書かれており、映画のように中年男が娘に翻弄されるとは別の趣でした。あれはゴダールと恋人のことでは?モラヴィア、素敵ですよね。私は「孤独な青年」(IL CONFORMISTA)「無関心な人々」も読みましたが中では「軽蔑」が一番良いと思います。ゴダールは10年近く商業映画を撮って自分がそこから撤退したばかりの時、掌を返すようにトリュフォーを非難するなんて。結局はゴダールは、仲間がほしかったか、羨ましかったのじゃないか。こんなじゃ女性にもてませんね。
 
 
 
書評 (ハコベの花)
2010-06-24 22:38:11
本の書評、遡って読ませて頂きました。私が読んでない本が沢山ありました。懐かしかったのはミッキー安川の『ふうらいぼう留学記』です。内容は殆ど忘れておりますが、61年の初版を読んだと思います。軽薄な男だと当時は思いました。ひよこの雌雄の鑑別をでたらめにやったというのがあったような気がしますが・・・ まだアメリカが遠い国でしたね。その頃、犬養みちこの『お嬢さん放浪記』も出たと思います。62年には小田実の『何でも見てやろう』が出ましたね。これはちょっと衝撃を受けました。思い出のある本です。活字中毒で手当たり次第に本を読んでいましたが、フロイドの『夢判断』を読んでいると彼に手紙を書いたら驚かれました。何でも性に結びつける判断には違和感を覚えた記憶があります。この時の読書が今の私を作っているのでしょうか。良かったのか悪かったのか、自分でもわかりません。

 
 
 
Unknown (Bianca)
2010-06-26 08:29:02
外国が信じられないくらい遠い頃でしたので、海外滞在記や旅行記はとりあえず何でも読みました。この「風来坊留学記」は、ジェームズ・ディーンの名前が新聞広告にあっただけで買いに行ったのですが、ホームレスをしながら高校に通ったことが印象的です。北杜夫の「ドクトルマンボウ航海記」は一寸ユニークでしたね。青春時代の読書は血肉になりますが、その後読んだものは上辺に留まる感じですね。
 
 
 
航海記 (ハコベの花)
2010-06-27 11:42:31
昨夜、『エデンの東』をテレビでやっていました。私が好きだったピア アンジェリーがディーンの恋人だったとは数年前まで知りませんでした。アンジェリーの映画を観たことはないのですが、ポスターや写真で何と清らかな感じの人かと憧れたものです。上級生に良く似た人が居てにっこり笑って会釈をされると女でも背中に電流が走りました。
『ドクトルマンボウ』も面白かったですね。私が一番心に沁みた航海記は水産大学の練習船「海鷹丸」の周航記でした。日下実男『海鷹丸周航記』は何度も読み返しました。なぜか悲しい時に読んだ覚えがあります。今も手元にあります。内容は忘れていますので、そのうち読み返そうと思っています。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2010-06-28 00:11:28
『エデンの東』をやっていましたか?つい最近、思い出していた所でした。かれよりスティーヴ・マクィーンが好きと言い張る夫に、如何にジミーの方がすごいかということをネット検索して、説得したのですが、偉いことは認めたけれど、好き嫌いは変えられないものですね。ピア・エンジェリ、清らかな女性ですね。名前のせいで、天使のようなイメージがあります。
 
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