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【本】欲しがりません勝つまでは

著者 田辺聖子(1928~)副題 私の終戦まで 新潮文庫/1981年
初出 ポプラ社/1977年  購入1991年@無暦堂/三鷹市(200÷3)円

日の丸の鉢巻をして、防空頭巾をつけた少女の絵。健気さと可笑味の漂う横顔に、聖子さんの面影がある表紙だ。13歳から17歳の時期、女学校の友と作った雑誌や、ノートに書いた小説類をもとに振り返っている。

戦争に明け暮れた少女時代である。防災訓練や、工場や病院への勤労奉仕もある。天皇陛下と祖国日本のために命を捨てる決心をしていて、ジャンヌ・ダルクにあこがれる一方で、中原淳一や吉屋信子に惹かれる文学少女でもある。

女学校4年から、樟蔭女専国文科に合格して2度目の夏に終戦になる。
空襲で奇跡的に焼失を免れた回覧雑誌「少女草(をとめぐさ)」ほかの資料は、この度創設された東大阪市樟蔭女子大内の田辺聖子文学館にも陳列してあるはず。

当時の十代の文章力の高さにはいつも驚くのだが、彼女は格別だ。過去の自分や友人、家族を振り返る眼差しが、澄んでいてなおかつ温かく、この時代にも関わらず、微笑ましくなる。いつもの彼女の作品を読む時のように。

敗戦を機に、田辺聖子の人生の姿勢が決まった事が分かる。
「自分の後半生の人生は、きっと自分の遠い心の奥底の声だけを聞く、他人にあやつられない人生でありたい、と思い始めていた。」
これが田辺作品のすべてに共通している要素ではないかと思う。

ちなみに私が「ばらの丘へ」を発表するに至ったのは、聖子さんにもこの作品があったという事に影響されたようだ。(月とスッポンだけど)

→「花衣ぬぐやまつわる」21-7-3
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (kazukokawzmoto)
2007-06-23 20:03:02
この時代の少女はだれでも、中原淳一、吉屋信子の雑誌が魅力的で、あこがれて、田辺聖子氏も多分そうであったと思う、だから勝つまでは欲しがらず、戦後パーと溢れて猛進的に乱読みした結果、作家を誕生したわけでしょうね。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2007-06-23 22:54:10
川本さん、こんばんわ!
田辺聖子の読書量は幼時からすごいものがあり、それが作家となるもとになっているみたいです。戦争中にも、せっせと歴史小説からスパイもの、蒙古とかドイツとかを舞台にした、を書いています。戦後は写真館を経営していた父上が亡くなり、零細企業の事務員をして家計を支えたようですね。
 
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