行きかふ年もまた旅人なり

日本の歴史や文学(主に近代)について、感想等を紹介しますが、毎日はできません。
ふぅ、徒然なるままに日暮したい・・・。

読書記29『武器よさらば』

2008-03-06 22:38:56 | Weblog
   『武器よさらば』(ヘミングウェイ 著)
 全5部作41章からなる、ヘミングウェイの『日はまた昇る』に続く2番目の長編小説である。1929年に初版が出版されたが、たちまち重版が続き、政治体制や経済体制を超え、所謂近代文学の洗礼を経た国であれば、多くの人に読まれている作品である。なぜ多くの人々に読まれ、継続的に出版されているのか。それは、単におもしろいから、だけでなく、この小説は無駄な修飾がなく、テンポが速く、内容が明確で分かりやすい。さらに加えて、読後に残る何とも言えない余韻であり、この作品を受け入れる地盤が各国共通に存在しているため、と考えられる。
 
 舞台は第一次世界大戦のイタリア戦線。戦争と恋愛がこの小説の主題である。淡々と戦争の冷酷非情が描かれ、これらの描写のため、厭戦小説、反戦小説と呼ばれる。
 アメリカ人中尉ヘンリーは武器を投げ捨て、イギリス人看護婦バークレイと共に戦場から逃れる。バークレイは献身と純愛、健気さと勇気を兼ね備え、男性から見た理想の女性像であり、女性からはこのように男性に恋愛できたなら、と思わせる女性である。
 戦争に直面せざるを得ない現実と、それに晒された人間の悲しさ、虚しさを描き、他方で神を見失った現代人の不幸と悲惨、現在の不毛を警鐘し散りばめた作品と捉える事もできる。作品中、ヘンリーは戦線離脱後しばしば、自分を犯罪人の如く思い悩む様子は、戦争という社会悪から逃れても、逃れた事自体が彼自身を罰する「罪と罰」でもある。
 戦場を脱出した二人は、追跡を逃れたが、安住の地はなかった。懐妊していたキャサリンだったが、小説の最後、出産が始まる。・・・しかし、母子共にヘンリーと病院を生きて帰ることはなかった。一人ヘンリーは雨の中、ホテルへ帰って行く。
 暗く悲しい展開だが、最後までこの小説の持つ独特のテンポは変わらない。短い簡単な文章を重ねながら、読者は知らず知らずのうちに作者の芸術の巧みさに時間の経過を感じぬほど、夢中で読み耽ってしまう。ヘミングウェイの偉大さを垣間見る事のできる作品である。

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