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映画「クロワッサンで朝食を」

                                       2014-3-24撮影
2012 仏・ベルギー・エストニア 95分 県民会館にて鑑賞
監督 イルマル・ラーグ 出演 ジャンヌ・モロー ライネ・マギ パトリック・ピノー
原題 Une Estonienne a Paris

雪道、暗いまち、道に大の字に寝る酔漢など、導入部はまるでアキ・カウリスマキ世界だ、と地図を見るとエストニアとフィンランドは海を挟んで真向いにあった。

【物語】
ヒロインのアンヌは、エストニアの50代女性で、老人ホームに勤めつつ子育てし、アル中で暴力をふるう元夫に今もつきまとわれながら、仲の悪かった母が認知症になったのを自宅で2年間介護する。その死後の虚脱感のなか、憧れのパリでの老人介護の仕事が舞込む。娘からも賛成され、引受けるが、出会ったのは「ドライビング・ミス・デイジー」を思わせる偏屈な老女フリーダ(ジャンヌ・モロー)で、自殺願望もあるし、家政婦が居つかないので故国から専門家のふれこみでアンヌが迎えられたわけだ。

エストニアはヨーロッパ北東部の人口130万そこそこの小国で、ロシアやドイツやソ連その他の周辺諸国の支配下でしたたかに生き延び、今やEUの一員となっているが、風俗や文化は独特のようである。特に屋内で靴を脱ぐ、という、西欧では奇異に映るシーンが何度も繰り返される。アンヌは母国の歴史さながら、散々いびられながらも忍耐強く仕事を続ける、しかも常に低姿勢というわけではなく人間としての尊厳を保ち、理不尽な相手に対しては後に引かないという芯の強さや、いざと言うときの勝負度胸があり、さすが辛酸をなめたエストニア人だと思うが、一体に欧米ではどんな職業のひとでも誇りを保っているのはなぜだろうか。

一方ジャンヌ・モローのフリーダは、エストニア移民ながら、お金持ちでお洒落、自由で気まぐれな生き方をしてきた80代、友だちも子供もいない。雇い主の男(パトリック・ピノー)は、フリーダの華やかな過去の残り香であり、年下の元恋人で、裕福な彼女から恩を蒙った過去があるが、今や嫉妬深い意地悪ばあさんに成り果てたフリーダにはうんざりで、「死ねばいい」と思いながらそれでも義務感で世話している。金髪女が好きで若い新顔のアンヌにどうやら興味を抱き始めたようだ。

アンヌの周りの空気はキリスト教臭に満たされ、女性は生まれつき人に奉仕して一生を送るべきであると言わんばかりだし、仲間のエストニア人たちも小さい共同体で風通しが悪く、相互監視の世界だ。その中でフリーダは伝統と因習にとらわれず大胆にふるまい(言い換えると生れつきのKYではた迷惑と言うこと)ずーっと孤立している。このふたり、「アリとキリギリス」に似ているが、アリがキリギリスの感化を受け、キリギリスも、アリのありがたさを認めるようになると言う、現代風イソップ物語とも言えるか?アンヌはフリーダのような生き方を知り、ひとりで毎日パリの街を歩くことで、今までの人生にない風にさらされ、外見も変って行き、フリーダも、アンヌなしでは生きられないことを認め、一度は出て行ったアンヌを「あなたは家族よ」と言って笑顔(ジャンヌ・モローおなじみの強力な武器)で迎える。宣伝文通り、女同士の心温まる関係と言うところだろうが、2人が美女と大女優でも、女同士の恋愛が生じるわけではなく、せいぜい、姑が初めは息子の嫁をいびるが、長年暮らすうちに気心が通じ、最後は唯一無二の関係になるだとか、もっと言えば寝たきりの病人が付添人に肉親以上に頼るようになったり、とかいう感じだろうか。男は当てにならない、結局は長生きをする女同士が仲良くしなくては。と言うのは、ほかに選択の余地がない、シビアな現実なのである。邦題から予想されるウキウキしたおとぎ話ではない。

会場にはこの題名にだまされたのか、日頃あまり映画を見ないような中高年女性がドッと押し寄せていた。邦題は「ティファニーで朝食を」のもじり?原題「パリのエストニア人」は「パリのアメリカ人」を連想させる。

この映画の本当の主人公は、パリの街であり、世界の人を惹きつけるその底知れぬ魅力ではないだろうか。人物はお添えもののようでもあり際立った個性は感じられない。またそれでいいのだ。

あるブログではパリ在住の移民が構成する都会の中のムラ社会、その中で発生する泥臭い対人関係と言っているが、的を射ている。
また、老人問題や老老介護、女性が晩年をどう生きるかを考えさせる映画でもあった。監督の母親の経験に基づくそうで、このやや自虐的な表現を通じて母と母国への愛情と尊敬を表し、パリに住む幸せを確認しているかのようだ。

★2.8

ジャンヌ・モロー
 →「ぼくを葬る」9-9-8
 →「年上の女性」8-10-23
 →「太陽はひとりぼっち」9-1-30
アキ・カウリスマキ
 →「ポルトガルここに誕生す」14-3-17
パリ
 →「ル・ディヴォース~パリに恋して」11-2-2
→「ミッドナイト・イン・パリ」14-8-5
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