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映画「大統領の料理人」

2012 仏 95分 DVD にて鑑賞 監督 クリスチャン・ヴァンサン 出演 カトリーヌ・フロ ジャン・ドルメッソン アルチュール・デュポン 原題≪Les Saveurs du Palais≫

フランスの美食文化が何に支えられているかを目の当たりにする思い。
森あり川ありの広い土地から産まれる食材の豊かさで食糧自給率170%を誇っている。(日本は40%)

社会党ミッテラン大統領(1916-1996。在任81-95)の専属シェフとして1988年から働いた女性、ダニエル・デルプシェ(1942~)の自伝の映画化。大統領は日常の食事に「おふくろの味」がほしいと、ロブション推薦の彼女を招く。エリゼー宮の台所の堅固な男性至上主義の中にただひとりの女性として飛込んだ彼女は、主厨房の男たちに白眼視され、嫌がらせを受ける。職務を奪われそうな男たちも必死だったろうが、初心者に対して非常に悪質な小姑根性だ。

大統領のジャン・ドルメッソンは元々俳優ではなくこの役を自ら志望したそうだ。政治家と言うより学者のようなのはミッテランもそうだったのだろうか。しわの深い顔にちょっとアラン・キューニーの面影がある。助手のニコラ(アルチュール・デュポン)は悪戯っぽく元気があって、ホッとさせる存在。

ミッテランは子供のころ愛読書が料理の本だったそうで冒頭の文句を暗記していたのにおどろく。
お袋の味と言ってもトリュフやフォアグラなのだから日本とはかなり違う。
しかし時代は日本食の影響を受けたヌーヴェル・キュイジーヌ(新フランス料理)が主流であり、彼女のやり方は健康面からも、費用からも新体制から様々な横やりが入る。
文字通り「御馳走」をこしらえようと駆け回る彼女の足が疲労骨折を起こす。心身ともに疲れて2年間で辞表を出す。さて帰郷して休養すると思いきや、新天地を求めた場所が南極のフランス基地。(実際は10年後の60歳で南極に行ったそうだ。)
荒涼たる原野や海岸をジョギングする彼女は、俗世の騒音と醜悪から逃れて、宇宙の神秘と静寂からエネルギーを得ているかのよう。

カトリーヌ・フロと言う女優は若いころの「C階段」と「奥様は名探偵」のほかはあまり記憶にないが、おっとりした丸顔に古典的な装いで、マダムらしい威厳とともに愛らしさがあった。ダニエルが万事自分の流儀を守り右顧左眄しないのは見事。私の姉も同じ1942年うまれで、姉も周りが辟易するほど駆け回って働くタイプだったので、妙に親しみを感じた。

そういえば30年前に旅先で出会ったポワチエの少女もパリに対して地方人の自負を持っていた。
フランス人の食事と言えば東京日仏学院で見た、談笑しつつ延々と食事する教師たちの姿が、背景の緑の芝生や木陰と共に記憶に蘇える。

私は日頃から料理や食物に関心がある方ではない。いわば「粗食こそ美食」派で、とかく贅沢とか動物虐待を連想するフランス料理は遠い存在だったが、この映画は女ひとりが社会で出遭う困難と、負けずに立向かう勇気とが描かれていて、そんな私にも面白かった。また隠し子がいた事位しか知らないミッテランはどんな人かと思って見たが、宮殿の片隅にたたずむ彼はオズの魔法使いのように孤影悄然としていた。ともかく見た目は随分違う。
映画の魅力はフランスの地方と大統領官邸のエリゼー宮と南極の荒涼たる原野とを駆け巡るカメラで、鮮やかな切り替えが見るものを惹きつけてやまない。
そして報われることの少ない孤独な厳しい宮殿のしごとから逃れ出た彼女を迎えた南極基地のひげ男たちは「一緒に食べよう」と彼女の名を連呼する。別れの日の自然発生的な「蛍の光」が感動的だ。

→「ポワチエの少女」08-11-15
→「女はみんな生きている」15-3-7
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (セレンディピティ)
2015-02-27 19:56:26
こんにちは。
ミッテラン大統領、任期が長く、私たちにもなじみのある大統領でしたね。
おいしいお料理、そして恋愛、と政治家である前に
ひとりの人間として、人生を楽しんでいた方だったんだなーと思いました。
大統領が税金?で特別に自分のために料理人を雇うなんて、
日本でしたら贅沢だって問題になりそうですけど
それが許されるのがフランスならではですね。

フランスのお料理映画を見ると、食材へのこだわりに圧倒されますが
なんと食料自給率170%ですか!
やはりフランス人の胃袋を満足させるのは、豊かな自然に育まれるフランスの食材なのでしょうね...
なんだかうらやましいです。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2015-02-28 13:39:25
セレンディピティ様

TBとコメント有難うございます。
人間らしく生きるのに恋愛も食事も休暇も欠かせないというのがフランス感覚なんでしょうね。隠し子にしても、日英米だったらかなり問題になっていますね。

最近知ったのですが、ミッテランの一番の功績は、死刑廃止だそうです。当時は国民の多数は廃止反対だったとか。指導者は世論に媚びる事なく、時代の先を見据えることが肝要なのでしょうね。

 
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